1月 142012

「医者まかせ」にならないために知るべき身体の基本が書かれています。根強い人気があった本が文庫化されましたので、紹介します。



『免疫革命』の著者、安保徹氏は新潟大学医学部の教授である。

彼はこの本を書いた動機を、こんなふうに述べている。

「現代医療が病を治すどころかむしろ重くして」いる一方、「民間療法的な免疫療法、代替医療には科学的・理論的裏づけがない」。そこで「病気の根本的な謎を解き」、「免疫力がなぜ病気を癒すのか、その全体像を」明らかにする、と。いわば『がん患者学』が問いかけている問題に、学問的な裏づけを与えようというわけだ。といっても、研究書ではないから患者に語りかけるような口調で書かれている。

 著者がここで取りあげているのは、ガン、アトピー性皮膚炎、膠原病。いずれも現代の難病といわれる病気である。これらの病気に対する現代医学の療法はすべて対症療法であり、体が持っている免疫力を徹底的に抑えこむもので、病気を根本的に治すという目的には本来そぐわないのだと彼は、言う。

 たとえば抗ガン剤はガン細胞の細胞分裂を抑えこむけれど、リンパ球などほかの細胞の新陳代謝も抑えこんでしまうので、ガンは小さくなっても体力がおとろえ、体全体の治癒力がなくなってしまう。アトピー性皮膚炎に使われるステロイドは皮膚に沈着し、新しい皮膚炎や炎症を起こす。そこでさらに強いステロイドを使うという悪循環におちいって、自然治癒のチャンスを奪ってしまう。

 興味深いのは、痛みや熱や発疹というものは、体が自分を治そうとしている治癒反応なのだという指摘である。だから熱や痛みや炎症を通過しなければ、病気になった人間の体は元に戻らない。耐えられない症状に短期間、効き目の強い薬を使うのはいいけれど、長期に使えば逆に薬が新たな病気を生みだし、本当の治癒には行きつかない。

 免疫というのは、体のなかに入ってくる異物を消化したり吐きだしたりする仕組みで、白血球がこの働きを担当している。その白血球は自律神経によってコントロールされている。自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経は体の興奮をつかさどり、副交感神経が働くと体をリラックスさせる。

 白血球には大きくわけて顆粒球、リンパ球、マクロファージという3種類がある。顆粒球は交感神経に支配され、リンパ球は副交感神経に支配されている。

 顆粒球は体内に入ってくる細菌を処理するが、強いストレスを受けたりして交感神経が過剰に反応すると、異常のない組織まで破壊してしまうことがある。ガン細胞はそのようにして生まれる。だからガン患者のほとんどは、働きすぎや心の悩みといったストレスを抱え、交感神経が過剰に働いて顆粒球が増え、逆にリンパ球が減って免疫が低下している状態にある。

 リンパ球はウイルスなどの抗原と戦うが、リラックスしすぎて(具体的には運動不足や食べすぎ、肥満で)副交感神経が過剰に働くとリンパ球が増え、アレルギー性の病気を引きおこす。アトピーがこれに当たる。少子化による過保護、食事の内容が良くなったこと、外で思いきり遊ばせない、炭酸ガス(飲料)の取りすぎなんかが、副交感神経を過剰に働かせる原因となる。

 要するに、人間の体は交感神経と副交感神経のバランスの上に成りたっているので、そのバランスが崩れることが病気の原因になる。交感神経が働きすぎて顆粒球が増えるとガンなど組織を破壊する病気になるし、副交感神経が働きすぎてリンパ球が増えるとアレルギー系の病気になる。 

 白血球の平均的なバランスは、顆粒球60:リンパ球35:マクロファージ5だという。

「つまるところ、病気になるかならないかというのは、私たちの生き方にかかっています」と著者は言う。「心の持ち方が体調をつくる」「意識と無意識をつなぐ呼吸が重要」「体を冷やしてはいけない」と、著者の言うことは医者というよりは民間医学の格言に似てくる。でも、免疫という学問の領域を一回りした後にそう言われると説得力を持ってくる。

 もうひとつ、著者の言葉で深く納得がいったのは、病状や検査結果を考えるとき、「数字ではなく自覚症状が大切」ということだった。数字ではなく、食事がおいしくなっている、体の冷えがなくなっている、顔色が良くなっている、疲れやすさがなくなったなど自覚症状が改善されていれば、数字が変わらなくとも、いずれ良い結果が出るものだという。

 そういう姿勢は、著者のこんな言葉に象徴されているだろう。「私たちが生きものとして本来もっている危機意識、野生動物の勘みたいなものを、もう一度呼びさますことが必要です」。

 民間医療や東洋医学ならともかく、国立大学で西洋医学を教える現役の医師・研究者の著書としては、ずいぶん思いきったことを言っている。

安保 徹氏プロフィール 

・新潟大学院歯学部総合研究所教授(国際感染医学・免疫学・医動物  学分野)。研究の傍ら、「健康と免疫」、「病気と生き方の見直し」等のテーマで全国各地を講演中。

・著書には「免疫革命」「未来免疫学」「体温免疫学」「こうすれば病気は治るー心とからだの免疫学」「絵でわかる免疫」など多数。
1947年  青森県生まれ。
1972年  東北大学医学部卒業。
1980年  アメリカ・アラバマ大学留学中、
    「ヒトNK細胞抗原CD57に関するモノクローナル抗体」を作成。
1989年  胸腺外分化T細胞を発見。
1996年  白血球の自律神経支配のメカニズムを解明。
2000年  胃潰瘍の原因が胃酸であるとの定説を覆して注目される。
 
 

<安保徹教授との一問一答> 

   ~免疫の仕組み~

問1:まず、安保教授と免疫研究についての出会いを教えていただけますか?

