12月 112008
*原田武夫氏のブログより 2008/12/10
「1ドル=50円時代の到来と保険業界の激震」
米国における自動車大手3社(ビッグ・スリー)に対し、来年(2009年)1月末くらいまでは“延命”するためのブリッジ(橋渡し)法案が今週中にも米連邦議会で採決に回されるかどうかに焦点があてられている。これを受けて、現状の1ドル=92円台から95円台程度までの円安ドル高へ復帰するのではないかとの観測も一部には流れ始めている。
しかし、こうした見通しが有効なのはあくまでも“極超短期”であることを忘れてはならない。去る6日から7日にかけて、オバマ米次期大統領は大手メディアに出演するなどして、自らの景気対策につき具体像を示し始めた。だが、そのために一体いくらの費用がかかるのかについて一切明らかにしていない。そのため市場関係者の間では「結局は絵に描いた餅に過ぎない」との見方が広まりつつある。
もっと現実的な見方をする向きが注目しているのは、昨年夏より露呈し始めた現下の金融危機が始まる前の段階ですでに邦貨換算で6000兆円余りにも上っていた米政府の財政赤字について、オバマ次期大統領が就任するや否や「デフォルト(国家債務不履行)宣言」を行わざるを得なくなるか否かである。正確にいえば、「デフォルト宣言をするか否か」というレベルの議論ではなく、これが行われることを前提としつつ、「一体いつ行われることになるのか」にむしろ焦点が当てられつつある。
オバマ次期大統領にとって“傷”が最も浅くて済むパターンが選択されるならば、来年(2009年)1月20日の大統領就任直後に「デフォルト宣言」ということになる可能性が高い。なぜならば、そうすることでオバマ新政権はそれまでの財政赤字の累積に対してはいわば免罪符を得る中、「CHANGE(変革)」の標語にふさわしい刷新策を続々と打ち出すことが可能になるからである。これに対し、最悪のパターンとなるのが、財政赤字の問題にはいったん目をつむり、とりあえずは景気浮揚策を打ち出すものの、結果的には財政負担の重圧に耐えられず、遅くとも6月までに「デフォルト宣言」を行うというもの。この場合、オバマ新政権に対する期待が一気に失望へと変わるため、マーケットでは米国債、そして米ドルが投げ売りになるとの観測がある。「その場合、1ドル=50円台も目指す可能性がある」(国内投資家筋)との現実主義的な見方も聞かれるようになっている。
米国債が投げ売りになった場合、米財務省証券について中国勢に次ぐ第2位の保有を誇る日本勢(統計上はJAPANと記載)も当然“無傷”では済まないはずだ。しかし、米政府が公表している統計上、JAPANというカテゴリーで日本の民間セクターが一体どれくらいの米国債を保有しているのかはつまびらかではないのである。
この点について現在、日本の主要各社が公表している財務諸表を点検してみる。すると、細かなことは判明しないものの、生命保険セクターが最大で10兆円、メガバンクが同じく最大で約10兆円程度、これに対し損害保険セクターが最も多くて4.3兆円ほどの米国債をそれぞれ保有していることが判明する。―――大変気になるのが、生保と損保との間にある明らかな“ギャップ”である。
そこからは、米国債がデフォルトになった場合、日本の生保業界に大激震が走る一方、損保業界は生き残るという「青写真」が見えてくる。つまり、有り体にいえば来年1月以降、日本の保険セクターでは「損保が生保を食う」というこれまでは想定外の事態があり得るわけである。当然、それは“救済”という名目のM&A(企業買収)ということになり、日本株マーケットで巨大なマネーの「潮目」を作り出すに違いない。
ちなみにこうした事情は必ずしも日本だけのことではない。ドイツでは現在、金融監督当局より11月20日付で国内保険各社に対し、「12月22日から来年1月11日までの間、各社経営幹部に対して必ず連絡が取れる携帯番号を教えること」という極秘の通達が出されているという情報がある。ドイツ政府はその理由などにつき、多くを語ってはいないようであるが、考えられる最悪の事態は米国における金融メルトダウンがさらに進む結果、米保険大手に何らかの形で激震が走り、その結果、世界的に保険業界の再編が進むというシナリオであろう。単純に資金繰りの悪化といった金融マーケット上の理由だけではなく、(通常は考えられないが)ある種の自然現象やテロによる保険金支払いの急増など、あらゆる可能性を考えておくべき局面が到来している(ちなみに11月26日に発生したインド・ムンバイの同時多発テロにより、保険金支払いをめぐり現地で最も混乱しているセクターの一つが保険業界である)。
クリスマス、そして年末年始と浮かれ気分になりそうな季節だが、その陰で着実に進んでいる「米国債」「米ドル」、そして「保険セクター」をめぐる展開から目が離せない日々が続くことになりそうだ。
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