現在、三年前(2005 9/11)の郵政民営化騒ぎの本質が、米国による郵貯・簡保資金の奪い取りであったことが、ある程度の知識人には理解されてきているようである。



ところで、現在の米国の経済・金融政策を本当に牛耳っているのは、、、

デイヴィッド・ロックフェラー直系のポール・ボルカー経済諮問委員会委員長(元FRB議長)のようである。

ローレンス・サマーズ、NEC(国家経済会議)委員長には権限がなく、そして、ティム・ガイトナー財務長官に至っては若干47歳に過ぎず、議会での大物議員からは“青二才”扱いをされている。

ブッシュ前政権末期にはゴールドマン・サックスCEO(最高経営責任者)出身のポールソン財務長官が主導権を失ったなか、ベン・バーナンキFRB議長主導で対策が推進されてきたが、その背後でもこの人物が大きな影響力を及ぼしていると思われる。 実際、この高齢者がいつもオバマ大統領の後方に立ってマスコミの映像に映っているのがその証拠であろう。



ご存じのように、オバマ政権が推進している経済政策は二つの根幹から成り立っている。

一つが財政赤字の膨張もかまわずにバラマキ政策を推進し、また金融機関への公的資金の注入や住宅問題、不良資産の買い取り等にも、とにかく財源の問題を考えずに通貨増発による流動性の大量供給を行うことである。

またもう一つが、経済・金融当局の機関の統合を推進することで強権化を図ることであり、既に「PPT Plunge Protection Team 」と呼ばれる株価急落対策組織を結成し、財務省、FRB、SEC(証券取引委員会)、CFTC(商品先物取引委員会)が横断的に金融危機に対処している。株価も実質的にこの組織が作為的に下支えているようであり、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のレオ・メラメド名誉会長とも提携していると思われる。

ここにきて、米国の不良債権が最終的にはGDP(約14兆ドル)の10倍を超えるといった見方すら出ているが、デリバティブの残高が800兆ドル(8京円)にも上っているのだからあながち、的外れであるとは言えまい。

企業の破綻リスクの取引であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)については相手が容易に判別できるため、取引の契約そのものを無効にする“抜け解け合い”をすることが可能である。

しかし、住宅ローン担保証券(RMBS)をはじめ各種のローン債権を他の金融商品と組み合わせて加工した債務担保証券(CDO)と呼ばれる証券化商品についてはどこに存在しているか全く判別できないため、そうしたことが不可能である。

これまでは信用の低い低所得者層向け住宅ローンのサブプライムローンが主に焦げ付いていたが、これから優良顧客層向けのプライムローンや、都市部の商業用不動産ローン担保証券(CMBS)のかなりの部分が本格的に焦げ付いていくことになる。

それ以外にも消費者、自動車、学資といった各種ローンも大量に焦げ付いていくことで、さらに乗数倍のCDOが無価値になっていく。

結局、ドル紙幣の“輪転機を回して刷りまくって”こうした不良債権を買い上げて、金融機関に毀損した自己資本を穴埋めするために公的資金を注入するといった“究極のインフレ政策”を推進しないと問題は解決し得ないと思われる。事態がここまでくると、FRBが米国債を直接買うのも時間の問題である。

だとすれば、いずれかの時点で「新ドル切り替え」は不可避と見るべきであり、それまではドル暴落=ドル危機は避けられそうもない。

ご存じのように米国は覇権国であり、基軸通貨国なので、債務を返済できないとなれば開き直って「デフォルト宣言」することができる。そこで、米国の目下の至上命題は、米国の属国にして世界最大の債権国である日本からいかに資金を流入させるかということになるのである。

実際、後に詳しく見るように、日本から郵貯や、特に簡保資金60兆円をある意味“強奪”する計画が水面下で進んでいるようである。

米国でデイヴィッド・ロックフェラーの系列がオバマ政権からジェイ・ロックフェラーの系列やシカゴ人脈の排除に動いたが、米国の大きな影響下にある日本でもその逆襲の波が襲い掛かっていると考えると現在の日本の政局は極めて理解しやすい。



