*元外交官原田武夫氏のコラムより

200711/21


「最後に選ばれたのは、実は日本であった」という話


「日本終末論」を振りまく破壊ビジネスの立役者たち


最近、米国流の構造改革の継続を喧しく唱える「破壊ビジネス」の立役者たちが日本の大手メディアに復活してきている。正直、「もう、アンタはお呼びでない!」のであるが、あえてその主張をここで簡単にまとめてみると次のとおりとなる:


●日本は未だにデフレであり、経済成長率も低めにとどまったままである。そうした状況に陥った最大の要因は、「構造改革」がまともに継続されていないことにある。


●「構造改革」によって、とりわけ地方が取り残され、貧しくなった結果、格差社会が到来したとの批判がある。それは大きな誤りであり、地方のとりわけ農業にこそ、「構造改革=規制改革」を実施する必要がある。大規模農業を可能とする法制度の整備が必要だ。


●また、地方との格差を解消するカギとなるのが、地方分権。道州制の導入により、より効率的な地方自治を実現することが不可欠である。


はっきり言おう。もう、この手の「構造改革」論に国民は騙されない。2005年の秋に山場を迎えた「郵政民営化」の議論を経た今、こうしたもっともらしい「破壊ビジネス」論者の議論の裏側に、実際には米国のファンドや投資銀行といった「越境する投資主体」たちの利権が渦巻いていることはもはや明らかなのである。具体的にいえば以下のとおりであろう:



●大規模農業への転換を唱えるのは、そうしたビジネス・モデルで世界中を席巻してきた国際農業金融資本のためであることは明らか。膨大な資本力を背景に、容赦無い価格競争に入ることが可能な彼らを前に、戦後農地改革によって自作農となった日本の農業従事者たちは、続々と「土地を持たない農業労働者」か、「農業を放棄した他のセクターにおける労働者」へと転換を余儀なくされる。前者は特に問題であり、現地の安い農業労働者を搾取することによって成り立つアグリビジネスが、欧米系資本が伝統的に持つビジネス・モデルであることをあらためて思い出すべきだろう。


●道州制への転換によって、セクター内での再編が最も加速するのが地方銀行である。未だに多額の不良債権を密かに持つ地銀勢は、圧倒的な情報リテラシー不足で海外投資もままならず、多額の資金をいわば「宝の持ち腐れ」としている。道州制導入ショックの中で再編論議が行われれば、当然、こうした「宝」は世間に放出される。さらに、地方に所在する優れた技術力を持った非上場企業(その多くが中小企業)に対するファイナンスを行っているのが地銀勢であることを考えれば、地銀を握ることによって、これら企業をコントロールすることができるという旨みを米系の「越境する投資主体」たちが見出していないはずもない。


「まさか」と思われるかもしれない。しかし、とりわけ第2の論点は、とりわけ現在話題となっているサブプライム・ショックの餌食となったドイツの地方銀行勢が味わっている苦難から、容易に見て取れるものである。ユーロ高を支えているのはドイツ経済であり、そのドイツ経済を支えているのは、非上場の中小企業群である。しかし、これら企業は「非上場」である以上、オープンマーケットでは買えないのであって、米系の「越境する投資主体」たちからすれば、厄介な存在である。そこで考え出されたのが、これら企業のいわば「川上」に所在する地方銀行を貶めることであって、その手段がサブプライム・ショックだったというわけである。地球の裏側で現在進行形で起きている出来事をつぶさに知っている立場からすれば、日本の「破壊ビジネス」の立役者たちが再び声高に述べ始めたメッセージに密かに込められた意図は、もはや歴然としているというわけなのである。


「最後に選ばれたのは実は日本であった」という情報


「破壊ビジネス」の立役者たちが語るこうした「日本終末論」に騙されてはいけない。なぜなら、大手メディアは一切語らないが、実はマーケットの最深部において、今最も注目を浴びつつあるのは、何を隠そう、私たちの国=日本だからである。


このコラムにおいても、おいおいその「全体像」について語っていこうと考えているが、今回はそのポイントだけ、まずは記しておこうと思う:


円高・ドル安になって「日本マーケットは崩壊」と語るのは誤り。むしろ円高になると、平均株価が上がることに注意すべき。


●その際、ポイントは中国、および東南アジア。ドル安に持ち込まれる中で、これらの国々は日本との関係、とりわけそれぞれの国々の通貨の対円レートが相対的に現在よりむしろ安くなる可能性がある。その場合、これら諸国から日本に対する輸出ドライブがかかることになる。


●輸出ドライブがかかるといっても、中国・東南アジアは共に中間財・資本財を自らつくることができず、結果として日本に依存することになる。そのため、それまで好調であった対米輸出主導の大手メーカー(自動車など)にかわり、精巧な部品をつくるなど優れた技術をもった小型株該当企業が日本経済の「花形」となっていく。


・・・もっとも、これだけであれば、ある程度、予測がある程度はつくことなのかもしれない。しかし、重大なのは次のポイントだ:


来年早々に内需関連企業が急騰する可能性がある。これまで「死んだ」かのように見えた内需セクターがまたぞろ息を吹き返し、これらが平均株価を一気に押し上げていく。そうした状況を作り上げるのは、内発的というよりは、むしろ強制的に課される外来的な要因によるものである可能性が高い。「内需=公共投資」という既成の枠組みにとらわれた私たち=日本人には想像もつかない規模で事態は進行し、内需は花形となる。


まとめていえば、


1)日本の屋台骨ともいえる中小企業が前面に躍り出る展開となり、


2)その際、一部のベンチャー企業(新興市場銘柄を構成)も潮目を見極め、波に乗り、


3)他方で輸出関連企業に代わり、内需関連企業が一斉に上昇へと転ずる、ということである。これを、「金利上昇余地がある主要通貨」としての日本円が支持し、助長していくことになる。当然、そこでBRICsを中心とした諸国への海外投資に励んだままの者たちは馬鹿を見ることになる。なぜなら、「最後に選ばれたのは、私たちの国=日本」なのであるから。


どうやらこうした「好転する近未来の日本」を福田康夫総理大臣はご存知のようである?


