「いよいよ世界経済は21世紀型恐慌の時代を迎えることになる」

~日本のマスコミが流す茶番劇を見ていると思考停止に陥り、すべてを見失うであろう、我々は100年に一度の大きな経済変動が起きるのを目撃することになる~

<米金融不安・危機の裏側で暗躍するゴールドマンサックス>

米国の金融危機は、2008年3月14日に大手証券会社ベアー・スターンズが実質破綻したのを機に小康状態になっていたが、7月にはいって米政府系の住宅公社(GSE、ジー・エス・イー)のファニーメイ(米連邦住宅抵当公社)とフレディマック(米連邦貸付抵当公社)の経営不安問題が急に高まっている。

こともあろうに一番、危ないリーマン・ブラザーズのアナリストが、7月はじめに、「GSEは会計基準が厳格化されれば750億ドル(8兆円)もの増資が必要」と記したリポートを発表し、さらに7月10日にはウィリアム・プール前セントルイス連銀総裁が、「両公社は、実質債務超過で政府による救済が必要かもしれない」と発言したからである。

このために、両公社の株価が一気に一時10ドルを下回る水準にまで急落してしまい、破綻が危惧される状況に陥ったことでもたらされた。この二大住宅公社は、かつては株価が100ドルを越していたアメリカ政府系の超優良の金融機関だった。

両社の財務内容が非常に悪化しているのは以前から知られていた。それにしては政策当局の対応は後手に回った。3月半ばのベアー・スターンズに続いてリーマンやメリルリンチも間もなく破綻するといったことがささやかれていた。この渦中で、ベン・バーナンキFRB議長は投資銀行(大手証券会社)の破綻処理をするための受け皿の設立に取り組む意向を示した。しかし、これまで両住宅公社への対処に言及したことは一度もなかった。

両公社の経営危機が表面化すると、後述するようにドル危機が表面化することになりかねない。またジョージ・ブッシュ政権が、公的資金の注入を頑なに拒否していた。ところが、上記のようなことが次々に表沙汰になってしまうと公的資金投入を余儀なくされる。このために、財務省が極端に及び腰になっていて、極力この現実を“見て見ぬ振り”をしようとしてきた。



興味深いのは、アメリカの金融市場が動揺する際には必ずといっていいほどゴールドマン・サックスが引き金を弾き、裏側で暗躍していることである。

今回のGSE(ジー・エス・イー)は、ガヴァメント・サポーテッド・エンタープライズであって、決して、国有企業ではない。だから、ここが発行している住宅公社債は、決して100%の政府保証債ではない。GSEはあくまて「政府支援企業」である。この巨大な両公社の危機の露呈から7月のNY(ニューヨーク)は株安になった。

これは、全米の金融機関の7-9月期決算の発表を控えて、6月19日にシティ・グループ(シティバンク)のゲーリー・クリッテンデンCFO(最高財務責任者)が、「サブプライム・ローン問題は今後も多大な損失が続く可能性を残している」と発言したことが契機となった。

また、同日に格付け会社ムーディーズが、モノライン(金融保証会社)大手のアムバック・フィナンシャル・グループとMBIAの格付けを引き下げた。このために、その翌日から株安が始まった。が、それを売り込んだのがまさしくゴールドマンだったといわれている。そして、6月26日にゴールドマンが、「シティが決算で89億ドル(1兆円)の評価損を計上する見通しである」とのリポートを発表した。このことで、この株安の流れに拍車がかかった。

うがった見方をすれば、財務省を率いるヘンリー・ポールソン財務長官が、なぜかこの時に、危機の封じ込めに積極的に動こうとしなかった。このことは、同長官自身が、同社の前会長兼CEO(最高経営責任者)であることを考えれば納得できる。

ブッシュ政権内部では、大統領自身は“ボンクラ”な人物としてすでに有名であり、実際の政権運営を担っている、外交・軍事面では凶暴ともいえる、ネオコン派そものもで、豪腕のディック・チェイニー副大統領だが、経済・金融面では“素人”同然である。

大統領選挙で共和党候補者に内定しているジョン・マケイン上院議員がいみじくも述べたように、「共和党には金融面に秀でた人物は存在しない」のである。ジョン・D・ロックフェラー4世(ジェイ・ロックフェラー)が実質的なオーナーであるゴールドマンによって、シティバンクの終焉が画策されているとまで言える。その手法は、同族の資本に対するものとしては容赦ないものであると言える。デイヴィッド・ロックフェラー(93歳)の直真臣であるサンフォード・ワイルが育てて大きくしたオーナーであるメリルリンチ、リーマン、ソロモン・ブラズーズが“良いように”弄ばれているといえるのだ。

<米国は国債を除いて借りたカネは返す気は全くない!>

金融危機が表面化したこの7月13日になって、日曜日であるにもかかわらず、ポールソン財務長官が慌てて緊急に記者会見を行った。そして、上記のGSE(政府支援企業。決して政府企業ではない)である両住宅公社の、全米の銀行を通した住宅ローン債権への保証業務や、引き受けたローン債権をかき集めて当公社自身が組み立てた、住宅ローン担保証券(RMBS、アール・エム・ビー・エス)の発行等からなる債務残高が、実に5兆3000億ドル(600兆円)にも達することを自ら明らかにした。

サブプライム問題が表面化してから、米政府は両社を全アメリカ国民の住宅ローンの大きな受け皿にすることで対処してきた。このこともあり、その債務の規模が、まさに日本のGDP(年間4.2兆ドル、430兆円)をも上回る巨額な規模にまで達していた。

ポールソン財務長官は、「両社への公的資金の注入を検討している」と表明した。が、それ以外は、もっぱら米国内で日が迫って住宅物件を差し押さえられそうな、緊急の支援を要する住宅ローン40万件の借り手国民(収入が破綻して、ローンを返済できなくなっている人々)を助けることばかりを強調した。

ただここで重要なのは、両公社の債権者は、まさにその多くは海外の大手金融機関であるのに、これら外国の債権者たちに対しては、ほんの“一言”だけ、「信用の喪失を避ける必要性に言及した」だけだった。このことを見ると、本音としては対外的に、これらの巨額の債務を返済する気はサラサラないのだ。このことが非常に重要なことである。

