*前回、ご紹介した東京工業大学の丸山茂徳教授のデマンド放送です。

是非、ご試聴下さい。                      正 樹



http://www.youtube.com/watch?v=h6xFe6lXu1Y



<参考資料>

「地球温暖化のエセ科学」

2007年2月20日  田中 宇



2月2日、国連の「気候変動に関する国際パネル」(IPCC)が、地球温暖化に関する4回目の、6年ぶりにまとめた報告書の要約版「Summary for Policy Makers」を発表した。

この概要版報告書は、海面上昇や氷雪の溶け方などから考えて、地球が温暖化しているのは「疑問の余地のないこと」(”unequivocal”、5ページ目)であり、今後2100年までの間に、最大で、世界の平均海面は59センチ上昇し、世界の平均気温は4度上がると予測している。(13ページ、6種類の予測の中の一つであるA1Flシナリオ)また、過去50年間の温暖化の原因が、自動車利用など人類の行為であるという確率は、前回(2001年)の報告書では66%以上を示す「likely」だったのが、今回は90%以上を示す「very likely」に上がった。確率の上昇は、実際の気候変動をシミュレーションするプログラムがバージョンアップされて信頼性が高くなったからだという。

この概要版報告書の発表を受け、世界の多くの新聞が「二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を急いで規制しないと大変なことになるということが、これで確定した」「温暖化について議論する時期は終わった。これからは行動する時期だ」「まだ議論に決着がついていないという奴らは、ホロコースト否定論者と同罪だ」といった感じの記事を流した。



三位一体で温暖化問題は完璧?



IPCCの発表とほぼ同時期に、地球温暖化問題を以前から推進してきたアル・ゴア元副大統領が出演した映画「An Inconvenient Truth」(不都合な真実)の宣伝が開始された。この映画では、地球温暖化によって世界の海面が6メートル上昇し、低地にあるフロリダやオランダや上海が洪水に見舞われる光景が描かれている。

これらの動きより数カ月前の昨年10月末には、イギリスの経済学者ニコラス・スターン卿が、英政府を代表して、地球温暖化への経済的な対策を提案する論文「スターン報告書」を発表している。この報告書は、地球温暖化による海面上昇が世界各地で大洪水を発生させて2億人が家を失い、温暖化の影響で干ばつになり発展途上国の飢餓がひどくなるなど、温暖化を放置することは、世界経済を毎年少なくとも5%ずつ破壊する悪影響をもたらすと分析している。

スターンは、対策として毎年、世界経済の1%にあたる資金を、温室効果ガスの排出削減など温暖化対策の技術開発にあてるとともに、ガスの排出権を売り買いできる世界的な取引市場を創設すべきだと提案している。

2月2日のIPCCの概要報告書は、地球温暖化問題に「科学的な根拠」を与えた。前後して宣伝開始されたゴアの映画は、温暖化がいかに深刻な問題かという「イメージ」を誰にでも分かる形で提示した。そして昨年10月のスターン報告書は、温暖化を回避するための「対策」を経済的に提案している。これらの三つの「三位一体」が正しいなら、もう温暖化問題は原因から解決方法まで分かったことになる。

地球温暖化を以前から問題にしてきたアル・ゴアと、もう一人のカナダ人の活動家に、ノーベル平和賞を与えるべきだという主張も出てきた。

最低でも毎年5%のマイナスになる深刻な温暖化問題を、わずか毎年1%の開発費で解決できるなら、安いものだ、という「結論」が見えてくる。これに反対する者、いまだに「温暖化の原因は、まだ特定されていない」などと言っている者は、石油会社の回し者であり「人類の敵」だ、温暖化への疑問視を許すな、という考え方が生まれてくる。「不確定な部分はあるが、温暖化は間違いない」として、懐疑的な者たちを黙らせ、世界中の政府に温暖化対策をとらせることが「運動」の目的になる。

だがしかし、この運動を裏づけるはずの「三位一体」は、実はいずれも正しくない。



海面はそれほど上昇しない



世界のマスコミでは、今回のIPCCの概要報告書は、人類が排出する二酸化炭素などのせいで温暖化がひどくなっているという仮説について、前回2001年の報告書よりも、より確定的な根拠を示していると報じられている。

だが実は、今回の報告書は、温暖化について最重要の点である海水面の上昇予測について、前回よりもひどさの少ない分析をしている。デンマークの著名な学者であるビヨルン・ロンボルグ(Bjorn Lomborg)によると、2100年までの約100年間の海水面上昇の予測値の平均値は、前回の報告書では48・5センチだったが、今回は38・5センチに減っている。

ロンボルグによると、海面上昇率の予測値は、1980年代にアメリカ政府の環境保護局は「2100年までに海面は数メートル上昇する」と予測していたが、その後IPCCが90年代に「67センチ」と予測し、2001年には48・5センチ、そして今回は38・5センチになった。予測値は、だんだん少なくなっている、つまり海面上昇による危険は、年とともに減っている。海水面は20世紀中に、人類が問題にしない間に20センチほど上昇している。今後あと40センチ上昇したとしても、大した問題ではない。

