「現在、マスコミが流している環境問題は大きな利害関係が絡んだプロパガンダに過ぎないという冷静な認識を一部の有識者にはやはり、持っておいてもらうのが良いのではないだろうか。

豊橋市議会でも二酸化炭素による地球温暖化を問題が取り上げられ、環境部長がIPCCの見解を鵜呑みにした見解を真剣に述べていた。しかし、真実は全く違うところにある。

日本は、国家戦略的に見ても、省エネ技術や二酸化炭素排出削減の技術が進んでいるため、温暖化対策が実施されることは有利にはたらく。排出規制が国際法になれば、中国など他のアジア諸国もいずれ調印せざるを得ず、その分経済発展の足かせを負うことになり、アジアで最初の先進国である日本にとっては都合が良い。日本が、温暖化対策という名の欧米中心体制を維持する企画に乗るのは国益を考えれば当然である。

しかし、二酸化炭素が地球温暖化の主要な原因だというのは真っ赤な嘘である。 地球環境に最も影響を与えているのは太陽系の質量の99%をしめる太陽であるのは自明のことである。だから、私は太陽黒点活動説が正解だと思っている。そう言えば、数年前にマスコミが大騒ぎしたダイオキシン問題も一部、焼却炉メーカーにとっては誠に都合の良い歪曲報道だった。そのために5兆円ものお金が地方自治体の焼却炉に使われたのであった。もちろん、豊橋市もその一つであった。」





「地球温暖化京都会議への消えない疑問」

田中宇 1997年12月16日



気候変動枠組み条約第3回締結国会議(地球温暖化防止京都会議)が終わり、二酸化炭素などについて、法的拘束力を持った排出削減目標を盛り込んだ議定書が採択された。だが、筆者にはどうも分からない点が残っている。地球は本当に、このままだと急速に温暖化していくのかどうか、ということについて、納得できる説明が足りないように思うのだ。

まず、英語を読める方は、ここをクリックして”NASA Facts – Global Warming”という英文を読んでいただきたい。これは、アメリカ・NASAの”Earth Observing System”という機関のホームページにある文章である。

ここには、地球温暖化に関する学説が初めて出てきたのは今から約100年前の1896年、スウェーデン人のアリーニアス(Svante Arrhenius)という化学者によるものだったという起源に始まり、それから2050年ごろまでの150年間で、大気中の二酸化炭素の量が2倍になっていると書いている。

それは二酸化炭素の増加は第二次大戦後の世界の工業化が一因と思われる。そして、最近の100年間で地球表面の気温は約0.5度上昇したという。ところが、過去100年間の温暖化傾向のうち、気温上昇のほとんどの部分は1940年までの40年間に起きており、その後1970年代までは平均気温が下がっている。1970年代初頭には「もうすぐ氷河期がくる」とさえ予測されていた。

さらに、このNASAの文章は、今後の気温変動を予測するためには、こうした過去の気候変動を説明できる気象モデルであることが必要だ、と指摘。その上で、温暖化現象が起きたときに大気中の雲が増えるのか減るのか、そしてその雲がどのような影響を与えるのか、といったような二次的な影響について、まだ分かっていないため、将来の気候予測について、信頼できる気象モデルは、今のところまだない、と断定している。



●「地球温暖化の原因は太陽の磁場変動」

次に、もう一つ資料を紹介する。Wall Street Journalのホームページ(有料)の12月4日版と、東京で配達されている”Asian Wall Street Journal”の12月10日版(12面)に掲載された記事”Science Has Spoken:Global Warming Is a Myth”である。

この記事は、アメリカのオレゴン科学・医学研究所(Oregon Institute of Science and Medicine)の二人の化学者、Arthur RobinsonZachary Robinsonが書いたもの。1750年以来の地球の平均気温の変化は、黒点など太陽磁気の変動サイクルと、とてもよく似た動きをしており、地球の気温上昇の最大の原因は二酸化炭素の増加によるものではなく、太陽自身の変化によるものである可能性が強い、としている。

また、過去3000年間の平均気温を調べると、現在よりも温度が高かった時期が5回あり、今は300年前に起きた非常に小さな氷河期が終わって、その後の温度上昇期にある、と書いている。よくいわれている「地球は過去最高の温度になっている」というのは間違いだ、と主張しているのである。

2つの文章から言えるのは、どうも二酸化炭素の増加と地球温暖化との関係は、はっきりしていない部分がかなりありそうだ、ということである。ウォールストリート・ジャーナルについて詳しくご存知の方は、「あの新聞は前から温暖化問題を毛嫌いする傾向があった。二酸化炭素の排出規制に反対する大企業の経営者のための新聞だからだ」などとおっしゃるかもしれない。作者もそういった意見には同調する。

だが、誰かが「地球温暖化の原因は太陽の磁気変動ではないか」と言っているのに対して、「そうではありません。なぜなら・・・」と言える答えがすぐに見つからない以上、二酸化炭素の増加と地球温暖化との結びつきは明白だ、とはいえないのではないか。作者は日本語と英語のInfoseekなどの検索エンジンを使って、数百件の温暖化関連のページを探したが、その答えは見つからなかった。



●2年前に「断定」された温暖化の原因

京都会議では、二酸化炭素の排出増が地球温暖化の大きな原因になっている、ということが当然のこととして扱われていた。そして議論は、二酸化炭素の排出をどれだけ減らすか、ということに終始し、排出削減に応じない国はけしからん、という空気が支配的だったようだ。だが、地球温暖化と二酸化炭素との関係にはっきりしない部分が残っている以上、これはずいぶんと乱暴で拙速な話ではないだろうか。

人間が増加させた二酸化炭素が、地球温暖化の主因となっている、という「断定」が行われたのは、今から2年前、1995年11月にスペインのマドリードで開かれた「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の時である。

この時、欧米日など120カ国から集まった気象学の専門家らによって、地球温暖化の原因が何なのかについて、非常に激しい討論が展開され、二酸化炭素が原因だと断定するのはおかしいと主張した学者も多かった。だが、地球温暖化は人間の活動によって増えた二酸化炭素によるものだとする会議報告書の原案が、会議の3ヶ月前にすでに作られており、反対する学者たちの意見は退けられることになった。



現在、地球の気象についての研究は、コンピューターを使い、気象モデルについて複雑な計算を処理することによって行われている。2年前のIPCCの時に使われたモデルも、こうしたコンピューターを使った計算に基づいている。だが、上記のNASAの文章では、今はまだ信頼性の高い気象モデルがない、としているのである。

