4月 292010
*最近売り出し中の中田安彦氏による分析です。日本の大手マスコミ報道があまりに情けない中、グローバルに俯瞰すると、この問題をどう捉えることができるかという一つの視点を与えてくれるのではないでしょうか。
また、沖縄基地の問題と言いますと、沖縄住民の米軍基地による経済恩恵の話ばかりを言う評論家がいますが、21世紀が「アジアの時代」であるとの視点に立てば、沖縄の地理的条件から言えば、これからのやり方次第では、沖縄が第二のシンガポールになる可能性もあることを指摘しておきます。また、鳩山由紀夫氏は、破格の子ども手当を貰えるお坊ちゃまですが、日本のマスコミが言うほど馬鹿なはずがありません。 もちろん、小生は、日本を真の独立自尊の国にできる真の保守政党ができることを切に願っているのですが、今は過度期なのだと考えています。 正 樹
「CIA担当官は沖縄反対集会をどう見るか?」
昨日25日、沖縄市読谷村(よみたんそん)で3万人から9万人が参加して、普天間飛行場の県外移設を求める反対集会が行われた。
今回は、アメリカの国務省、国防繰省のジャパン・デスク、CIAの担当官、米軍のアジア部門担当官がどのようにこの集会を見るだろうか、ということを分析していきたい。
まず、この反対集会について重要な点について、三つの点を挙げる。
1.「黄色」という色がキーワードになっている点
2.日本世論向けではなく海外向けに演出された集会である点。
3.鳩山首相の究極の腹案は「国内移設先」が存在しないという腹案であるという点。
以上のこの3点が非常に重要である。まず、この集会を真っ先に報じた海外のメディアは、イラン国営放送だったようだ。実はこれが非常に重要だ。イランといえば、先週末に反米、反イスラエルの軍事演習を行った国。アメリカにとって、イラク・アフガニスタン問題と同格の重要性を安全保障戦略において持っている国。北朝鮮とイラクの繋がりを米国の情報筋がしきりに取りざたすのは、イラン制裁について日本に圧力をかける目的がある。
その観点で考えると、イランが日本の基地反対運動を報じると言うことは米国の担当官に不吉な印象を与える。それは、沖縄で反米運動が勃発し、それを中国やイランなどの米にとって戦略的な対抗相手が利用するのではないかという疑念を抱かせるからである。
英米諸国は旧ソ連諸国において反ロシア的な政権を樹立するために、いわゆる「カラー・レボリューション」という政権転覆工作を、2000年代の半ばに掛けて演出した。これは明らかに英米のPR会社がお膳立てをしたり、ジョージ・ソロスのような反ロシア的な投資家が裏で動いていた。ある米雑誌ではRegime Change. INC.(政権転覆請負会社)という記事も掲載して、民主化NGOを利用した米戦略の実体を明らかにした。(http://www.tnr.com/article/regime-change-inc)
カラー・レボリューションといえば、タイの政情を巡る問題もそうだ。失脚した、特に田舎で支持があるポピュリスト政治家、タクシン首相の支持者が「赤シャツ隊」を結成し、バンコク市内のあちこちで現政権の退陣と早期の総選挙を求める動きを起こしている。対抗する国王派もカラーシャツで対抗していた。
色(シンボルカラー)というのはきわめて重要なのだ。
今回の沖縄の反対集会では、「向日葵(ひまわり)」(サン・フラワー)のシンボルカラーである黄色。沖縄の太陽(てぃだ)をイメージしたものだろう。以下に示すのは米軍機関紙の「星条旗新聞」に掲載された写真である。日本のメディアは控えめに映していた黄色を前面に出している。http://www.stripes.com/article.asp?section=104&article=69598
沖縄の反対集会を、「産経新聞」が面白い観点で報じた。それは、沖縄の仲井真弘多知事が、反対集会では「青色のかりゆし」を着用したことに注目したのである。
産経は、知事は、最初は「黄色のかりゆし」を着ていたという未確認の関係者の声を伝えている。それは、市民集会に距離を置く意図があったという分析をしている。ただ、写真を見れば分かるように、仲井真知事は、ひまわりの胸バッジは付けているし、他の参加者も全て黄色一色というわけではない。
演説も、かなり「県外移設」に軸足をおいた内容で話している。私の憶測だが、青は「沖縄の青い海(ちゅら海)」のシンボルだったのではないか。