自分は、米国の財務長官であるからアメリカ国民の生活さえ守ればいいのであって、外国の債権者たち、すなわち、世界中の大銀行や年金運用団体のことまでは手が回らない、とポールソンは正直に表明したに等しいのである。今回のこの異様さに、私たちは勘付くべきである。

その翌日の7月14日には、2008年3月末現在で、両住宅公社が発行した機関債(ファニーメイ債とフレディマック債)や、両社が保証しているRMBSを、なんと、三菱UFJフィナンシャル・グループが3兆3000億円、農林中央金庫が5兆5000億円、ニッセイ(日本生命)が2兆6千億円も抱えていることが明らかになった。これが衝撃的な報道であり、日本側への打診なしに、アメリカ財務相が勝手に発表してしまったもののようだ。

これまでに米国債を多く保有していることですでに知られていた日本の機関投資家の代表格である日本生命が6兆5000億円の米国債を保有している。そのほかに、第一生命、明治安田生命、住友生命の大手4社で合計4兆円を超えている。

今回、このアメリカの二大住宅公社が、5兆ドル(530兆円)もの債務総額を抱えていて、しかもこのうち、外国人投資家が160兆円を保有しており、さらにこのうち、日本勢が23兆円を占めていることがわかった。中国がそれを上回り最大で40兆円ほどを占めていることも判明した。

これらの具体的な数字が米国から漏れたことで、日本でも大騒ぎになった。言うまでもなく漏らしたのは米財務省であり、このことに踏み切ったということは、今後、これらの債券を償還、返済する気がないことを表明したことに他ならない。

不動産バブルは米国より英国の方が激しかったのである。そして英国では目下、アメリカに先行して住宅市場が崩壊に向かって突き進んでいる。英国ではすでに恐慌に突入することが公然と言われている。このような不穏な情勢を概観すると、米国の足元で今も激しく進んでいる住宅バブル崩壊は、この3月の金融危機で決して終わることはなかった。

今回の7月の二大住宅公社危機に続いて、やがて不可避に全面的な恐慌に至るまで進行していかざるを得ない。イギリス人は、英語という言語の共通性もあって、これらの債券は返済されないことに気づいている。これらの米国のGSE(米政府系の金融機関、と入っても決して政府保証はない)が保有して、すでに信用毀損しており、債務の返済を順送りで先送りするしか他に返済の目処が十分には立たなくなっている、総額で5兆ドル(530兆円)のうちの、イギリス国内で引き受けている分である10兆円の資金が返済されないことを、イギリス国民は、正確に理解している。

同じく欧州人では、フランス人も米国経済がそのうち恐慌に突入していくことを確実に予測している。しかし、ドイツ人はこの事態をまだあまり理解していないようだ。

日本でも、行政権力を実質的に握っている金融系の官僚のトップたちでさえ、ファニーメイやフレディマックに対して日本国が保有している債権については、いまだに米政府の全額保証があるものだと勝手に信じ込んでいる。彼ら官僚たちは、すべての債権が確実に返済されると思っているようだ。愚かきわまりない「おぼっちゃんぶり」である。

さすがに長年、すなわち、敗戦後の63年間を営々とアメリカに洗脳され、大事に育てられてきただけのことはある。 「この両公社には事実上の(あるいは、暗黙の)米政府による保証があるために、発行する債券(公社債)は、米国債に次ぐ信用がある」と日本国内では強調されているようである。

しかし、この政府系住宅公社と訳している「GSE」とは「 Government Supported Enterprise 」を訳したものである。政府は単に「支える」役割を担っているに過ぎない。保証することを意味する「 Government Guaranteed Enterprise 」ではないのだ。

だからこの二大住宅金融の巨大金融法人が破綻しても、米政府が必ずしも負債を肩代わりして、外国からの投資家、債権者に十分に返してくれるものではない。このことを日本の官僚のトップたちまでが理解していないのである。この悲劇は、やがて判明するであろう。

普通の米国人の経営感覚からは契約書で明確に保証をしていないのであれば、いざとなったときには返済する必要はないのである。「政府系の金融機関だから、大丈夫だ。アメリカ政府がそんな信義に反することをするはずがない」と日本側の交渉のトップの人々が、勝手に信じ込んでいるだけだ。

いざとなったら、アメリカ政府に泣きついて、「これらの債権を保証してくれ」と、それこそ本当にすがりついて泣き叫ぶことになるのかもしれない。ファニーメイ債とフレディマックは、決して米国債とは違うのである。債米政府(米財務省)は、血相を変えて懇願する外国の債権者たちに対して、とりあえず3分の1ほどは返す振りぐらいはするだろう。しかし状況がさらに悪くなればそれさえも履行しないだろう。

のため、大量にGSE債を抱えているところは、世界各国で政府を含めて非常に苦しい状況に陥らずには済まない。日本の三菱UFJは、シティに頼み込まれて、シティのこれらの保有分を肩代わりさせられて、3.3兆円もの巨額を抱え込んでしまったのである。ニッセイ、野村證券(宇宙人だと社内で呼ばれている氏家純一、氏がトップ)も同様だ。デイヴィッド・ロックフェラーのよってアメリカで育てられ、彼が直接選んだ人物たちが、これらの日本の大法人のトップについている。

このことで、三菱UFJまでが、シティと共倒れになるのではないかといったことが既にささやかれている。農林中金が抱えている規模も、公表された5兆5000億円だけでは済まないはずであり、おそらく、その倍程度に上っていてもおかしくない。それ以外にも破綻の懸念がある融資先への債権あるいは、債券(ボンド)の類を多く抱えているはずだ。農林中央金庫はすでに存立が危ないのである。

同金庫の上野博史理事長(元農水省事務次官)の側近である 財務・資金担当重役の高谷正伸専務理事が、デイヴィッド・ロックフェラーの子分である人物。この役員が、これまでに大量に“買い散らかした”のである。

上野理事長は7月16日の記者会見で、「GSEの機関債は米国債に次ぐ信用のあるものだから大丈夫だ」と述べた。しかしこれは甚だ的外れで安易な弁明といわざるを得ない。もはや無責任と言ってもいい。だから同金庫は、やがて連鎖破綻に陥らざるを得ない。

