2月 272008
*原田武夫氏の鋭い分析です。 2008 2/27
「ドイツの「大脱税捜査」という裏サブプライム・ショック」
~事実関係を整理する~
日本の大手メディアでは例によってあまり大きな扱いになっていないものの、世界を今、激震させている事柄がある。それはドイツにおける「大脱税捜査」の展開だ。
事件が発覚したのは2月14日。民営化後、世界中に展開したことで一躍その名を馳せた「ドイツ・ポスト」のクラウス・ツムヴィンケルCEO(当時)が税務当局による強制捜査を受けたのである。
ツムヴィンケル氏はドイツの大学を卒業後、ウォートン・ビジネス・スクールでMBAを取得。その後、ドイツ・マッキンゼーから身を起こし、ついにはマッキンゼー本社で上位に上り詰めた経営コンサルタントの大立者である。経営コンサルタントはその「激務」が故に一生つとめられる職業ではないとよく言われるが、ツムヴィンケル氏は首尾よく成長企業であり、同時に民営化ビジネスで世界的に有名なドイツ・ポストのCEOにおさまることのできた「勝ち組」であった。しかも、マッキンゼーが米国による「構造改革」という名の“破壊ビジネス”の展開の中で占めてきた役割に照らせば、さしものドイツであってもツムヴィンケル氏のような大立者には手は出せると誰が予想しただろうか?―――しかし、「事実は小説より奇なり」、ツムヴィンケル氏の頭上には容赦なく鉄槌が下されたというわけである。
もっとも、これだけならば良くある「脱税事件」に過ぎなかったことであろう。しかし、今回の事件はまったくこれまでとは様子が異なっている。
そのことをお分かりいただくため、いくつかの事実を積み上げていくことにしよう:
●今回の脱税騒動はツムヴィンケル氏を巡る一件に限らないことをドイツ政府自身が最初から公言していること。去る2月18日からはドイツ全土で一斉に家宅捜査が行われ、大変な騒動となってきている。
●一斉捜査を行うにあたってドイツ政府が根拠としている情報が、ルクセンブルクの「公的金融機関」ともいうべき銀行LGTから盗まれたデータに基づくものであること。ドイツ政府は現在、オーストラリアに滞在していると考えられている情報提供者に対して相当な対価を支払ったと考えられている。
●この情報提供者からDVDに入力されたデータを受け取ったのが、通常の税務当局ではなく、ドイツの“CIA”に相当する連邦諜報庁(BND)であったこと。
入手されたのは2007年夏の段階であり、以後、ただちにメルケル首相、シュタインブリュック財務相にも報告されたのだという。ちなみにこの情報提供者に対しては1996年の段階で違法な不動産取引で逮捕状が出されたことがあるとの情報もある。
●富裕層をクライアントとする金融で生計を立てている感のあるリヒテンシュタインとしてはまさに面目をつぶされた形であり、徹底抗戦に出ている。ところがドイツはというと、こうしたリヒテンシュタインの反撃にひるむことなく、それどころかタックス・ヘヴンとして知られるそれ以外の欧州各国(アンドラ、ルクセンブルク、モナコ、オーストリア、スイス)にまで圧力をかけ始めている。
●こうした動きに対し、各国の税務当局も多大な関心を示し始めている。この情報提供者は既に米国の中央情報局(CIA)とも接触し、そのデータを取得した米当局も数ヶ月間にわたって検討作業を行ってきている。一部のスカンジナビア諸国は「盗品であるデータに基づく捜査はできない」としているが、その一方で英国においてもこのデータに基づく強制捜査の観測が既に出されている。
●米国では「タックス・ヘヴン乱用防止法案」が2007年に提出されている。リヒテンシュタインのLGTを経由した“脱税”疑惑は米国人についても100件ほどあるとの見方が広まっており、この法案を提出した民主党議員たちの勢いは強まるばかりである。ちなみに民主党のオバマ大統領候補(上院議員)はこうした法案に対して理解を示しているともいわれており、11月の大統領選挙の結果如何によっては米国において厳しい立法が行われる道が開かれる可能性が高い。
●もっとも、上記の情報提供者はLGTを2002年に退職しているため、脱税・マネーロンダリングのデータもそれまでの分しか無いと考えるのが自然である。しかし、今回のドイツ当局による捜査が2005年の案件など、より直近の疑惑についても行われていることから、「第2の情報提供者」がおり、また「第2に血祭りにあげられる金融機関(リヒテンシュタイン)」があるのではないかとの観測が流れ始めている。
●強制捜査はドイツ国内の著名なプライベートバンク(メッツラー(ミュンヘン)、ハウック&アウフホイザー(フランクフルト)など)、さらにはスイス最大の銀行であるUBS、そしてドイツ第2の金融機関であるドレスナー銀行にも及んでいる。そのような中、サブプライム・ショックによる巨額の損失に苦しむバイエルン州銀行は疑惑のリヒテンシュタインとの取引より全面撤退することを表明した。
