2月 112008
現在、米国の株式市場は、モノラインに振り回されている。
(*モノラインとは、金融保証業務だけを行う専門会社。
一般の保険会社は複数の保険を扱いマルチラインといわれる。モノラインは、金融債務のみを対象にした保証事業だけを行うのでモノライン(単一の事業)という。証券の発行主体から保証料を受け、債務不履行時には予定通りに元利払いをする。
個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題が拡大している米金融市場ではモノラインの経営問題が浮上している。)
「モノライン会社大手の格付が引下げられた」と言ってダウ平均が急落したり、「資本調達がうまく行きトリプルAは維持できる」というモノライン会社経営者の言葉が伝えられると相場が急騰するという具合だ。1月30日にFOMCが予想通り0.5%の追加の利下げを実施したが、この効果もモノラインの危機話でかき消された。
現在、米国の実態経済は確実に悪くなっている。
1月の雇用統計で雇用者数は4年5ヶ月ぶりにマイナスになった。2007年10~12月期の実質GDPの成長率はわずか0.6%(年率換算)である。7~9月期が4.9%であり急低落といえる。米国ではマイナス成長(リセッション)に陥るか注目されているが、実質成長率の急落を見ると、既に12月頃にはマイナスになっていた可能性がある。
今のところ米政府とFRBの迅速な対応もあって、株式市場は小康を取戻しているかのように見える。しかし、米国の経済危機の本質はグリーンスパンが演出した住宅バブルの崩壊にある。住宅価格の下落が収まるまで、経済の不調は続くはずだ。楽観的な予想だと思われるが、米国の専門家も、住宅価格はまだ20~30%くらいは下落すると予想している。
住宅価格の下落がこのまま続けば、問題がサブプライム問題だけでは済まないことが、そのうち明らかになる。既にクレジットの延滞率が大きくなったり、車のローンの審査が厳しくなっている。米政府とFRBの今後の対応がどれだけのものになるのか不明であるが、今年の後半には米国経済がV字回復するという楽観論には無理があるだろう。
大きな利下げもあって金融危機が一旦収まったように見え、米国シティ銀行の株価も急反発している。しかしシティやメリルリンチが、必死になって資金(資本)を世界中から高金利でかき集めていることに注目すべきである。住宅などの資産の価格下落が続けば、金融機関の損失はさらに増える。そうなれば金融機関はさらなる資本増強の必要に迫られることになる。
日本の金融機関を好き勝手にしていたシティやメリルリンチも今度は自分たちが中国やアラブから資本を取り入れざるを得なかった。特にシティ銀行は、これによって8%のBIS規制をやっとクリアしているかどうか怪しい状況である。しかも中国やアラブからの調達資本はかなり高金利と言われている。アラブ資金は年利が15%という話が出ている。
モノラインの資本調達も困難を極めている。大手金融機関がこれだけの高コストで資金を調達していることを考えると、当然だ。モノラインの格付が下げられたら、保証している地方債なども格下げになる(保証が有効である条件は、保証しているモノライン会社の格付がトリプルAを維持していること)。格下げが行われれば債券を発行している主体は、格付機関に追加費用を払って再格付をしてもらうことになる。
フィッチは簡単にどんどんモノライン各社の格付を引下げている。S&Pやムーディーズより小手で、さらに英米系という気軽さがあるのかもしれない。S&Pはまだ時間を掛けて格付の変更を行うというスタンスである。一方、ムーディーズには近日中に格下げを発表するという雰囲気がある。また仮に資本増強がうまく行っても(民間の金融機関はモノラインへの出資を検討中)、四半期決算が2期連続して赤字なら格下げになるという話がある。モノライン各社はこれに該当するのである。
このような信用収縮が次々に起っている状況が続けば、資本の最後の出し手がそのうち話題になることは間違いない。当然、注目されるのは米政府とFRBである。またこれに伴って非伝統的な政策が行われる可能性がある(連銀による米国債の買入れなど)。しかし仮にこれが行われるとしてもまだまだ先の話と思われる。