その際には、理事長や全国の農業協同組合(農協、JA)や漁業協同組合(漁協、JF)、森林組合その他の協同組織の幹部たちは、責任をとって自身の資産を拠出して弁済すべきだろう。かつて、同金庫は1996年に、日本国内での住宅バブルの崩壊を受けて、住宅金融専門会社(住専)の処理をめぐって大騒ぎになったときに、同金庫を中心とする農協関係だけが、6850億円もの救済を政府から受けたことで破綻を免れた。

しかし、今度はそうした虫のいいことは絶対に許されない。また、今回は日本国内にも、自分たちは農業者の団体だ、という振りをした都市近郊の大地主たちの連合体が、特別な待遇を受けて自分たちだけ救済されるような時代ではなくなっていることをさっさと自覚すべきである。「官僚による政治」の無残な結末をやがて農協団体ははっきりと身にしみて分かることになるだろう。

農林中金には、全国のJAの中にある各協同組織を通じて全国の農民や漁民たちの預金業務を担っている(各県ごとの信用連や共済連を名乗る)のだが、そこから吸い上げた資金の運用を一手に引き受けている。

これらがアメリカの投資・運用先の破綻に連鎖して、日本でも破綻することになると、全国の組合員の預金が返済されなくなる恐れがある。既に3年前の2005年4月1日に、決済預金を除いて定期、普通を問わず、利息を伴う預金に対しては全てペイオフが解禁されている。国は一銀行あたりの預金額1000万円までの元本とその利息までは保証しているが、それを超える部分については戻ってこないことになっている。

実際、米国ではこの8月1日に、さらにファースト・プライオリティという金融法人の経営が行き詰まった。2008年に入ってからだけでもこれですでに8行の地銀が破綻に追い込まれている。これらの破綻した銀行では、10万ドルを超える預金については返済が保証されていない。

アメリカでは広大な農園を所有している農民や遠洋漁業に従事する漁民は高所得者層が多い。だからこれらの地銀が破綻すると地元では大きな混乱が生じている。それらの事態が、日本国内には不思議なことに少しも伝わらない。

日本の農民(幹部の地主たちではなく、本当の農業者たち)にとっては結果的には、一時的には幸いなことだが、これまでもWTO(世界貿易機関)の閣僚会合ではすでにかなり大きな合意に向けて議論が進んでいた。

それが、7月29日に、土壇場でセーフガード(緊急輸入制限措置)の適用をめぐって、米国と、中国、インドなどの新興国(発展途上の人口大国)が対立した。そのせいで、WTOの関税撤廃と特定農業(農産物)の保護の廃止へ向かってのそれまでの交渉は、土壇場で大きく決裂してしまった。

日本のコメ農家やその他の特定農産物の農家は、これまで貰っていた政府からの補助金(サブシディ)を打ち切られることが、なくなったので、胸をなでおろしていることだろう。しかし、それでも「最低輸入関税を6%に引き下げること」はもはや世界の趨勢として、既定路線になっている。

だから日本の農業者は、今回の農林中金の幹部たちの大壮言語である「私たちは海外投資で大きな収益を上げてきた実績」をやたらと異様なまでに誇示する、愚か極まりない態度がもたらした大失策だ。農林中金に預けて運用を任してきた、これまで営々と蓄えた自分たちの預金がもはや戻ってこなくなることになれば、農家の人々は非常に大きな困難に直面する恐れが大きい。

米国でこの3月半ばに、全米第7位の銀行であったベアー・スターンズが破綻・消滅(JPモルガン・チェースに吸収合併された)し、住宅バブルが一番きついカリフォルニア州を先頭にして、全米各地で次々と地銀が破綻処理されつつある。

そして、今回7月のGSE問題(二つの巨大な住宅公社の危機)が表面化したのは、住宅バブル崩壊に伴う必然的な流れである。これは時間の経過とともに、さらに進行して金融恐慌に発展せざるを得ない。

恐慌は、「コンドラチェフ・サイクル(60年周期の景気の大循環)」の大底期にかけて、つまり約60年おきに必ず生じるものである。だから次の覇権国を狙う新興債権大国 ―この場合は、経済力だけを見れば、我が日本の1980年代にはそうだったのだが、―が、そこから約10年遅れで、現在の世界覇権国であるアメリカ合衆国でも起こるのである。

90年代の日本で起きたバブル崩壊を散々目の当たりにして自ら体験して、ひとりひとりの国民がひどい目にあって貴重な経験を積んだ日本国民の冷ややかな目から見れば、現在の米国の苦境は、まさに「歴史の法則」そのものである。私たちは、1990年代の苦境を味わった己れの姿を、まるで映像で繰り返して見ているような錯覚さえ覚える。

現在も世界覇権国であり基軸通貨を握る国である米国で、金融恐慌が起これば、その影響は必然的に全世界に波及していかざるを得ない。こうした危機的な状況になると、最も大きな悪影響を受けるのは、経済基盤が脆弱な途上国である。このことも歴史が示す通りである。

<談合価格の化けの皮が剥がれて御都合主義が発動されて、そのあと危機が一旦、

小康状態にはいる>

米国では、3月半ばにベアー・スターンズが破綻したのを機に対策が取られたので、金融危機は後退したように一時、言われた。このような、ただの気休めと願望で盛んに嘘八百の経済分析をする者たちはあとを絶たない。どうせ本人が次々に押し寄せる現実の深刻さに、うちひしがれるから、ほっておけばいいことなのだ。

もっと本当のことを書けば、7月危機に先立つ4月に、全米7位の銀行であるワコビア(本拠地はノースカロライナ州)が、予定通り4月14日に、1-3月期の決算発表をして、「3億5000万ドルの赤字決算であることと、70億ドルの増資が必要であること」を明らかにした。その2日前の12日の土曜日に、ワコビアは、破綻を回避するために、“居直りの抜き打ち”で、当局に向かって堂々と、「当行は、すでに債務超過でどうにもならない状態にある」と“白状”して公然と支援を求めた。