<裏サブプライム・ショックとしてのリヒテンシュタイン大脱税事件>
以上のとおりFACTを積み上げれば積み上げるほど気になって仕方が無いことがいくつかある。
第一に「なぜ今、このタイミングでドイツが強制捜査に踏み切ったのか」ということ。現段階では現役の議員などは捜査リストに含まれていないようであるが、“富裕層”がターゲットである以上、そこに多く含まれる大企業幹部およびOBによる非行が糾弾されればされるほど、マーケットで当該企業の株価は下がっていくはずである。サブプライム・ショックによってドイツの金融機関も少なからぬ負の影響を受けているにもかかわらず、ドイツ政府自らがこれに追い討ちをかけるような挙に出ていることが理解し難いのである。
第二にこれまで脱税、あるいはマネーロンダリングを半ば公然と扶助することで生計を立ててきた欧州の小国がこれによって「メシの食い上げ」になる可能性が出てきているということの意味もとらえておく必要がある。しかも、ほぼ同時期の2月17日、欧州には久々に新しい国「コソヴォ」が独立国として誕生した。ロシアはバルカン半島に不安定化を招くものだとして「コソヴォ」の分断を画策している。しかし、一度独立を達成した「コソヴォ」の存在自体を消すのは容易ではない以上、今後、欧州および旧ソ連諸国では分離独立(Sezession)が現実のものとなっていく危険性がある。その一方で「メシの食い上げ」に追い詰められた小国が寄る辺を探すという展開の中で、欧州、そして旧ソ連諸国をめぐる地図は大きく変わっていく可能性が出てきているのである。
第三に「脱税」、あるいは「マネーロンダリング」という切り口でとらえた場合、事柄は容易に国境を超えることになるという点が重要だ。現在、米国発でマーケットを騒がせている「サブプライム」(あるいは証券化された金融商品全般)も、本来は”不動のもの“の典型である不動産をさまざまな技法・整理を駆使して証券化させ、”動的なもの“とし、ひいては金融マーケットの中で自由に国境を超えさせるものにまで発展させたところに特徴がある。こうした「越境容易性」という意味で、リヒテンシュタインに端を発した「大脱税事件」はサブプライム・ショックと構造を等しくしているというべきなのである。
さらに考えていくと両者にはもう一つ共通点がある。それはこれまでの金融資本主義ではそれが「常識」であったがゆえに、一定の方向での期待値が高まってきた事柄が急激に方向転換した結果生じた出来事だということである。すなわち、「サブプライム・ショック」はそもそも米国における住宅価格(不動産価格)がさらに上昇するであろうとの期待の下、次々に「サブプライム・ローン」が売買され、世界中の金融機関にその芽がまかれていったところに特徴がある。これに対し、今回の「大脱税事件」については、今度はカネをつくる場面ではなく、貯める場面においての「常識」として存続が前提とされてきた欧州の小国というタックス・ヘヴンが血祭りに挙げられてきたことを注目すべきである。つまりそこには「まさか欧州のタックス・ヘヴンがつぶれることはあるまい」との高い期待値があったということである。
カネをつくる場面における「高い期待値」と、カネを貯める場面における「高い期待値」―――サブプライム・ショックとこの大脱税事件は、金融資本主義のいわば「入り口」と「出口」でつながっている出来事なのだといっても過言ではないのではなかろうか。
そして第四にドイツ勢がこの事件の発覚と共に、どういうわけか「キャッシュ・ポジション」の維持に走っているということだ。そもそも脱税摘発は租税徴収のために行われるものである。今回の摘発による追徴額は数億ユーロの規模になるといわれている。国家としては馬鹿にならない金額なのだ。
しかし、それだけではない。最初に摘発されたのがツムヴィンケルCEO(当時)であったことから、その関連会社であり、日本でいえば「郵貯銀行」にあたる、ドイツ人たちの“貯金箱”=ポストバンクがこのタイミングでドイツの内資に買収される方向で話が急展開している。一部報道では今回の事態をきっかけとしたこうした急展開は、外資勢に虎の子のポストバンクを奪われまいとするドイツ勢の動きによるものなのだとすらされている。
キャッシュ・ポジションの高さによって勝負がつくのはデフレーションの際である。国家的な規模で急遽、「キャッシュ・ポジションの向上」に入り始めたドイツ勢が直近の国際マーケットを“デフレーションの時代」ととらえている可能性があることを考えておくべきだろう。
<金融システムの大変換は“何でもバラす”時代を意味する>
今、世界では音を立てて金融システムが変わりつつある。そしてこれに伴って、カネはいうまでもなく、ヒトも組織も信じられないほど変化しつつある。ほんの一部だけ例を挙げるならば:
