「本当に丁寧に説明すれば、ほとんどの人が賛成しない」というある意味、国民国家主権を放棄する取り決めがTPP(環太平洋経済連携協定)である。 

かつてブレンジスキー元大統領補佐官は今から20年以上前に「アウト・オブ・コントロール」という自著の中で次のようなことを書いている。

アウトオブコントロール

「日本は軍事大国化が世界からの孤立に繋がることを認識している。日本のリーダーたちは、それよりも同盟国で最強の米国と密接に関係を保ち、米国の主導のもとにパートーナー・シップを築くことが望ましい姿だと考えている。その先には太平洋をはさんだ日米コミュニティ=アメリッポンが見える。」 *「アウト・オブ・コントロール」より抜粋

 

この言葉は、もちろん戦後、半世紀にわたって外国軍(米軍)が駐留している国は、君主論で有名なマキャベリーの言葉を引用するまでもなく、政治的にはその属国だが、経済的にもアメリカの完全な属国であるアメリッポンを作ろうとしている大胆不敵な米国の戦略を意味している。戦後、宗主国であるアメリカは、日本の教育をコントロールして日本の優秀な官僚たちを親米、従米に育て上げる見事な仕組みを創り上げてきた。彼らが選挙活動で忙しくて勉強する時間も、その気もない政治家たちを振り付けして、今回の大筋合意に漕ぎ着けたわけである。しかしながら、国民国家のエリート(ベスト・アンド・ブライテスト)を自称する人々が自国の国益(国民全体の利益)より宗主国の利益、自己の権益を優先するようでは、その国の将来は、推して知るべし、であろう。しかしながら、何人もアメリカの覇権衰退という大きな歴史の流れの必然には逆らえないことも忘れてはならない。

 

 それでは、今から4年前TPPについて解説させていただいたレポートから抜粋させていただく。以下。

 

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)は、マスコミ等で宣伝されているような開国政策ではなく、全く逆の現代の集団鎖国政策、米国によるブロック経済、囲い込み政策であり、自由貿易に逆行する政策である。

TPPなどで関税を撤廃すれば参加国内の貿易は促進されるが、他地域との貿易で関税を引き上げなくても相対的に障壁を高める結果となり、逆に保護貿易を招く可能性も高い。

1929年の世界大恐慌後も、特定地域間で経済圏を形成し、その中で貿易を拡大して景気回復を図るブロック経済の動きがみられた。当時の経済協定は宗主国と植民地及び周辺国との間で締結された。代表的な例が当時覇権国のイギリスを中心に1932年に成立したオタワ協定である。これは英連邦国間で特恵関税制度を導入し、連邦外の国との貿易には高関税を課すもので、スターリング・ブロックと呼ばれる閉鎖的な経済圏が形成された。これによりイギリスの対英連邦国の貿易比率は拡大した。米国も関税を大幅に引き上げるスムート・ホーリー法や中南米諸国との経済協定を締結した。一方で植民地の少なかった日本やドイツは、経済圏の拡大を目指して満州や中欧への進出を強め、第二次大戦につながっていった。

tpp 参加国1

TPP参加国?

 *世界最大の債権国である日本にはアメリカだけでなく、中国からのアプローチも当然ある。 

 

(以下引用)

「アジア共同体や海洋協力を 日中友好委で唐氏が提唱2011.10.23 18:17 産経新聞

 

 日中両国の有識者でつくる「新日中友好21世紀委員会」の第3回会合の開幕式が23日、北京の釣魚台迎賓館であった。中国側座長の唐家(=王へんに旋)元国務委員は基調講演で、東アジア共同体の構築を視野に、自由貿易協定(FTA)の推進や海洋上の協力体制の創設を提唱した。

 唐氏は「アジアの大国として協調と協力を深め、多くの利益の接点を探さなければいけない」と日中がアジア一体化に努力すべきだと強調。日中韓FTAや東アジア貿易圏の創設などを提案した。