そこでポールソン財務長官をはじめ当局の関係者は、この正直な態度を歓迎して受け入れた。このとき、米国の指導者層が団結してワコビアを救済することで意思一致したのである。これは綺麗ごとの茶番劇である。この日は、まるで1945年12月7日の真珠湾攻撃を受けた直後や、客船ルシタニア号がドイツの潜水艦に撃沈された日(第一次世界大戦への米国の参戦が決まる。これも本当は大きな謀略であった)に等しい興奮振りであったようだ。

このようにして、大きな不安とともに予測されていた4月金融危機は上手回避されたのである。米国全体が“一致団結”して、それで、自分たちのそれまでの金融慣行や、対外的な約束などを反故にしてしまうのである。

ワコビアは、このあと7月に、ロバート・スティール財務次官がCEOに就任して再建を目指すことになった。このことは、実質的にワコビアは国の管理下に入ったことを意味する。日本のりそな銀行の現在の救済のための「一時」国有化と同じである。

スティール次官の元々の出身はやっぱりゴールドマンサックスである。だから、ワコビアは同時にゴールドマンの傘下に入ったことも意味する。この時に、米国全体の“空気”が大きく変わってしまい、まさに国難に対処するための“挙国一致体制”になったのである。

今の米国は、とにかく「何でもあり」の政策を推進することで、自分たちだけ良い暮らしが続けられればいいのであり、外国からの借金は踏み倒してもかまわないと言うことになったようである。このガラリと変わった「米国の空気の変化」を私たちは鋭く察知しなければいけないのである。

このようにして、米国では、「何でもあり」の政策が推進されることになったこのために、米国内の金融危機が3月半ばのベアー・スターンズの実質破綻を機に後退し、それ以降は7月にGSE問題が表面化しても、危機感がそれほど高まることなく小康状態を続けている。

ここで危機が遠のいたのには、実はもうひとつ大きな理由があって、金融機関に対して「時価会計の適用」を大幅に緩和し、減損処理をしなくて済むようにしたことだ。これも米国の大変な変貌振りである。まさに居直り強盗に近いアメリカの態度の変更である。

全米の大手の金融機関は、すべて自分の傘下の子会社でありながら、連結決算にしていなかったいわゆる「簿外の住専」である、SIV(ストラクチャード・インベストメント・ヴィークル)がある。ここが運用しているRMBS(アール・エム・ビー・エス、住宅ローン担保証券)や、それをさらに他の金融商品と組み合わせて加工しなおして組成したCDO(シー・ディー・オウ、債務担保証券)と呼ばれる金融証券化商品を大量に抱え込んできた。

これらのすべてがデリバティブ(金融派生商品)である。これらの仕組み債には、当然、サブプライム・ローンのような劣悪な、返済信用度の低い、言わば腐った住宅ローン債権が今も多く含まれている。

これらに対して3月下旬から、格付け機関(レイティング・カンパニー)が大幅に格下げを実行するようになった。格付け会社自身にも、疑惑の目が向けられるようになり、昨年の8月から急激に、強い社会的な非難を受けるようになった。だから、これまでのような馴れ合いの、談合の、八百長の格付けは出来なくなっている。自分たちの首が危なくなっているのだ。

最近では、格付け会社の首脳たちの経済犯罪での立件までが言われるようになった。金融機関の格付けが全面的に引き下げられることにより、貸倒引当金を積み増さなければならなくなった。

それでもなお、自己資本と信用の毀損が起きて、株価も下落し続けて、いくら増資して、資本金を注入しても、資本不足に陥り、かつて日本でも起きた、貸し渋りや貸し剥がし姿勢をこれらの全米の金融機関が強めたことで、流動性危機が頻発している。

<アメリカは身勝手にも時価会計を放棄した>

アメリカは、官民あげて4月に時価会計をしなくていいように、動き出した。まったくもって恥ずべきことをする者たちである。あれほど日本に強制して実施させてきたくせに。アメリカ政府とSEC(証券取引委員会)が音頭を取って、アメリカの金融法人も事業法人も実質的に時価会計基準を自社の会計に適用しなくても良いことにした。

このことで、引当金を積み増さなくても済むように動いた。そうすることで金融危機がこのあと表面化しなくなったのである。このことは、これまで市場経済の絶対優位性を唱導し誇ってきた米国としてはあってはならないことだ。

この政策を当局が金融機関に対して黙認するだけでなく、むしろそれを勧めるようにしたのは、まさに挙国一致体制が発動されたことと変わらない。

銀行は、それぞれ融資先ごとに、その貸倒れリスクごとに細かく格付けが行われており、銀行はリスクの大きさの度合いにより融資先が破綻した時のために算定された引当金を積んでおく義務がある。

例えば、日本でバブル崩壊の際に、次のような融資先の債権を信用度の分類が行われた。融資先の債権を信用度に応じて「第一分類」を正常先債権(グッド・ローン)とし、「第二分類」以下を要注意先(セミ・グッドローン)、破綻懸念先(セミ・バッドローン)、実質破綻先および破綻先(バッド・ローン) の各債権に五段階に分けて格付けした。

さらに第二分類の「要注意先債権」(セミ・バッドローン)を要管理先とし、それ以外とに分けた。正常先と要注意先のあいだの「それ以外の部分」は正常債権(セミ・グッド・ローン)に入れ、それ以下の要管理先と第三分類の破綻懸念先以下を「不良債権(バッド・ローン)」と定義して、金融庁の監督下で厳格に管理した。

日本で、この制度が導入される以前は、銀行自身の基準による自己査定で格付けされていたので甘い査定が行われているとの見方がくすぶり続けていた。そこを突かれて、外資系金融機関が、「日本には不良債権が100兆円もある」(モルガンスタンレー証券のチーフエコノミストのデイヴイッド・アトキンソン氏が盛んに唱導した)と喧伝し、その傘下のヘッジファンドやハゲタカファンドが、日本株の株価を一斉に計画的に売り崩すことを繰り返した。これが、小泉’超親米’政権が作り出した、官製不況と言われる所以である。

1998年から、北海道拓殖銀行、山一證券、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行(日債銀)が次々と破綻させられて、“上からのクーデター”あるいは“小泉・竹中の宮廷革命“とも呼ぶべき計画的な金融恐慌が引き起こされて荒れ狂った。

