*今回は本の紹介です。
「本当は憲法よりも大切な~日米地位協定入門」
(前泊博盛編著 創元社)
はっきり言って日本人としては読みたくない本である。日米地位協定>日米安保条約>サンフランシスコ講和条約(日本国憲法)、この図式をいろいろな文献をあたって見事に証明し、1945年以降、私たちの住んでいる日本が米国に軍事占領され続けていることを見事に実証しているからだ。日本を愛する国民の一人としては、そんな事実を突きつけられれば、おもしろくない気分になるのは当然だろう。
ただ、不思議なのは、1960年安保、1970年安保の時にこういった本が出版されなかったことだ。(もっとも不勉強なので、見落としているのかもしれないが、)冷戦という僥倖に恵まれた時代、経済的成功を手にすることができれば、国としての安全保障上の主権の放棄も仕方がないと、時の為政者は考えて、かつての敵国であるアメリカが日本を軍事占領し続けることを容認する道を選んだのであろうか。また、官僚は官僚で、米国の後ろ盾で、政治家をコントロールできることを歓迎したのかもしれないが、しかし、そのツケを冷戦終了後、日本は、米国に払い続けている。
現在、話題になっているTPPは、その仕上げというべきものであり、実際には日本に経済主権の放棄を求めているとしか思えないものだ。考えてみれば、愛国者を自称する安倍氏が米国の圧力でその決断をしなければならないことは、あまりにも皮肉ことである。
しかし、不可思議なのは、大手新聞の世論調査で、TPP参加表明を評価するという国民が過半数を軽く超えていることだろう。「その国の国民が、その国の主権を放棄する政策に賛成しているとしたら、その国は、国民国家としての存在理由を失いつつあることになってしまう」のだが、
この原因は、本当の事を言わないマスコミと政治家が真実を言わないことにあることは確かである。その意味でも是非、読んでいただきたい本である。
この本を読むと、戦後日本体制はサンフランシスコ講和条約とともに生まれ、講和条約(憲法を含む)―日米安保―日米地位協定という「三重構造」によって形作られていることがはっきりとわかる。そして、吉田茂首相の元部下の外務事務次官で吉田茂首相と対立して罷免された、寺崎太郎氏(寺崎英成氏の兄)は、この日米地位協定の前身の日米行政協定こそ、米国の「本能寺(=本当の目的)」であったと見抜いていた慧眼の持ち主だったようだ。
一言で言うと日米地位協定とは
「はっきりした言い方で日米地位協定を定義すると、こうなります。
<アメリカが占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるためのとり決め>のである。」『日米地位協定入門』(17ページ)
多くの方は、日米地位協定というのは、「米軍兵士の日本国内に於ける地位を取り決めたもの」であり、だから、米兵が犯罪を日本国内で起こした時の裁判権をどっちが持つかという、日本で司法権が米兵に及ばないという問題のことだけの問題と勘違いしているかもしれない。
しかし、この地位協定は、米兵の地位を定めた17条(刑事裁判権)に関するもの以外に合わせて全部で28条もある。その中には、「基地の提供と返還」「基地内の合衆国の管理権」「航空・通信体型の協調」「軍隊構成員の出入国」「免許」「関税」「調達」(注:武器輸出3原則の抜け穴になっている)「経費の分担」やそれらの米軍駐留に関して日米が協議(注:命令を伝達される)する機関についての取り決めもある。
そして、このようなとりきめは他の国が結んでいる米軍駐留協定と合わせて考えても異様であるという実例が、本書では詳細に説明されている。日米安保体制が極めて特殊な同盟関係であることは、他の国の安保条約や地位協定を研究すれば簡単にわかるものようだ。
本書の構成は、次の通りである。
1: 日米地位協定って何ですか?
2: いつ、どのようにして結ばれたのですか?
3: 具体的に何が問題なのですか?
4: なぜ米軍ヘリの墜落現場を米兵が封鎖できるのですか? その法的根拠は何ですか?
5: 東京大学にオスプレイが墜落したら、どうなるのですか?
6: オスプレイはどこを飛ぶのですか? なぜ日本政府は危険な軍用機の飛行を拒否できないのですか? また、どうして住宅地で危険な低空飛行訓練ができるのですか?
7: ひどい騒音であきらかな人権侵害が起きているのに、なぜ裁判所は飛行中止の判決を出さないのですか?
8: どうして米兵が犯罪をおかしても罰せられないのですか?
