8月 132011
歴史上、戦争に負けた国=日本が世界一の債権国(金持ち国)になり、戦争に勝った国=米国が債務国になった歴史は、不勉強なので確認はしていないが、おそらく世界史上、初めてのケースではないか。その不可思議な関係が、1980年代以降の日本経済の通常では考えられない軌跡を作り出してきた。
もし、日本が戦争に負けていない普通の国だったら、日本国民は世界一の債権大国の国民として、世界で一番豊かになれたはずである。そして世界中の美術品、文化財が日本に集まってきたはずである。当然、日本の「円」がドルに代わって国際基軸通貨になっているはずである。ところが現実にはそうはならない。日本が戦争に負けた国で、米国の保護国だからそうならないのである。この仕組みをそろそろ、日本国民も理解する必要があるはずだ。
簡単に言えば、1960年代、1970年代の日米貿易摩擦は、日本が債権大国になった時点、冷戦終了間際から、アメリカの一方的な都合で日米経済戦争になったのである。
事実、当時の国防次官補ジョセフ・ナイ氏も「ソ連は崩壊した。今後はアジアでの日本に対しての経済戦争だ!」と明言している。
ご存知のように戦後、日本は経済復興に集中し、アメリカに追いつけ追い越せで一生懸命頑張ってきた。それが1970年代で追いつき、1980年代にはついに逆転した。そのため米国は、冷戦後は「日本経済封じ込め」を世界戦略の第一番として実行してきた。
ここに日本の思惑とは全く関係なく米国による一方的な日米経済戦争が開始されたのである。
米国は冷戦後、ご存知のように日本へ厳しい対応を始める。
日米経済戦の開始は、1985年のプラザ合意である。
そして一つの時代の終わりを告げた1989年のベルリンの崩壊、日本経済のバブル崩壊、1991年のソビエト連邦崩壊と続いて行く。そして1993年クリントン大統領誕生での「ジャパンパッシング政策」=米国は、冷戦終了間際から、「ジャパンアズナンバーワン」と言われる程の経済大国になった日本を「プラザ合意」、その前後には、中国の「元」の大幅切り下げを認め、「ジャパンパッシング」と称する日本経済封じ込め戦略を着々と実行し、結果、現在の中国経済の成長を演出することとなった。目先の利くユニクロの経営者のような人々はおそらく、米国のその戦略を事前に知っていたはずだ。
1996年橋本内閣の誕生で金融ビッグバンを始める。もちろん、米国に騙されて押しつけられた政策だ。グローバル化、金融自由化政策とは米国の利益のためのルール変更であり、これで「日本株式会社」の経済成長の道は険しいものとなっていく。
1998年小渕内閣が誕生し大規模な財政出動による景気浮揚策を始めるが、小渕総理は本当に不可思議な死に方した。これも一説にはCIAによる暗殺だという説がある位だ。たしかに小渕氏が生きていたら、日本はこの時点でデフレから脱却していたかもしれない。
そして2000年に密室談合で決まった森内閣、2001年小泉内閣の誕生で日本および日本社会はいわゆるワシントンコンセンサス:グローバリズム=米国の国益のための構造改革路線を突き進むことになる。
これらを年表にしてみると
<貿易摩擦から経済戦争へ>
1985年 日米が経済開戦
・日航機123便撃墜事件発生 8月12日
・プラザ合意 9月22日
1995年 ・阪神淡路大震災 1月17日
・地下鉄サリン事件 3月20日
1996年 橋本政権誕生 ・金融ビッグバン
1998年 小渕首相誕生
・大規模財政投資で景気浮揚策
・突然死で2000年森政権発足
2001年 小泉竹中政権の誕生
・郵政民営化
・製造業派遣労働解禁等の政策
2009年 鳩山小沢政権誕生
・2010年 管政権に転換:従米路線に変更
2011年 3.11東日本大震災
日本と米国との経済問題は、1985年以前の冷戦時には貿易摩擦で留まっていた。
そして1985年、日本政府は円高容認のプラザ合意に屈し、為替は合意時1ドル240円から1989年には120円まで上昇、日本保有米国債の価値は1/2に、日本は膨大な為替差損を被ることになった。
2000年4月には小渕首相が突然死で森内閣になり、2001年に小泉・竹中政権が発足し、郵政民営化を始めとする数々の日本の改造政策を米国の意向通りに進めていくことになる。
米国の要望による小泉・竹中政権の米国のための政策を列挙すると
・郵政民営化
・製造業派遣労働解禁(1999年から実施)
・残業代ゼロ合法化
・ゼロ金利政策の継続
・三角買収の許可(会社法の改正)
・為替介入名目で米国債大量買付
・長銀等の解体による日本金融機関の叩き売り
郵政民営化は、もちろん郵便貯金と簡易保険の資金350兆円を米国が手に入れるための政策だが、まだ成功はしていない。最も普通の国民に影響を与えたのは製造業派遣労働解禁や残業代ゼロ合法化の改革かもしれない。
それでは米国によって一方的に仕掛けられた日米経済戦争の結果はどうなったのか。