 また、唐氏は沖縄県・尖閣諸島や東シナ海ガス田の問題などを念頭に、海上危機管理メカニズムの必要性を強調、西太平洋における海洋環境調査やシーレーン(海上交通路)の安全確保も日中合同で実施するように求めた。(共同)(引用終わり)

 

下記にあるように米国のエリート自身がアメリカにすでにリーダーシップがないことを認めている。であるならば、本来、日本は純粋に経済的損得だけを考えてこの問題を考えるべきである。(以下引用)

 

金融危機が出現させたGゼロの世界――主導国なき世界経済は相互依存からゼロサムへ

A G-Zero World

――The New Economic Club Will Produce Conflict, Not Cooperation

イアン・ブレマー ユーラシア・グループ会長 

ノリエル・ルービニニューヨーク大学教授 

フォーリン・アフェアーズ リポート 20113月号

 

市場経済、自由貿易、資本の移動に適した安全な環境を作りだすことを覇権国が担ってきた時代はすでに終わっている。アメリカの国際的影響力が低下し、先進国と途上国、さらにはアメリカとヨーロッパ間の政策をめぐる対立によって、世界が国際的リーダーシップを必要としているまさにそのときに、リーダーシップの空白が生じている。われわれは、Gゼロの時代に足を踏み入れている。金融危機をきっかけに、さまざまな国際問題が噴出し、経済不安が高まっているにもかかわらず、いかなる国や国家ブロックも、問題解決に向けた国際的アプローチを主導する影響力をもはや失ってしまっている。各国の政策担当者は自国の経済成長と国内雇用の創出を最優先にし、グローバル経済の活性化は、遠く離れた二番目のアジェンダに据えられているにすぎない。軍事領域だけでなく、いまや経済もゼロサムの時代へ突入している。

(引用終わり)

経済的な利害だけを考えれば、TPPは日本国民一人一人には、何のメリットもないものである。ただ、世界最大の債権国である日本を参加させなければ米国の戦略にとって何の意味もないことだけは確かである。つまり、TPPは米国の年次改革要望書の仕上げである。

<09年におけるTPP関連諸国のGDP(単位:十億ドル)>

tpp関連諸国のgdp

出典:IMF

上記のグラフを見れば、一目瞭然、TPPとは、日米の問題なのである。

 

*以下、読売新聞より

「TPP大筋合意…交渉5年半、巨大経済圏誕生へ」読売新聞105()

世界経済の4割を占める?

【アトランタ(米ジョージア州)=横堀裕也、辻本貴啓】環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する12か国は5日朝(日本時間5日夜)、共同記者会見を開き、交渉が大筋合意に達したとする声明を発表した。
 2010年3月に始まったTPP交渉は5年半を経て終結し、世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大な経済圏が誕生することになった。
 記者会見に先立ち、甘利TPP相は記者団に「TPPは21世紀型のルール、貿易のあり方を示す大きな基本になる。この基本は世界のスタンダードになっていく」と意義を強調した。議長役のフロマン・米通商代表部(USTR)代表は記者会見で、「成功裏に妥結したと発表できることをうれしく思う」と述べた。
 TPPは安倍首相の経済政策「アベノミクス」の柱の一つ。発効すると、域内でのモノや人材、サービスのやりとりが盛んになり、経済が大きく活性化することが期待できる。日本は少子高齢化で国内市場が縮小に向かう中、米国や新興国の需要を取り込み、新たな成長のよりどころとする。(引用終わり)

 

TPP風刺画

ビジネスマン:「さあ、これで、あなたもマレーシアと商売ができますよ!」

派遣労働者: TPPのせいで、失業生活を送っている俺にはカンケーねー」



*参考資料 

20151008日(ロシアの声)

全世界の中央銀行が前代未聞の速さで米国債を売却しようとしている。ウォールストリートジャーナル紙が報じた。」

 