まず、準大手ゼネコンの西松建設が06~07年に裏金約1億円を海外から持ち込んだとして、外国為替法違反容疑で当時海外事業担当だった同社副社長はじめ数人が1月19日に逮捕されたが、言うまでもなく、そのターゲットは小沢一郎民主党代表と二階俊博経産相である。

小沢代表はジェイ・ロックフェラーの日本での直系だと言われており、これまでもたびたびデイヴィッド・ロックフェラーの系列から狙われてきた。その都度、老獪な政治感覚で生き延びてきた過去がある。言うまでもなく、二階経産相は野中広務元幹事長の直系である古賀誠選挙対策委員長の系列であり、この系列と青木幹雄参院議員会長は盟友であり、少し以前までは、山口と裏で深い関係を持つと言われていた森喜朗元首相の系列が麻生太郎政権を支えてきた。

しかし、後述するように森元首相が大きなダメージを受けてしまい、米国も公然と内閣を潰しにかかってきたので、麻生政権が危機に瀕している。

その次に、トヨタ自動車が金融危機の影響で09年3月期決算が58年ぶりの赤字を計上することが確実となったことで、その責任をとって渡辺捷昭現社長の退任と創業者一族出身の豊田章男副社長の昇格が決まった。次期社長は豊田章一郎名誉会長の子息だが、米国に留学経験があり、なにより豊田名誉会長(北米オートローン残高8兆円)が創価学会の池田大作名誉会長(米国での布教活動の関係で)とともに米国に“人質”にとられた状態にあるので、米国の影響下にあるのは言うまでもない。

の意味するものは、名誉会長を押さえて同社を実質的に支配し、日本の財界を牽引してきた日本経団連の奥田前会長に打撃を与えることにある。前会長はジェイ・ロックフェラーと提携してロシアや中国といった新興大国に進出し、小沢民主党代表にも献金していた。

経団連の御手洗冨士夫会長の“お膝元”であるキャノンにも、大分県のコンサルタント会社である「大光」の社長が脱税で逮捕されたが、この人物と親密な関係だったことから会長自身も追求されて自己弁護に追われた。

これにより、日本の財界とジェイ・ロックフェラーの勢力のカウンターパート=橋渡し役が大きな打撃を受けているのが目下の状況である。



さらに「かんぽの宿」の譲渡問題で日本郵政の西川善文社長が追い詰められている。日本郵政が所有する宿泊・保養施設のオリックスへの譲渡をめぐり、同社の宮内義彦会長が郵政民営化の議論にかかわったとして“出来レース”として受け取られかねないとして、既に落札していたにもかかわらず鳩山邦夫総務相が反発している。

ただ、現総務相や民主党は単に落札の経緯が不透明だとして批判しているのに過ぎないのに対し、竹中平蔵元総務相や中川秀直元幹事長の系列は「かんぽの宿」は不良債権なのだから早期に処理すべきだと主張しており、西川社長を批判する側の間でも対立状態になっていることが大変興味深い。

いずれにせよ、この西川社長の進退問題が出てきており、三井住友フィナンシャル・グループ前会長であり、ジェイ・ロックフェラーが所有しているゴールドマン・サックスの「日本代理人」といわれている人物を潰す動きであることは間違いない。



西川社長は、全国3,000万人もの高齢者の郵便貯金と簡易保険の資金をある意味で守っており、1割程度はゴールドマン経由で中国への投資その他に流れていておかしくないが、それでも300兆円近い国民の資金を必死になって守ろうとしている。

竹中元総務相が「米国が倒れれば日本も潰れてしまうのだから、その資金は全て米国の不良債務の償却に回すべきだ」と迫っても、西川社長は頑なに拒絶してきた。その人物を米国が潰すことで資金を強奪しようとしている構図がここにきて浮かび上がってきた。