2001年からの小泉純一郎政権になると、さらに激しい金融調査が繰り返されて、竹中平蔵金融担当相(当時)が「金融正常化」を“錦の御旗”に、金融庁による金融法人への立ち入り検査機能を強化したことで、融資先の格付け審査が、厳格化して、格付けが強引に引き下げられるケースが後を絶たなかった。

このために、ダイエーのような旧UFJ銀行の主要な融資先が、後述するとおり、かなり恣意的な査定によって「自力再建は不可能」との“烙印を押されて”整理回収機構という「企業刑務所」に送り込まれていったのである。

まるで無実の罪の者たちが死刑場に送られるような哀れさがあったことは私たちの記憶に新しいところだ。いくら覇権国アメリカという「お上」からのお達しによるものとはいえ、よくもあのような残酷で非道なことができたものだと、いまさらながらに感心する。そして、何と今やアメリカ自身に、その報いが返りつつある。小泉・竹中コンビは、今のアメリカのニューヨーク金融城の炎上の様子を本心ではどのように考えているのか。知りたいものである。もっとも小泉氏は金融のことなど何も知らないが、

米国の場合、銀行の融資先の貸倒れリスクに応じて「TierⅠ(ティア・ワン」から「TierⅣ(ティア・フォー)」までの四段階に区分されている。これは、日本では、「レベル1からレベル4」の分類とされた。 このうち「TierⅣ(ティア・フォー、第四段階)」は、日本で採用された4分類のうちの「完全な破綻先(すでに債務超過、死刑執行段階)」に相当する。その手前の「TierⅢ」が、「破綻懸念先」と訳された。

現在、米国で行われている貸し倒れリスクの評価基準は、住宅価格がさらに下げ続けているという融資環境の悪化のさ中にあって、SEC(米証券取引委員会)が、実質的には「TierⅡ(ティア・ツー)」から「TierⅢ(ティア・スリー)」に低下してしまっている融資先債権が数多く出現している。

このすでに、TierⅢ(レベル3)に落ちてしまっている、業績悪化企業を、日本で残酷にやったように、バッサリと斬って、破綻処理(産業再生機構送り、刑務所送り、そして外資に二束三文で売り渡した)すべきなのだ。

ところが、なんと、アメリカ政府とSECは、奇策を弄することに決めた。それが、3月28日に、全米の銀行と企業に一斉に送られた「SECからの手紙」である。これが、「アメリカでの時価会計の放棄」の証拠である。この「SECからの手紙」によって、時価会計は、実質的に放棄してよいことになってしまった。

SECとしては、それまでの「厳格な貸し倒れリスクの基準」を、巧妙に変更して、「それぞれの企業が独自の基準を採用してよい」とし、本当はTierⅢに転落している債権であっても、「その独自基準に照らして「TierⅡ」(健全債権)と見なしてもかまわない」としたのである。

このようにして、全米の銀行自身にそれぞれ時価会計の適用を事実上放棄させた。すなわち、時価会計ではなくて、旧来の取得原価主義(含み利益温・損失温存主義)に戻ることを恣意的に選択できることを許した。

このようにすることで、米国は3月後半以降は、リチャード・クー氏が日本で正しく指摘してきた「バランスシート不況」陥ることがなくなり、ゆえに、粉飾決算(ドレッシング・アカウンティング)に近いお上御免の「合法的な不正会計」が居直り的に導入された。

このように会計制度と信用リスク評価の基準を一気に、なりふり構わず、改変したことで、アメリカは一時的には、これ以上の金融危機に陥らずに済むようになった。これで、企業の四半期決算が発表されるごとの「3ヶ月に一度ずつ起きることが予想された「連鎖する暴落」が阻止されて、表面的にはアメリカ経済は平静を保ってきたのである。

それでも思うがけないところから、二大住宅公社の破綻の表面化という7月危機は起きてしまった。だから、いつまでもそうした粉飾した帳簿での“誤魔化し”が通用するわけがない。そのうちまた、金融危機が再燃するのは自明の理である。

それは、CDS(シー・ディー・エス、クレジット・デリヴァティブ・セキュリティーズ)と呼ばれる、企業が倒産する可能性そのものを保険商品に組み立てた債券(クレジット・デリヴァティブ商品)の危機が爆発するだろう。このCDSは、企業の決算書の貸し倒れ引当金の額そのものを担保にとって金融商品に置き換えたものである。このCDSの発行残高は、今や62兆ドル(6700兆円)もあるのである。これが爆発(信用不安)を起こすと、ファニーメイ、フレディマックに続く金融危機になる。

そもそも、日本が1990年からのバブル崩壊で、苦しい状況に陥っている時に、アメリカが、強引に日本に時価会計の適用を強要したのである。時価会計と、銀行の自己資本比率についてのBIS(ビー・アイ・エス)基準が、アメリカの意思で、無理やり導入された。

日本国内にも、それらの、国債会計基準(IAS)の導入の一環の振りをした、あまりにも理不尽な会計制度の変更に対して、各業界から、この時価会計とBIS基準導入への抵抗があったので、導入まで約10年がかかっている。それでも日本公認会計士協会が乗っ取られることで決着がつき、奥山章雄氏が、会長になったときに、アメリカの意思が、“手先代表”の竹中平蔵大臣と直結することで、事態は2001年から加速度的に進行したのである。

そして、1998年の2月に「ノーパン・シャブシャブ事件」をCIAに計画的に起こされて、それが、その年の10月の「大蔵落城」となって、大蔵官僚(および日銀官僚)たちが、接待不祥事で次々に刑事起訴されることで、アメリカに屈服した。

この時から、大蔵官僚が米国の手先になっていった。現在でも表面的には時価会計とBIS基準はアメリカに強要されて実施されたのではなくて自主的に導入したことにはなっている。このようにして、アメリカは大蔵官僚たち(その代表は通称“デンスケ”こと斉藤次郎(さいとうじろう)元事務次官(現・金融先物取引市場株式会社社長)だ。小泉内閣を操ることで、日本で不必要に金融不安を煽り、外資であるヘッジファンドやハゲタカファンドが策動して、「上からの金融恐慌」が引き起こされた。