そして今後は、コンピューターの機能が急速に向上していく可能性が強い。つまり、今から2-3年後には、今よりももっと、地球の気象変動についての理解が進んでいるかもしれないのである。二酸化炭素と温暖化との関係についての結論を出すのに、なぜあと2-3年待つことができなかったのであろうか。今後10年ほどの間に、地球温暖化が非常に深刻になるから急がねばならない、という意見もあるが、そうした予測自体の信頼性が問われているのである。

さらに問題なのは、京都で採択された議定書には「二酸化炭素の増加と地球温暖化との関係について、今とは違う因果関係が分かってきたら、合意内容を再検討する」といった項目がない、ということである。

議定書は、地球温暖化の主因が二酸化炭素にあるかどうか、まだ不明な点があることには一切触れず、いきなり二酸化炭素の削減のことから始まっている。1995年のマドリード会議からの一連の流れを見ると、本来の「地球温暖化を防ぐ」という目的ではなく、理由はどうあれ「二酸化炭素を削減する」ということが目的とされていると感じざるを得ない。





●二酸化炭素の削減で利益を得るのは誰か

二酸化炭素の削減に最も積極的なのはヨーロッパ各国である。ヨーロッパ諸国は戦後の工業化で自然破壊がいち早く深刻になっただけに、早くから環境問題に積極的に取り組んできた。また市民社会が発達しているため、市民運動が環境を守るという構図が最初に定着している。

しかし今、ヨーロッパは環境重視による社会のコスト高に悩んでいる。一方で、最近になって急速な経済発展を始めたアジアの国々では、環境問題があまり重視されず、環境保護にかかわるコストを負担せずに安い製品を作って世界中で売り、ヨーロッパの高い製品を駆逐してしまった。これではヨーロッパ諸国としては割り切れない。

今や、世界の市場はモノ余りが次第に深刻になっている。自動車や船、飛行機などの輸送機械はこれ以上の生産設備が要らない状況になっている。衣料品や雑貨、家電などのうちの多くも、似たような状況だ。そんな中、中国やインド、中南米などでは、今後も工場が増えそうな状況で、そうなると価格の引き下げ競争が激しくなり、労働コストが高い欧米や日本の製品は売れなくなってしまう。

特にヨーロッパは高福祉社会だっただけに、福祉のコストも上乗せされるため、商品を安く作れない。何らかの歯止めを掛けねば、とヨーロッパの当局者が考えても不思議はない。ヨーロッパ諸国は環境問題だけでなく、「労働者の権利」という面でも、アジア諸国を批判している。EUは昨年、「東南アジア諸国が低賃金、無賃残業、子供の労働などによって作られた安い製品を売っているのは、自由貿易という観点から不公正である」と主張し、東南アジア側から反発を受けている。

工業化による環境破壊でまず目に付くのは、水質汚染や大気汚染といった従来型の公害だが、これらはほとんどの場合、工場がある国の内部の問題で、外国の勢力がとやかく言えるものではない。もし、ヨーロッパの市民団体が、中国の工場の煤煙や排水による中国の人々への悪影響を問題にしたとしても、一般の人々の関心はあまり引かないだろうし、内政干渉になるので、欧州各国の政府の賛同もまず得られない。

その点、地球温暖化なら話は早い。中国の工場が出している二酸化炭素で、ニューヨークやロンドンの市民が被害を受けている、と言うことができる。温暖化と二酸化炭素との関係はまだはっきりしていないのだが、そこをあたかも自明の理であるように思わせるのが、「環境問題」という言葉の魔力なのであろう。

京都会議の議論のベースとなっている国連条約(気候変動に関する国際連合枠組条約)では、中国やインドなどの発展途上国は締約国にはなっているものの、二酸化炭素など温室効果ガスを削減せねばならない国ではない。削減を義務づけられているのは、欧米と日本、オーストラリアなどの先進国、ロシア東欧諸国とトルコだけである。とはいえ、いずれ中国やインドも経済発展が進み、二酸化炭素排出が問題とされるようになることは間違いない。



「地球温暖化問題の歪曲」

2005年8月27日  田中 宇



産業や自動車利用が世界的に拡大した結果、人類が排出する二酸化炭素など温室効果ガスはここ数十年間に激増し、大気圏の温度が上がる温室効果がひどくなって地球が異常に温暖化し、極地の氷が溶けて海水面が上昇するなどの大惨事になりそうだ、という「地球温暖化問題」をめぐり、その説を支持する勢力と、否定する勢力との対立が、最近また欧米で激しくなっている。

欧米のマスコミの多くは、今では、人為的な温暖化が起きているという説を支持する勢力となっている。「温暖化は起きていない」「起きているとしても、人類が放出した二酸化炭素のせいだという根拠がない」「京都議定書に基づいて二酸化炭素の排出を減らせば効果があると考える根拠もない」と主張し、温暖化説を否定し続けている勢力は、タカ派のウォールストリート・ジャーナルぐらいである。

同紙と並んでタカ派系の週刊誌エコノミスト(The Economist)は、以前は温暖化説に懐疑的だったが、一昨年ぐらいに「温暖化説を補強する科学的証明が増えてきた」として、支持派に転じている。今や温暖化説は、専門家の間では世界的な「コンセンサス」あるいは「通説・通念」になっており、反論は無効だ、というのが世界的なマスコミの論調である。

特に、ガーディアンやインディペンデントなどのイギリスの新聞は「このまま温暖化を放置すると、北極や南極などの氷が溶けて海水面が上昇し、ニューヨークもロンドンも水没する」「バングラディシュや南太平洋の島嶼国は、国ごと消えるだろう」といったセンセーショナルな記事を載せ、人々の危機感を煽っている。

政治の世界でも、温暖化対策を世界で最も強く推進しているのは、イギリスのブレア政権である。これに対し、最も強く否定しているのは、アメリカのブッシュ政権である。大統領がクリントンだった時代には、アメリカ政府は温暖化対策を積極的に推進し、英米は協調していたが、米政府はブッシュになってから方向転換し、米民主党など、アメリカの温暖化対策推進派は、イギリスに頼るしかない「亡命状態」になっている。