●IMF(国際通貨基金)は総額で980億ドル分もの金(ゴールド)を売却する可能性が出てきている。金(ゴールド)との兌換によってその価値を保障された米ドルが、この呪縛から逃れたてから早35年ほどが経つ(ニクソン・ショック)。その後もIMFは(機関としては)世界最大の金保有者としての地位を保ってきたが、それがここに来て大きく変わることになる。大量の金売却によって金相場が大変動を余儀なくされることはいうまでもないが、その一方でその資金の使い道が問題となってくる。IMFの虎の子である「金(ゴールド)」を売り、それをマーケットに投下しなければならないような事態があるのか無いのかが焦点となる。
●3月末には米国財務省が米国における金融規制措置について包括的な改革案を提示する見込みとなってきている。仮にそこでの基本的な仕組みがこれまでの分権的なものではなく、むしろ中央集権的なものであった場合、なぜそこまでしてマーケットをめぐる権力を集中させなければならないのかが問題となってくる。―――「非常事態」という語が脳裏にちらつく。
昨年後半から始まっているのは、明らかに金融資本主義を柱とする世界全体の大変動プロセスである。これまでの「常識」が非常識となり、「非常識」が常識となっていくことは必定である。こうした流れの中でこれまで国家あるいは社会の奥底で隠蔽されてきた事どもがまたぞろ暴露され、明るみにさらされていく。
このプロセスを推し進めることにドイツ、欧州はもとより、米国までもがコミットし始めたことを私たち=日本人は必ずしも気づいていないのではないだろうか。
まさに“何でもバラす時代”の到来である。
旧来のシステムにおける「勝ち組」は必死に抵抗することであろうが、いかんせんその依って立つもの時代がある日突然、無くなってしまうのであるから空しいものである。これまでの「勝ち組」たちがもがけばもがくほど、その姿は喜劇となり、やがては悲劇となっていく。ところがそんな旧来の「勝ち組」を目指し、“安定した人生”を望む若者が日本ではますます増えつつあるように思うのは私だけだろうか。そもそもこうした大転換に気づいている日本人の大人が少ない中で彼ら若者を導かれるはずもないのであろうが、それにしても余りにもひどい状況である。このままでは取り返しのつかない事態にまで陥る危険性がある。
(私のコメント) M.Yamamoto
日本人が知らないところで、今、世界の潮流が大きく、動こうとしている。
日本は、ミルトン・フリードマン(*ウィキペディアより フリードマンは、「現実の、あるいは仮想の(perceived)危機のみが真の変化を生み出す」と主張し、福祉や累進課税などの「規制」を撤廃することは、社会危機をおいてでなければ実行できないと認識していた。反グローバリゼーションのジャーナリストであるナオミ・クラインは、チリではピノチェトのクーデターと超インフレ、ロシアではソ連崩壊という危機を、みずからの理想を実行する好機として利用したと主張して、フリードマンのこの思想を「ショック・ドクトリン」と批判している。)が主張した“新自由主義〝に基づく、英国のサッチャー、米国のレーガンが1980年代に行い、その功罪がはっきり、わかっていた経済政策を日本の国富を掠め取りたいという米国の都合だけで、「改革なくして景気回復なし」という耳障りの良いスローガンとともになすすべもなくやらされた。(バブル経済の演出、その崩壊すら、そのためだったというリチャード・ベルナーというドイツのエコノミストの(「円の支配者」の著者)説すらある。)
その金融資本主義の路線が大きく変えようとしている大事件がドイツで起きていることを原田武雄氏は指摘している。日本も竹中氏によってつくられた問題だらけの郵政民営化法案を一度、白紙に戻し、新たな郵政改革を国益=国民全体の利益のために本当は考えるべきであろう。だいぶ前にも下記のように書いたが、
『 ほんとうの事を言ってしまえば、「竹中郵政民営化法案」は、竹中郵政相の背後にいるグレン・ハバード元CEA(米大統領経済諮問委員会)委員長、ロバート・ゼーリック米国務副長官主導でまとめられたのである。今度の法案では、「三分社化」という大方針の下に、郵政株式会社という持ち株会社( ホールディング・カンパニー )を設立する。
そしてその下に、郵便貯金業務、簡易保険(郵便保険)業務、窓口ネットワーク業務、それに郵便事業を行う業務を管轄するそれぞれ四つの子会社を創設することになっている。この中でも郵便貯金銀行と郵便保険(旧称、簡保)会社の株式については2017年までに、政府保有分の株式を「必ず」全て放出して手放すことが法案第7条で義務付けられている。この点がおかしいのである。