この反対集会について、米軍機関紙「星条旗」紙は、内容をきわめて詳細に伝えている。ウェブサイトでは、写真アルバムを豊富に用意していることも見逃せないだろう。何故ならこの移設問題にもっとも関心があるのは一番の当事者である米軍だからだ。米軍にとって普天間基地はさほど価値は無くなっている。それは、すでにインターネット上で宜野湾市の伊波洋一市長が資料として米軍の環境評価文書などを独自にリークし沖縄海兵隊のグアムへの全面移転は可能としている(http://www.city.ginowan.okinawa.jp/2556/2581/2582/37840/38152.html)ほか、国民新党の下地幹男衆議院議員が、米海兵隊が一年の一定以上の期間、沖縄を離れて国外訓練していると伝えたことで分かっている。
しかも、グアム島に近いテニアン島(米自治領)までもが、移設誘致決議を行っている。グアムの市民の移設容認の割合は53%という声もある。過半数は容認しているわけだ。
つまり、米国にとって普天間基地の移設問題は実は全く大きな問題ではないのだ。
ここが肝心である。これを見誤るとすべて間違う。
その点で、保守系の桜井よしこや森本敏のような軍事外交のみを専門にする評論家は戦略的思考がまったく出来ていない。彼らの知性の低さは眼を覆うばかりであると最近思えてならない。
また、桜井は事実上の「台湾のロビイスト」だし、森本は自衛隊系の組織(隊友会、彼は元自衛官)に利害関係があるのだろう。だから、発言にバイヤスが掛かるのは当たり前でもある。
そして、新聞記者。彼らは、そもそも目の前にある事実以外は追いかけられない。長期的な時間軸で物事を見ることが出来ない猟犬のような存在だ。だから、はじめから深い報道を期待してもしょうがない。
そもそも戦略というのは軍事戦略だけではなく、もっと総合的なものだ。あのジョゼフ・ナイがソフトとハードをあわせて初めて「パワー」となりうるといっている通りである。純軍事的な観点で考えることも時には重要だが、往々の場合それは間違っている場合の方が多い。
そこで、軍事的な視点で言うならば、米軍にとって最も重要なのは、普天間飛行場ではなく、沖縄の嘉手納基地であり、横須賀や佐世保の空母寄港地である。
沖縄に海兵隊を前面展開させてソ連や中国を牽制するというのは軍事技術が発達した今、あまり必要されてはいないのだ。大事なことなのでもう一度言う。米軍にとって重要なのは嘉手納基地であって普天間飛行場ではない。
それは嘉手納基地が米軍が世界に抱える基地のなかでもっとも戦略的に重要な海外基地の一つであるからだ。
その点を、ケント・カルダー(米ジョンズホプキンス大学SAISライシャワー研究所長)は著書『米軍再編の政治学:駐留米軍の海外基地のゆくえ』(日本経済新聞社・2008年)で述べている。
ケント・カルダーによれば、米軍海外基地には5つのレベルが存在し、もっとも重要なのが「主要作戦基地(メイン・オペレーション・ベース)」であり、世界的にはドイツのラムシュタイン空軍基地や嘉手納基地がそれに該当する。重要なのはこの基地の「施設置き換えコスト」(プラント・リプレイスメント・ヴァリュー、再度建設する際に必要とされる費用)である。カルダーは、この研究書の中で、05年の段階ではPRVが46億ドルとなり、もっとも高価な米国の施設であったと述べている。 横須賀海軍基地は嘉手納に次ぐ第2位。つまり、普天間と異なり、最後まで絶対に手放せない基地であるということだ。
つまり、米の担当官にとって最悪のシナリオは、このまま沖縄の反基地運動が嘉手納基地にまで飛び火するということだ。
鳩山首相と沖縄の仲井真知事はともに、日米安保・日米同盟を支持しているが、普天間基地の問題では危険除去、過剰な沖縄への負担を与えることへの反対姿勢を示している。
そもそも、米国は日本が基地から出て行けと言えば出て行かないわけにはいかない。日本側に米軍側施設の「買い取り」などの問題が生じることになるだろうが、ともかくも米国は民主国の民意を無視できない。あまりに米国が強く出過ぎると、今まで問題になる可能性の無かった嘉手納基地や他の施設でも問題が起きるし、中国やロシアの戦略家がそれを利用して沖縄と本土の離間策を図る可能性すらある。米国にとってそれは悪夢だ。
