健康寿命を考えるべき時代

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5月 042017

人口の高齢化と減少に直面する日本は、諸外国に先駆けて歴史上、未曾有の状況に入ろうとしています。問題は認知症をはじめ、数々の慢性疾患を抱えて長生きしても健康でない人の数が増え続けていることにあります。少しでも健康でありたいという人々の願望が、健康食品・サプリメントの売り上げにも端的に表れています。年々増加するこれらの商品の売り上げは現在、約1兆5千億円に達し、将来的には3兆5千億円の市場規模になると予想されています。ところで、<健康上の問題で日常生活が制限されずに過ごせる期間である「健康寿命」が現在、大きな注目を集めていますが、現状はどうでしょうか。

10年前後もある日本国民の「不健康な期間」(=平均寿命-健康寿命)

データ出所:厚生労働省(2010年)

グラフを見ていただければ、一目瞭然ですが、日本人の人生最後の約十年は不健康=病気だということがすぐにわかります。考えるまでもなく、一年間に約1兆円ずつ増加している医療費の財源問題を解決するには、これから、どれだけ、健康の人を増やせるかにかかっていることは言うまでもありません。にもかかわらず、日本人の健康に対する意識は、まだまだ低いのが現実です。すでに世界保健機構(WHO)は、1998年に健康を「健康とは、身体的・精神的・霊的・社会的に完全な良好な動的状態であり、単に病気あるいは虚弱でないことではない」と明確に定義しています。ここで言う霊的な健康とは、人生の意味感、希望、充実感、安らぎなどがもたらしてくれる健康を、社会的な健康とは、家族、友人、配偶者、子供たち、あるいは職場や地域の様々な人々の絆が十全に機能していることがもたらしてくれる健康を意味しています。如何でしょうか。この定義に基づいて、あなたは自分自身を健康だと言い切ることができるでしょうか。ところで、お隣の浜松市が20大都市(19政令指定都市+東京都区部)のなかで健康寿命が一位だということで話題になったことがありましたが、それでも男性:72.98歳、女性:75.94歳に過ぎません。今、問われているのは罹病してからの治療やケアではなく、罹病しないための事前の予防や健康増進だということです。その意味で私たち一人一人の「ヘルスリテラシー」=健康増進、予防・保健・医療・福祉に関する知識、情報を理解、評価し、活用する力が試されています。もちろん、企

業おいてもできうる限り、健康な職場を目指すべきですし、地域コミュニティにおいては、住民の健康はその地域のかけがえのない資産だという発想が強く求められています。たとえば、栃木県の大田原市では、<1日に8000歩を歩くことによって1人当たり、年間4200円の医療費削減になる>という厚生労働省の試算に基づいて「めざせ300万歩」というウオーキング推進事業を健康政策課が2013年から手がけています。また、上田清司埼玉県知事は、日本の生産年齢人口を2074歳で考えれば、2040年前には日本が世界のトップになるという興味深い指摘をしています。そして、月から金曜日は65歳未満の方が、土、日曜日、休日は65歳以上の人が働くシステムを構築すべきだという大胆な提言をしています。