ドイチェバンク(独中央銀行)国際問題部の主任エコノミスト、トーステン・スロク氏の掴んだデーターでは、米国債市場からの資本引き上げは6月も続いており、過去12ヶ月の資金流失額は1230億ドルに達した。この額は1978年以来、最大。

一連のアナリストらは中央銀行側からの大売りの結果として国債の収入増を予測している。これは、世界経済の将来に対するペシミズムが高まる背景で、より信頼性の高い金融ツールに資金を転換せざるを得ない民間企業からの国債への需要は増えているにもかかわらず起きるだろうと予測されている。多くの資本家らは国債市場の方向転換はすでに起きており、今後は収益性はただ増す一方との確信を示している。

SLJ マクロ パートナーズ LLP社のパートナーで元IMFのエコノミストのステファン・イエン氏は「過去10年、世界の中央銀行が米国債を買い続けたために、米国債の収益性は深刻にダウンしたが、今、見られるのはその反対のプロセス」と語る。

1年前の時点では、世界の中央銀行は米国債のポジションを270億ドルも拡大していたことは特筆に価する。(引用終わり)

 

田中 宇氏「多極化とTPP」という記事の中で実に適確な指摘をしているので抜粋して紹介する。

以下。http://tanakanews.com/151007tpp.htm 

米国は、アジア太平洋諸国とのTPPと、欧州(EU)との協定であるTTIPという、2つの似た内容の自由貿易圏を同時並行的に交渉して設置することで、米国中心の新たな経済覇権体制として構築しようとしてきた。だがTTIPは、24の全項目のうち10項目についてしか米欧双方の意見表明がおこなわれておらず、対立点の整理すら未完成で、まだ交渉に入っていない。EUでは、署名活動として史上最多の300万人がTTIPに反対する署名を行った。

 TPPもTTIPも、企業が超国家的な法廷(裁定機関)をあやつって国権を超越できるISDS条項や、交渉中の協定文が機密指定され国会議員でも見ることが許されていない(米議会では数人が見たらしいが、日本の国会議員は誰も見ていない)など、国民国家の主権を否定する傾向が強い。EUの調査では、欧州市民の96%がTTIPに反対だというが、当然だ。

 すでに書いたように、EUは今後、米国との同盟関係を希薄化して露中への接近を加速し、米単独覇権体制を見捨てて多極型世界の「極」の一つをめざすだろう。欧州がTTIPに同意する可能性は今後さらに低くなる。おそらくTTIPは破棄される。TPPだけが残るが、TPPは拡大NAFTAであり、米単独覇権体制の強化でなく、多極型世界における米国周辺地域の統合を強化するものになる。(米国の中枢には、単独覇権体制を声高に希求する人々と、多極型世界をこっそり希求する人々がいる。ベトナム戦争もイラク戦争も、単独覇権を過激に追求してわざと失敗させ、多極型世界を実現する流れだ。単独覇権型の貿易体制が多極型の体制に化けても不思議でない)

 以前、日本はTPPの交渉に入っていなかった。日本がTPP交渉に途中から参加し、今や米国より熱心な推進者になっている理由は、世界の多極化が進む中で、何とかして自国を米国の傘下に置き続けたいからだ。日本の権力者が国際的に自立した野心を持っているなら、対米従属の継続を望まないだろうが、戦後の日本の隠然独裁的な権力者である官僚機構は、日本を対米従属させることで権力を維持してきた。対米従属下では、日本の国会(政治家)よりも米国の方が上位にあり、官僚(外務省など)は米国の意志を解釈する権限を乱用し、官僚が政治家を抑えて権力を持ち続けられる。近年では、08-09年の小沢鳩山の政権が、官僚独裁体制の破壊を画策したが惨敗している。対米従属は、官僚という日本の権力機構にとって何よりも重要なものだ。

  