そして、これも重要なことだが、集会に参加した宜野湾の伊波市長は、「今のところは沖縄県民は全ての基地を撤去せよと言っているわけではないが、アメリカ政府が普天間の移転先を沖縄に押しつけるつもりならば、われわれは、沖縄に現存するすべての基地を撤去するよう求める行動を起こさなければならない」と発言している。これは明らかにアメリカの足下を見ている発言だ。(この件については、「http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/04b5f990b3de639106faafeed933ecd8」が詳しく伝えている)
ここまでの話をまとめると、今回の反対運動をNYTやAFP、イラン国営放送、オーストラリアのメディアなどが報じたことは、「日本で反米運動が起こっている」という形で世界に伝わることになるのと同じである。つまり、キルギスタンなどで米軍基地のリースを巡ってロシアと米国が角をつき合わせているのと同じ風に見える。
すでに上で述べたように、米国は中央アジア戦略の一貫として、一方で親米政権を樹立するべく「カラー・レボリューション」を仕掛けてきたが、その種の工作が時にバックファイアして「ブローバック」として逆流してくることも知っている。最近のキルギスのクーデターや08年のグルジア問題はその一例だ。それに、米国は、タリバンやアルカイダといわれる自らが育てた反米イスラム主義者の「裏切り行動」によってそのことは骨身に染みているはずだ。この反米闘争をやって、ここでようやく交渉の余地が生まれる。
日本では女優沢尻エリカの離婚報道などを駆使して、自民党筋の政治家や「電通」などのPR会社などが、基地報道を押さえようとしたり、メディアが反政権報道を繰り返しているようだ。
そもそも、「酒井法子と総選挙」、「朝青龍引退と小沢不起訴」など政局になっているときは芸能関係のニュースが多い。これは偶然ではない。広告業界ではスピンといわれる一般的なやり方である。私はプロパガンダ研究の専門家だからそういうことはいつも疑っているのだ。
だから、鳩山政権としては、日本の報道機関はすでに「敵対勢力」であるから、好意的な報道官として利用することはもともとあきらめている。
そうなれば利用するのは海外の報道機関だとなる。実はこれはオバマ大統領が選挙時と就任してからしばらく使ったやり方の応用である。鳩山や小沢は最大の敵な日本メディアと見抜いている。
だから、25日の周辺直前になって、「政府関係者」や「閣僚」から日本のメディアにリークされたり、ワシントンポストの記者が週末の記事で盗用した産経の「辺野古浅瀬案」や「くい打ち方式案」の報道は、意図的に政府側が沖縄の反政権・反米感情をかき立てるために嘘をリークした可能性もあると私は疑っている。
それはとっくに死滅したはずの「くい打ち案」を沖縄のメディアも熱心に報道しているあたりで分かったことである。それらの全てを鳩山は否定した。
沖縄の反米、反政権感情を高める一方で、鳩山政権は日本の本土のいくつかの移転先候補を次々にメディアにリークしたのではなかろうか。下地島、徳之島、長崎ハウステンボスなど、全てに反対の声が上がった。こう考えると、ホワイトビーチ埋め立てやシュワブ陸上案も離島案とはレベルが違うが「当て馬」として用意された可能性はある。
これらの全てを否定させて、沖縄にも反対の声を上げさせる。その結果、5月上旬になってやはり移設先は見つからなかったということになるのだろう。
しかし、もともと現行案や浅瀬案で通す位なら、政権はこの問題を先送りするだろう。一方で、国外移設の根回しを社民党などに委託してすでに行っているとするならば、選挙が近づいたぎりぎりのところで発表する。少なくとも私が鳩山の立場であればそのようにするだろう。
その結果、場合によっては鳩山首相や閣僚がグアムやテニアンに飛ぶかもしれない。これで支持率は20%は上昇する可能性がある。
参院選では普天間解決を前面に持ってくることで自民党やみんなの党、「立ち上がれ日本」が争点化したかった、財政問題を隠蔽することも可能だ。すでに舛添新党(新党改革)は自民党敬老会のような「改革クラブ」によって占領されたことにより、支持率上昇は望めない。相対的に民主党のダメージを抑える効果がある。
このように米国の日本操作班に対する心理的な打撃を最大化するために、鳩山首相は日米基軸を維持しつつも、属国の抵抗戦略に打って出た可能性は高いと見るべきであろう。
沖縄の大田昌秀元知事の薫陶を受けた、現在の仲井真知事の「どっちつかず」の演技もなかなかのものだ。彼らは絶対に自分の本心を「一本化」はしない。常に「のりしろ」をつくっていくしたたかさを持っている。
