2009年 1月のレポートでもと外交官、原田武夫氏の「大転換の時代」という本から、現在の歴史的位置をどう見るかということで、下記のような参考資料を編集し、添付させていただいたが、今回の米国によるトヨタバッシング等の一連の動きを考えると間違いなくそう言った時代に入ったようである。先日、お送りした「トヨタリコール問題の裏を読む」の続編として朝倉 慶氏のレポート(2010 3/15号)「トヨタ叩きの真相を読んでいただければ、事の本質がよくおわかりになるのではないかと思われる。難しい時代を我々は生きているようである。

正  樹


*朝倉 慶氏のレポート(2010 3/15号)より


「トヨタ叩きの真相」


連日テレビや新聞をにぎわし、「これでもか」とも思えるアメリカによるトヨタ叩き。


そのあまりに峻烈な攻撃ぶりに、日本人として違和感や不自然さを感じている人も多いのではないでしょうか?


今回は、そのアメリカによる「トヨタ叩き」の真相について、朝倉さんが鋭く隠された意図を解き明かします。「なるほど、そういう理由があったのか」と腑に落ちると同時に、改めてアメリカの自己中心極まりなり策略に憤りを感じることでしょう。さらに今後のアメリカの動きには警戒の目を光らせておく必要がありそうです。


「アメリカの日本潰しが始まった」徳間書店から最近発行された、日高義樹氏の本には、今回のトヨタ叩きについて峻烈なアメリカ側の国家戦略の転換について、深刻な見方を披露しています。


現在少しは収まったとはいえ、トヨタに対してのアメリカ政府、世論の攻撃は驚くべきものでした。日々トヨタの車に親しんできた一般の日本人にとっては、本当だろうか、という疑問や懸念が頭をよぎっているものと思います。止まらないトヨタ叩きに、もちろん大きくなりすぎたトヨタという企業の問題、また常勝軍団の奢りがあった、と感じた人も多いと思いますが、一方で何か腑に落ちないアメリカ側の執拗なトヨタ攻撃に、その背後にある意図を感じる人も多かったことでしょう。



一体このトヨタショックは何だったのか? 今後の日本にどういう影響があるのか?


トヨタ叩きの本質は何なのか? 探ってみたいと思います。


アクセルペダルの不具合ということで大問題になったわけですが、問題となっている死亡事故は11年間で34件、1年当たりですと3.4件ということになります。年間のアメリカの交通事故死亡者はおよそ4.5万人と言われていますから、問題となっているトヨタの問題による事故死は死亡者の中の1万人に1人にも満たない数です。単純に考えて、もちろん死亡事故はあってはならないことですが、この程度の事故はよくある話であり、他の自動車各社であっても当然起こっている問題という気がします。フロアマットが引っ掛かるという問題もトヨタ車本体の問題でもありません。公聴会では盛んにトヨタの電子制御システムに問題があると質問されていましたが、トヨタ側はこの点ではきっぱり問題なしということを明言していました。


トヨタはアメリカにとって目の上のたんこぶだった!?


アメリカ政府のトヨタ攻撃は留まることを知らず、運輸長官は「トヨタ車は乗るな!」と過激発言、また大陪審は刑事事件として調査を開始、SEC(証券監視委員会)も調査、さらにはFBIも独禁法の調査を開始しました。さらにトヨタだけでなく系列の部品メーカー、デンソーや東海理化にまでFBIの捜査が入るというのですから尋常ではありません。明らかに何かの意図をもってトヨタに対して強い圧力がかかってきていると言うしかないでしょう。オバマ政権の一番のスポンサーは元々、全米自動車労組(UAW)であって、オバマ大統領は選挙中からかなりの献金や支援を受けてきたのです。日本円にして4億5,000万円の巨額献金もなされました。その見返りというわけではないでしょうが、GMとクライスラーには7兆円の公的資金が供給されたのです。大株主となったアメリカ国家は当然、GMとクライスラーの再生を目指します。当然目の上のたんこぶはトヨタをはじめとする日本勢です。GMもクライスラーも元を正せば日本車に潰されたようなものです。今、再生を目指すGM、クライスラーは徹底的にトヨタや日本車のシェアを奪うことで再生するしかありません。不況で失業者の溢れるアメリカにはかつてのような膨大な自動車の需要は起きてこないのです。となればどこかのシェアを奪って、自分達が浮かび上がるしかないのです。倒産直後のGMもクライスラーも当然のことながら、研究開発に多額の資金を投入するわけにはいかないのです。