TPPは、米国の多国籍企業が、ISDS条項などを使って日本政府の政策をねじ曲げて、日本の生産者を壊滅させつつ日本市場に入り込むことに道を開く。日本経済を米企業の餌食にする体制がTPPだが、日本の権力である官僚機構にとっては、米政府に影響力を持つ米企業が日本で経済利権をむさぼり続けられる構図を作った方が、米国に日本を支配し続けたいと思わせられ、官僚が日本の権力を握り続ける対米従属の構図を維持できるので好都合だ。米企業が日本でぼろ儲けし、日本の生産者がひどい目に遭うことが、官僚にとってTPPの成功になる。官僚が、意志表示もほとんどしない国民の生活より、自分たちの権力維持を大事と考えるのは、人間のさがとして自然だ。

 

日本ではここ数年、国民が中国や韓国を嫌うように仕向けるプロパガンダがマスコミによって流布され、それを国民の多くが軽信している。こうした洗脳戦略も、米国が衰退して中国が台頭する多極化の傾向への対策だろう。洗脳戦略がなかったら、国民のしだいに多くが「米国より中国と組んだ方が日本経済のためだ」「TPPでなく日中韓で貿易圏を作れば良い」と思うようになり、民意主導で日本が対米従属から離脱していってしまう。それを防ぐため、国民が中国や韓国を「敵視」するのでなく「嫌悪」するよう仕向ける洗脳戦略が採られ、かなり成功している(敵視を扇動すると、日本が中国に対して攻撃的に関与してしまうことにつながり、どこかの時点で日中が折り合って和解してしまいかねない)。

 

TPPと並んで、自衛隊が米軍と一緒に海外派兵できるようにする日本の集団的自衛権の強化も、対米従属維持のためだ。先に書いた、カナダ軍が米軍の傘下に入って海外派兵する新体制を作ろうとする米加軍事統合を、日本の集団的自衛権の強化と並べてみると、2つが良く似ていることに気づく。カナダは米国から「多極化の中で国家統合を進めたいなら、カナダ軍が米軍の傘下に入って海外派兵できるようにしろ」と言われ、迷いつつ進めている。それを見た日本外務省が「うちも、米軍の傘下に入って海外派兵できるようにしますので、多極型世界における北米圏に入れてもらって良いですか」と申し出た。米国は了承し、日本は集団的自衛権を改訂した。NAFTA(北米経済圏)の拡大版であるTPPに、日本が何とかして入ろうとしたのと同じ構図だ。

  

今回、TPPの交渉が妥結した一因は、乳製品問題で前回の交渉を頓挫させたニュージーランドを、日本が輸入増で譲歩してなだめたからだ。バイオ医薬品の独占期間の5年+3年の解決方法も日本が進めた。TPPは、日本のイニシアチブで妥結した。

安倍政権を動かしている日本の官僚機構は、多極化が進んで日本が米国圏から切り離される前に米国にしがみつこうと、これまでにない積極性で対米従属を強化している。日本が主導してTPPを妥結に持ち込んだのはその一つだし、説明抜きで無理矢理に集団的自衛権を強化したのもそうだ。日本の主導権発揮を受け、オバマはTPPの妥結を容認した。しかし、中東や対露関係から判断してオバマは隠れ多極主義者であると考えられるので、このまますんなりTPPが実現していくとは考えにくい。10月中のカナダの選挙で右派の与党が負けると、カナダ議会がTPPの批准を否決する可能性が強まる。米議会でも超党派でTPPへの反対があり、来年の大統領選挙で勝ちそうな共和党のトランプもTPPに反対だ。TPPをめぐる戦いはまだ終わっていない。(引用終わり)

米国議会図書館議会調査局文書>

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-7c4a.html

 

TPPでのアメリカの狙いは、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策を日本に解除させることにある

 

