2月 242010
*前回のレポートの追加資料です。
この辣腕弁護士のインタビューをよく読み、その文脈を読み解いていけば、今回の事件で米国の意図しているところが浮かび上がってくる。すなわち、トヨタ本社への米国人の経営参加、その先はトヨタ本社の米国人による経営権の掌握であろう。 正 樹
*ダイヤモンドオンラインより
2010年02月24日
トヨタを百回提訴した辣腕弁護士が警告
「これは理不尽なバッシングに非ず! 米国人はトヨタに狼少年を見た」
~すでに大量のリコール(回収・無償修理)を実施し、各種改善策を実行しているにもかかわらず、米国のトヨタ批判は日々、エスカレートするばかりだ。2月22日には、連邦大陪審からトヨタに召喚状が届いていたことも明らかとなり、今回のリコール問題が刑事事件として処理される可能性すら出てきた。米国人はいったいトヨタの“何”を問題視し、かくも激しい怒りに身を震わせているのか。どうすれば、米国の怒りは収まるのか。世界で誰よりも多くトヨタを提訴してきた米テキサス州ダラス在住の辣腕弁護士、トッド・トレーシー氏に聞いた。読者諸賢には、理不尽に聞こえる答えもあるだろうが、これがトヨタが米国で直面している“現実”である。~
(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)
トッド・トレーシー(Todd Tracy)
自動車の安全問題などを専門とする米テキサス州ダラス在住の弁護士。過去20年間で、国内外の自動車メーカーや部品メーカーを相手に起こした訴訟の数は2200件を超える。対トヨタ訴訟の数は世界一といわれ、自動車業界で最も怖れられている弁護士の一人だ
―トヨタを最初に提訴したのはいつか覚えているか。
22年前だ。
―それ以来何回トヨタを提訴したか。
100回ほどだ。多くのケースで和解したため、一般には知られていないが、対トヨタの訴訟数では世界一だ。トヨタもそのことは証明できると思う。
また、何回も打ち負かされてきたが、私は過去6年間でトヨタに一回勝訴した唯一の弁護士だ。
―トヨタを提訴する頻度は多くなっているか。
毎年増えているが、それはトヨタの市場シェアが伸び、トヨタが販売している自動車のタイプが増えたからだ。例えば、SUV、ライトトラック、ミニバンの販売数は増えているが、(トヨタ車に限らず)、こういう車は横転しやすく、横転すると、ルーフがつぶれる場合が多い。トヨタを含めた、どの自動車メーカーについても言えるが、我々が扱っているケース(訴訟案件)の50%は、横転のケースだ。
―今トヨタに対して抱えている訴訟の数は?
16だ。扱っている案件の半分以上は、死亡事故に関連するものだ。(ポリシーとして)死亡事故か重傷事故でないと扱わない。(現時点でも)我々は世界の誰よりも対トヨタ訴訟を抱えていると思う。
―ラルフ・ネイダーのようだ(*1960年にGMを相手に裁判を起こすなど、自動車業界との戦いで知られる米国の弁護士・消費者運動家)。
トヨタは、我々が訴訟にかかわると、トヨタを裁判にかけることを怖がっていないことを知っている。我々はすべての自動車メーカーを相手に提訴するからだ。
―他の自動車メーカーと比べて、トヨタに対する訴訟は増加しているのか。
まさかと思うだろうが、あれだけトヨタは車を売っているのに、とても一番には程遠い。(訴訟数は)明らかにGM、フォード、クライスラー、ホンダの方がトヨタよりも多い。
―表面上は、トヨタは悪いニュースを隠していたかのように見える。トヨタはなぜ最近になって、大きくよろめき始めたと思うか。
いくつかの説明ができるだろう。まず3~4年前、トヨタはついに自分たちがGMを追い越して世界最大の自動車メーカーになることに気付いた。トヨタはその目的を早く達成しようと慌てたと思う。そうしようとするときに、安全、品質にかかわる部分で、少し手を抜いたのではないか。というのも、今問題になっている車のほとんどは2007年かそれ以降(のモデル)だからだ。2005年のアバロンもあるが、リコールの対象になっているのはそのほとんどが2007年かそれ以降のモデルだ。トヨタが焦ったことを示唆しているように私には見える。それが第一の理由だ。
二つ目は、どの自動車メーカーもある時点で必ず問題にぶつかるということだ。GMには(かつて)トラックが燃えるケースがあった。フォードにはピント、ブロンコII、エクスプローラーの問題があった。クライスラーにはジープの問題があった。日産にはクエスト・バンの問題があった。トヨタにとっては、今がこれまでで最大の問題だろう。
ただ、ホンダも今、大きな問題に直面していることを忘れてはいけない。エアバッグの問題で計約100万台のリコールを実施している。この種の問題から無縁でいられる自動車メーカーはない。たまたま他のどこよりもトヨタの問題は長期化しているということだ。
―トヨタ批判の背後には、反日感情があると思うか?