▼ブッシュは石油業界の言いなりというが・・・

ブレアは7月上旬にスコットランドで開いたG8サミットで、アメリカを含む先進諸国と、サミットに招待したインドや中国など途上国が、温暖化対策について合意することに持ち込もうとしたが、ブッシュが拒否し続けたため、おざなりの合意しか得られなかった。

G8サミットを控えた6月上旬、ブレアは訪米してブッシュを説得したが、無駄な試みに終わった。ブレアが訪米する直前、英ガーディアン紙は「ブッシュ政権は、大手石油会社のエクソンモービルに、地球温暖化に対する政策としてどのようなものが望ましいか教えてほしい、と要請していた」とする記事を出した。

また同時期に、ニューヨークタイムスには「石油業界は2001年からホワイトハウスに環境問題担当者として要員を送り込み、その人物(Philip A. Cooney)は、政府の各官庁が発表しようとする環境問題の文書を事前に検閲し、温暖化説を支持する論調を否定する論調に書き換え続けている」とする記事を載せた。これらの記事は、ブッシュの頑強な拒否をやめさせたい米政界内の温暖化対策支持派が、ブレアを応援する意味で書かせた感がある。

イラクの泥沼化や、侵攻時の大量破壊兵器のウソが批判されているブッシュは、今や世界的な「悪者」であり、ブッシュが石油業界の言いなりで温暖化対策に反対しているという英米新聞の記事は、世界の人々に「やっぱりそうか」と思わせる状態になっている。「温暖化説に反対の人は皆、石油業界の回し者に違いない」といった見方が「通説」になりつつある。

だが私自身は、温暖化説の支持派と否定派の両方の主張を読み、自分なりに理解しようとすると、どうも温暖化説をめぐっては「通説」の方が間違っているのではないか、と思うに至っている。「人類が排出した二酸化炭素のせいで地球が異常に温暖化し、大惨事が近づいている」と断言することは、どう考えても無理がある、というのが私の結論である。

温暖化対策を拒否するアメリカの政策は、石油業界の影響力の結果だというのは十分あり得るが、その一方で、温暖化対策を推進する動きの方も、背後に政治的な意図が存在している可能性が大きい。



▼ホッケーの棒理論をめぐる論争

地球温暖化をめぐる議論は「地球は近年、異常に温暖化しているかどうか」と「温暖化しているとしたら、それは人類の行為によって排出される二酸化炭素が主な原因なのかどうか」という2つの点に関して争われている。

地球の異常な温暖化を主張する最も象徴的なものは、1998年にマイケル・マンら3人のアメリカの学者が「ネイチャー」誌に発表した「ホッケーの棒理論」である。3人の学者は、古い測候データ、木の年輪、さんご礁、極地の氷から得られる昔の温度データ、歴史的な記録などを集め、過去1000年間の北半球の気温変化をグラフにしてみた。その結果、平均値をとると、紀元1000年から1900年ごろまでは、温度はだいたい一定していたのに、1900年以後の100年間は急上昇していた。グラフにすると、ホッケーの棒を横にしたような形になる。

3人はこの結果をもとに「過去100年間の気温上昇は、人類が産業化を進め、二酸化炭素の排出量が増えた結果に違いない」と主張している。この理論は、温暖化対策を推進する国連組織「気候変動に関する政府間パネル」が2001年にまとめた報告書の中で、最近の異常な気温上昇を示す主な根拠として使われている。温暖化対策が必要だと主張する欧州や日本などの政府や市民運動も、この理論を使って温暖化問題を説明することが多い。

政府が使う理論というと、誰も疑問をもたない確立された理論であると思われがちだが、実はそうではない。ホッケーの棒理論に対しては、学界から賛否両論の意見がたくさん出続けており、理論として確立していない。推進派の中には、この理論を否定する人は石油業界の御用学者であるといった見方すらあるが、否定派の主張には納得できるものが含まれている。

たとえば、地球上の歴史的な気温変化に関する従来の通説は、西暦800年から1400年までは温暖な時期で、1600年から1850年までは「小氷河期」とも呼ばれる寒冷な時期だったとするもので、ホッケーの棒のように一定だったとは全く言えないはずだ、という批判がある。1900年以降の急激な温度上昇が事実だったとしても、それ以前にもそのような温度の上下が存在した可能性が大きいので、この100年は異常ではない、という指摘である。

(西暦1000年ごろから1400年ごろまでの温暖な時代には、北極圏に近いグリーンランドにアイスランドの人々が移民して、農業を行っていた。彼らはコロンブスよりはるかに前に北米大陸を探検していたが、その後の気候の寒冷化によって農耕ができなくなって入植地から撤退し、その後現在までグリーンランドでは農業は行われていない。こうした歴史的事実からも、中世に今より温暖な時代があったことが分かる)

大昔の気温を確定的に言うことは難しく、歴史的温度変化がホッケー棒のような形になる確率は、3人が指摘している範囲の半分程度だろう、と不確実性を指摘する学者もいる。



▼1週間後の天気予報も当たらないのに・・・

最近の100年間の温度変化についても、ホッケー棒理論とは別の説がある。1900年から1940年ごろまでは温暖化していたが、その後1975年ごろまでは冷却化が続き、当時の学者たちは、このままでは16世紀ごろのような小氷河期が再来しかねないと心配していた。現在の温暖化傾向は、その後の30年間の話でしかない、という指摘がある。

また北極圏の氷の調査からは、現在より1930年代の方が気候が温暖だったという結果が出ている。

このように、最近地球が温暖化しているという指摘は正しい可能性があるが、それが以前の気候変動と比べて異常であるとは言えそうもない。過去の気温変化は、研究を重ねても最終的に確定できるものではなく「現在は過去1000年間で最も温暖化している」「今は異常な温暖化傾向にある」と断言することは間違いである。

気象学とは、経済学と同様、不確実性の高い研究分野である。「論証の結果、これこれである可能性が大きい」と主張することはできるが「これこれに違いない」と断言することは不可能な学問である。未来のことになると、過去のことよりもさらに確定は困難である。だから、どんな素晴らしい研究結果に基づいていたとしても「今後さらに温暖化が進むに違いない」と断言することはできないはずである。

私たちが日ごろ接している天気予報では、最新の分析技術を駆使しても、1週間後の天気を正確に予測することは非常に難しい。天気予報がおおむね正確なのは、48時間後ぐらいまでの範囲である。来週の気象すら正確に予測できないのだから、10年後に地球の気象がどうなっているかという温暖化予測は、どんな主張であれ、かなり不確実なものだと考えるべきである。

