<自民の一人区での大敗>

注目の参議院選挙が終わった。ご存じの通り、自民党の大敗、民主党の大躍進という結果になった。参議院選挙の大事な点は、参議院議員の任期が6年と長く、大敗や大勝の結果がその後の政局に長く影響することである。自民党は、たとえ与党の立場にいたとしても3年後の参議院議員選挙でよほどの大勝(これは難しい)をしない限り、6年間という長い間参議院の運営で苦労することになる。

一方民主党は、3年後の参議院選挙で仮に単独で過半数の議席を取れなくとも他党と連立を組めば、6年間の間に衆議院選挙で勝つことによって、比較的簡単に両院を制することができる。つまり、現状のままの政党体制が維持されるなら、今後6年間の間に民主党が政権党に就く可能性が極めて大きくなったと言えるであろう。反対に自民党が野党に転落する可能性も大きくなってきた。仮に、そうなれば、政界再編に進むことになるのであろうが、この意味で今回の参議院選挙は大変重要であったと言えよう。ターニングポイントの選挙であった。

ところで、今回の選挙結果について、各種のメディアは各方面から分析をしている。これらはそれなりに面白く興味深い。現状での情報に基づいて今回の選挙を分析してみよう。



第一の注目点は、自民党の支持層がどうなったかである。従来の自民党支持者の自民党離れが進んだことは確実である。地方の一人区の苦戦を見ればこのことがはっきりしている。これまで自民党にしか投票していなかった人々が、かなり民主党などの他党に票を移している。(25%位)

ところが比例区に限った場合、自民党の退潮現象がはっきり見えない。自民党の今回の獲得投票数は1,655万票であり、04年の前回の選挙に比べ、わずか25万票しか減っていない。たしかに投票率が少し上がっているので苦戦しているのは事実であるが、当選者はわずか一人減った程度であった。

これは先の衆議院選挙の名残りではないかと考えられる。05年の郵政改革選挙で自民党は、米国とマスコミの後ろ盾を得て空前の大勝利を得た。この時に自民党は比例区で2,604万票というとんでもない大量票を獲得したのである。

比例区は衆議院と参議院で制度が違い単純に比較できないが、先の衆議院選挙で自民党と書いた人が極めて多かったことは事実である。

これは先の衆議院選で自民党が大量の浮動票の獲得に成功したからである。

この選挙で自民党は従来からの票を減らしていたが、新規の票を大量に得た。

いわゆるB層(テレビのワイドショーしか見ない知的レベルの低い層:郵政選挙で大手広告代理店が名付けた)の大量投票が自民党に流れたのである。過去に投票したこともない人々がこぞって自民党に投票したのである。おそらく、千万票までは行かないとしてもそれに近い新規の票を自民党が獲得したと考えられる。

このにわか自民党支持者の投票が今回の選挙でいきなりゼロになったとは考えられない。2割から3割くらいは、今回の参議院選挙でも自民党に入ったのではないかと推測できる。しかし、この推測が正しければ、自民党は従来からの支持層の方の票をさらに失っていることになる。



B層などの新規の支持者は主に複数区の都会に住んでおり、従来からの自民党支持者が一人区の地方に住んでいるとしたなら、この説明が今回の選挙結果と一番符合する。もっとも自民党は、地方を切捨てて、友党である公明党と都会の浮動票に頼る選挙戦術を採るようになった。また、ここ数年間自民党が採った小泉・竹中構造改革路線とは弱肉強食;地方切り捨ての政策である。やっと、地方の人々もこの自民党の戦術転換:政策転換に気がつきはじめたのである。

しかし、この政策転換:戦術転換は論理的には自民党の自滅への道である。次回の選挙ではもっと地方の票を失い、あてにならない浮動票に頼るしかなくなるのである。

小泉政権下の前回の04年の参議院選挙でも今回と同じ流れになっていたと思われる。自民党は前回の選挙で一人区は辛うじて半分の議席を得たが、これは友党公明党が最後に強力なテコ入れを行ったからである。今回の選挙はさらに地方の自民党離れがもっと進み、公明党の助けぐらいではとてもカバーできなかったということではないか。