郵貯に比べると、おそらく簡保については財政投融資に占める割合が大きく、その分、国債での運用比率が小さい。このため、上場までの凍結期間が過ぎると、簡保資金の方が海外資産での運用に回しやすくなるため、この部分が今回狙われたのだろう。

もとよりこの郵貯・簡保資金は、「大蔵族」としての観点から長年、郵政民営化を主張していた小泉純一郎首相を擁立したデイヴィッド・ロックフェラー傘下のシティ・グループが奪い取りにきていた。ところが、目論見通り民営化させることに成功したものの、ゴールドマン・サックスが“横取り”した経緯がある。

このため、実質破産しているシティとしては本来、自分たちが獲得すべきだった資金を返せと死に物狂いで要求しているのだろう。



そう言った動きのために日本の政局もにわかに動きが出てきた。



2月12日に中川元幹事長が中心になって形成されている郵政民営化を訴える会合で、小泉元首相が麻生首相の度重なる失言に対して「怒るというより、笑っちゃうくらいただただ呆れている」と述べて痛烈に批判した。おそらく、このことは、デイヴィッド・ロックフェラー系列の指示により、麻生政権の打倒に向けて号令をかけたということを意味している。

この元首相の発言に対し、森元首相が怒りを露わにしている映像が映し出されたが、その背景にはそれにやや先立つ5日の清和会(現町村派)の内紛が関係しているのだろう。

この時、町村派は町村信孝前官房長官と中川元幹事長、谷川秀善参院議員の3人を代表世話人とする集団指導体制だったが、これを前官房長官を会長とする新体制に改めた。それ以外の二人は代表世話人にとどまったとはいえ、翌日の新聞では元幹事長が事実上降格などと報道されたが、おそらく、これは間違っている。

この時、元首相は有力な幹部に根回しをして前官房長官を会長にすることで元幹事長の影響力を弱めようとしたが、この提案に対して元幹事長を支持する若手議員が猛反発し、収拾がつかなくなった。結局、この“お家騒動”により元首相の威信が大いに傷つき、政治的影響力が低下し、逆に元幹事長が影響力を拡大したと見るべきであろう。

ところで、森元首相は山口組と深い関係にあり、先代の5代目組長渡辺芳則組長とつながっているとの話があった。これに対し、中川元幹事長は現在、府中刑務所に収監されている司忍・現6代目組長(本名・篠田建市)や、この司忍が立ち上げた愛知県の弘道会2代目会長としてその直系である高山清司若頭とつながっているとの話がある。

つまり、元首相から元幹事長に主導権が移ったことは、山口組の中で前組長が完全に引退し、現組長の勢力に名実ともに“代替わり”したことと奇妙にシンクロしている。

山口組は3代目組長田岡一雄が、米国の支援を得てヤクザ世界で全国制覇を成し遂げて以来、親米派になっており、元幹事長もこうした流れを汲んでいる。ただ、最近では末端の組織員に対しては選挙で民主党に投票するように呼びかけたが、その背景には同党の石井一副代表の影響力と小泉元首相が山口組と対立する稲川会と深い関係にあることが影響しているのであろう。

麻生政権は森元首相と古賀選対委員長の勢力が支えていたが、元首相が影響力を低下させたなか、選対委員長の勢力だけでは米国からの攻撃を跳ね返すだけの力はなく、もはや崩壊寸前の状態まで追い込まれている。またこうした情勢を考えると、近く行われる衆院の総選挙では、小沢問題に関係なく、民主党が第一党になると予想せざる得ない。



世界的な流れで見ると、二大政党制ではない多党制のところでは、先進国ではアンゲラ・メルケル政権のドイツを筆頭に大政党による連立政権を組んで困難な情勢に対処していくことが主流となっている。9月までには間違いなく総選挙が行われるが、おそらく、そこでは自民党は、この不思議な閉塞感の中で惨敗することを避けることができるのではないかと思われる。

