「日本経済の真相」という本を「大阪維新の会」のブレインの原 英史氏とともに政策工房という会社の代表を務める高橋洋一氏が書いている。(この会社が大阪都構想のための地方自冶法改正案の作成依頼を現在、受けていることも興味深い。)
この本は、今まで彼が言ってきたことのエッセンスを現時点でアレンジして要約したような本である。小一時間で読めるので、忙しい方にとっては、とてもおすすめの本に仕上がっている。
東大の理学部数学科を卒業している著者の論理展開は、大変明晰である。その数学的明晰さが、郵政民営化の時には、米国の年次改革要望書の通りに動く竹中氏に利用されてしまったわけだが、察するに高橋氏は無邪気に頭のいい人である。私のような頭の粗雑な人間にもこの本に書かれている主張はすべて論理が通っていることがわかる。
ただし、TPPについては、どうだろうか。先の大戦に負け、実質、米国の保護国になっている日本がアメリカと対等に交渉できるはずがない。保護国と宗主国では、対等な自由貿易はあり得ないだろう。
ともあれ、大手マスコミが垂れ流す財務省の官製報道に抵抗力・免疫を付けるには格好の本となっている。
【本書の主な構成】
◆Chapter 1◆ これが日本経済の真相だ!
円高/デフレ/不況/電力/企業不正…
◆Chapter 2◆ これが世界経済の真相だ!
TPP/ユーロ危機/QE3/中国バブル…
◆Chapter 3◆ これが国家財政の真相だ!
財政赤字/国債暴落/復興増税/格付け…
◆Chapter 4◆ これが社会保障の真相だ!
年金/税制/雇用/空洞化/格差…
◆Chapter 5◆ これが日本政治と報道の真相だ!
公務員改革/大阪都構想/地方分権/失言報道…
◆総 論◆ 2012年以降をどう生きるか?
それでは、高橋氏はどんなことを書いているのか。以下。
「もう15年以上、私は新聞をまともに読んでいない。その私がなぜ「日本経済の真相」を知っているのか?
たとえば、政府の予算。霞ヶ関の役人がつくる予算書は、2000ページほどある。
もちろん新聞記者には、こんな膨大な数字の羅列に目を通している時間はない。
マスコミがニュースソースにしているのは、「役所の側でつくった要約資料」だ。
2000ページの予算書は、50ページほどの書類(3%程度)に要約される。
その際、官僚たちに不都合な情報はすべてそぎ落とされ、ごく一部の「わかりやすい部分」だけが記者たちに手渡される。記者は、このわずか3%程度の「情報」をもとに記事を書いている。
彼等は取材内容を歪めているのではない。
むしろ、霞ヶ関が言わせようとしていることを、素直に語っているにすぎないのだ。
私は、今でもその2000ページの予算書に目を通しているし、何よりも、かつて財務官僚として、その「情報」を渡す側にいた。
だからこそ、「なぜ残り97%の情報が隠されるのか」が手に取るようにわかる。官僚達に都合の悪いことは、決してその要約には書かれない。
あなたもいつの間にか、彼等の都合のいい判断をさせられてはいないだろうか?