ゴアの映画の前提である「6メートルの海面上昇」は、80年代の古い数字をあえて今も使うことで成り立っている。今では否定されている昔の数字を使わないと、扇動的な内容に仕立てられないのである。

今年1月、ゴアは、映画の宣伝でデンマークを訪問したとき、ロンボルグと公開対談する予定になっていた。だがゴアは対談の直前、ロンボルグはゴアの意見に反対だという理由で、対談をキャンセルしてしまった。



学者の良心を悪用するIPCC事務局



今後の気温上昇や、寒波や熱波の予測回数など、海面上昇以外の分野の予測値は、前回と今回の報告書で、大体同じ数値となっている。

その一方で、温室効果ガスとして二酸化炭素と並んで悪者扱いされている大気中のメタンの量は、1990年初め以来増えていないことが、今回の報告書に記されている(4ページ)。メタンは、家畜の増加や水田の拡大によって増えるとされる。ほとんど温室効果ガスだけで温暖化を語っているIPCCの説に基づくなら、メタンの増加が止まることは、温暖化を緩和する方向の現象である。

温暖化で世界中の氷が溶けているかのような話になっているが、北極圏の氷は溶けているものの、南極圏(南氷洋)の氷は1978年から現在までの間に8%増えている。世界の温度を最も正確に計っているのは、アメリカの気象衛星だが、その測定値は、99年以来、上下はあるものの、全体としての平均温度の傾向はほとんど横ばいである。

測定された世界の海洋の温度の平均値は03年以来下がっているが、これも温暖化とは逆方向である。海洋の温度が下がると、理論的にはハリケーンや台風が減る方向になる。最近は台風が多いとか、今年は暖冬だからという直観で「温暖化は間違いない」と軽信するのは、やめた方が良い。

これらのことがあるにもかかわらず、前回の報告書ではまだ議論の余地があるとされた温暖化の傾向や二酸化炭素排出との関係が、今回の報告書で「議論の余地がない」と断定された背景には、政治的な圧力があるとロンボルグは指摘している。

IPCCには130カ国の2500人の科学者が参加している。ほとんどの学者は、政治的に中立な立場で、純粋に科学的な根拠のみで温暖化を論じようとしている。しかし、ロンボルグによると、問題はIPCCの事務局にある。事務局の中に、温暖化をことさら誇張し、二酸化炭素など人類の排出物が温暖化の原因であるという話を反論不能な「真実」にしてしまおうと画策する「政治活動家」がいて、彼らが(イギリスなどの)政治家と一緒に、議論の結果を歪曲して発表している。



5月発表の本文は、2月発表の概要版と正反対



2月2日にIPCCが発表したのは、報告書の概要版である。報告書の全文(本文)は、5月に発表される予定になっているが、公開前の本文の草稿を読んだ学者によると、本文ではいくつかの重要な点で、以前のIPCCの温暖化の予測が破棄されている。サッチャー政権の顧問をしていたイギリスの学者モンクトン卿(Christopher Monckton)は草稿を読んだ一人だが、彼によると今年の報告書の本文では「温暖化の原因は人類が作った」とする説の根拠である「産業革命以来の急速な温暖化」について、2001年の報告書は33%以上の度合いで誇張していたことが指摘されているという。

IPCCは、90年、95年、01年と、後の報告書になるほど温暖化を深刻に描いているが、その方向は、07年の報告書の本文では初めて逆転し、深刻さを軽減する方向になっているということだ。それなのに、2月に発表された報告書の概要版では、5月発表予定の本文とは全く逆に、温暖化は以前に考えていたよりはるかに深刻だ、という方向性になっている。これは、ほとんど詐欺である。

IPCCの報告書で以前は強く主張されていたことが破棄されている例は、今回の概要版にも表れている。2001年の報告書では、温暖化を決定づける理論として「ホッケーの棒理論」が使われていた。「地球は産業革命以来、急に温暖化するようになった(だから犯人は人類だ)」と主張するこの理論は、二酸化炭素排出規制を求める先進国の政府と市民による運動の、最大の理論的よりどころになってきた。しかし、2001年の報告書の重要点の一つだったこの理論は、今回の報告書の概要版からは、きれいさっぱり消えている。

実はホッケーの棒理論は、世界の学者の間では非常に評判が悪く「都合の良い過去のデータだけを寄せ集めて、歴史的な世界の温度変化だと強弁している」と批判されていた。専門家の間では、未来の温度予測はおろか、過去の歴史的な温度変化についても、まだ議論百出の状態なのである。「もはや温暖化は疑いの余地がない」という結論は、政治的な意図に基づいてIPCCの事務局が、他の学者たちの科学的誠実さを無にして暴走した結果のエセ科学である。