トヨタ叩きの効果はすでに出てきている


通常、アメリカの再生ファンドの場合、満期は5年。いうなれば5年以内に企業を再生して再上場のメドを立てる必要があるのです。そうしなければ資金は回収できません。昨年倒産したGM、クライスラーはすでに1年経過していますので、もうこの辺で顕著な変化を見せて、再生の道筋をはっきりと示す必要があるのです。そのためにはライバルを叩き落とさなければなりません。そしてトヨタ叩きの効果は確実に出てきているのです。2月の全米の自動車販売の実績をみると、減ったのはトヨタだけで、トヨタは9%減、GMは12.7%増、クライスラーは0.5%増、そして何とフォードは43%も急増していますから明らかに効果が出てきているのです。フォードの株価はリーマンショック時には1ドルそこそこだったのに今や12ドルを超えました。何と1年ちょっとで12倍です。1月27日、オバマ大統領は一般教書演説で「5年間で輸出を倍増」というスローガンをぶち上げたのです。そしてアメリカ政府は着々と手を打ってきていると考えていいでしょう。一見すると明るい未来を目指す新たな国家戦略のように思いますが、実はやむにやまれず出てきた追いつめられたスローガンがこの5年間での輸出倍増計画なのです。振り返ってみれば、オバマ大統領はこれまでのアメリカの大統領が建国以来230年作り上げてきた財政赤字の総額よりも大きな赤字をアメリカ経済にもたらしたのです。2010年度は1.55兆ドル、2011年度は1.26兆ドル、ついに3年連続でアメリカの財政赤字は1兆ドルを超える事態となりました。いよいよ借金も限界なのです。財政出動ができないということはもう、内需には頼れないということです。経済を回復させるには、内需がだめなら輸出に頼るしかありません。ですからこの輸出倍増計画はアメリカ経済の生き残りをかけた本当の意味での国家戦略なのです。そしてなりふり構わないアメリカはついに軍事技術輸出の規制緩和にも乗り出してきているのです。


まずは手っとり早く軍事輸出で稼ぐというわけです。3月11日にオバマ大統領は米輸出入銀行の年次総会に出席して、「数百万人の米国民が失業している時に、輸出促進は短期的に欠かせないだけでなく、米国の長期的な繁栄の鍵を握る」と発言、まさに輸出立国を謳い上げたのです。そしてその一大政策の中心は当然、自動車、アメリカの機関産業の復活を目指すのです。この巨大な国家の意志に沿うためには手段は選びません。遮(さえぎ)るものは取り払うのみ。トヨタ叩き、日本メーカー叩きは重要な国家の基本方針なのです。


フランクリン・ルーズベルトが行った、アメリカ再生の本当の手法


「フランクリン・ルーズベルトのようになりたい」、アメリカでもっとも尊敬される歴代の大統領の一人はフランクリン・ルーズベルトです。そしてオバマ大統領はルーズベルトを手本にしているのです。折しもルーズベルトは大統領に就任した1932年は大不況の真っ只中でした。金融危機を克服し、ニューディール政策で雇用を作り、アメリカ経済を復活させたのです。まさに同じような大不況時に大統領に就任したオバマ大統領はルーズベルトと同じような成功を目論んで、歴史に残る大統領になりたいと思っているに違いありません。


ところがこれが日本にとっては厄介なことなのです。一般的には確かにルーズベルトはアメリカの経済を再生した英雄です。しかし報道されていることと違うことは、


実はルーズベルトはニューディール政策で経済復興に成功したわけではありません。1941年、アメリカが日本と戦争を始めた時の失業率は26%、これは大恐慌当時の25%を上回っていたのです。ルーズベルトはその大統領在任中、経済復興どころか経済の立て直しに失敗して国内に失業者が溢れていたというのが現実だったのです。当時これは世界中すべてが同じような状態だったのです。ドイツではナチスが政権を握りました。元IMF(国際通貨基金)のチーフエコノミスト、ケネス・ロゴフはその著書『今回は違う』の中で、かつてのあらゆる金融危機の後、結局は世界どの国も経済を立て直すことはできず、デフォルト(債務不履行)に陥っていった、それがまぎれもない世界の歴史であって、今回も同じことが起きるのだ、と強く主張しています。まさに歴史に残っている世界大恐慌では、あらゆる国が破綻状態に陥っていったのです。ニューディール政策が成功したなどという見方は、非常に短期的な浅い見方であって、やはり本当の意味ではケインズ政策で経済の回復には至らなかったのが真相です。


では如何にアメリカは復活したのか?