<公明党の異変および国民新党の行方>



第二の注目点は公明党に起っている異変である。公明党は今回の選挙で議席を減らしている。表面的には大敗と言わないまでも敗北である。たしかに投票率が多少上がったことが不利に働いたのも事実である。しかし固い組織票のことを考えれば、負けるはずがないと思われていたのである。

今回の参議院選で公明党の比例区票は86万票減っている。しかし中味を見ると大きな異変に気付く。比例区は政党名と個人名に別れる。公明党の場合、全国で見れば、なんと政党名の投票が逆に100万票くらい増えているのである。したがって反対に個人名による票が180万も減少している。

これに対してマスコミの適切な説明がない。推測するに、今回の選挙では公明党の底辺の活動家(特に学会女性部)があまり積極的に動いていなかったということになるのではないか。(考えてみれば、地方統一選挙でもこの傾向が現れていたような気がする。)個人名票の激減はこの結果と考えるべきである。

一方、政党名による投票は、他党候補の「選挙区は私に、比例区は公明党に」という例のバータ票が増えたからと見ていいのではないか。

もし、この推測が正しければ、公明党は表面的にはそれほどではないが、実質は大敗北ということになる。あれだけ固い組織力を誇る公明党に何かが起っていると考える他はないのである。やはりタカ派路線を邁進する片翼飛行の自民党との連立に無理があると考えるのが妥当なのかもしれない。



第三の注目点は、国民新党の行方であった。国民新党は選挙区と比例区でそれぞれ1名の当選者であった。やはり自民党と民主党の二大政党の闘いの間に埋没したと言える。もっと保守層の票を獲得すると思ったが、現実は厳しい。地方の保守層の票が国民新党ではなく民主党に流れたのである。

比例区で同じ新党の新党日本が177万票獲得したのに対して、国民新党は129万票しか得てない。これは先の衆議院選で新党日本が投票数の多い大都会を中心に活動したのに対して、国民新党が地方に軸足を置いたことがある程度影響している。今回の選挙で国民新党は都会にも進出したが、迫力不足は否めない。一方の新党日本は昔の二院クラブ的存在となった。

国民新党は組織政党ではなく、自民党に代わる保守層の受け皿を目指した。しかし民主党が保守的な政策を取込んだため、国民新党の存在が霞んでしまったのである。それでも議席を得たのだから、善戦したと言えるかもしれない。

国民新党が全国的な組織政党を目指すには無理がある。しかし国民新党には違った活路がある。現在、小泉マジックによって延命した自民党もいよいよ崩壊前夜の時を迎えている。やり方次第では国民新党がある程度その受け皿になり得る可能性もあるかもしれない。

北海道の新党大地があれだけ活躍しているのだから、国民新党にもチャンスはあるはずである。

細かく見ると国民新党も活躍している地域がある。日本人の投票行動は、政党より人で選ぶという傾向が強い。したがって集票能力の高い立候補者を確保すれば、まだまだ国民新党の伸びる余地はあるのではないか。島根がその良い例である。

兎に角、エセ改革の時代は終焉を迎えようとしている。それなのにまだ、自民党も民主党もどちらが「真の改革か」などと時代錯誤の事を言っている。また、マスコミも日本経済新聞を筆頭に改革を止めてはならないという戯言をいまだに論説に書いている。頭がおかしいのではないか。国民生活を貧窮させ、地方を切り捨てる現在の改革が本当に改革だと本気で思っているのであろうか。



これからの政治は「共生・和」がキーワードである。

国と地方の融和、地域社会の中での共生こそ、これからの日本の進むべき道なのではないか。幸いにも日本は世界一の債権国、政府だけでも520兆円の金融資産を持っている。その活用を真剣に考えれば、現在のように一般大衆や地方に過酷な政治をしなくてすむはずである。

そう言った意味で「新自由主義者(市場原理至上主義者):今までの構造改革派」と「日本の伝統文化や地方を大切にする真の保守主義者」にはっきり分かれる政界再編が起こることが望ましいと思われる。

また、冷戦思考から抜け出すことも重要である。もう、太平洋側(米国)ばかりを見ている時代ではないのである。

Sorry, the comment form is closed at this time.

© 2011 山本正樹 オフィシャルブログ Suffusion theme by Sayontan Sinha