アメリカ政府にしても自国の大手金融機関が、中国やアラブから資本を調達していることに戸惑っているのではないか。そこでどうしても浮上してくるのが同盟国であり、米国の「金のなる木」である日本からの資本調達である。まず民間のメガバンクが対象になろう。そこで、クローズアップされるのは「日本の郵政」ではないかと考えられる。世界中を見ても、日本郵政くらい余裕のある金融機関は他にないのである。奇しくも日本郵政の西川善文社長は、三井住友銀行の頭取時代、ゴールドマン・サックスからの資本調達を行った当事者である。
<デカップリング論>
サブプライム問題に端を発する世界的な株安に関して数々の嘘、虚言・流言がメディアで飛び交っている。
その一つが「一番日本の株価の下落が激しいのは、日本の改革が後退し外資が日本から撤退しているから」というものである。構造改革論者のよく口にする話である。 たしかに世界同時株安と言っても、日本の株価が真っ先に下落した。今年の始めまでは、日本の株価の下落率がダントツであった。
おそらく、その理由の一つとして、「日本の市場参加者がバブルの崩壊を経験しており、サブプライム問題にバブル崩壊の匂いを感じたこと」があるのではないかと考えられる。逆に言えば、世界の他の市場関係者はあまりにも鈍感であったといえよう。 また、日本政府や政治家が無責任な発言を繰返していることも大きく影響している。さらに外資ファンドの売り越しが株価下落を加速させた。外資の売り越しが始まったのは昨年の8月頃からである。
しかしこれは「日本の改革が後退した」というのではなく、外資金融機関の資金調達が困難になったからである。前段で説明した通り、米国の金融機関が資金繰りにずっと窮しているのははっきりしている。このため欧米の中央銀行は、昨年の夏頃から何度も短期資金市場に大きな流動性を緊急的に供給している。つまり外資系ファンドは資産(株式など)の換金売りに迫られていたのである。
しかし株の換金売りといっても簡単ではない。新興国のような小さなマーケットで換金売りを行えば、それこそ相場は大暴落する。したがって日本のようにある程度の規模がある市場が最初に狙われたと考える。そして外資は、日本企業の持合い解消と金融危機で株価が大底になった時に持ち株を大幅に増やしており、かなりの含み益を持っていると見られる。そもそも売り越しと言っても金額的には小さいことが無視されている。8月からの売り越し額の合計はたった2兆円程度である。有力企業の外人の持株比率はほとんど変わっていないはずである。
最近までデカップリング論というものがはやった。「サブプライム問題の米国や改革が後退した日本はダメであるが、中国やインドなどの新興国の経済は大丈夫である」というものである。たしかに日本の株価が下落した当初、新興国の株価はまだ上昇を続けていた。しかし今年に入って、新興国の株価は大幅に下落している。トータルの株価の下落率は、米国を除き世界中ほぼ並んだ(皮肉なことに米国の株価だけは下落率が小さい)。デカップリング論に乗せられて、新興国の株式に投資先を乗り換えた人は大損していることであろう。
「日本の改革が後退したから」の「改革」の意味が曖昧であるが、どうも日本の市場が外資を拒否していることを意味しているらしい。ご存じのように三角合併が解禁になり、2007年春、多くの上場企業が敵対的買収に対抗策を講じた。また米系投資ファンド、スティールパートナーズの買収攻勢にブルドックソースなどが徹底的に抵抗した。裁判所もブルドックソースの言い分を認めた。具体的にはこのようなことが「改革の後退」の意味になっている。
しかし外資が日本株の売り越しに転じたのは春ではなく、8月からである(7月までは買越していた)。「改革の後退」は既に浮いたセリフであるが、今でもメディアを通じて、多くのエコノミストが繰返し同様の発言をしている。このような発言を行っている者の一部は現実の経済に無知なのであろう。しかしここまで来ると裏に何かあると考えざるを得ない。
ライブドア事件の時、メディアに登場する著名なエコノミストの多くが外資系金融機関の顧問になっていることが明らかになった。顧問になって報酬を得ているのだから、外資に利益がある何らかの働きをしていると考えるのが普通である。しかし相場の指南をしているとはとても思われない。彼らはメディアに登場し、外資系ファンドに有利な発言をすることがおそらく仕事であろう。
「改革の後退」のような唐突な発言を聞いていると、彼らが外資系金融機関のエージェントと考えることが一番わかりやすいのである。以前、ある国会議員の議員会館に遊びに行った時、テレビに頻繁に登場するある外資系証券会社の外人エコノミストが日本の政治家に会うため白昼堂々と議員会館に来ていた。外資はここまで日本の政治に食い込んでいるのである。昔なら考えられない状況である