大田元知事はもともと戦後の米国留学組、金門クラブの出身で、『沖縄の帝王 高等弁務官』(朝日文庫)という著書もある。米国の植民地、本土の植民地という二つの性格をもつ沖縄の立ち位置を一番理解している政治家だ。
その時に一番重要なのは、「まず味方からだませ」ということである。小沢一郎も、最終的には検察組織との徹底的なつぶし合いを避け、米と検察と手打ちをすることで政治的に生き残った。この際、「手打ち」に接して、鳩山・小沢政権の一番熱心な支持者(革命世代)たちは「裏切られた」という思いを一瞬は抱いたはずだ。
実はそこがきわめて重要なことで、「敵を欺くにはまず味方から行え」ということなのだ。鳩山首相が、私がすでに述べたような究極の腹案(「バカ殿戦略」)をもっているとすれば、まずはその一歩として「鳩山は頭が狂っている」、「やっぱりあいつは宇宙人だ」と日米のマスコミに信じさせければならない。しかし、検察を使った鳩山つぶしはもう出来ない。そうなれば手打ちをするしかない。
それによって、反検察、反政権のムードが高まり、結果としては当初の生き残り戦略は達成できる。政治家は生き残らなければ何も出来ない。権謀術数の世界である。それに一喜一憂するのも仕方ないが政治家はそういうギリギリの勝負をやっているのである。
同じような属国の「抵抗戦略」の一貫として、今回の沖縄の反対運動を利用したのではないか、と私は勝手に考えている。
属国が、覇権国に対してこの程度の「ブラフ」を仕掛けるのは世界的に見ても常識的なことだ。
それに結果的には普天間基地がグアムに移転されても、嘉手納基地は残るのである。米国にとってまったく悪い話ではない。沖縄の振興策と合わせて普天間跡地を有効活用し、海南島や済州島に対抗するカジノ建設、沖縄のシリコンバレー化などいろいろの政策案がこれから出てくるのかもしれない。反民主国である中国を牽制するのは、ソ連時代の「リガ・オフィス」(ラトビアのリガには冷戦時代ソ連の情報を握るオフィスがあった)のようなものを沖縄につくる構想もあるかもしれない。しかし、いずれにせよ「自立した沖縄」を一つの繁栄モデルとして示すことが出来れば、中国の行動にも影響を与えることが出来るはずである。
<参考資料>
佐藤優氏(月刊『経営塾フォーラム』2010年3月号より)
鳩山外交の計算式
永田町にも理科系出身は数多くいますが、すでに数学の論理は忘れて、永田町の掟に従っています。永田町の掟とは基本的に四則演算で、意見を集約し、足して二で割ります。例えば、沖縄県の普天間飛行場の移設問題について、民主党のマニフェストでは基地再編の見直し、日米合意では辺野古沿岸のキャンプシュワブヘの移設、08年の民主党の沖縄ビジョンと沖縄県から立候補している国会議員は県外あるいは国外への移設を主張しています。永田町の論理では、こうした三つの意見を足して三で割り、辺野古沖合への移設が妥当としています。
ところが、鳩山氏には永田町の四則演算が通用しません。鳩山氏は「日米関係の強化」を目的とした一本の目的関数の式を立てます。
この目的関数について、鳩山氏はすでにオバマ氏を説得しました。「トラスト・ミー」という言葉がそれです。この言葉には現実的な形で日米関係を最大限強化するという意味が含まれています。オバマ氏も11月14日のサントリーホールでの演説で、日米関係の再確認だけでなく、進化した深い関係を築くことに私たちは合意しましたと述べています。
鳩山氏の目的関数の中には多くの制約条件が組み込まれています。普天間基地移設問題の場合、主要な制約条件はまずネオコン・ファクター。06年に米軍再編について戦略的な絵図を描いていたのはブッシュ政権下のネオコンでしたが、いまでは、このネオコンが著しく後退しています。
二つ目の制約条件は台湾における馬英九政権の出現です。この出現により、以前までの中台関係の危機的状況が、どの程度にまで変化するのか。沖縄県にアメリカ海兵隊が駐留しているのは、台湾海峡と朝鮮半島の危機に対応するためですから、中台関係に変化があれば、目的関数にも影響があります。
三番目は朝鮮半島です。米朝国交正常化プロセスが開始されており、このプロセスにより関数の値は変化します。 (転載ここまで)。
プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「外務省ハレンチ物語」、「獄中記 (岩波現代文庫)」、「インテリジェンス人生相談 [個人編]」、「インテリジェンス人生相談 [社会編]」など。
Sorry, the comment form is closed at this time.