そうなると、通常なら比較第一党の政党の党首が首班となって連立政権を形成するものだが、現在の米国の政治状況では、小沢代表は政権を握らない方がいいと判断するのではないか。このように推理していくと、小沢氏は今度の政治資金事件ではなく、何らかの他の理由をつけて代表をいったん、退くと予想することができる。

米国で自身を支持する勢力が弱体化してそれと敵対する勢力が影響力を伸ばしている状況下では、安易に政権を握ると政治的に潰されかねないからだ。それどころか、三月上旬に小沢の側近である第一秘書が捕まった。現在の米国政権は小沢一郎と言う政治家を拒否していると考えても間違いではあるまい。

また、2月14日にローマで行われた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議の後の記者会見で、中川昭一財務・金融担当相(当時)が“ろれつ”の回らない大失態を犯した。それにより国内外で大きな批判を浴びてしまい、麻生首相は当初はかばって予算が通過した後に辞任させる意向を示していたが、結局は即日辞任に追い込まれた。もとより前財務相は永田町では有名な“酒癖”の悪い人物ではあった。

しかしながら、デイヴィッド・ロックフェラー直系のロバート・ゼーリック世界銀行総裁との会談後、読売新聞の越前谷知子記者ら数名の同新聞・日本テレビ系の記者との会食の際に意図的に薬を盛られた可能性も否定できない。

中川前財務相がろれつが回らない状態で会見に出席したのをどうして同行した財務官僚たちが制止しなかったのかが当然問われたが、その責任者で同記者との愛人関係が噂される玉木林太郎・国際局長は衆院予算委員会で、大臣がさっさと歩いていってしまったので止められなかったと弁明した。ただその際、前財務相自身が昼食でワインを注文したものの、実際には口をつけた程度の飲み方しかしていなかったことを明らかにしている。

このことによって、、いかに酒癖が悪いとはいえ、酔って意識が朦朧としたのではなく、薬を盛られた可能性が高いことになり、またこれで仮に実行犯は女性記者だとしても、それをさせたのは財務官僚たちである可能性すらも否定できないことになる。

中川前財務相はこれまで、国際金融会議の際にはたびたび米国が資金拠出を求めてきたものの、それを中国や欧州とも提携したうえでIMF(国際通貨基金)への出資による途上国支援といった形でかわしてきた。昨年3月にベアー・スターンズが実質破綻した際には、直後の4月1112日のワシントンでのG7会議の際、日本側では渡辺金融相が大規模な資金拠出を主張したものの、青木幹雄・参院議員会長直系の額賀福志郎財務相はこれに明確に反対した。

中川昭一は、去年の「VOICE」9月号でアメリカ国債の購入に難色を示す発言をしたこともあり、アメリカの?マークが付けられていたのだろう。



今回、麻生政権下では財務相と金融相を“愛国派”に兼務させたことで、日本側の統一見解として明確に米国に対して資金拠出はしないと意思表示をしたわけだ。これに対し、以前の大蔵省時代(ノーパンしゃぶしゃぶ事件以降)から米国の“手先”と化している財務官僚群が、米国の意向を受けて前財務相の追い落としを図ったという構図も浮かび上がってくる。

後任として与謝野馨経済財政担当相が財務・金融相を兼務することになったが、以前から消費税引き上げ派として有名な新財務相は明確に米国を支援する姿勢を示しており、そこでも増税が米国への資金拠出の原資を調達するためであることが読み取れる。



今から振り返ると、07年10月に中国の共産党大会で胡錦涛・国家主席の出身母体である共産主義青年団(共青団)出身の李克強・筆頭副首相より、「太子党」出身で曾慶紅前主席や「上海閥」の勢力に近い習近平副主席(いずれも現在)が政治局常務委員会での序列上位となり、次期主席、共産党総書記に決まった時点でジェイ・ロックフェラーの系列に対するデイヴィッド・ロックフェラーの系列の逆襲が始まっていたのかもしれない。