1980年~2010年の日米中GDP推移を下図に示す。
日本のGDPのピークは1995年でありその後は全く経済成長できない状態に封じ込められている。一方米国は、順調に右肩上がりの上昇を描き、日米経済戦争において米国が勝利したことがよくわかる。軍需産業と農業以外目立った産業がない米国が軍需力を背景に世界からカネを収奪する帝国循環を作り出した結果であり、その筆頭は日本、サウジ及び最近は中国からであると言われる。つまり、日本を中心に合法的にお金を収奪することによって米国は金融立国に成功したのである。
日本を踏みつけにして順調に拡大していた米国経済であったが、最近は当然のごとく大変な状況に落ち入っている。サブプイムローンによる住宅バブルの崩壊で金融恐慌から本格的恐慌へと病は進行中である。世界へ金融工学詐欺技術によって不良債権を売ったことで信用も低下し、米ドルの下落が止まる気配がない。返済不可能な負債(実際には日本円にして6,000兆円以上)を抱えた米国は、「帝国以後」のエマニュエル・トッド氏が言うように覇権国家転落目前である。
そういった事態を少しでも先延ばしするためには現在米国は、手段を選ばない状況まで追い込まれていることを日本人は認識すべきであろう。
上記のGDPのグラフを見ればわかるように、米国がもし1980年代に日本に対して何の手も打たなければ、文字通りジャパンアズナンバーワンになっていたのである。
おそらく、プラザ合意以降、日本から米国にファイナンスされた金額は軽く1,200兆円を超えるのではないかと思われる。そして現在の米国経済の状態からみて残念ながら、その元本が返ってくることはほとんど有り得ないことを日本人は覚悟する必要がある。
かつて英国人の経済アナリストのピーター・タスカ氏がニューズウイークでこんな指摘をしていた。
(引用始め)
(『ニューズウィーク日本版』2004.2.11号「ON JAPAN」)
「日本政府は為替市場でまったく惜しげなく金を使っている。正確にいえば、日本は『使っている』のではなく『貸している』。為替介入は米国債を買う形で行われているからだ。金を使っているのは米政府だ。戦争をしながら減税を行い、政府機能も拡大する『ブッシノミクス』が可能なのは、日本が気前よく金を貸してくれるおかげだ」。
「日本政府は国内で歳出を抑えているのに、海外では何十兆円もの金を平気で投じている」。
「国の財政が本当に破綻寸前なら、何十兆円もの金がどこから出るのか。日銀が刷っているのだ。その一方で日銀は、市中から金を吸い上げることで、影響を相殺している」。
「ここで浮かんできた疑問に、誰か答えてくれないだろうか。日銀はアメリカの減税を間接的に支えているのに、なぜ日本の減税を直接支えないのか。日本政府はイラクの経済復興を支援しているのに、なぜ破綻寸前の日本の地域経済を立て直そうとしないのか」。
「日本のエリートは……なぜ庶民の生活の質を高めるために力を尽くさないのか」。
(引用終わり)
おわかりだろう。残念なことだが、米国の保護国である日本のエリートは米国の顔色を見て仕事をしているのである。我々国民の方を向いていないのである。そしてそのことをマスコミが資本の論理に従って米国の支配を受け、隠し続けてきたのである。
ところが、3・11が今までの日本の政治経済構造の一部を表に出しつつある。現在は文字通り、1985年に始まった日米経済戦争が覇権国である米国の衰退によって最終局面に入りつつあると考えるべきであろう。
おそらく、ほとんどの日本人は、マスコミが本当のことを報道しないので、日本が米国と経済戦争をしているとは考えていないはずである。現在、米国が一方的に経済戦争を日本に仕掛けてきてすでに四分の一世紀が過ぎようとしている。
今こそ、本当のことを恐れずに語る政治家・ジャーナリストの登場が必要だ。
(引用始め)
『月刊日本』2010年1月号 羅針盤より
―自殺者は日米経済戦争の戦死者だー
朝日新聞の十二月六日朝刊、オピニオン欄の「世界衆論」のところに、「日米安保50周年 日本外交を問う」と題する、丸々一ページを使った座談会が載っている。出席者は、岡田克也・外務大臣、五百旗頭真・防衛大学校長、久保文明という東大教授の政治学者、藤田直央という朝日の記者、以上の四人である。
この中で五百旗頭氏が言っていることが、なかなか興味深い。日本の戦後は、「米国の力を日本の安全に活用した日米同盟があったので、軽軍備でやっていけた。米国はGDP(国内総生産)の4%以上を軍事費に投入し、今や平和な欧州も3%の軍事費を費やしている。日本は0・9パーセントで済んでいる。」「もし日米間に信頼が失われ、日米同盟が揺らげば、例えば核とミサイルで北朝鮮から脅かされる際に、日本の中では危機感が過熱し、『核武装が必要だ』とか『自前の完結した軍事能力がいる』となる。そうなれば欧州のように軍事費は3%水準になる。」