明らかに戦争です。アメリカは第二次世界大戦によってその卓越した力を見せ、経済も戦争という最大のインフレ政策によって復活を遂げたのです。そしてその戦争を巧みに仕掛けた張本人こそ、アメリカの英雄ルーズベルトなのです。今では公文書で明らかになってきましたが、ルーズベルトは真珠湾攻撃の情報を知りながらそれを黙殺し、まんまと日本に真珠湾を攻撃させ、アメリカを戦争に参入させたのです。実は日本は見事にアメリカの罠に引っ掛かってしまったのです。


ルーズベルトこそは史上最大の策士、そして結果的にアメリカを復活させた英雄なのです。しかし、日本にとってはあの悲惨な戦争に追い込んだ張本人なのです。これは私の意見というより、今では歴史的な事実です。当時の日本はABCD包囲網に中で石油や鉄鉱石といったあらゆる資源の供給を止められたのです。すべては日本を追い込み、戦争を仕掛けさせるように持っていったルーズベルトの戦略によるものでした。綺麗に罠にかかった日本人こそ知恵が足りなかったというかもしれませんが、あの状況でいったい誰が何をできたでしょうか?


大東亜共栄圏、アジア各国を植民地支配から解放して共同体を作る、という理想のもと、日本は大陸に進出していきました。もちろん美辞麗句とは違って、アジアないしは大陸を支配するという当時の軍部の野望があったことでしょう。70年経った今、何故か似たような情勢が訪れています。現在日本は低成長で経済的活路をアジアに求めています。鳩山内閣でも「東アジア共同体構想」が検討されています。小沢幹事長は議員140人も連れて中国詣でをしたのです。まさに時代はアジア、中国という風に日本国は舵を切ったかのようです。日高氏はルーズベルトを慕うオバマ大統領はかつてのルーズベルトのように日本を敵視し、今ルーズベルトと同じように日本に牙を向けてきたと述べています。トヨタ叩きを皮切りに始まる日本企業潰しは中国という巨大な市場を巡る日本とアメリカとの経済戦争のはじまりであり、アメリカは政治力を使って、日本企業を叩き潰そうとしていると言っているのです。輸出振興に舵を切ったアメリカという国家は、当然日本と利害が対立し、特に中国市場の奪い合いが始まると言っています。


そしてその構図は70年前の戦争に突入していった時とそっくりだというのです。


今年に入ってからオバマ政権はソフトムードを捨て、急激にタカ派的になってきました。中国に対しては台湾への武器供与、ダライ・ラマとオバマ大統領の会談、そしてグーグルの撤退、矢継ぎ早に強硬策を打ち出してきています。そして日本に対しては強烈なトヨタ叩きです。これらのアメリカ、オバマ政権の変化は見過ごしてはならないでしょう。何度かこのレポートでも拙著でも指摘してきましたが、アメリカはいよいよ来るべき対立の時代(経済が袋小路に陥って各国の対立が始まる)に備えて準備を始め、その方針に沿って国が動き出したと考えるべきです。


もちろん地政学的な重要な位置にある日本の重要性は意識しているとは思いますが、もはや今までのような自由にアメリカ市場で日本企業を稼がせるという流れは止まる、と冷静に判断した方がいいかもしれません。いよいよ国家のエゴがむき出しになる激しい時代の幕開けが始まるわけで、日本人も日本企業もそれ相応の覚悟が必要でしょう。トヨタの事件を「純粋なトヨタ側の落ち度」と報道されているように素直にみていては大局を見誤ることでしょう。


<*参考資料>


元外交官、原田武夫氏はこのような世界的な大きな経済危機の展開を読むには、米国、中国、ロシアといった大国の軍事計画に注目すべきだと指摘している。


以下


(1)資本主義が順調に進まなくなるのは、要するに売り手(供給)と買い手(需要)の間にギャップが出るからである。特に深刻なのが、供給が過剰になってしまう場合であり、その場合、モノが売れず大変なことになる。


(2)そこで、近現代の世界史の中で、この問題をクリアーするために行われてきたのが戦争なのだ。戦争になれば、大量のモノ(兵器、兵站)が必要になる。しかも、戦闘によって次々に消費され、消耗していくので、続々と供給することが、必要になってくる。その結果、供給過剰は、徐々に解消され、資本主義はようやく立ち行くようになる。


(3)したがって、経済的な困難が景気循環上、あらかじめ想定される場合には、それに見合った軍事計画が問題解決のために仕組まれている可能性がある。それらは予算を伴うものであるため、議会の承認がたいがい必要であり、公開情報として多数の関係文書があらかじめ積極的に明らかにされることがままある。したがって、これを事前に入手することができれば、まさにマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を先読みすることができるというわけである。


また、原田氏は、現在と1929年の大恐慌前後の歴史の類似性を指摘している。


以下


History repeat itself



*日本・朝鮮・中国・台湾を含む極東における有事も充分に考えられることを忘れては、ならないだろう。

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