そのひとつが、今回の復興増税である。復興に増税など必要ない。
これが真相だ。
「マスコミの脳は『小鳥の脳』だから、これくらいの情報を食わせておけばいい」
私が霞ヶ関にいた頃には、そんなフレーズをよく耳にしたものだ。だから私は、新聞や雑誌をまともに読もうとする気になれない。」
「(俗論①)異常なまでの円高、打つ手なし
(真相①)解決は簡単。円を刷れば円安になる。
円高について、「欧州危機によって消去法的に日本が買われている」といあった説明がされることがあるが、実は、為替相場はもっとシンプルな理論で決まっている。
どういうときに円高になるか。
それは「マネタリーベース」によって説明がつく。
マネタリーベースとは、世の中に出回っているお金と、日銀当座預金残高を合計した額を指す。
簡単に言えば、「お金の量」である。このお金の量が、為替レートと大きく関係している。
大まかに言えば、日本の円の量を米国のドルの量で割ると、為替レートが計算できる。
ここでは、ざっくりした数字を使うが、日本のマネタリーベースはおおよそ130~140兆円、米ドルは2兆円で、130~140兆円を2兆ドルで割り算すると、1ドルおおよそ65~70円だ。
信じがたいだろうが、意外とシンプルなのである。
有名な投資家のジョージ・ソロスも似たような考え方で実際に投資を行っており、円の量をドルの量で割った数字を表わした図は、「ソロス・チャート」と呼ばれている。
前述のとおり、円高というのは、円が相対的にドルより少ない状態である。
2007年の世界金融危機以降、米国はドルを増やしたが、日本は円をほとんど増やしていない。
円高を是正したいのなら、円を刷って増やせばいいのだ。きわめて単純な話であり、円高の是正が難しいというのは嘘なのである。
私は内閣参事官として、小泉政権、安倍政権の経済政策を担ったが、当時の為替レートはほぼ1ドル120円だった。
政権、与党自民党内には竹中平蔵財政担当大臣や中川自民党幹事長という、よき理解者がおり、彼等の適切な発言で日銀を牽制し、金融政策を進めた結果、為替レートを120円程度に維持できたのだ。
円高になると、GDP(国内総生産)が減り、株価は下がるが、120円程度まで円が安くなると、GDPが増え、株価は上昇する。そういった関係性を理解していれば、為替を安くし、GDPを増やし、株価を上昇させることもできる。
政策次第であり、それほど難しい話ではないのだ。
安倍政権の最後の頃、日経平均株価は1万8000円程度だった。2012年1月時点の株価はおよそ8500円弱である
さらに言えば、円を安くしてGDPが増えれば、税収も増える。こうしたアプローチで財政再建することも不可能ではない。
日銀にお金を刷らせれば、円高、株価、税収といろいろな問題がいい方向に向かい、いい循環が生まれるということだ。」
以前の私の日銀に関するレポートでも指摘させていただいたように、バブルを意図的に創り出したり、それを潰したりする――そんなことを日銀と言えども、できるのかという疑問を持つ人も多いだろうが、日銀が紙幣を印刷すれば可能なのである。日銀は1986年以降の1980年代に相当大量の信用創造、つまり紙幣を印刷しているが、1990年に入るとその逆の急激な信用破壊をやり、名目GDPも急降下させている。名目GDPは、日銀の信用創造量と完全にリンクしているのである。高橋氏は当たり前のことを言っているにすぎない。
2,これが世界経済の真相だ。
俗論⑥ TPPで日本の産業はダメージを受ける
真相⑥ プラス経済効果有り。参加しないと損。
俗論⑦ ユーロ崩壊を防ぐにはギリシャを救済すべし
真相⑦ 破綻は当然。ユーロ離脱が立て直しの条件
俗論⑧ 米国QE3が日本に打撃を与える
真相⑧ 量的緩和で債券価格が下落。影響は小さい。
俗論⑨ 中国はバブル経済。崩壊まで秒読み段階
真相⑨ 中国では日本のバブルが研究されている
3,財政赤字、国債暴落、復興増税、格付け
これが国家財政の真相だ!
俗論⑩ 日本は財政赤字で破綻寸前
真相⑩ 資産は世界一、実質の借金は350兆円
俗論⑪ 日本国債がデフォルト、暴落する
真相⑪ CDSを観よ。10%の下落は十分あり得る。
俗論⑫ 復興財源の確保には増税もやむない。
真相⑫ 増税は愚策。100年国債を発行せよ。
俗論⑬ 日銀による復興債の引き受けは「禁じ手」
真相⑬ その禁じ手、実は毎年行われている。
俗論⑭ 国による産業振興で日本経済は復活する
真相⑭ 成功した「産業政策」など存在しない。
俗論⑮ 格付けの見直しは経済に影響を与える。
真相⑮ 格付けは増税の道具。分析は不十分。
4,年金、税制、雇用、空洞化、格差
これが社会保障の真相だ!
俗論⑯ 年金は破綻確実。増税で積立金を補え
真相⑯ 国民の不安が利用されている。膨大な未収あり。
俗論⑰ 雇用不安、空洞化、原因は海外の安い労働力
真相⑰ 空洞化と円高を黙認している政府の無策が根源
俗論⑱ 格差の拡大は深刻。不正受給も増加中。
真相⑱ 格差是正にまさる良策あり。まず所得底上げを。
5、公務員改革、大阪都構想、地方分権、失言報道
これが日本政治と報道の真相だ!