さらに不確実なのは、気候変動の理由をめぐる議論である。この議論の立証には、大型コンピューターを使った気候シミュレーションモデルのソフトウェアが使われている。二酸化炭素濃度が過去100年間に倍増した場合と、しなかった場合で、100年間の気温変化がどう違ってくるか、というシミュレーションを行い、二酸化炭素が倍増した場合の方が実際の過去100年間の気温変化に近いので、人類が排出増加させた二酸化炭素が温暖化の原因だと結論づけられる、というのが温暖化支持派の主張である。

この理論の問題点の一つは、気候モデルのソフトウェアが、現実の気候変動のメカニズムを再現し切れていないということである。代表的な気候モデルは、地球上を300キロメートル四方の無数の地域に分割し、各地域の内部の気象が均一であると仮定しているが、現実の世界では、300キロ離れると気象状況はかなり違ってくる。 そもそも、人類はまだ気象や気候(日々の気象の長期平均が気候)のメカニズムを完全に解明できておらず、きちんとした気候モデルが作れる状況ではない。1週間先の気象を予測する天気予報用のシミュレーションモデルも作れていないのだから、はるか以前の気候を再現したり、遠い未来の気候を予測したりする気候モデルは、不完全なものしか存在しない。



▼イラクの大量破壊兵器問題の歪曲と似ている

大気中の二酸化炭素が増えると気温が上がるという「温室効果」は18世紀に発見され、この現象が存在することはほぼ間違いないとされている。しかし、気候が温暖化する原因としては、温室効果以外にも、火山の大噴火、太陽黒点の周期的変化、海流の変化など、いくつも要因があり、それぞれがどのような形で影響しあっているのか、今のところよく分かっていない。

また気候が温暖化すると極地の氷が溶け、海水面を大幅に上昇させるという説も、否定する人がいる。否定派によると、温暖化はそれまで雪も降らないほど寒冷な極地に雪を降らせることにつながり、極地の氷は増え、海水面は逆に低下するという。

人類が石油や石炭を燃やすことは、温暖化ではなく冷却化を助けているという説もある。燃焼によって大気中に放出される亜硫酸ガスなどの微細な粒子が太陽光線を弱め、地球が過熱するのを防いでくれているので、燃焼をやめたら温暖化は逆に進んでしまう、という主張である。

このように地球温暖化をめぐる議論は、多分野にわたって諸説が乱立している状態だ。欧米のマスコミの最近の記事は「地球は異常に温暖化しているということで、すでに大多数の専門家の間で意見が一致している」とさらりと書いているものがよくあるが、これは間違いであり、政治的な意図を持った記事であると考えられる。そもそも科学的な真理は、専門家の多数決で決まるものではない。大多数の専門家の意見が一致したから、それが真理だというのは間違いである。ガリレオもアインシュタインも、当時の学界では全くの少数派だった。

国連の気候変動パネルも、気候分析の不確実さについて、以前に発表した報告書の中で「不確定要素が多いため、未来の気候変動について確実な予測を出すことは非常に難しい」と認めている。その上で「数々の証拠の全体的なバランスからみて、人為的な要素が地球の気候に影響を与えていることがうかがえる」と、慎重な言い回しをしている。

国連の気候変動パネルは、2000人以上の専門家で構成される委員会で、過去に何回か激論が戦わされた。だが、この委員会は、国連で各国の政治家があらかじめ決めた「温暖化対策を行う」という結論に、科学的根拠を示しながら説明をつけることが任務であり、温暖化対策を行う必要があるという結論を出すことが、最初から運命づけられていた。激論は、結論の言い回しを慎重なものに変えることができただけだった。

2001年に国連パネルの報告書が出た後、言い回しを「二酸化炭素排出を減らさないと、必ずや大洪水が起きる」といった断言口調に変えて世論を誘導するのは、米英のマスコミの仕事となった。現場の専門家は慎重な言い回しをしているのに、英米のマスコミや政治家が極論を放ち続けた結果、世論があらぬ方向に誘導されたのは、イラクが大量破壊兵器を開発していなかったのに、それが「開発していないはずがない」という理屈にすりかわり、米軍の侵攻につながったイラク戦争の時と、同じ構図である。

7月のG8サミットが近づくにつれ、英米マスコミでは温暖化対策をすべきだという主張の大合唱となった。だがその中で、イギリス議会上院の経済委員会は、サミット前夜に「気候変動の予測は非常に不確実なものである」「国連気候変動パネルは、客観的な議論をしていない疑いがある」「京都議定書は、ほとんど効果が出そうもない」などとする報告書を発表した。イギリスの支配層の内部でも、地球温暖化問題に対する政治的な歪曲を止めようとしている勢力があると見受けられる。

地球温暖化問題に、政治的な歪曲が加えられているとしたら、それはどんな意図に基づいているものなのか。以前は温暖化対策に積極的だったアメリカが、今では最も強く反対しているのは、どのような戦略転換に基づくものなのか。このあたりは次回に説明する。

【続く】



「欧米中心の世界は終わる?」

2005年9月6日  田中 宇

この記事は「地球温暖化問題の歪曲」の続きです。



マスコミをにぎわしている地球温暖化問題は、純粋な科学の問題ではなく、政治によって歪曲された話ではないか、と私が最近感じたきっかけは、7月上旬にスコットランドで開かれたG8サミットの主要な議題として、温暖化問題が採り上げられたことである。

主催者であるイギリスのブレア首相にとって、このサミットは、アメリカのブッシュ政権が壊してしまった世界の体制を元に戻すための重要な会合だった。ブレアがその会議の中心議題として、アフリカなど最貧国の救済問題と並んで、地球温暖化問題を選んだことは、これらの2つの問題が、世界をある方向の体制に持っていくために有効な手段であるからではないか、と私は考えた。

サミットが近づくにつれて、欧米や日本などの先進各国でアフリカ救済をうたった「ライブ8」が開催されたり「地球温暖化を放置すると、数年後にはロンドンやオランダが水没する」といった極端な論調の新聞記事が欧米マスコミに増えた。毎日世界のマスコミをチェックしている私には、これはどう見ても政治的な意図を持った動きだった。

ブレアは、地球温暖化対策という国際問題を使って、世界をどう動かそうとしたのだろうか。それを考えるのが今回の記事の主題である。最貧国の問題や地球温暖化の問題は、いずれも奥が深く話が専門的かつ広範囲である。そのため、ここでは前回も書いた地球温暖化の問題に絞り、アフリカ救済については改めて調べて論じる。



▼排出規制は東欧へのEU統合の条件?