その頃を境に、共青団系が主導権を握っていたそれ以前には中国はロシアや欧州と提携して反米的な動きを見せていたのが、太子党が勢力を強めたそれ以降になるとそうした国・地域とは一線を画し、米国を支援するようになっている。特に昨年9月15日にリーマン・ブラザーズが破綻したのを機に金融危機の第二幕が始まってからは、中国は国内景気を下支えるために人民元を切り下げていたこともあるが、米国債を積極的に購入していき、今や米国債保有額は日本を抜いて第一位に躍り出ている。



小沢民主党代表は、ゴールドマン・サックス直系のハンク・ポールソン前財務長官と良好な関係にあった李克強副首相と密接な関係にあったと言われている。その関係で、情勢の変化をよく理解していたのではないか。このように考えると、昨年以来、小沢代表がその気になれば政権を取れる可能性があったにもかかわらず、容易に動こうとしなかった理由もよく理解できる。

1月5日に米国債を猛然と買い支える動きに対し、共青団系が多い北京大学系の社会科学院の余永定所長がこれを批判し、ある程度売って外貨準備におけるユーロや円の比率を高めるべきだと主張した。

同月28日のダボス会議でも、温家宝首相が「米国債を売らないわけではない」と述べるなど、曖昧な表現ながらそれに沿った発言をしていた。ところが、2月に入ると再びこうした勢力が押さえ込まれてしまい、米国との間では人民元を暴騰させないことを、また国内向けにはヘッジで金も買うことを条件に米国債を買い続けることにしたようである。



2月21日にヒラリー・クリントン国務長官が訪中した際には、長官が米国債の継続的な保有への期待を表明したのに対し、中国側の歓迎ぶりが目に付いたものだ。

最近、米国債(長期金利)が安定しているなかで金価格が1,000ドル台まで高騰したが、その主因はETF(上場投資信託)の残高の膨張に見られるように世界中の投資家が世界的な通貨不安による悪政インフレ懸念から金投資を加速させていることにある。

とはいえ、中国の買い付けもその一因として指摘できる。



今回、米国は資金拠出に明確に反対している麻生政権に対し、小泉元首相を使って明確に打倒する姿勢を示した。総選挙で民主党が第一党になるとしてもそれほど議席数を伸ばすことができなければ、自民党の中でも、非主流派として前原誠司副代表や枝野幸男憲法調査会長を介して民主党とつながりがあることで、中間勢力として中川元幹事長のグループがキャスティング・ボードを握ることになるのかもしれない。

自民党内部でも、これまで主流派と距離を置いてきたことで改革派としてのフリができることで有利な立場を得ることになるからだ。その際、山岡賢次国会対策委員長をはじめ旧自由党出身の議員や、それ以外にも輿石東参院議員会長といった小沢代表直系の議員を追い出して民主党を乗っ取るということも十分考えられるだろう。



また、前原、小泉、小池、中川秀直と続く、このグループは小泉元首相に代表されるように日本の政界の中では最も親米=従米的な勢力であり、それにより、米ヒラリー国務長官派が盲目的に圧力を強めることで、野心家の小池百合子元防衛相を首班とする大連立政権の構築に向けて動く可能性も否定できない。デイヴィッド・ロックフェラーの意向を受けたポール・ヴォルカー経済再生諮問委員会委員長が、郵貯・簡保資金60兆円程度を貢いでシティ・グループに出資させるべく、その指示を国務長官が受けて実行しようとしている構図も極めてわかりやすい。