絶対にない。なぜかというと、これは3、4か月前に始まったことではないからだ。米国の消費者がNHTSA(米運輸省道路交通安全局)に、トヨタ車の意図しない突然の加速の疑いについて苦情を寄せ始めたのは2003年にさかのぼる。NHTSAでは、それを受けて9つの欠陥調査を開始している。
したがって、クライスラーとGMの倒産への反発で、トヨタが八つ当たりされているかもしれないという見方が間違いであることも分かっていただけるだろう。なぜなら、この突然の加速に関する苦情は、GMとクライスラーが年間何十億ドルと儲けている2003年に始まったものだからだ。
今アメリカ人が怒っているのは、トヨタはみんなに本当のことを言ってないように聞こえるからだ。そのことが米国民を怒らせている。何か言うと、その1週間後には前と矛盾したことを言うからだ。狼少年に例えると、「狼が来た」と何回も言いすぎた。加速問題についてはフロアマットだけの問題だと言っていたが、それがブレーキ・ペダルの問題でもあることが分かり、それからプリウスには何の問題もないと言ったら、そのあとに何ということか、問題が出てきた。こうやって信用を失いつつある。
―トヨタの企業風土が問題を予想以上に長引かせているという論調が強まっているが、あなたはどう思うか。
私もそう思う。私は日本企業を随分前から相手にしてきた。日本文化は非常に誇り高き文化だが、非常に閉鎖的だ。さらに、トヨタの上層部の経営陣が我々の法制度やNHTSAに関して、かなり不信感を持っている感じがする。そもそも今回の件でNHTSAの関係者が日本まで飛んでいくということは前代未聞の出来事だ。Toyota Motor Sales(TMS、米国トヨタ自動車販売)やToyota Motor Engineering & Manufacturing North America(TEMA、北米研究開発・製造統括会社)の上層部にはアメリカ人の幹部がいるが、Toyota Motor Corporation(トヨタ自動車)には一人もいない。それは問題である。
もしトヨタが世界経済においてグローバル・リーダーになりたいのなら、トヨタ自動車本体の役員にアメリカ人かオーストラリア人、あるいはヨーロッパの人を入れるべきだ。設計やエンジニアリング上の意思決定を外国人にもやらせるべきだ。そういう意思決定のプロセスを世界に開放しないといけない。そこまで閉鎖的であってはいけない。
―トヨタは米国で昨年夏場に実施されたCash for Clunkers(中古車買い替え補助金)プログラムでかなり儲けたと思うか。
それは儲けただろう。その当時多くの人が経営破綻後のクライスラーやGMの車を買うことに警戒心を持っていたことを忘れてはならない。
フォードとトヨタとホンダは、本当に儲けたと思う。
―今のアメリカではトヨタに対して、一般的にどんな雰囲気か。反感か同情か。
今トヨタが直面しているのは信用問題だ。繰り返すが、あまりにも矛盾することを言い過ぎたからだ。会社の上層部は中層部や下層部が知っていることを知らないようにすら見える。この問題は半年前にトヨタのレーダースクリーンに急に持ち上がったものではない。10年近くも前に分かっていた問題だ。
―でもトヨタは特に何もしなかったと?
何もしなかっただけでなく、NHTSAに対して何の問題もないと説得した。(その後問題が次から次へと明るみに出て)、信頼性の崩壊が生じた。
―信頼を取り戻すのに何年もかかると思うか。
トヨタ(のこの問題)が、新聞の一面やニュースから消えることは近い将来にはないと思う。リコールはもっと広がるだろう。最後はNHTSAがやってきて、これはペダルに関するメカニカルな問題以上の問題だと思うと言われるのではないか。
最後は他の車でも、ブレーキ・ペダルに関連する違う問題が浮上し、電子系統、ソフトの問題も関係してくるのではないか。そうなれば、影響を受ける車は1500万台になるだろう。
―では、トヨタは今、何をなすべきだというのか。
今彼らは大出血している状態だが、それをバンドエイドでおさえようとしている。大出血しているときは、手術して縫って傷を閉じなければならない。
もし、電子系統やソフトの問題があれば、トヨタはそれを明らかにしなければならない。影響を受けている車をすべてリコールして、短期間で悪評をメディアから消さないといけない。そして昔のように本業に専念しないといけない。
ものの見方も変えないといけない。つまり企業風土を変えなければならない。まず安全を第一に置かないといけない。安全は我々にとって重要であると口で言うだけではだめだ。1日に24時間、週に7日、年に365日証明しなければならない。真剣であることをみんなに証明しなければならない。
LS 460やLX 570に搭載されているハイテクのブレーキ技術は、これまでは他の車種には使われてこなかった。これからは、すべての車種にそうした安全技術を採用する必要がある。10万ドルの車にそうした安全システムをつけるのなら、2万5000ドルの車にもつける必要がある。10万ドルの車が買えないからと言って、あなたや家族が重傷や死亡のリスクにさらされるべきではない。だからトヨタはそういう印象、つまり安全を第一に考えている印象をもう一度作り直さなければならない。
また、トヨタは、変化を求めて外部の人をもっと入れるべきである。さらに、繰り返しになるが、アメリカの法制度や安全を監視している様々な政府機関に不信感を抱くのをやめることだ。
<聞き手プロフィール>
大野和基(おおの かずもと)
1955年兵庫県西宮市生まれ。東京外語大英米学科卒業後、1979~1997年在米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。著書『代理出産 生殖ビジネスと命の尊厳』(集英社)など。
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