地球温暖化問題が国際政治の舞台で提起されたのは1990年代の前半で、1992年のリオデジャネイロ環境サミットで、先進諸国とロシア東欧諸国の合計40カ国近い国々が、地球温暖化を防止するために二酸化炭素の排出量を規制することで合意したのが、初期の到達点だった。

当時は英ブレア政権だけでなく、アメリカのクリントン政権も温暖化対策に積極的だった。前回の記事で紹介した地球温暖化を象徴する「ホッケーの棒」理論を提唱したのはアメリカの科学者3人だったし、ブッシュ政権になって米政府が温暖化対策を拒否するようになった後も、温暖化対策を主張する科学者の中心勢力はアメリカにある。温暖化問題は、今ではヨーロッパ(EU)がアメリカの経済成長を阻害するために持ち出した問題であると考える分析者もいるが、経緯を見ると、むしろ米英がEUを巻き込んで始めた動きである。

リオ環境サミットの調印国と、その後1997年に採択された京都議定書で温室効果ガスの削減目標を課された国は、ほぼ重複しているが、それらは、西欧諸国、アメリカ、カナダ、日本、オーストラリア、ニュージーランドといった先進国のほかは、ロシアやハンガリー、ウクライナなど、ロシア東欧諸国ばかりである。韓国、東南アジア諸国、中国、メキシコなど、東欧以外で経済成長している中進国は一つも入っていない(京都議定書を批准しているが、温室効果ガスの削減義務がない)。

これはおそらく、当時ECがEUに拡大され、西欧が東欧を包含して経済統合していく動きが始まったことと関係している。リオのサミットで、ロシア東欧諸国が二酸化炭素排出規制に同意したのは、それが経済統合に参加する事実上の条件として西欧から提示されたものだったからだろう。

欧州経済統合が進み、東欧の企業が西欧市場で自由に商品が売れるようになると、西欧の経済成長が東欧に奪われ、西欧の優位性が失われる可能性がある。二酸化炭素排出を規制すれば、発電や自動車の走行といった石油やガスの利用のコストが上がり、その分、経済発展が阻害される。西欧は、東欧に対して排出規制の足かせを強制することで、西欧が東欧より金持ちで政治力も強い状態を、より長く続けることができる。

▼途上国の発展を遅らせる温暖化対策

このことを世界的に普遍化して考えると、地球温暖化問題は、先進国が発展途上国の追いつきを阻止するという政治的な効果を持っていると感じられる。先進国は、経済の中心が製造業から金融業などサービス業に移行しており、二酸化炭素を排出する時期は過ぎている。だが、これから経済成長しようとする発展途上国は、二酸化炭素をより多く出す製造業が頼りである。

京都議定書は、先進国とロシア東欧諸国にしか排出規制の義務を課していないが、次の段階では、中国や韓国など、これから先進国になっていこうとする国々に対しても、排出規制が義務づけられていく可能性が大きい。長期的に見ると地球温暖化対策は、途上国の発展を阻害し、その分だけ先進国が優位に立てる時期を長引かせるための企画だといえる。

今の世界で、先進国とは「欧米」のことである(オーストラリアとニュージーランドも欧州人の国である)。地球温暖化対策を政治的に解読すると、欧米中心の世界をできるだけ長く維持するために、英米が提起した試みといえる。

先進国の中で、欧米でない唯一の国は日本だが、戦後の日本は完全な対米従属国で、欧米に楯突く姿勢は一切見せていない。また日本は、国家戦略的に見ても、省エネ技術や二酸化炭素排出削減の技術が進んでいるため、温暖化対策が実施されることは有利にはたらく。排出規制が国際法になれば、中国など他のアジア諸国もいずれ調印せざるを得ず、その分経済発展の足かせを負うことになり、アジアで最初の先進国である日本にとっては有利である。日本が、温暖化対策という名の欧米中心体制を維持する企画に乗ったのは国益に沿った動きだった。

温暖化を研究している科学者はこんな風に考えず、単に地球の環境だけを考えて発言してきたのかもしれないが、政治家はそうではない。科学者は、気づかぬうちに政治家に使われている可能性がある。



▼単独覇権主義は欧米中心主義の改訂版と思われたが・・・

これでアメリカが京都議定書を批准していれば、世界の途上国は気づかぬうちに足かせをはめられ、欧米中心の世界体制の延命が実現していたはずだ。ところが現実はそうならなかった。京都議定書は、昨年11月にロシアが批准したことで、発効の前提となる条件(世界の温室効果ガス排出量の55%以上を占める国々が批准すること)が満たされ、発効したものの、世界最大の排出国(世界全体の約4割を排出)であるアメリカは批准せず、条約として不完全なものにとどまっている。

アメリカの政界では1996年ごろから、共和党右派を中心とする「タカ派」の勢力が強くなった。彼らは「ソ連亡き今、アメリカは圧倒的に世界最強なのだから、世界から圧力をかけられても、国益にそぐわないことをやる必要はない」と主張する「単独覇権主義」の傾向が強く、京都議定書に盛り込まれた温暖化対策を「米経済に悪影響を与える」として反対していた。クリントンのホワイトハウスは、議会上院の多数派を共和党に押さえられ、上院は「途上国が十分に参加しない限り、京都議定書を批准しない」という決議を採択し、批准は事実上否定された。

その後、2000年の大統領選挙でブッシュが、クリントンの後継者であるゴアを破り、さらに翌年の911事件でアメリカ社会が一気に保守化したため、米政界は共和党右派の圧勝状態となった。ブッシュは京都議定書を否定し、温暖化対策を拒否し続けた。

当初、イギリスや日本などのアメリカの同盟国は、クリントンからブッシュへの交代に伴うアメリカの戦略転換を、方針の微調整だと考えていた。クリントンは、共和党支持の傾向が強い石油業界と軍事産業に対して比較的冷たかったが、ブッシュはこれらの業界にテコ入れするため、京都議定書を破棄したり、外交ではなく軍事による解決を重視する「先制攻撃」の政策を提唱したりするのだろうと考えられた。