俗論⑲ 公務員改革、大阪都構想には高い壁。
真相⑲ 改革は大阪から始まる
俗論⑳ 決めるのは中央官庁、地方分権は絵に描いた餅
真相⑳ 地方分権なら不公平を減らせる。
俗論㉑ 新聞は有用な情報源。読めば真実がわかる
真相㉑ 新聞にも既得権益。信じすぎると目がくもる。
俗論㉒ 失言した大臣は即刻辞任すべきだ。
真相㉒ 問われるのは政策。無知な記者ほど揚げ足を取る。
その他に彼はこんなことも書いている。
・オフレコ発言はマスコミ操作の手段。
一定の役職以上になったキャリア官僚は、政治家やマスコミと接触しながら、情報を収集したり、工作することを仕事にするようになる。オフレコ報道では、「政府首脳」というのは官房長官、「政府高官」といえば官房副長官、「政府周辺」といえば首相秘書官などを指すのは暗黙の常識だ。「○○省筋」は課長や課長補佐であることが多い。
・組織のトップや会社の経営者にとって最も重要なのは、誰にどう頼むかということだ。
政治家の真の役割は、全部はできないということを自覚して信頼できる人物に任せ、
「責任は私がとる」と腹を決めることだ。小泉元総理は、「総理にできることは、解散と人事しかない」と言っていた。
・私は新聞を読まず、役所の資料などの一次情報をとっている。
普通の人がそうするのは大変だが、新聞は二次情報、三次情報であることを知っていて欲しい。たとえば、国家予算。一次情報である予算書は2,000ページにも及んで数字が羅列され、普通の人にはとても読みきれない。マスコミがニュースソースにしているのは、役所が作った50ページの要約資料だ。
・組織に忠実に仕事をしているだけでは、組織の枠から出ることは難しい。
自分の頭で考える知的な人間には、組織を出て泳ぐ力がある。
・自分が認めてもらえないと不満を言う人もいるが、チャンスは必ずある。
大事なのはそれを逃さないことである。
・チャンスを掴むためには、つねに準備し、チャンスが来たときガッと行くことだ。
私が役人のとき、よく勉強して、いろいろなアイディアを紙に書き、机の引き出しの中にしまっていた。上司がたまに「こんな問題があるな。どうかね?」といったときに、その解決策を書いた紙を出して上司を驚かせていた。
求めに対して瞬間的に対応できるのは、インパクトが強い。
・無駄になることがわかっていても、用意しておかないとチャンスは生かせない。
10発でも20発でも用意して、そのうち1発当たったら勝ちだ。分析して、考えて、それでもニーズがなかったものは山ほどある。
しかし、考えるというスキルは残り、考える力はほかにも応用できる。
だから、売り込みも絶対しない。ニーズがないときに売り込んでも意味がなく、
本当に相手が求めるときにしか価値を認めさせることはできないからだ。
・最後に、これから起こるであろうと思うことを書いておく。
希望的観測もあるので、当たるかわからない。
1.野田総理退陣、解散総選挙になる。
その理由は消費税増税法案の国会審議が行き詰るからだ。
2.ユーロが崩壊する。
その理由はギリシャが完全に破綻するからだ。
3.オバマが再選を果たす。
その理由はリーマンショック以降、FRBの積極的な金融政策によって米国経済が持ち直してきたからだ。
4.日銀法改正が政治日程にのぼる。
消費税増税法案の国会審議の過程で、デフレ・円高が日銀の責任であることがようやく認識され、政府と日銀の適切な関係を定め、インフレ目標を日銀に与えられるような日銀法改正が本格的に議論される。
上記が彼の予想だ。確かに一度、ユーロは崩壊する方向は間違いないだろう。
また、オバマが再選を果たす理由は、米国経済が持ち直すのではなく、共和党候補者が決め手に欠くからで、実質失業率20%の米国経済の持ち直しは、何度も指摘させていただいたように戦争経済しかない。
日銀法は改正されるべきだが、日銀のプリンスたちの抵抗で難しいのではないか。
<高橋洋一プロフィール>
株式会社政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授。
1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現・財務省)入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客
員研究員、内閣府参事(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官、内閣参事官(総理補佐官補)などを歴任。
2007年に財務省が隠す国民の富「霞ケ関埋蔵金」を公表し、一躍、脚光を浴びる。2008年、退官。現在は、国・地方自治体・政党など政策関係者向けの政策コンサルティング、民間企業・非営利団体向けのサポートを行なっている。
著書に『財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社)、『統計・確率思考で世の中のカラクリが分かる』(光文社新書)、『数学を知らずに経済を語るな!』(PHP研究所)など多数。
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