そして2001年からは、竹中金融相(驚くべきことに同時に経済財政相・郵政民営化担当相の同時に3つの大臣になった。 さらには総務相まで勤めた)は、銀行の融資先の貸し倒れ債権リスク評価を、厳格に査定するようにと、金融庁(これが、現在の日本に出現したゲシュタポである)を励まし焚き付けた。

竹中平蔵大臣と、その補佐官であった高橋洋一氏(彼が、実質的な現場の司令官であったようだ)が、その際に、日本の銀行群と大企業群を、外資に売り渡すために、強制的に時価会計での評価を押し付けたときの、理論的根拠となっていたのが、「DCF(ディー・シ-・エフ)法 」である。

このDCFとは、Discounted Cash Flow (ディスカウンテッド・キャッシュフロー)会計のことで、分かり易く言えば、「割引現在価値」の理論である。これ自体が、資産や債権の価格を算定する時に使う際には、もともと恣意的でかなりいかがわしいものなのだが、これを盛んに振り回して、さらには、国家財政次元でも導入した。それで2005年9月の「郵政民営化」法案が出来るときの理論的な支柱とした。これは小泉郵政“クーデター”=アメリカへの売り渡し法と呼んでもいいようなものである。

彼ら、小泉純一郎や竹中平蔵、アメリカの意思を忠実に代理する人々(別名、アメリカの手先)にしてみれば、以下のような「改革の論理」になる。アメリカからそのように教え込まれ叩きこまれた。洗脳されたと言っても過言ではない。

「日本は市場経済や自由主義経済を標榜する先進国としては、あまりに不透明で不公正だから、公平、公正にして透明性を確保するためにも、規制撤廃(デレギュレーション)と改革の政策を採用すべきだ」というのが彼らの理論的根拠となっていた。

ところが、2007年の8月17日のサブクライムローン危機がアメリカ本国で勃発して、事態は一気に急激に変化した。現在の米国は自分自身の都合が悪くなると、市場経済(マーケット・エコノミー)や自由主義経済(エコノミック・フリーダム)の根本原則を、恥も外聞も無く、放棄する。 従来の態度を翻して、自分たちで決めた会計原則を、自分たち自身で踏みにじり、捻じ曲げて、目の前に迫った危機の回避を図ろうとしている。

いかにも自分勝手のご都合主義といわざるを得ない。これが今のアメリカ人だ。覇権国の支配者というのは、こういう恥知らずのことを平気で行う。公正で透明であることを根本原則として謳っていたにもかかわらず、それらの会計原則をかなぐり捨てて、この3月からアメリカで官民一体で実際に行なったことは、それと正反対のことであった。

もうひとつの恥知らずの具体例が、格付け会社の嘘八百の格付け問題である。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)とムーディーズという、純粋に民間会社で公平と公正な評価・格付けを行っているふりをしてきた格付け会社が、いかにも恣意的で作為的な情実の格付けをやってきたことが満天下に明らかになった。

米国民の中の優良の住宅ローンであるプライム・ローンだけでなく、低所得者層向けの劣等の信用度しかないサブプライム・ローンのほかに、ジャンボとかオルト(エイ)という中間の信用度の住宅ローンがある。これらを数百本とかまとめて束にして証券化した金融商品(これもデリバティブに含まれる)であるRMBSや、更にそれを組み込んでCDOにして、それらを外国の金融法人や、年金運用団体に売りまくったのである。

中国、日本、ヨーロッパ諸国、中東産油国などがお客である。これらのデリバティブ(金融派生商品)の多くを、「モノライン」というたいして信用も無ければ、資金力も無い保証会社が、安易に保証することで、無理やり、つっかい棒にして出来上がった、それらの金融商品のウソの信用度に対して最上級の「トリプルA」の格付けを与えてきたのである。

しかし、危機が表面化して、信用暴落を開始したサブプライム・ローン組み込み債(もう誰も引き受けないので、市場で価格がつかない)の地に落ちた信用度を考えると、“素人目”に見ても、そうしたトリプルA(AAA)の判断などあり得るわけがない。そもそも、上記の格付け機関2社は、それらの金融派生商品(仕組み債券)を売り買いして「ハイリスク・ハイリターン」の危険な運用をしているヘッジファンドのような投機筋を傘下にもつ金融機関自身から高い手数料をもらっていた。

だから、公正な格付けもへったくれもなかったわけだ。現在、米国では格付け機関で実際に格付けに携わった人たちを“詐欺師”として逮捕(刑事起訴)すべきだといった声が高まりだしている。

つまり、米国ではシティ・グループを中核とする巨大金融機関と格付け機関、モノラインが、財務省を介して裏側で長年提携していたのであり、それによって多くの奇怪な証券化商品を、金融工学の名で次々と生産し、お手盛りで、高格付けにしたうえで、どんどん新しい種類の債券取引市場(金融先物市場)を作り出して、ここで相対取引で、互いに示し合わせて、どんどん価格を意図的に吊り上げていたのである。

このため、米国の絶頂の好景気を誇った住宅バブルというのは、“ヤミ・カルテル”による“談合価格”とでもいうべきものだったのである。それが昨年の8月17日を境にはじけとんだ。目下、急転直下、足元で起こっているアメリカのバブル崩壊の動きは、そうしたイカサマ金融体制の“化けの皮”が剥がれつつある段階に来たことを示しているといえる。

アメリカは自らの罠に落ちたのである。この動きは、それがこのあと数年で極限にまで達した時に、必然的に金融恐慌を引き起こさずにはおかない。それは間違いなく世界恐慌であろう。それが人類の「歴史の法則」というもの。

<米国の世界覇権が後退し世界は大きな混沌に>

日本は18年に及ぶ、アメリカの金融破壊攻撃によって、これだけやせ衰えても、まだ世界でも群を抜く資産超過国(黒字大国、貿易大国)であり、かつ最大の対米債権大国である。アメリカの国債その他、地方債や、前述した住宅公社債などで、私の試算では合計600兆円(6兆ドル)ぐらいを官民合わせて買い込んで今も保有しているであろう。

この日本としては、米国でさらにバブル崩壊が進んで恐慌が現実化してくると、日本国民の貯蓄が姿を変えた形である米国債保有等が、しっかり米国から返済されるのかが必然的に非常に重要な問題になってくる。