政権を握った共和党右派からは「環境問題の重視や、国際紛争の外交的解決など、西欧諸国の主張は、アメリカの国益にそぐわないので無視した方がよい」といった主張も出てきた。これは従来の「欧米中心主義」が「アメリカ中心主義(単独覇権主義)」に代わっただけだと、米国内や日英などの分析者の多くが考えた。

つまり、アメリカはブッシュ政権になって、国内的には石油産業と軍事産業を重視し、国際的には西欧との関係を軽視して単独覇権の傾向を強めるという微調整を行ったというのが、イラク戦争の泥沼化が顕著になるまでの、大方の見方だった。ブッシュに切り捨てられた西欧諸国は、EU全体を合計しても、軍事的、経済的にアメリカよりずっと弱く、アメリカが身勝手に振る舞っても、それに報復することはできないと考えられた。



▼温暖化対策を拒否して世界を多極化する

ところが、2004年になって、明らかにイラク戦争は失敗だったと分かっても、ブッシュ政権は「単独覇権主義」や「先制攻撃」の姿勢を変えなかった。単独覇権主義が失敗した以上、ブッシュは欧米中心主義(いわゆる「国際協調主義」)に戻るだろうと考えて、ブレアはブッシュが方針を戻しやすいように今年7月のG8サミットを用意した。

ブレアは、G8の会議場に中国やインドの首脳を招待し、彼らに地球温暖化対策の重要性について肯定的な見解を述べてもらうことで、ブッシュや米議会が京都議定書を拒否してきた理由である「途上国の十分な参加がない」という問題点を乗り越える形を作ろうとした。だがブッシュはこれに乗らず、温暖化対策を拒否する姿勢をほとんど変えず、アフリカ支援強化も表向きだけ協力するにとどまった。

そして、ブッシュがブレアの提案を断る代わりに行ったのは、中国やインドなどと、二酸化炭素などの排出削減技術の開発で協力する協定を結ぶという行為だった。この協定には、日本や韓国、オーストラリアも入っているが、イギリスを含む欧州勢は外されている。ブッシュが発したメッセージは、ブレアが提案する「欧米中心主義への回帰」を拒否し、中国やインドといった欧米中心主義が発展を阻害しようとした国々との協力関係を作るという姿勢である。

ブッシュは単に、自分が掲げた「単独覇権主義」などの方針を変えたくないという、メンツにこだわる依怙地なだけなのだろうか。ブッシュ本人は、そうなのかもしれない。しかし、政権全体としては、おそらく「欧米中心主義」とは別の戦略を追究し始めていると思われる。

別の戦略とは「多極主義」、つまり世界の中心を欧米に固定化するのではなく、中国、インド、ロシアなど複数の覇権国が存在している状態を、今のアメリカ上層部は目指しているのではないかと私は感じている。アメリカは世界を多極化しようとしているのではないか、という分析を、私はこれまでに何本か書いてきたので、それらを読んでいただくと、この間の経緯を理解していただけると思う。



▼多極主義の背後に資本の理論

重要なのは、アメリカの上層部がなぜ、自分たちが世界の中心であり続ける「欧米中心主義」ではなく、あえて中国やロシア、インドなどに覇権を譲り渡す「多極主義」を選ぶのか、ということである。私は、その理由は「資本の理論」にあるのではないかと考えている。

欧米や日本といった先進国は、すでに経済的にかなり成熟しているため、この先あまり経済成長が望めない。温暖化対策が途上国の経済発展の足かせとして用意されていることを見ると分かるように、今後も欧米中心の世界体制を続けようとすることは、世界経済の全体としての成長を鈍化させることにつながる。これは、世界の大資本家たちに不満を抱かせる。欧米中心主義を捨て、中国やインド、ブラジルなどの大きな途上国を経済発展させる多極主義に移行することは、大資本家たちの儲け心を満たす。 (欧米のマスコミで最近よく見る「予測」通り、地球温暖化による海面上昇で、このままだと数年後にロンドンやニューヨークが海中に沈むのだとしたら、温暖化対策は、経済的マイナスよりプラスの方が大きいということになるが、こうした「予測」は極論であり、政治的プロパガンダとしか見えない)

「資本家だって、ほとんどは欧米人(もしくはユダヤ人)なのだから、欧米中心主義(もしくは欧米・イスラエル中心主義)を望むのではないか」と考える人がいるかもしれない。しかし、産業革命以来の資本の動きを見ていると、資本(もしくは大資本家)とは、非常に国際的な存在であることが分かる。イギリスで始まった産業革命を、欧州大陸諸国やアメリカ、そしてロシアやアジアへと拡大、飛び火させていったのは、資本家の動きである。

(資本家の中心が反シオニズム・国際主義のユダヤ人だとしたら、資本家の特性と、国籍を選ばないという資本の特性とは一致する)

資本家が愛国主義を最重視したとしたら、産業革命で得られた技術をイギリスから出さなかっただろうが、歴史はそうなっていない。資本家は、産業革命が一段落したらイギリスを見捨て、まだ産業革命が始まっていない他の国に投資し、その国で産業革命を起こしてもっと儲ける道を選んだ。第一次世界大戦後、世界の覇権と経済の中心がイギリスからアメリカに移動したことにも、資本家の意志が感じられる。欲得が愛国心などのイデオロギーを上回っているのが資本の論理である。

資本家が世界の多極化を望むのは、以前からの傾向だった。アメリカの大資本家の代表格であるロックフェラー財閥は、国民党政権の時代から中国の経済発展を望んでいた。その後、中国は共産化し、アメリカの敵とされてしまったが、1970年代に入り、ベトナム戦争の泥沼を救うという名目で、冷戦重視派を押しのけて中国との友好関係を復活したニクソン政権のキッシンジャー補佐官は、ロックフェラーの政策大番頭だった。

最近ではキッシンジャーは、毎年のように北京を訪問し、共産党政権の首脳たちに対し、どうやったら大国になれるかをアドバイスし続けている。こうした動きの背景には「資本の理論」、つまり今よりもっと儲かる投資先を作り続ける、という意図があると思われる。

クリントン時代のアメリカは、デリバティブなど金融商品の拡大によって信用創造を行い、国内消費を喚起して世界経済の牽引役として機能していた。この体制は資本の理論に合っていたが、1997-98年の世界通貨危機後、この体制による発展が続かなくなり、ブッシュ政権になって、アメリカは政府も民間も債務が拡大し、ドルの不滅神話もどこまで続くか心もとない感じになってきている。