<市場アクセス>

TPP交渉への日本参加は、アメリカの通商と日本投資における機会を増大する可能性がある。アメリカ合州国の狙いは、米日貿易関係において、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策、ある種の政府規制等を、日本に解除させることにある。現在の9ヶ国によって想定され、交渉されているTPPは、日本が維持しているこうした非関税施策の少なくとも一部を対象にすることになろう。もし日本が TPP交渉に参加すれば、アメリカ合州国と日本は、その中でこれら積年の市場アクセス問題に対処することになる、枠組みを持つようになる。

上記項目は、この文書の大分下の方にでてくるが、お時間とお手間をとらせないよう、一番先に貼り付けておく。

以下は、原文の通りの順序。該当文書の6から11ページの部分訳である。(文章末にある数字は、原文中で、原典を示す注番号。)

 

<残された課題とTPP
米日経済関係をいらだたせ続けてきた問題の多くは、TPPの枠内で対応可能かも知れない。アメリカの議員や他のステークホルダーは、もし解決ができれば、日本をTPPにとりこむことへの、アメリカの支持を強化しうる“信頼構築の施策”と見なすことができるであろう、三つの点を特定している。問題点は以下の通り。アメリカ牛肉に対する日本の制限、デトロイトを本拠とするアメリカ自動車メーカーが製造した自動車の日本での市場アクセス、そして、国営の日本郵政の保険と宅急便子会社の優遇措置だ。

<アメリカ牛肉の市場のアクセス>

200312月、ワシントン州で、牛海綿状脳症(BSE、いわゆる“狂牛病”)のアメリカ最初の事例が発見されたことに対応して、日本は、他の多数の国々と共に、アメリカ牛肉輸入禁止を課した。2006年、多数の交渉後、日本は20カ月以下の牛の牛肉を認めるよう制限を緩和した。(韓国や台湾等、他国の中には、30カ月以下の牛のアメリカ牛肉輸入を許可している) アメリカ牛肉生産業者と一部の議員は、国際的監視機関が牛の年齢とは無関係にアメリカ牛肉は安全だと宣言しているので、日本は制限を完全に解除すべきだと主張している。アメリカと日本の当局者間の交渉は、この問題を解決できていない。

20111112日、ハワイ、ホノルルでのAPEC指導者フォーラム会合前の、オバマ大統領との会談で、野田首相は、日本の牛肉輸入規制を改訂し、アメリカ牛肉の市場アクセスを拡大する取り組みが進行中であることを示した。ホワイト・ハウスによれば、“大統領は、こうした初期対策を歓迎し、科学に基づく、この積年の問題を解決することの重要性に言及した。野田首相によって行われている迅速な対策に励まされる思いであり、こうした構想で彼と密接に仕事をすることを期待している。”14 20111117-18日の東京での日本の当局者との会合で、デメトリオス・マランティス米通商部(USTR)次席代表は、アメリカ牛肉に対する制限解除の問題を話題にした。15 201112月、日本は、日本に輸出するアメリカ牛肉用の牛の最高年齢を20カ月から30カ月に上げるという目的で、BSEに関連する規制を見直していると発表した。2012424日に、アメリカ農務省(USDA)検査官が、中部カリフォルニアのレンダリング施設で、この病気のサンプリングをしたものの中で、牛のBSE症例を発見した。USDAは、この牛は、人間の消費用に屠殺したものではないので“食品供給や、人間の健康にとって、決してリスクにはならない”と述べた。16 日本当局者は、最近BSEが発見されたが、アメリカ牛肉の輸出に対する政策は変えていないと発言した。17

 

<アメリカ製自動車の市場アクセス>

自動車と自動車部品関連の貿易と投資は、米日経済関係の中で、非常に微妙な問題であり続けてきた。問題の根は、1970年代末と、1980年代初期、主としてガソリン価格急速な高騰に対応して、アメリカ消費者の小型車需要が増加した結果、アメリカの日本製自動車輸入が急増したことにある。

