エコノミストの田代秀敏氏が

「隣国・中国では、政府統計の信憑性が疑われ、中国共産党の幹部でさえ信用していないといわれる。<しょせん、上が見たい統計を作るのが、下の仕事ですから……>最近、日本でGDPが発表されるたび中国の統計部門の役人が、そうつぶやいていたことを、つい思い出してしまう」

と書いていたのが脳裏に浮かぶ。そう言えば昨年、総選挙前に「GDP4%成長(4月~6月)」という政府発表があったことを記憶しておられる方もいるかもしれない。もちろん、1ヶ月後に4割、下方修正された数字が発表されたが、報道の扱いも小さかったので、そのことを記憶されている方はほとんどいないのではないかと思われる。筆者もこの発表を聞いた時には吃驚した一人である。東京に行く度にタクシーの運転手さんに「景気はいいですか?」と尋ねるのが、習慣だが、「景気はいいね」という返事を一度も聞いたことがなかったからだ。先日も俳優の中井貴一さんの軽妙なナレーションで人気のNHKのサラメシの再放送で東京のタクシーの運転手さんの昼御飯を特集していたが、登場した運転手さん一人の「景気なんか良くないね」という声に思わず、それが実感だろうなと頷いたものだった。

それでは、なぜこのようなことが起きたのであろうか。

政府が発表するGDP統計を作成しているのは、中央省庁等改革基本法に基づき、内閣府本府組織令第43条によって設立されている経済社会総合研究所(その前身が経済企画庁経済研究所)である。その仕組みについて前述の田代氏がわかりやすく、解説していので簡単に紹介する。以下である。

GDPの作成にあたって経済社会総合研究所は、各業界、団体から報告される販売額や民間在庫、設備投資額を積み上げて全く加工されていない<名目GDP>を算出、因みに昨年46月の名目GDPは<速報値>で1345563億円、この数字は物価の変動を考慮していないため、ここから総合的な物価指数を示す<GDPデフレーター>という指数を用いて<実質GDP>を弾き出し、ここにGDPを、年間を通してならすための季節調整を加味して最終的な数字を弾き出している。上記の4%という数字は、普段、1012兆円の季節調整額を135378億円に膨らましたために出てきた数字だということである。

田代氏も指摘しているが、昨年夏は、森友、加計問題で安倍内閣が迷走し始めたころである。<GDP4%というアドバルーン>を上げておけば、官邸が評価してくれる、そんな忖度が働いていなかったか、心配されるところである。

現在、神戸製鋼所や日産自動車等、日本の大企業のデータ改ざん問題も次々と明らかになっているが、それを容認し助長する空気がこれら大組織のなかにあるということだろう。そもそも「忖度」とは「他者のことを推し量る」ということで社会生活を円滑に営んでいくうえで役立つ心の働きとして評価すべきものであったはずだが、現在、問題にされている過剰な忖度は、自由な、自分らしい生き方を阻害し、内向きの組織社会のなかの限られた集団の利害を守ることだけに終始している。このような忖度による過剰適応は子どものころから「いい子」であることを期待され、親や先生の顔色をうかがってきた人が陥りやすいとも言われている。キャリア官僚や大企業の社員にはそういう人たちが多いことは容易に想像がつく。

何れにしろ、公が発表する統計数字や大企業のデータ改竄は、社会の信用基盤を内側から崩していくので要注意である。

*東愛知新聞に投稿したものです。

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