IPCCの報告書で問題にすべきもう一つの根本的なことは、コンピューターのシミュレーションプログラムを絶対視してしまっていることである。気候のメカニズムは非常に複雑で不確定要素が大きく、人類が分かっていないことも多い。分かっていないことを適当にシミュレーションに置き換える際に、政治的な思惑が入ってくる可能性は十分にある。

プログラムがバージョンアップされても、信頼性が上がるどころか、逆に政治的な思惑がより大きく入り込むケースは、米政府で盗聴を担当するNSAが、マイクロソフトの新しいウインドウズであるビスタの開発に入り込んでいたことに象徴されている。



無視されてきた太陽黒点説



IPCCの報告書では、温暖化の原因は、二酸化炭素など温室効果ガスの増加に集約されており、他の原因については少ししか議論されていない。だが、最近の研究で、実は二酸化炭素よりも太陽黒点の活動の方が、温暖化に関係しているのではないかという説が有力になっている。

これはデンマークの学者ヘンリク・スベンスマルク(Henrik Svensmark)らが10年以上前から研究しているもので、以下のような説である。宇宙は、星の爆発などによって作られる微粒子(荷電粒子)で満ちており、微粒子は地球にも常にふりそそぎ「宇宙線」として知られている。大気圏にふりそそぐ宇宙線の微粒子には、その周りにある水蒸気がくっついてきて水滴になり、雲をつくる。ふりそそぐ宇宙線が多いほど、大気圏の雲は多くなる。(ほかに雲の水滴の核になるものとして、地上から舞い上がった塵の微粒子がある)

太陽は、黒点活動が活発になると、電磁波(太陽風)を多く放出し、電磁波は宇宙線を蹴散らすので、地球にふりそそぐ宇宙線が減る。宇宙線が減ると、雲の発生が抑えられ、晴れの天気が多くなり、地球は温暖化する。逆に太陽黒点が減ると、ふりそそぐ宇宙線の量が増え、雲が増えて太陽光線がさえぎられ、地球は寒冷化する。世界史を見ると、太陽黒点が特に少なかった1650年からの50年間に、地球は小さな氷河期になり、ロンドンやパリで厳しい寒さが記録されている。

IPCCでは「20世紀は、地球の工業化で増えた二酸化炭素によって温暖化した」という説が有力だが、スベンスマルクの説だと、20世紀は太陽黒点が多い時期で、宇宙線が少なく、雲の発生が少なかったので、温暖化の傾向になったのだとされる。雲を研究している学者の多くは従来、宇宙線の多寡は雲のできかたに関係ないと主張しており、スベンスマルクの説は否定されていたが、スベンスマルクらは2005年の実験で、宇宙線が水蒸気を巻き込んで水滴をつくることを証明した。

実験は成功したものの、おそらく温暖化の二酸化炭素説が政治的な絶対性を持っていたため、地球温暖化の定説をくつがえす内容を持っていたスベンスマルクらの実験結果の論文の掲載は、権威ある科学の専門雑誌からことごとく断られ、ようやく昨年末になって、イギリスの王立研究所の会報に掲載され、遅まきながら権威づけを得ることができた。だが、IPCCの報告書は、いまだにこの新説を無視している。

また、この説とは別に、人類が自動車や火力発電所を使うことは、大気中に塵を多く排出することになるので、それを核にして水滴が集まりやすく、雲が増えるはずなので、火の利用は温暖化ではなく寒冷化の原因になっているはずだ、という有力な説も何年も前から存在している。だがこの説も、以前からIPCCには無視されている。

二酸化炭素が温室効果をもたらすことは、多分事実だが、温暖化には他の要因もあるというのも、多分事実である。今の世界の温暖化問題の議論は、多数の要因の中の一つしか見ず、他の要因を政治的に排除して成り立っている。このまま世界各国で温室効果ガスの排出規制が採られることは、温暖化防止にならず、逆に温暖化促進や、寒冷化促進につながる懸念さえある。

なぜ、温暖化問題はエセ科学が主流になっているのか。誰がそれを企図しているのか。それは、次回の記事で考察するが、かいつまんでいうと「イギリスを中心とする先進国が、発展途上国の成長率の一部をくすねるために考えついたのが、地球温暖化問題である」というのが私の分析である。この分析は、すでに一昨年に書いた2本の記事で展開しているので、早く知りたい人は、とりあえず「欧米中心の世界は終わる?」と「地球温暖化問題の歪曲」を読んでいただきたい。

イギリスのブレア首相が世界で最も強く温暖化対策を推進しているが、ブレアの任期は4月末で終わる。IPCCが温暖化対策の必要性を誇張した要約版を2月に出し、実は対策の必要性が低いことを述べた本文は5月に出すのは、ブレアが自分の任期中に何とかして京都議定書に代わる温暖化対策の国際的な取り決めをまとめたいと考えており、そのために歪曲を強めて急いでいるのだと考えられる。

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