9: 米軍が希望すれば、日本全国どこでも基地にできるというのは本当ですか?
10: 現在の「日米地位協定」と旧安保条約時代の「日米行政協定」は、どこがちがうのですか?
11: 同じ敗戦国のドイツやイタリア、また準戦時国家である韓国などではどうなっているのですか?
12: 米軍はなぜイラクから戦後八年で撤退したのですか?
13: フィリピンが憲法改正で米軍を撤退させたというのは本当ですか? ASEANはなぜ、米軍基地がなくても大丈夫なのですか?
14: 日米地位協定がなぜ、原発再稼働問題や検察の調書ねつ造問題と関係があるのですか?
15: 日米合同委員会って何ですか?
16: 米軍基地問題と原発問題にはどのような共通点があるのですか?
17: なぜ地位協定の問題は解決できないのですか?
PART2 「日米地位協定U.S. – Japan Status of Forces Agreementの考え方」とは何か
資料編 「日米地位協定」全文と解説
〇日米地位協定 〇日米安保条約(新) 「PART1」…「日米地位協定Q&A」(全17問)
※「PART1」は、前泊氏はじめ4人の執筆者が分担。
ところで、日本国憲法においては、98条第2項に「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と書いてある。国内法よりも上位概念が条約や国際法規ということを憲法で規定しているのだ。だから、憲法以外の国内法は条約などの下に存在することになる。
「現在の世界において超大国が他国を支配する最大の武器は、軍事力ではなく法律だからです。日本がなぜアメリカに対してこれほど従属的な立場に立たされているかというのも、条約や協定をはじめとする法的な枠組みによって、がんじがらめに縛られているからなのです。」本書90ページ
「憲法を頂点とする表の法体系の裏側で、米軍基地の問題をめぐってアメリカが日本の検察や最高裁を直接指示するという違法な権力行使が日常化してしまった。それが何度も繰り返されるうちに、やがて「アメリカの意向」をバックにした日本の官僚たちまでもが、国内法のコントロールを受けない存在になってしまいます。そのことが現在の日本社会の最大の問題となっているのです。」本書233ページ
「国際政治に関して、かなりの事情通を自認する方でも、アメリカの『圧力』はもっと間接的なものだと思っていませんでしたか? 違います。最高検察庁の陳述も、最高裁判所の判決も、非常にダイレクトな形でアメリカの国務省から指示されていたのです」(250ページ)
その具体例として米軍立川基地の問題をきっかけに、在日米軍を違憲とした「伊達判決」が、最高裁で覆った「砂川裁判」の経緯が取り上げら、解説されている。
衝撃だった記述以下。
「ダレスの補佐役だったアリンソン(のちの駐日大使)は、もし、安保条約が(実際に)署名されたら、日本側代表団の少なくともひとりは帰国後暗殺されることは確実だと語っている。(1951年7月3日)
真の独立を求める心情が日本人にあるなら、安保条約は簡単に認められるものではないということを、吉田もアメリカも知っていたのである。」本書59ページ
(三浦陽一「吉田茂とサンフランシスコ講和条約」より)
「いまから5年前に発見され、昨年も重要な発見がつづいて証明されたその秘密とは
「日本は法治国家ではない」という身も蓋もない事実です。(略)
われわれ国民は「法律」を犯せば、すぐにつかまったり、罰せられたりしています。しかし、その一方、日本では国家権力の行使を制限すべき「憲法」が、まったく機能していないのです。ですから「法治国家ではない」というのです。本書238ページ
「なにしろ米軍基地をめぐる最高裁での審理において、最高検察庁がアメリカの国務長官の指示通りの最終弁論を行ない、最高裁長官は大法廷での評議の内容を細 かく駐日アメリカ大使に報告したあげく、アメリカ国務省の考えた筋書きにそって判決を下したことが、アメリカ側の公文書によって明らかになっているので す。」本書239ページ
ここから、私たちの欺瞞の戦後史が始まったのである。誰でもこの本を読めば、現在の日本が独立国と言えないことがわかってしまうだろう。悲しいことだが、属国であるということは、すなわち「不平等条約を背負わされていること」であるということが『日米地位協定入門』を読むと本当によく分かる。それにしてもさらに不平等を背負うTPPに参加表明とは、、、
<参考資料>
【日米地位協定 入門】 天木直人・前泊博盛の対談 2013/3/5 【1:18:36】
http://www.youtube.com/watch?v=krV62aIe1_M
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