一方、アメリカ製の自動車の需要は急落した。日本製の自動車輸入制限という形での、アメリカ自動車業界の圧力と、議会からの圧力に直面して、1981年に、レーガン政権は、自発的輸出制限に合意するよう、日本を説得した。日本の自動車会社は、制限に対応して、アメリカ合州国内に製造工場を建設し、高価値の乗用車を輸出することにした。アメリカのメーカーは、日本国内での外国製自動車販売と、アメリカ合州国で製造された日本車でのアメリカ製部品使用を制限する為、日本は様々な手段を使っていると主張した。これらの問題は、1990年代中、二国間交渉と合意の対象とされた。合意は、概して、政府規制が、日本でのアメリカ製自動車の販売を決して妨げないようにするという日本政府の約束と、アメリカ合州国で製造される自動車で、アメリカ製自動車部品の使用を増やすという日本メーカー側の自発的努力という形のものだった。アメリカ政府は、日本へのアメリカ製自動車の輸出促進プログラムを実施すると約束した。

デトロイトに本拠を置く三社の自動車メーカー-クライスラー、フォードと、ゼネラル・モーターズは、日本がTPPに参加する可能性に対し、日本政府の規制が、日本国内の自動車売り上げ中で、彼等が応分のシェアを得るのを妨げ続けていると非難している。彼等は日本の全自動車売り上げ中の、伝統的に小さな輸入車のシェア、約5%に触れている。対照的に、2010年の輸入は、アメリカでの軽自動車の売り上げの26%を占めている。18アメリカ・メーカーはまた、2010年の総売り上げ中の、アメリカ製自動車の0.2%という小さなシェアを指摘している。

とりわけ、アメリカ自動車メーカーは、安全規制と、車検規制と、そうしたものの進展と実施での透明性の欠如が、アメリカ製の車の輸入を妨げていると主張している。アメリカの自動車メーカーは、日本で、自分達の車を販売するディーラーを設立する障壁にも言及した。19 日本側の業界は、アメリカ・メーカーが、日本で需要がある小型エンジン車両を十分な量、製造していないのだと主張している。対照的に、ヨーロッパ・メーカーは、そうしたモデルを多く製造しており、2010年の日本国内販売中で、彼らのシェアは、2.9%である。20

 

<保険、宅急便と、日本郵便>

日本は、アメリカ合州国に次いで、世界で二番目に大きい保険市場である。アメリカに本社を置く保険会社は、市場参入が困難であることに気がついた、特に、生命保険と年金保険。彼等は、日本の国内の保険市で大きなシェアを有する国営郵便制度の保険子会社、日本郵政保険に政府が与えている有利な規制の扱いを憂慮している。日本郵政は、他の業務からの収入で、保険業務を補助している。また、日本郵政の保険は、他の国内、外国、両方の民間保険会社に対するのと同じ規制を受けずにいる。同様に、アメリカの宅急便会社は、日本郵政の宅急便運送会社は、国有の親会社から補助を得ており、それが、競争上の不公平な優位性を与えていると非難している。

 

<日本の環太平洋連携協定への参加可能性と、その意味あい>

2007101日、当時の小泉純一郎首相政権は、日本郵政の改革と民営化を導入し、彼の政権の主要目標とした。ブッシュ政権と多くのアメリカ企業、特に保険会社は、こうした改革を支持した。しかしながら、民主党が率いる後継政権は、改革を巻き返す措置を講じた。2012312日、政府は規制の要求を緩和する法案を提出し、2012427日、日本の議会が、法案を法律として成立させた。業界報告や他の意見によれば、法案は小泉政権が導入した改革を逆転するものだ。21 法案は、与党の民主党と、二大野党、自由民主党 (自民党)と公明党議員達による妥協パッケージだとされている。22

 

<アメリカの全体的目標>

日本のTPP参加の可能性は、様々なアメリカの貿易、外交政策目標に関わっている。アメリカ合州国は、201111月のTPP参加の可能性を追求するという野田首相の声明を積極的に歓迎した。しかしながら、USTR ロン・カークは下記のように明記している。