最近になって、妙に来年7月の洞爺湖サミットに対する関心を示し始め、「所詮、来春行われる総選挙までの命だろう」とタカをくくっていた外務官僚たちをあわてさせていると聞く。また、こうした福田総理の姿勢変更は、地球の裏側=ワシントンではもはや「常識」と化しているようだ。


まもなくやってくる中国バブル第一次崩壊の「決定打」。そこでいたずらに流される悲観論の裏側に、実は「選ばれし日本における、選ばれし個人投資家たち」をめぐる無意識の争いがあることを、私たちは忘れてはならないだろう。―――激しく乱高下するマーケットの中で今、キリスト教が描く「淘汰」にも似た、選別の時代が静かに始まりつつある。


(私のコメント)


世界の金融市場が大変なことになっているが、(一人日本だけが、)日本銀行や邦銀などは別世界の出来事であるかのようなのんびりムードである? 1990年代の日本の状況から推測すると1997年当時の日本の金融市場のような事が欧米でも起きているということになる。つまり、シティやUBSクラスの大型金融機関がいつ、潰れてもおかしくはないという状況に現在、あるということだ。


十年前のアジア金融危機では、米国の国際金融資本が、やれBIS規制だの時価会計だのと日本の金融機関を締め上げ、アジアから日本の融資を引き上げさせて、タイから始まってインドネシアや韓国に至るまでの国をIMF管理下に置き、国際金融資本は破格値でこれらの国の主要産業を乗っ取ることにまんまと成功し、大儲けをした。


そして2007年の現在において日銀はゼロ金利を解除して0,25%ずつ引き上げて0,5%にしたが、逆円キャリが起きて欧米の金融市場に変調が起きるようになってしまった。つまり、現在、日銀こそが世界のマネーセンターバンクになっていると言えよう。


バーナンキFRB議長はこの事実に気がついていないのか、中国に出かけて資金援助を請い願っているようだ。確かに中国は1兆4000億ドルもドルを溜め込んでいる。アメリカはなりふり構わず中東の産油国やアジアの投資マネーを借りて金融危機を乗り切ろうとしている。しかし、どう考えても最後の貸し手となるのは日銀や邦銀である。


思い起こせば、1990年代当時はアメリカが日本経済を潰す目的で様々な方法で金融危機を仕掛けてきた。その手先が竹中平蔵氏であった。ソ連との冷戦で勝利し、アメリカは次の目標として日本経済を弱体化させるためにあらゆる手を打ってきたのである。しかし日本は何とか踏ん張って北拓や長銀や日債銀が破綻する程度で何とか踏ん張る事ができた? 小渕内閣も色々言われたが、最終的には公的資金投入で金融危機を切り抜けた。おそらく、現在のアメリカもそのような状況に追い込まれているはずだ。


しかし、当時の日本と現在のアメリカとでは大きく違う事は、日本は円高で貿易黒字国であるのに対して、現在のアメリカはドル安で貿易赤字国であるということだ。だから金利もなかなか下げられず、下げればドルが暴落してしまって大インフレになってしまう。ところが日本はゼロ金利でも円は高いままだ。日本にはそれだけ経済力があるということだろう。


現在のアメリカの手持ちカードは軍事力と金融力だが、どちらにも暗雲が立ち込め始めている。アメリカ自慢のハイテク兵器もアラブのゲリラ兵には通用せず、金融テクノロジーもサブプライム問題では欠陥を露にしてしまっている。


もし今、日銀が金利を引き上げればアメリカ経済は簡単にクラッシュするだろう。(もちろん、従米路線突っ走る日本政府がそんなことをするはずはないが、)1987年のブラックマンデーの数倍の破壊力があるだろう。実はそのブラックマンデーを食い止めたのも日本であり、現在までアメリカ経済=世界経済を影で支えてきたのも日本なのだ。日本銀行がゼロ金利政策をとり、マネーサプライを無尽蔵に米国を中心とする国外に供給してきたからこそ、世界経済は回ってきたのである。逆説的に言えば、世界一の債権大国の国民がその果実を決して享受することなく、結果的に多国籍化した大企業と米国を助ける政策をとり続ける日本政府の政策を許容した(小泉・竹中氏の構造改革政策を賛美した)からこそ、米国経済=世界経済は回ってきたとも言えよう。その犠牲者が日本国内、年3万5千人の自殺者なのだと言ってもある意味間違いではあるまい。


<米国での「金余り」現象(暦年ベース、CRB先物とNY原油は年平均)>




* CRB先物指数とは、アメリカのCRB(Commodity Research Bureau) 社が発表する


商品先物相場指数の事です。インフレの動向の指標とみなされていて、穀物、食用肉、貴金属、石油、農産物の17品目から構成されています。


*特に注目すべきは2002~2003年に掛けての為替介入である。


その額は約4,000億ドルという巨額な額である。米国の中東戦争の費用を日本政府が結果的に ファイナンスした事を意味している。


*小泉・竹中政権による経済政策の特徴は財政出動する代わりに大量の為替介入を行い=購買力を海外に移転し、日本のトヨタやキャノンと言った輸出産業を助ける外需依存 経済政策であり、さらに日銀にゼロ金利政策を継続させ、日銀の当座預金残高を35 兆円も積み上げるような超金融緩和政策だった。国内の需要を喚起させない半ば意図 的な金融緩和によって大量のお金が海外に流失したのである。


M.Yamamoto

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