とはいえ、いうまでもなく米国の思惑は、日本側の事情を全く考慮しないものであり、依然として小泉元首相や竹中元総務相の勢力が根強いと勝手に思い込んでいる誤算から生じるものだとも言えよう。例えそうであっても、まだ、覇権国である米国が“ゴリ押し”してくれば、残念ながら、日本の政界は、ひとまずその意向に従っているふりをせざる得ないだろう。現在、いろいろな思惑が渦巻く中で、日本の政治はある意味不思議な均衡状態にあり、その危うい均衡の上に、麻生内閣は、載っていると言えよう。





*参考資料   FACTA009年4月号より

樋渡検察が救った「霞が関」

針小棒大の強引さと、右に左にぶれる捜査とリーク。「検察統治論」に乗って、危うい政治的決断。



経済産業省大臣室で二階俊博の怒声が響き渡った。

「お前ら俺に隠れてこんなことをしているのか。いったい誰だ。突き止めろ。そんな奴は飛ばしてやる」

2月半ばのことだ。二階が激怒したのは、日本経済新聞が上、中、下の3回掲載した「民主党研究」の企画記事でこう書いたからだ。

「経済産業省は民主党政権になった場合の対応を検討するチームを極秘に立ち上げた」

二階から叱責された官房長、安達健祐がわざわざ日経を訪れ、抗議する一幕もあった。 口にこそ出さないが、永田町、霞が関は「あの政治家」が総理官邸の主となる日を恐れている。16年前の「パージの悪夢」が今も脳裏を去らないのだ。

1993年に日本新党党首、細川護煕を首班に非自民の連立政権が誕生した。政権の黒幕、小沢一郎の意を受けた通産大臣、熊谷弘(現在は政界引退)は、次期事務次官の最右翼だった産業政策局長、内藤正久(現日本エネルギー経済研究所理事長)を問答無用で切り捨てた。同時に大蔵省(現財務省)の篠沢恭助主計局長も切られかけたが、斎藤次郎事務次官が身を挺して守った。国際貢献税を取引材料にしたと言われたが、自民党が政権に復帰すると、内藤切りに加担した通産省4人組は追い出され、斎藤次官も東京金融先物取引所に“閉門蟄居”の身……という顚末を霞が関は忘れていない。



ちらつく「パージ」の恐怖



熊谷と二階は一時、保守新党で組んだこともあり、ともにかつては「あの政治家」小沢一郎の側近でありながら袂を分かった。二階が過剰反応を見せるのは、ひたひたと迫る政権交代の圧力と霞が関の寝返り、そして小沢が権力を握ったら必ずある報復に怯えたせいではないのか。

その矢先である。「あの政治家」の公設秘書が逮捕されたのは。

容疑は政治資金規正法違反。問われたのは西松建設からの違法献金2100万円。うち700万円は3月末に時効を迎える目前だった。

政権交代が予想されるこの時期になぜ強制捜査? せいぜい在宅起訴程度が、なぜいきなり身柄を押さえたのか? 永田町も霞が関も蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、怪情報が飛び交った。

はっきりしているのは検察当局の捜査方針が大きくぶれ、二転三転したことだ。なぜか。いま霞が関一帯を覆う重苦しい「パージ」の恐怖と無縁ではないと思える。

西松建設に東京地検特捜部の強制捜査が入ったのは昨年の晩春。指揮する特捜部長は前任の八木宏幸(現福井地検検事正)だった。

海外で裏金を作り、1億円以上を日本国内に持ち込んだとする西松建設幹部の供述を得ていた特捜部は、それを足がかりに政治家へつながる証拠をつかもうと3日間に及ぶガサ入れを行う。

「何か出てくればもうけもの。何も出てこなくても最悪、外為法(外国為替及び外国貿易法)違反で立件できればいい」と特捜関係者。マスコミにガサ入れの事実が漏れたら、うやむやにしてしまおうと思っていた節さえ感じられた。

関係者の事情聴取を重ねた年明け、元副社長の藤巻恵次、前社長の国沢幹雄と相次いで逮捕した特捜部は、彼らから西松建設がダミーの政治団体を通して政治家個人に献金していた事実をつかむ。