何れにしろ、将来のあるべき姿を発想の出発点として「今」を大胆に変えることが健康寿命を延ばすことについても求められています。

生産年齢人口の推移

クールジャパンの裏側にあるもの

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4月 252017

劇作家の鴻上尚史(こうがみしょうじ)氏の軽妙な司会振りで人気の「クールジャパン」という長寿番組がNHKBS1)放映されています。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。2010年に経済産業省が「クール・ジャパン室」という部署を作り、クールジャパンを産業政策に取り入れるようになってから、外国人の目から見た、日本人の気がつかない日本の格好いいものを紹介する<クールジャパン>から、<日本スゴイ>という「日本われぼめ」とも言うべき称賛ブームにクールジャパンはいつの間にか、変質していきました。そう言った動きに合わせるように日本人の意識調査(NHK放送文化研究所による2013年調査)でも、「日本人は、他の国民に比べて、きわめてすぐれた素質を持っている」と答えた人は67.5%、高度成長を経て世界に冠たる経済大国になり、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた1983年の調査の71%に迫っています。同様に「日本は一流国だ」は、54.4%で1983年の57%に近づいています。一方で数値化することには、いろいろな意見はあるでしょうが、国連が定めた「世界幸福デイ」である320日に、国連と米コロンビア大学の研究所が発表した世界幸福度ランキングで日本は、155カ国中、51位でした。このランキングは、調査対象にする国の国民の自由度や、1人あたりの国内総生産(GDP)、政治、社会福祉の制度などをもとに20142016年の「幸福度」を数値化し、ランク付けしています。ちなみに上位5カ国のうち4カ国(ノルウエー、デンマーク、アイスランド、フィランド)を北欧が占め、報告書では「上位4カ国は、国民の自由度、政治など幸福に関係する主要なファクターの全てで高評価を獲得した」とも指摘されています。また、国際NGO「国境なき記者団」による2016年度の報道の自由ランキングでは、調査報道の不足、メディアによる自主規制、特定秘密保護法等の問題点が指摘され、日本は前年の61位から後退し、180カ国中72位となっています。ところで、戦後の焼け跡から目覚ましい復興を成し遂げた時ではなく、今、「クールジャパン」「日本スゴイ」ブームが起きていることを私たちは、真剣に考えてみる必要があります。以下のグラフを見れば一目瞭然ですが、1991年以降日本の名目GDP(国民総生産)は、全く増えていません。

*内閣府「国民経済計算(GDP統計)」をもとにに作成

現在、このような経済状況下で、日本を称賛する番組や本が持て囃されているのは、明らかにおかしな社会現象と申せましょう。考えてみれば日本が本当に「凄かった」高度成長時代に私たちは「日本はスゴイ」などとは言ってなかったのです。まだまだ、日本はこれからやるべきことが山積だと考えていたのです。現在、2012年に始まった日銀による異次元金融緩和政策が行き詰まり、デフレ脱却の雲行きも怪しいなか、年金資金や日銀資金の投入によってかろうじて現状の株価を維持しています。現実を客観的に見る冷静な眼を持たなければ、本当にクールな日本になることはできないのではないでしょうか。

*東愛知新聞に投稿したものです。

アメリカファースト? ジャパンファースト?

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3月 152017

日本の自動車部品メーカー39社の関係者64人が2011年から2015年の間に米国政府から「反トラスト法」違反で起訴され、その多くが米国各地の刑務所に収監されているのをご存じでしょうか。これらの関係者は、米国内で談合などの自由競争の違反にする行為をしたわけでなく、日本国内で行った行為が米国の法律違反に当たるとして「域外適用」されたものです。しかも罪状理由の事実は日本にあり、わが国の公正取引委員会が問題性はないと判断している案件であるにもかかわらず、米国司法省に域外適用で次々に摘発されています。また、現在、日本を代表する名門企業、東芝が米国の原子力企業WH(ウェスティングハウス)を買収したために解体の瀬戸際に追い込まれています。日本では、地球温暖化ブームに乗った<クリーンエネルギーキャンペーン>が展開され、再び原子力発電にスポットライトを当てていた時期がありましたが、世界ではその少し前から原子力産業のババ抜きゲームが実際には始まっていました。そうは言っても原子力産業は米国防衛に関係する戦略分野ですので、売り先はどこでもいいというわけにはいきません。そこで、米国エネルギー庁から経済産業省にWHの売却が持ち込まれ、日本の東芝が、英国核燃料会社(BNFL)が持て余したWHをライバルの三菱重工が「相場の2倍」と驚くような値段、6600億円で買い取ることになったわけです。考えてみれば、19451951年の間、GHQ(連合国最高司令官総司令部)の支配を受け、日本は「主権国家」ではありませんでした。そのため、今、流行の言葉でいうと「アメリカファースト」の政策をとるしか、日本には、独立を回復する道はありませんでした。当時、始まっていた東西冷戦がアメリカファーストの政策をとる日本に幸いし、経済の高度成長がもたらされることになります。「失敗の本質~日本軍の組織論的研究~」(中公文庫)という名著には、「なぜ日本軍は、組織としての環境適応に失敗したのか。逆説的ではあるが、その原因の一つは、過去の成功への<過剰適応>があげられる。過剰適応は、適応能力を締め出すのである。」と分析しています。