<正しいのは半分以下>
世界中の経済が変調をきたし、テレビなどメディアにエコノミストなどの経済専門家が登場する機会が増えてきている。ところがこの経済専門家と称する人々の発言がおかしい。はっきり言うと異常な、まさに虚言・妄言の類の連続である。
「外資が日本から逃げ出している」もその一つである。たしかに日本の株価の下落を演出しているのは外資である。1月も8,000億円くらい売り越ししている。しかし売っているのは外資だけではない。個人も売っている。買っているのは一般国内企業だけと思われる。国内企業は自社株買いや、多少の株の持合いを復活させている。
個人が、ライブドア事件以来、ずっと売りを継続していることはあまり話題にならない。しかし4割を越えていた個人の取引高も、直近では2割を切っている。反面、4割台だった外人の東証での取引が6割から7割に増えている。異常な事態である。本当に「外資が日本から逃げ出している」のなら、日経平均はとうに1万円を割っているはずである。
外資の中でも売っているのは主にヘッジファンドである。要するに買手不在の中、ヘッジファンドと個人が売るから株価がどんどん下がるのである。しかしヘッジファンドは株価が底に来れば買い戻してくるはずである。特にカラ売りしておけば、買い戻した時点で利益が出る。「外資が日本から逃げ出している」発言は、このヘッジファンドの投資戦略を助けるためのものである。だいたい日本株を売っても、その資金をどこで運用するのか考えてみればこのことが分る(資金繰りの都合や借金の返済を除けば、当面、米国や新興市場で株式運用を行うとは考えられない)。
たしかにメディアに登場するエコノミストの発言が全部「嘘」ではない。
半分くらいが正しく、残りが「虚言・妄言の類」である。問題は後者の部分にある。ところが経済専門家の多くは、テレビなどのメディアを通じてこのような真っ赤な「嘘」を垂れ流している。これではとても日本でまともな経済政策の世論は喚起できない。日本株をカラ売りしているヘッジファンド関係者は、うれしくてしょうがないであろう。
特に素晴らしいのはテレビ東京系の番組に出ているエコノミスト達である(親会社が日経新聞だからしょうがないか。)中でもWBS(ワールド・ビジネス・サテライト)のコメテータが最高である。変な新興宗教の信者の集まりのように見える。ただしテレビ東京系でも比較的正しいと思われるコメントをしている人も中にはいる。岡三証券出身のコメンテータは、なかなか納得できるコメントを孤軍奮闘して続けている。
おそらく、テレビに登場するエコノミストの発言の半分は正しいとして、正しい話は概ね前半に出る。前半が正しいと思われるので「ふむふむ」と聞いていると、最後にとんでもない話が飛出すという案配だ。話の全部が嘘ではないところが詐欺師のトークに似ているとも言えよう。
先月、テレビ朝日系の報道ステーションに登場したエコノミストは、サブプライム問題で適切な解説を行っていた。ところが最後に司会者の古舘一郎から「では日本政府が行うべき一番の経済政策は」と聞かれ、何と「ガソリン税の暫定税率の撤廃」と答えていた。このセリフにはさすがに吃驚する。
ガソリン;石油の暫定税率分と言っても、わずか2兆7千億円くらい(*廃止された定率減税分に相当する)のものであろう。たった2兆7千億円の減税で日本経済がどうなるものでもあるまい。(心理的効果はたしかにあるだろう。どうせ、中国経済が調整に入れば、石油価格は急落するに決まっている。)もちろんガソリン税は、特定財源になっており、減税分は歳出のカットに繋がる。つまり減税によるプラスの乗数効果と、歳出削減によるマイナスの乗数効果の見合いである。両者はほぼ相殺し合うから、経済に及ぼす影響はほとんどゼロと考えられる。
このようなことはこのエコノミストも先刻承知のはずであり、この発言は番組制作サイドの意向と考えられる。当時、民主党は政局狙いでガソリン税の引下げを主張し、マスコミも騒いでいた。メディアに登場するエコノミストはこんな情けない者ばかりである。
<外国から積極的に投資を受入れる?>
日本経済を立直すには「外国から積極的に投資を受入れる」という妄言もある。
これは「外資の日本からの逃亡説」に通じる。ただし前段で述べたように虚言・妄言といえども、話の半分は正しい。たしかに投資が行われれば、乗数効果によって需要が増え、GDPは増える。つまり投資によって経済成長するという点では正しい。