司法記者会の記者たちにサミダレ式に情報がリークされた。民主党代表小沢の2100万円に始まり、自民党は二階派がパーティー券購入で838万円、尾身幸次400万円、藤野公孝400万円、山口俊一200万円、藤井孝男400万円、森喜朗300万円などの献金が明らかになる。



検察内部では政治資金規正法をにらんだ立件が検討されていた。



特捜部を指揮する立場の東京地検検事正、岩村修二は、特捜部長時代に衆議院議員坂井隆憲、埼玉県知事土屋義彦の長女桃子らを政治資金規正法で逮捕するなど、この法律を最も好む検事だ。着任して半年以上たっても独自に事件ひとつ組み立てられない特捜部長の佐久間達哉とて、前任者の積み残し案件をいつまでも抱えていられない。

現行法をどのように運用するかに腐心するタイプの岩村、佐久間ら法律原理主義者は、政治家摘発の王道である受託収賄罪の立件などとうから諦めているのだろう。形式犯であっても賄賂性が高いと世論に思わせ、金額が突出している小沢の政治団体の会計責任者を標的にした。

民主党小沢とバランスをとるために本来、特捜部が狙っていたのが長野県知事、村井仁である。

「村井の秘書に県知事選挙資金として1千万円手渡していることを国沢が供述していた」

特捜部の見方では、民主党代表の公設第一秘書と、元衆議院議員であり元国家公安委員長でもあった現役知事は同じ重さなのだ。しかし、特捜部の目算は村井の秘書、右近謙一の自殺(縊死)で大きく狂う。

しかも、小沢側への献金のうち700万円の時効が迫り、特捜部はバランスを取る相手が見つからないまま、自殺回避を名目にいきなり公設秘書の身柄を押さえたのだ。

だが、小沢は「政治資金は適正に事務処理していた」と突っぱねて代表続投の意思を表明、政権交代を半ば期待していた世論も「野党代表狙い撃ち」にひとしい検察の“介入”に不審の念を抱き始める。検察はうろたえた。億に遠く及ばぬ2100万円という金額では、言葉にならぬ後ろめたさが検察上層部に漂う。



バレバレの情報リーク



検察のリークと露骨な世論操縦に、民主党の西岡武夫参院議員運営委員長が、樋渡利秋検事総長の証人喚問も検討すると口にする。すると今度は検察側から、経産相二階個人への献金の情報がドッと流れ始める。

それまではパーティー券以上の情報は出ていなかったのに、西松建設から押収した資料の中から、二階との親密ぶりを示すものが多数出てきた、というのである。検察内部から「二階はまるで西松の顧問のよう」という声も漏れてくる。自分の匙加減で都合のいい“正義”をつくっているのが、誰の目にもバレバレなのに、検察だけが気づかない。

その背後には、前検事総長、但木敬一以来の「検察統治」論がある。検察といえども、内閣の一翼を担う組織である以上、その捜査にある程度の恣意性を認める――というご都合主義の理屈で、朝日新聞の検察“御用”記者が受け売りしているのだが、現検事総長、樋渡もその系譜に連なっているのだ。

しかも法曹界の悲願、裁判員制度導入を前に、東京地検次席検事から将来の検事総長の有力候補、大鶴基成を外し、マスコミ受けのいい谷川恒太を起用。樋渡自ら御手洗冨士夫経団連会長ら財界や政界を行脚して裁判員制度の根回しに余念がない。

そんな樋渡だけに、「あの政治家」を恐れる自民党、霞が関の心中を忖度し、国を救う気で政治的決断を下したとしても不思議ではない。なによりも、右に左にブレ続ける捜査が、その決断の軽さを雄弁に物語っている気がする。(敬称略)

Sorry, the comment form is closed at this time.

© 2011 山本正樹 オフィシャルブログ Suffusion theme by Sayontan Sinha