その意味で、原発関連企業など420団体が集う日本原子力産業協会の新年会が本年、112日に東京国際フォーラムで開かれ、天皇陛下の退位問題で有識者会議の座長も務めている今井敬(たかし)会長が、「今年は原発再稼動を本格的に進める年」、「原子力発電所インフラ輸出分野は日本の強みである」と語っているのは、大変興味深いところです。

ところで、日本のマスメディアは、ほとんど報道しませんでしたが、メイ英国首相が1月26日、フィラデルフィアで開催された共和党集会で「英米が、世界の主権国家に対して自らのイメージ、価値観を押し付けるために介入した時代は、終わった」と、明言する歴史的な演説をしています。考えてみれば、近代150年間の歴史は、英米が世界の主権国家に価値観、ルールを押し付ける歴史でありました。日本の近代史は、英米の価値観、ルールを国内に摩擦を引き起こしながら受け入れていく歴史でもあります。特に戦後はアメリカファーストの政策を貫くことが国是でありました。現在、日本という国では、上記のようにアメリカファーストの矛盾が様々な処で表に出てきています。そろそろマクロな視点で「ジャパンファースト」を考える時代が来ているのではないでしょうか。

 

*東芝の原子力事業での損失の規模は公表されている7125億円にとどまらず、事実上の隠れ損失である米原発事業関連の簿外債務保証7935億円を合わせた15000億円レベルに膨らんでいるとの指摘もある。

*原発受注分をすべて完工すれば損失は10兆円以上になるという試算もある。

*東愛知新聞に投稿したものです。

311から6年、何がわかってきたのか

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2月 252017

6年前の事故により破損した福島第一原子力発電所の第二号機格納容器内の放射線レベルは、今まで専門化が解説していたより格段に高い530SV/hにまで達していることを東京電力は、20172月に明らかにしました。この530SV/hは、人が近くにいれば1分足らずで死に至る放射線量です。

二号機内格納容器の中の散乱するデブリの様子も画像公開され、福島第一廃炉の困難さを強く印象付けています。この公開写真を見ていると、小嶋稔東京大学名誉教授<地球惑星科学>が書いていた文章を思い出さずにはいられません。

「福島原発事故は放射性物質の流出で環境へ甚大な災害をもたらした。さらに私を含む同位体地球科学者を専攻する者の多くは、福島第一原子力発電所一号炉のメルトダウンした核燃料が再臨界を起こし、大規模な核分裂反応を起こすのでは、との危惧を払拭し切れない。もしそのような事態になれば、東日本が壊滅するとの菅元首相の警告が現実のものになってしまう。~(略)~過去2年、放射射能汚染の議論・報道がマスコミを賑わしている反面、さらに深刻な再臨界の議論が専門家の間ですら皆無に近い。しかし、19729月フランス原子力庁が発表したガボン共和国(アフリカ)での「オクロ天然原子炉」発見は、再臨界は原子炉内に限らず自然界でも起きる事を証明した。福島第一原発一号炉のメルトダウンしたウラン核燃料が現在どのような状態なのか、よくわかっていない。しかし、メルトダウンの現状は、きわめて厳格なコントロール下で正常運転の原子炉より、「オクロ天然原子炉」の「火元」になったオクロ・ウラン鉱床の状態に近い可能性も否定できない。」(岩波書店 「図書」2013/7号)