日本は米国に対して前述したとおり6兆ドルもの資産があるが、このうち米国債については国家が保証しているので幾らなんでも返済されるだろう。が、それ以外の部分についてはほとんど戻ってこないと考えた方がすっきりする。向うも返す気はない、と考えるべきだ。

たとえば、高格付けの短期金融商品で運用している追加型公社債投資信託であるMMF(エム・エム・エフ、マネー・マネジメント・ファンド)であってさえも、これまでは「国債に順ずる高い信用度」などと歯が浮くような宣伝文句で、短期で預ける高信用度の貯蓄商品として売り買いされてきた。だが、これらにもファニーメイ債やフレディマック債が大量に組み込まれているだろうことを考えると、もう決して安全な金融商品ではない。

おしなべて上述した金融仕組み債の証券化商品(デリバティブ)は、一旦買ったら以後はほとんど無事には返ってこないと考えるべきであろう。

日本の対米証券投資といえば、農林中金を除くと、生保を中心とする機関投資家が国際金融市場で巨大なプレーヤーになってきたのは有名だ。だが、こうした金融機関の多くはこれまで株式会社ではない「相互会社」ではあった。それでも一応、民間企業なので、経営者はそれなりに運用成績に対して責任を負ってきた。

ところが、年金基金を運用している多くの業界団体の年金運用団体については、農水省や厚労省、財務省からの天下り官僚たちが巣食っているだけに厄介である。この元官僚たちが、偉そうに、「俺に任せておけ。いい投資先を知っている」と胸を張って、モルガンスタンレーや、メリルリンチや、リーマンブラザーズや、日興コーディアル(その実態はソロモン・スミスバーニー)などの在日本社を通じで、上記のデリバティブ商品を買い込んできたのである。

そして、それらが、元本まるごと返済不能(未償還)に陥りつつあるということである。恐るべき事態である。どうやってこの元官僚たちは天下り先の年金運用団体に言い訳するつもりだろうか。「差金(さきん)決済で少なくとも元金だけは戻る」などと、言っておれるような悠長な事態ではないのだ。彼らはまだ迫り来るこの危機を自覚しないままなのではないか。

「アメリカ政府が保証してくれるはずだ」という念仏にひたすらすがり付いているのだろう。それを空(カラ)念仏という。「私が、米国の財務省や金融関係者、ヘッジファンドと深いつながりがあるから、その人脈を利用して、高利回りで運用するから任せておけ」といった感じで、“親方日の丸”のような態度で散々、投資に臨んでいたのである。数百本の住宅ローンをまとめて証券化したRMBSや、更にそれを組み込んで組み立てなおして作ったCDOに対して、GSE(米政府系の金融機関)が保証してくれている(いわゆる口約束だ)。

これまでは、実質的に米政府が元本を保証しているとされてきた。その中でも米国債よりは利回りが高かったから、ヘッジファンドや多くの金融機関が好んで運用してきたのである。日本の年金団体もこのようにして、外資系証券会社の日本法人を窓口にして積極的にそれらに投資してきた。そうした投資対象は今では軒並み格付けが大幅に引き下げられて膨大な含み損を抱えてしまっており、全く身動きがとれない状態にある。おそらく、結局、元本も全く返ってこないことになりそうである。

年金基金の元本が戻ってこないので、私たちの定年後にもらえるはずの年金ももらえなくなってしまうだろう。この厳しい現実を私たちは今のうちから直視して、官僚答弁にだまされないように、目を覚まさなければいけない。しかし、日本政府は、老人ひとり、毎月7万5000円の国民年金(基礎年金)だけは死守するつもりでいる。

しかし、全国3千万人のサラリーマンが加入している厚生年金保険や、公務員を対象としている共済年金もやがて受け取れなくなる日が来る。それは確実に私たちの将来に迫っているのである。これまでの勤続38年で70歳で、厚生年金が月額23万5千円という「満額回答」は、もう現在70歳よりも以下の日本国民には支払われないのだ。

今でも、どんどん毎年、年金額は計算され直して、減額されている。この異常事態に誰も騒ぎ出そうとしない。何故なのか。サラリーマンや公務員は年金資金を長年掛けてきたにもかかわらず、国民年金の加入者と同じ月額7万5千円(よくてその倍の15万円)しか年金を受け取れなくなるということなのだ。

こうして見ると、米国発の金融恐慌が起こることで、日本ではいかにこれまで官僚が米国に資金を貢ぎ続けることで、自分たちの権力を握り続けてきたかが白日の下にさらされることになるということだ。そしてその貢ぎ続けた資金を米国がもうすでに使い尽くしてしまったのだ。

それは米政府や、それを人事と金の力で上から操るロックフェラー財閥とその周辺の勢力だけのせいではない。一般の米国民もまた同様に、「帝国の国民」として、働きもしないで、それで好景気が続いて、豪勢な贅沢をしてきたのである。

米国民は住宅ローンや消費者ローンその他多くのローンを安易に組んで、また、それを安易に銀行が貸し付けることで、毎月、自分で稼ぐ分を上回る消費社会を謳歌してきた。すべては、クレジットカード払いである。貯蓄などする気はサラサラない。ローンを簡単に設定できるシステムにも問題があるが、一般的なアメリカ人であっても、もう最初から借金(融資金、各種のローン)を返す気などないのである。今のアメリカ人というのは、ここまで腐り果てているのである。

このことを私たちは、早く気づくべきである。そして緊急を要するこの時期において自分たちを守る方策を早く立てるべきである。そのためには、日本の各省の官僚たちに、各業界の年金運用団体が、一体、どれほどのアメリカの金融商品を買い込んで運用しているのか、そして、もうすでに実質的には、返ってこない、返済されない事態になっているものを、国民に公表するように要求すべきなのである。

ところが、電通や博報堂を通して完全にアメリカの手先に成り下がってしまっているテレビ局、大新聞では、当然のことだが、こういう大事なことを、絶対に行おうとしない。私たちは、身構えなければならない。危機は私たちに迫っているのである。日本政府(政治家たち)や官僚は、全く当てにできないことを知るべきである。だから、私たちは自分自身の金融資産を自分で自衛する道を、ひとりひとりが必死に考えなければならないのである。