交渉に参加するためには、日本は貿易自由化のTPPの高い水準に合致する用意ができていて、農業、サービスと、製造業に対する非関税施策を含む障壁について、アメリカ合州国が関心を持っている特定の問題に対処しなければならない。日本のTPPへの関心は、この構想の、この地域に対する経済的、戦略的重要性を実証している。23

 

<市場アクセス>

TPP交渉への日本参加は、アメリカの通商と日本投資のおける機会を増大する可能性がある。アメリカ合州国の狙いは、米日貿易関係において、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策、ある種の政府規制等を、日本に解除させることにある。現在の9ヶ国によって想定され、交渉されているTPPは、日本が維持しているこうした非関税施策の少なくとも一部を対象にすることになろう。もし日本がTPP交渉に参加すれば、アメリカ合州国と日本は、その中でこれら積年の市場アクセス問題に対処することになる、枠組みを持つようになる。

 

<ルールに基づく貿易の枠組みと、公平な紛争処理>

アメリカ合州国と日本が過去に使ってきた二国間の枠組みの欠点の一つは、そこに正式な紛争処理機構がないことである。例えば、アメリカ製自動車と自動車部品の日本市場アクセス、半導体の日本の貿易慣習や、建設サービスの日本市場アクセスを含む1980年代と、1990年代の、多数の貿易紛争は、アメリカによる一方的な行動の脅しをともなう、全体的な関係をむしばみかねない、深刻な政治問題と化した。

紛争は通常、瀬戸際で解決されたが、日本の貿易慣習の意味ある変化や、対象になっているアメリカの製品輸出の大幅な増加をもたらさないことが多かった。TPPは、WTOを越えるが、問題解決において、11の対決の役割を小さくするよう、WTOで用いられているような、公平な複数メンバーの紛争調停機構を用いる可能性の高い、相互に合意した一連の規則を提供することとなろう。

 

TPPの強化>

アメリカから見て、日本は、TPPの経済的重要性を増すだろう。TPP(オリジナルの9ヶ国プラス、カナダとメキシコ)がカバーするアメリカ商品の貿易額を、2011年データに基づく、34%から、39%に増大するだろう、また、TPP内でのサービス貿易と、外国投資活動も増大するだろう。(1参照) 日本は、TPP加盟国(カナダとメキシコを含む)占める世界経済でのシェアを、約30%から、38%に増大させるだろう。

日本の参加は、TPP内の多くの問題で、アメリカの立場を強化する可能性がある。アメリカ合州国と日本は、以下を含む目標を共有している。知的財産権の強力な保護、外国投資の保護、貿易を促進する明確な原産地規則、サービスの市場アクセス。(終わり) 

 

*基軸通貨ドルベースで見た日本経済:見事なまでに世界経済でのウエイトを下げている。

 アベノミクスの裏面である。


 

ドルベースで見た日本のGDP

*日本はこの10年で500兆円規模もの対外資産を増やしている。

 財務省は毎年、本邦対外資産負債残高の数字を発表している。それによれば、日本の対外資産残高は、平成16年末が433.9兆円、平成26年末が945.3兆円である。その差額は511.4兆円にもなる。日本はこの10年間にて500兆円規模の資産を海外移転している。

 なぜ、こんなにも巨額の国富移転が行われているのか、その主な要因は、円高になったとき、日銀は円売りドル買いオペをやって、そのドルにてせっせと米国債を買っているからだ。政府日銀がやっていることは、結局、米国の財政を日本国民の資産でサポートしているということに他ならない。ここまで対外資産が膨らんでいるのは米国から日本への資産還流、すなわち、日本の持つ米国債の償還が行われていない事も意味している。

 要するに日本は米国に累計945兆円ものおカネを貸しているのだが、それ(元本)が返済されていないということを意味している。

○平成16年末現在本邦対外資産負債残高(財務省資料)

https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/16_g5.htm

○平成26年末現在本邦対外資産負債残高(財務省資料)

https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/2014.htm

 

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