▼911で失われた石油利権

ブッシュ政権の中に自滅的な多極主義を推進する勢力がいると思われる他の要素としては、たとえば911事件でサウジアラビアを犯人扱いしたことがある。

サウジアラビアは、石油の産出力に大きな余力がある。従来のアメリカはサウジ王室と親密な関係を築くことにより、石油価格が高騰しそうなときにサウジに増産してもらい、石油価格を安定させてきた。サウジ王室は1930年代の建国以来、国作りの根幹をアメリカのノウハウに頼り続けており、親米以外の政策を採れない状況にあった。

石油は経済発展には不可欠な物資である。欧米諸国が、これまで欧米中心の世界体制を維持できた背景には、世界の石油流通の根幹をアメリカや西欧の石油会社が握るとともに、サウジに代表される産油国の政府を手なずける外交政策があった。

ところが、ブッシュ政権が911事件でサウジ政府を犯人扱いしたため、アメリカとサウジの関係は悪化した。以前の記事「サウジ滞在記(3)」に書いたが、911の実行犯19人のうち15人がサウジ人だとされていることは、米当局が仕掛けた濡れ衣である可能性が大きい。

サウジ王室は、その後も表向きは親米的な態度をとっている。だが、本質はどうなのか、疑問がある。サウジの王室やその他の金持ちたちがアメリカに投資していたオイルダラーの多くは、アメリカを離れて中東に還流しており、アメリカを敬遠する傾向が見られる。

このところ続いている石油価格の高騰に対しては、サウジ政府は増産して高騰を抑制することに協力していると表明しているが、本当にそうなのか。アメリカに裏切られたサウジは、ロシアやベネズエラなど他の産油国と裏で協定し、石油価格をつり上げて儲けているのではないかとも勘ぐれる。

ベネズエラ、イラン、スーダンなど、アメリカは他の産油国に対しては露骨な敵対政策を採っており、これらの国々は、世界最大の石油消費国であるアメリカを困らせると同時に、自国の富を膨らませることができるので、石油価格をつり上げる動機を持っている。

イランなどは、従来は米英だけに存在している石油の国際市場を自国に作ることで、石油の価格決定権を米英が独占してきた状態に風穴を開けようとしている。この試みが成功するかどうか、まだ分からないものの、アメリカは単独覇権主義を掲げたことにより、不必要に石油に対する支配権を失いかねない状況になっていることは確かである。

地球温暖化対策との関係で見ると、石油価格の高騰は、皮肉な効果をもたらしている。ガソリンの高騰が続くことで、米国民は自動車の利用を抑制せざるを得なくなり、二酸化炭素の排出量も自然に減るからである。



▼多極主義はブッシュ政権の隠された戦略?

911事件後、執拗にサウジ政府を犯人扱いし続けたのは、ブッシュ政権の中枢にいたネオコン勢力である。彼らは中東でサウジとライバル関係にあるイスラエルのためにサウジを攻撃し続けたという分析が一般的だ。だが私が以前から疑っていることは、実はネオコンは「隠れ多極主義者」であり、アメリカが従来推進してきた欧米中心主義の体制を破壊することが真の目的だったのではないか、ということである。  イラク侵攻の際、少ない兵力で十分勝てると主張し、フセイン政権崩壊後のイラク占領の過程で兵力不足を引き起こしたのは、当時のウォルフォウィッツ国防副長官に代表されるネオコン勢力である。「イラクは大量破壊兵器を持っていないのではないか」と主張するCIAをブッシュ大統領から遠ざけるとともに、極論をかき集めてイラクが大量破壊兵器を持っているに違いないという歪曲された論陣を張り、米国民を騙したのも、当時のダグラス・ファイス国防次官らネオコンである。

ネオコンは、米政界で強まっていた単独覇権主義の論調を極端に押し進めることで、事態を失敗に持ち込み、結果的に単独覇権主義を破綻させ、世界が多極化していく素地を作ったと考えられる。

とはいえ、ブッシュ政権内で隠れ多極主義者だと思われる人々は、ネオコンだけではない。ネオコンと対立していたとされるパウエル前国務長官と、その後任であるライス国務長官も、単独覇権主義を推進しているように見せながら、実は世界の多極化を推し進めてきた疑いがある。

パウエルは、国務長官だった2004年初めに、フォーリン・アフェアーズ誌に、アメリカはロシア、インド、中国を支援するという主旨の宣言を含む論文を発表している。彼は「アメリカは、強くて安定し、経済力と外交力を持った大国として中国が台頭することを望んでいる。中国の指導者も、それをよく知っている」と多極主義的なことを書いている。

ライスは6月初め、中国・ロシア・インドの外務大臣がロシアのウラジオストクに集まり、3カ国でユーラシアを安定させる協調体制を組むと宣言した会議が開かれる直前、この会議に出席する直前の中国の李肇星外相と電話会談し、アメリカは中国が国際社会の中で果たす役割を支援する、と表明している。こうしたライスの言動は、アメリカは中国やロシアを支援するというパウエル宣言の意志を受け継いでいる。 このほか、中国人民元のドルペッグを何としても外させようと中国に要求し続けたジョン・スノー財務長官の行為も、表向きは米企業の保護が目的だと言いながら、実質的には世界の多極化を推進している。

これらのことから言えるのは、ブッシュ政権の中枢には、単独覇権主義者のふりをして世界の多極化を推し進めている人々が多いということだ。ブッシュ政権は、最近のハリケーン「カトリーナ」への災害対策の無策ぶりに象徴されるように、行政能力の欠如が目立ち始めている。アメリカは世界のことはおろか自国のことも対応できない状態になりつつあるが、これは政権内の多極主義者たちにとっては、世界がアメリカに頼らない多極状態に近づくことを意味しており、むしろ好ましいことなのかもしれない。

半面、イギリスのブレア首相や、強いアメリカの復活を目指す米国内の政治家など、欧米中心主義者(国際協調主義者)にとっては、まずい状態が拡大している。このままでは、ブレアがG8で提唱した地球温暖化対策も、実現しないまま空中分解する可能性がある。

ブレアは9月5日から中国とインドを訪問し、両国との経済関係を強化しようとしている。ブレア自身、ブッシュを説得して欧米中心主義を復活させることを半ばあきらめ、世界の多極化に沿って自国の国益拡大を追及する道を模索し始めているようにも見える。