米国では2000年代に入り株式を対象とするITバブルが崩壊した。その後、住宅価格が高騰したことでその資産効果から消費を盛り上げてきた。この購入した住宅の価格が更に上昇して値上がりすることだけを前提にしてローンが組まれていた。米国ではこのような、博打そのものの、毎月、働いて返済する気の全くない住宅ローンは「住宅ローンそのものがATM(自動預払機)と呼ばれていたのである。

いわば“無限の打ち出の小槌として、カネの成る木か、いつで使える便利な貯金箱 と同義語だったのである。そうやって最初から返す気がないままに借金をしまくり、立派な家やクルーザーを買いまくってきたのである。まさにこうしたアメリカ人たちは「世界帝国であることの報酬(分け前)」 Empire’s Dividend (エンパイアズ・デイビデンド)を限りなく享受してきた。

だが、こういうことばかりやりつくして、借金も返さないということが諸外国に露見してしまえば、世界覇権国としての地位をやがて喪失してゆくだろう。アメリカ国民もそれまでの特権を享受できなくなってゆくだろう。彼らは、困ったことに、どうやらその事態をすでに予想して、狡猾に構えているらしいのである。

一回でも、徳政令(棄捐令)を実施して、そのときの幕府(政府)が、自分の家来たち(武士団)が抱えた借金を、「払わなくてもいい」という、強制的な債務免除、債権放棄の政策を実施すると、そのあと、その幕府(政権)は、数十年にわたって、しっぺ返しを受けて、誰も家臣団にお金を貸す商人たちがいなくなって、その幕府(政治体制)は衰退するのである。

前から述べているように、08年11月には、バラク・オバマ民主党政権が誕生することが既に“予定”されている。この政権が志向するのは“内向き”な政策である。米国としては最終的には自分たちの国民だけを守ればいいのである。彼らは居直るだろう。アメリカが世界全体を管理する能力を喪失しつつある中で、そうした政策が推進されるであろうことは当然のことだ。

世界全体の管理を放棄して自国民だけを守ろうとするなら、これまで積み上げてきた膨大な対外的な累積債務については、当然、下落するドルの価値に合わせて、政治判断で、「ドルの切り下げ」や、「新ドル切り替え」を行うことで危機を乗り切ろうとするだろう。日本などの債権国に対しては、“徳政令”の宣言をしたうえで、ドル相場は現在の水準よりかなり低位に設定するという動きに出るだろう。中国は、その前に、多くのドル資産を売り払うだろう。彼ら中国人が、損することを分かっていて、そのまま米ドル資産を保有することはない。

米国が覇権を握る以前の覇権国だった英国(19世紀の大英帝国)は、第一次世界大戦後に、当時の新興債権大国になっていた米国の支援を受けながらも、金本位制(スターリング・ポンド体制)を再構築して世界覇権を維持しようとした。それでも192年代に入ると、もはや英国の国力の衰退は目を覆うほどになって、如何ともしがたくなっており、最初にこの金本位制から離脱してポンド相場を大幅に切り下げたのはアメリカである。

それにより、1929年10月24日の米国での株価大暴落「ブラック・サーズデー(暗黒の木曜日)」が引き起こされた。この株式暴落を契機にして、世界経済は「大恐慌」に向かっていった。1931年(昭和6年)には、英国は遂に金本位制(スターリング・ポンド体制)を停止するに至った。英国経済はこのあとの30年代を通しては、世界を管理する重圧からも開放され、比較的堅調に推移した。大幅なポンド安に助けられて、デフレ圧力が緩和されたことで、貿易収入も伸びた。

その結果、米国その他の、日本を含めた有力国による、通貨切り下げ競争による「近隣窮乏化政策」(まわりの国々が、困っても構わない。ダンピングで商品を海外で売りさばいて自国が助かればいいという政策)の推進があった。

このために、世界経済のブロック化が進んで、それは、諸国間の「自分の生き残りの優先の思想」という憎悪となって現れ、それが第二次世界大戦を誘発するにいたった。この1940年代の戦争の時代を経たうえで、次の覇権国としての実力を蓄積してきた米国が、完全にその地位を確保した。これが人類の20世紀の概観である。このことを私たちは歴史の教訓として学習すべきである

これからオバマ政権の成立とともに起こることは、世界覇権が米国から中国を中心としたアジアに徐々に20~30年ぐらいかけて移る過程での、世界的な大混乱に他ならない。それと裏腹に一時的に米国経済は内向き化(アイソレーショニズム)することで浮揚するかもしれない。

それでも中国を中心としたアジア(日本も大きな役割を果たすべきなのだが、)が世界覇権国としての地位を完全に確立するまでには相応の時間を要するのは間違いない。その過程で大きな混乱による混沌とした局面、すなわち、戦争と紛争の時代が到来するのは避けられない。人類は、70年に一度の割合で、戦争を経験してきた。

この法則が、愚かな私たちの時代に打ち破られることはないだろう。人類(人間)は、どうもそんなに優れた生物ではないようである。

ところで、現在、中国では、広東省では不動産価格が3~4割値下がりしている。それがやがて上海や北京にまで飛び火するのは時間の問題である。おそらく今後数年で、5割程度までは下げていくだろう。上海の郊外では安価な物件で100万元(1500万円ほど)であり、高価なところではその5~10倍(2億円から3億円)の物件の多くがこの数年すでに空室状態になっている。

そうした物件が“雨ざらし”状態になっており、現地の専門家はこれから3年はどうにもならないと述べている。米国と同様に今後の3年間は、中国でもバブル経済が崩壊に向かっていく。

日本もこの混乱期を経てやっと戦後を終わらせることができるのかもしれない。

日本の一番の危機は、米国の占領政策の成功によって、日本人が自らの頭で考えることを放棄したことにすべての原因がある。だから、本当に頭の良いということが、わからなくなってしまったのである。思考能力がなければ、新たな問題に対処することはできないのである。米国かぶれ、中国かぶれ、フランスかぶれ、etc、そう言った人材の時代は、過ぎ去ったのである。いまだに、日本人は思考能力から言えば、最低クラスの人間を、受験勉強の後遺症のために頭のいい人と崇めている。

一刻も早く、自分の頭で考えることを取り戻すべきである。

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