 

安保:わたしは大学を卒業して研修医になった頃、たまたまガンとリウマチの患者さんを中心に診療する部門に入りました。この医療現場に約2年いましたが、次第にわたしは臨床と言うものに限界を感じ「何か新しいものが見えてくるかもしれない」と思って免疫学の研究に入ることにしました。
そこで、環境の変化が交感神経の働きに影響を与え、それに伴って白血球の中の顆粒球とリンパ球のバランスが変動することを発見し「多くの病は顆粒球とリンパ球のバランスが崩れる自律神経系の破綻が原因」と結論づけました。疲れやストレスを抱えると、顆粒球を支配する交感神経が活発になり、増えすぎた顆粒球が粘膜を破壊して胃潰瘍やガンの発症原因になります。
しかし休養などで免疫力を高めるとリンパ球が再び増え、バランスが回復し、病気を治癒できるわけです。

問2:素朴な疑問なのですが、免疫はどうやってできるのですか?

 

安保:まず突然体に何かの異物が侵入すると、その異物に対して免疫が出来、免疫が一度出来てしまえば、その異物が原因となる病気にはずっとかからなくなる、という現象はご存知だと思います。
私たちの身体はいろいろな細胞から出来ていますが、ほとんどの細胞は本来持っている多様な能力の一部しか使っていません。
例えば、腸の細胞は吸収する能力、神経細胞はネットワークを作って知覚を伝達する能力、また生殖細胞だったら卵子や精子を作る能力、というようにそれぞれの細胞が使っている能力は非常に偏っています。ところが、私たちの身体の中には単細胞生物時代だった頃の細胞と同じように多面的な仕事をこなす細胞が残っています。それが免疫に関わる細胞です。
単細胞と言えば、いちばんにアメーバがイメージされると思います。アメーバは生態が行うありとあらゆる活動をたった一つの細胞ですべて行っています。そういう細胞は私たちの身体の中に今も残っています。それが白血球です。

安保:白血球は普段は身体の血液の中をくまなく循環しています。その白血球は異物が入った時にその場にちゃんとたどりつけるように、いつも体中を巡回しながら監視体制をしている細胞です。
わたしたちの身体をウィルスや細菌の侵入から守る免疫システムの要になっているのは白血球です。白血球にはいろいろな仲間がおり、それぞれが得意分野を持って免疫システムのために働いています。その仲間はリンパ球や顆粒球、マクロファージに大きく分けられます。さらにリンパ球はT細胞やB細胞、NK細胞など個性的な働きをするメンバーに分類されます。

問3:ではわたしたちが免疫力のアップを目指すために、普段からどんなことを心がければよいでしょう?

 

安保:わたしたちの心と身体は非常に密接につながっています。例えば、ひどく心配なことがあれば、食欲は落ちるし元気もなくなり、朝起きるのもいやになります。悪い精神状態では身体の動きを止めてしまうことになるでしょう。
心と身体の二つをつなげているのは自律神経です。自律神経はありとあらゆる細胞を支配し、白血球も支配しています。免疫アップを目指すなら、「ムリ」をせず「ラク」をしないことです。強いストレスを出来るだけなくし、メリハリのある心のあり方や生き方がバランスの良い状況を生みます。また食などの生活改善と呼吸も大切です。

安保:また健康を維持するためには、自分の性格や傾向を見極めて、極端な状態になってしまわないように心がけることです。もちろん人生には時折不可避的な苦しい状態も訪れます。確かにそれがストレスになることがあり、強い感情の働きは、身体に必ず影響を与えます。ちょっとしたことでくよくよ悩んだり、ねたみやひがみの気持ちを持ち続けたりすると、限度を超えたときに破綻をきたすことでしょう。またよこしまな心を持ったり、他人の足を引っ張ろうとすると、心の持ち方がゆがんで、体調もゆがんできます。心の持ち方は病気を防ぐ上でとても大切なことだと思います。体調のよしあしは自分自身にある、わたしはそう考えています。

問4:安保教授は普段の生活で、健康にどんなことを心がけていますか?
安保:わたしは以前ささいなことでしょっちゅう怒っていました。しかしある時期から怒ると言うことは身体によくないと悟り、マイペース型になりました。今はバランスよい食事をし、適度な刺激の中で楽しく生活することに徹しています。また早寝早起きを心がけています。これが今のわたしの健康法です。

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