「地球温暖化のエセ科学」

2007年2月20日  田中 宇



2月2日、国連の「気候変動に関する国際パネル」(IPCC)が、地球温暖化に関する4回目の、6年ぶりにまとめた報告書の要約版「Summary for Policy Makers」を発表した。

この概要版報告書は、海面上昇や氷雪の溶け方などから考えて、地球が温暖化しているのは「疑問の余地のないこと」(”unequivocal”、5ページ目)であり、今後2100年までの間に、最大で、世界の平均海面は59センチ上昇し、世界の平均気温は4度上がると予測している。(13ページ、6種類の予測の中の一つであるA1Flシナリオ)

また、過去50年間の温暖化の原因が、自動車利用など人類の行為であるという確率は、前回(2001年)の報告書では66%以上を示す「likely」だったのが、今回は90%以上を示す「very likely」に上がった。確率の上昇は、実際の気候変動をシミュレーションするプログラムがバージョンアップされて信頼性が高くなったからだという。

この概要版報告書の発表を受け、世界の多くの新聞が「二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を急いで規制しないと大変なことになるということが、これで確定した」「温暖化について議論する時期は終わった。これからは行動する時期だ」「まだ議論に決着がついていないという奴らは、ホロコースト否定論者と同罪だ」といった感じの記事を流した。



▼三位一体で温暖化問題は完璧?

IPCCの発表とほぼ同時期に、地球温暖化問題を以前から推進してきたアル・ゴア元副大統領が出演した映画「An Inconvenient Truth」(不都合な真実)の宣伝が開始された。この映画では、地球温暖化によって世界の海面が6メートル上昇し、低地にあるフロリダやオランダや上海が洪水に見舞われる光景が描かれている。

これらの動きより数カ月前の昨年10月末には、イギリスの経済学者ニコラス・スターン卿が、英政府を代表して、地球温暖化への経済的な対策を提案する論文「スターン報告書」を発表している。この報告書は、地球温暖化による海面上昇が世界各地で大洪水を発生させて2億人が家を失い、温暖化の影響で干ばつになり発展途上国の飢餓がひどくなるなど、温暖化を放置することは、世界経済を毎年少なくとも5%ずつ破壊する悪影響をもたらすと分析している。

スターンは、対策として毎年、世界経済の1%にあたる資金を、温室効果ガスの排出削減など温暖化対策の技術開発にあてるとともに、ガスの排出権を売り買いできる世界的な取引市場を創設すべきだと提案している。

2月2日のIPCCの概要報告書は、地球温暖化問題に「科学的な根拠」を与えた。前後して宣伝開始されたゴアの映画は、温暖化がいかに深刻な問題かという「イメージ」を誰にでも分かる形で提示した。そして昨年10月のスターン報告書は、温暖化を回避するための「対策」を経済的に提案している。これらの三つの「三位一体」が正しいなら、もう温暖化問題は原因から解決方法まで分かったことになる。

地球温暖化を以前から問題にしてきたアル・ゴアと、もう一人のカナダ人の活動家に、ノーベル平和賞を与えるべきだという主張も出てきた。

最低でも毎年5%のマイナスになる深刻な温暖化問題を、わずか毎年1%の開発費で解決できるなら、安いものだ、という「結論」が見えてくる。これに反対する者、いまだに「温暖化の原因は、まだ特定されていない」などと言っている者は、石油会社の回し者であり「人類の敵」だ、温暖化への疑問視を許すな、という考え方が生まれてくる。「不確定な部分はあるが、温暖化は間違いない」として、懐疑的な者たちを黙らせ、世界中の政府に温暖化対策をとらせることが「運動」の目的になる。

だがしかし、この運動を裏づけるはずの「三位一体」は、実はいずれも正しくない。



▼海面はそれほど上昇しない

世界のマスコミでは、今回のIPCCの概要報告書は、人類が排出する二酸化炭素などのせいで温暖化がひどくなっているという仮説について、前回2001年の報告書よりも、より確定的な根拠を示していると報じられている。

だが実は、今回の報告書は、温暖化について最重要の点である海水面の上昇予測について、前回よりもひどさの少ない分析をしている。デンマークの著名な学者であるビヨルン・ロンボルグ(Bjorn Lomborg)によると、2100年までの約100年間の海水面上昇の予測値の平均値は、前回の報告書では48・5センチだったが、今回は38・5センチに減っている。

ロンボルグによると、海面上昇率の予測値は、1980年代にアメリカ政府の環境保護局は「2100年までに海面は数メートル上昇する」と予測していたが、その後IPCCが90年代に「67センチ」と予測し、2001年には48・5センチ、そして今回は38・5センチになった。予測値は、だんだん少なくなっている、つまり海面上昇による危険は、年とともに減っている。海水面は20世紀中に、人類が問題にしない間に20センチほど上昇している。今後あと40センチ上昇したとしても、大した問題ではない。

ゴアの映画の前提である「6メートルの海面上昇」は、80年代の古い数字をあえて今も使うことで成り立っている。今では否定されている昔の数字を使わないと、扇動的な内容に仕立てられないのである。

今年1月、ゴアは、映画の宣伝でデンマークを訪問したとき、ロンボルグと公開対談する予定になっていた。だがゴアは対談の直前、ロンボルグはゴアの意見に反対だという理由で、対談をキャンセルしてしまった。



▼学者の良心を悪用するIPCC事務局

今後の気温上昇や、寒波や熱波の予測回数など、海面上昇以外の分野の予測値は、前回と今回の報告書で、大体同じ数値となっている。

その一方で、温室効果ガスとして二酸化炭素と並んで悪者扱いされている大気中のメタンの量は、1990年初め以来増えていないことが、今回の報告書に記されている(4ページ)。メタンは、家畜の増加や水田の拡大によって増えるとされる。ほとんど温室効果ガスだけで温暖化を語っているIPCCの説に基づくなら、メタンの増加が止まることは、温暖化を緩和する方向の現象である。

温暖化で世界中の氷が溶けているかのような話になっているが、北極圏の氷は溶けているものの、南極圏(南氷洋)の氷は1978年から現在までの間に8%増えている。世界の温度を最も正確に計っているのは、アメリカの気象衛星だが、その測定値は、99年以来、上下はあるものの、全体としての平均温度の傾向はほとんど横ばいであ

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