しかし問題は投資を行う主体が、なぜ、「外資」でなければならないのかということである。当然、経済理論上、誰が投資を行っても、乗数値に違いは生じない。つまり日本の資本でも投資の乗数効果は同じである。このようなことはちょっと考えてみれば分ることである。日本のマスコミはこんな幼稚な詐欺話を広めているのである。
たしかに中国のように外資の導入が経済成長のきっかけになった国はある。しかし中国の場合、資本を取込むと同時に先進技術を取得することが目的であった。今日の日本と全く事情が異なる。日本で「外国から積極的に投資を受入れる」と言っている人々は、同時に技術を取入れるなんて言っていない。中には「アラブの政府系ファンドから出資を受け入れよ」と言っているうつけ者さえいる。きっとアジア・ハンドボール協会の回し者だろう。
「外国から積極的に投資を受入れよ」と主張する人々は、外国からの投資額が大きい国ほど経済成長率の高いという幼稚な数表を持出して、この嘘話を広めている。話は原因と結果が逆である。経済成長が高いから、外資がやって来ているのである。
経済成長が高く、資本の予想投資収益率が大きいから、外資がその国に投資するのである。特に資本が乏しく、技術のない発展途上国は、外資にインセンティブを与えて、外資を導入したがる。一方、資本と技術が十分ある日本が、いまさら外資を取入れる必要は全くない。
日本は、高度経済成長期、今日の新興国と全く違う方法で経済成長を達成した。外資を徹底的に拒否しながら経済が大きく伸びたのである。ちょうど当時、米国から迫られた資本の自由化が進行し、外資に日本企業が乗っ取られるのではないかという危惧があった。そこで通産省は、自動車や電機業界の再編を進め、経営体質の強化を図ったのである。
特に自動車会社は、数が多く、競争力が弱いと判断された。まず日産とプリンスが合併した。また当時二輪車しか作っていなかったホンダ(本田技研)が、四輪車製造に進出することに通産省は徹底的に反対した。(これをホンダがどうやってひっくりかえしたか、ご存じの方も多いのではないか。)自動車業界の競争がさらに激しくなり、経営が脆弱化し、自動車業界が外資に対抗できなくなると考えたからである。
また次世代コンピュータの開発のための重複投資を避けるため、電機業界をいくつかのグループに分けた。例えば富士通と日立は組んで次世代コンピュータの開発を行った(たしかMシリーズ)。このように日本は、外資を徹底的に拒否しながらも、高い経済成長を実現したのである。「外国から投資を受入れなければ経済成長しない」とはまさに虚言・妄言の類である。
これに関して、最近ではとんでもない詐欺話が横行している。羽田空港施設への外資規制の話である。空港施設への外国からの出資を拒否することが、「けしからん」という話になっている。「外国から積極的に投資を受入れろ」と主張する詐欺師軍団から、日本の閉鎖性を示すものとして「ヤリ玉」に上がっている。
彼ら詐欺師達は、空港施設に外国人の出資を受け入れることが「世界標準」と言っている。しかし世界で空港施設への外国人の出資を自由に認めている国は、英国やベルギーなどわずか4カ国だけである。ほとんどの国は、空港施設などの公共インフラには外資規制を設けている。彼等のセリフは真っ赤な嘘である。
2年前、米国の港湾施設へのアラブ資本の進出が問題になった。ニューヨーク、ボルチモワ、マイアミといった米国の主要6港湾の施設を運営していたのは英国のP&O社であった。ところがUAEドバイのDPW社がこの英国P&O社を買収したのである。つまり米国の主要6港湾の運営がアラブ資本の手に落ちるといった事態に直面した。しかしこれに米国議会は猛然と反対した(港湾の運営がアラブ系になれば、アラブ系のテロリストの侵入チェックが甘くなるという理由)。随分もめたが、最終的にUAEドバイのDPW社は、米国の6港湾を切離して英国のP&O社を買収することにした。
このように港湾や空港という公共施設に対する外資規制は当り前に行われていることである。おかしいのは英国なのである。また米国では金融機関などの経済インフラへの外資の規制も暗黙のうちになされている。1980年代に住友銀行はゴールドマン・サックスに出資したことがある。しかし当時のFRBがこれにいい顔をしなかったので、出資比率を5%に抑えたのである。今日、米国の大手金融機関は、サププライム問題で資本不足に陥り、世界各国から出資を募っている。今後、米政府やFRBが、どこまで中国やアラブの大手金融機関への出資を認めるかが注目されるところである。
Sorry, the comment form is closed at this time.