その他に日本政府からの郵便貯金銀行や郵便保険会社への法的な規制が全て排除される条文がいくつも見られる。上記の二つの会社は、会社法(今度、慌しく商法が大改正されて「会社法」となった)が適用され、特殊法人や公社でもない、「商法会社」という純然たる一般的な事業会社にならされることがこの法案の最大のポイントである。一般の事業会社ということになってしまうと、銀行法の適用さえも除外されることになる点が大事な点なのである。これが外資の狙い目である。
そもそも、金融業というのは信用業務であり一国の経済活動の根幹的な部分であるから、銀行は商法会社と同じ民間企業と異なって国家統制による制約を受けざる得ない業界である。だから銀行業は免許事業なのである。銀行法には「銀行が自らの影響下にある事業法人(一般会社)の株式を総発行残高の5%以上を握ってはいけない」(銀行法16条の3)という条文がある。銀行法の適用を受けない商法会社とはこの点が根本的に異なる性質である。
ところが、郵政民営化法で一般的な事業会社と同じ扱いになってしまうと、米国の巨大な金融法人グループが放出された郵貯銀行と郵便保険会社の株式の大部分を取得して、その50%以上を握ると完全に子会社にできる。そうすることで経営権も握ることが可能なのである。そうすれば米国資本は、日本企業(国内資本)というダミーを使わないで経営権を取得することができる。
その上で、その郵貯や簡保の膨大な資金を海外に流出させて、たとえば米国債の更なる購入(現在、日本政府は政府発表の資料だけでも100兆円の米国債を買っている、実際は、官民あわせて600兆円買わされている。)に向かわせることがいくらでも自在にできるのである。このように日本国民の資金の保全に対する歯止めが全くないのである。だから今度の法案には、竹中郵政相を介した米国の金融ユダヤ資本のそうした狙いが込められている。』
そして、新自由主義による金融資本主義が行き着いた先がサブ・サプライムローン問題であり、今回のドイツの脱税事件、タックスヘブンの否定である。
今、あきらかにフリードマンの時代は終わろうとしている。
それなのに日本のテレビには、いまだに竹中平蔵先生や木村 剛氏が出演し、アメリカのための、時代錯誤の構造改革を一生懸命、主張している。彼らは外資の利益を計ることによって自己の利益が確保されるのでパフォーマンスしているだけであろうが、
今、日本人に必要なのは、日本の方法を取り戻すことである。そのための新しいリーダーシップである。
原田氏が指摘するようにこれからは「何でもバラす」時代の始まりである。少しずつ少しずつ、今までの大手メディアの報道に欺されていた人々も本当のことを知るようになる。
そして、旧来の時代にもてはやされていた偽りの人々が表舞台から退場していくことになるのだろう。
そう言った混乱期を経て「真(まこと)の時代」が始まるのではないだろうか。
*参考資料
「ジャパンポスト」(日本郵政会社)のサイトからからあるリストが突然削除さ れました。
(http://www.japanpost.jp/pressrelease/japanese/kani/040331j401.html)
削除された内容は下記の通りです。
1 郵便貯金資金の委託運用
(1) 投資顧問会社
【国内株式】
シュローダー投信投資顧問株式会社、大和住銀投信投資顧問株式会社、日興アセットマネジメント株式会社、三井住友アセットマネジメント株式会社、メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ株式会社、アセットマネジメント株式会社
【外国株式】
興銀第一ライフ・アセットマネジメント株式会社、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社
2 簡易生命保険資金の委託運用
(1) 投資顧問会社
【国内株式】
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社、シュローダー投信投資顧問株式会社 、大和住銀投信投資顧問株式会社、富士投信投資顧問株式会社、メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ株式会社
【外国株式】
興銀第一ライフ・アセットマネジメント株式会社、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社、大和住銀投信投資顧問株式会 社、東京海上アセットマネジメント投信株式会社、メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ株式会社
【外国債券】
興銀第一ライフ・アセットマネジメント株式会社、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社、富士投信投資顧問株式会社、三井住友アセットマネジメント株式会社 、
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