同じようなことは、元外交官も言っている。十月二十一日の産経新聞によれば、松山市で前日行われた、愛媛正論懇話会の講演で、前駐米大使でプロ野球コミッショナーの加藤良三氏が、「日米安保廃棄で日本がGDP(国内総生産)比で防衛費を諸外国並みとすれば、さらに数兆円規模の予算が必要になる」と言ったという。両氏が語っているのは、従来から常々言われてきた、安保条約のおかげで日本の軍事費が少なくて済み、経済的に助かっていると言う話である。それは戦後の経済復興の時期だけでなく、現在においてもそうだから、安保条約を維持すべきと言う論であり、これ自体は極めて陳腐な議論である。
日本の軍備について殆ど知識のない私が、両氏の話で特に感銘を受けたのは、軍事大国のアメリカはいざ知らず、諸外国並み、欧州並みの軍事費を投入すれば、「自前の完結した軍事能力」も持てるし、核武装もできるという指摘である。すなわちそうなれば、安保条約は廃棄することができるのである。五百旗頭氏は、その言動についていろいろ批判されている人物であるが、防衛大学の校長なのだから、日本の防衛についてデタラメなことを言っているわけはないだろう。高級外務官僚だった加藤氏も同じだろう。この指摘は私にとって、新鮮な驚きであった。
ただし私は以前から、安保条約のおかげで日本の経済が助かってきた、という説明には本当なのかと疑念を抱いてきた。経済成長期に、安保のおかげで経済に集中できたとされるが、例えば中共では、急速な経済成長と軍備の大拡張とは、立派に両立してきた。更に言えば、通説とは全く逆に、安保条約のために、日本の経済が甚大な被害を受けた側面があるのではないか。それは日本の経済が成長するにつれて、アメリカが警戒するようになったことである。一般にソ連の崩壊によって、アメリカの警戒対象が、ソ連の軍備から日本の経済に移ったとされるが、それ以前から日米経済摩擦は存在した。経済における対日攻撃は、プラザ合意、構造協議、年次改革要望書などと続き、小泉改革にまで至る。
問題はその攻撃に対して、日本の政治家も官僚も、たいした抵抗もできずに屈服してしまったことである。この戦後の経済的敗戦を、「第二の敗戦」と言っているが、第一の敗戦と大きく違うのは、戦わずして負けたということである。ではなぜだらしなく屈服してしまったかと言えば、それは国防をアメリカに完全に依存した、アメリカの保護国であるからに他ならない。つまり日米安保があったために、日本は甚大な被害を蒙って、経済的に敗北したと言うことになる。それが「失われた十年」どころか二十年であり、この間GDP は殆ど伸びず、一人当たりGDPで見れば、世界三位から一挙に二十位近くに急落した。
ところで現在の経済の苦境の原因を、小泉改革のみに求める人がいるが、それは明らかに正しくない。最も簡単に分かるのは、自殺者の数である。自殺者数が、それまでコンスタントに維持していた二万人台から、一挙に八千五百人増えて三万人台になったのが、一九九八年(平成十年)である。それに対し、小泉首相の登場は三年後の二〇〇一年の四月である。以後、自殺者数は現在まで、一貫して三万人台を保ち続けている。自殺の原因はいろいろあるとしても、その根本原因は経済の不況であることは、全く疑いようもない。
つまり不況の自殺者とは、端的に言って日米経済戦争における戦死者なのである。大雑把に計算すれば、毎年約一万人として、すでに十二万人になっている。これは日露戦争の戦死者、数万人の二倍の数字である。日本の政治家も官僚も、日本の国家権力を握っている人間どもは、日本国民の財産どころか生命すら守っていない。すなわち日本の安全を守るため、日本人の生命を守るための日米安保条約が、実際には日本人の大量の生命を奪っているのである。これほど愚かしい話は、世界の歴史上にも滅多にないであろう。
日本は日米安保条約を終了して、軍事的にも自分自身の足で立つべきである。先述したように、その費用は大してかからない。「今や平和な欧州」ですら出している程度の額なのである。民主党政権は、子供手当てに大金を投入しようとしているのであり、日本の真の独立のためなら、なんでもない金額ではないか。
真の独立ができない内に、アメリカが衰退し、中共が興隆すれば、ハンチントンが言ったように、日本はアメリカの保護国から、中共の保護国に転身するだけである。現に民主党政権は、それを構想しているようだ。鳩山首相の東アジア共同体にしても、小沢幹事長の大型訪中団にしても、その具体的な表れだろう。ただし中共の保護国になることは、アメリカの保護国と違って、その先があることを知っておかなければならない。私が以前から指摘していることだが、そこには日本国家の亡国と、更には日本民族そのものの滅亡とが待ちうけているのである。(引用終わり)
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