また、日本のマスコミが詳細には取り上げなかった「ゴールドシュミット地球国際会議2016」(20166月末に開催)で九州大学など国際研究チームが発表した研究成果について、フランスのルモンド(201676日電子版)は詳報し、国際社会に大きな波紋を投げかけています。その記事のタイトルは、「フクシマの事故は東京まで、放射性セシウムの「ビー玉」を拡散(*2011315日に拡散した)」というものです。「それはフクシマでの核惨事の特殊性をさらに際立たせ、環境および健康への影響に関する研究のあり方を変えるものだ」「このような現象は、1986年の「チェルノブイリ」事故時にも観察されていない」とし、「ビー玉」化した放射性セシウムは、人間の体内で水によって流されず、それだけ体外排出されにくいものになって、より長期間、体の中に留まり、その分、内部被曝を持続させるのではないかという懸念を指摘しています。また、オーストラリアABC放送のインタビュー(2016524日放送)では、東電の増田尚宏氏(東電福島第一廃炉推進カンパニー最高責任者)がコンクリートやその他金属が混じった溶融した核燃料は、約600トンあり、それを取り出す技術が現在、開発されていないことを明言しています。

2015年ノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家、スベトラーナ・アレクシエービッチさんが「私たちはチェルノブイリ破局への、想像力、類推、言葉、経験の体験を持ち合わせていなかったのです」(「トーチレポート2016」序文)と語っています。現実を直視し、その事実が起こし得る未来を想像し、言葉にする、行動する勇気が今、求められています。

*東愛知新聞に投稿したものです。

IT時代の光と影

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2月 232017

スマホがないと暮らせない人も増えているのではないでしょうか。

現在では端末機がなくなれば、仕事自体ができない人もいるでしょうし、多くの人が愛用しているグーグルのような検索エンジンがなくなれば、情報のインプット量は圧倒的に減ってしまうことも間違いないでしょう。また、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)がなくなれば、集客力が落ちて仕事ができない人も多くいるのではないでしょうか。多くの人が使うこれら(FacebookTwitterLINEiPhoneInstagramMacAmazonGoogleYou Tube)のサービスサーバーは、ほとんど米国にあります。つまり、私たちが上記サービスで使う個人データは、すべて米国にあるサーバーで管理されています。つまり、ITツールを持っている時点で、どういう人と仲が良くて、何に興味があって、どんな情報を収集して、どんな情報を発信し、何を買っていて、どんな評価を下しているのかなど、全てが完全に管理されている状態になっているということです。このIT時代の影の部分を「プラートン」でアカデミー監督賞を受賞したオリバー・ストーン監督が最新映画「スノーデン」で、実話に基づいてわかりやすく描いています。この映画を見れば、テロ対策、安全のためにという美名の下にメール、チャット、ビデオ通話、ネット検索履歴、携帯電話などの通話など、世界中のあらゆる通信経路を通過する情報のすべてを米国のNSA(国家安全保障局)が掌握しようとしていることが、具体的な仕組みとともに映像で理解することができます。この映画の主人公スノーデンは、2009年から2年間、日本にも滞在し、米空軍横田基地内にあるNSAで、コンピュータ会社デルの社員として信号諜報と防諜の仕事をしていました。彼の証言を裏付けるように2015年夏には、内部告発メディアのウィキーリークスは、NSAが少なくとも第一次安倍内閣時から内閣府、経済産業省、財務省、日銀、同職員の自宅、三菱商事の天然ガス部門、三井物産の石油部門などの計35回線の電話を盗聴していた「ターゲット・トウキョウ」という内部文書を暴露しています。元々、米国では1980年代からコンピュータへの侵入で軍の指揮システムや電力、交通、金融、工場の制御などに混乱が起きる危険が指摘される一方で、それを攻撃に使うことが論議されていました。2015年には「サイバー軍」が誕生し、MSA(国家安全保障局)本部と同じフォート・ミードに置かれ、現在、NSAは情報能力とサイバー攻撃力を備えるまでになっています。

問題は、日本は米国の監視システムの対象、被害者でありながら、米国に要請された特定秘密保護法等によって、米国の世界監視体制の協力者として、多くの国民が知らないうちに日本人の通信データを無自覚なまま米国に提供していることにあります。普通に考えれば、多くの国民は、「自分も監視されている、どこで何を見られているかわからない、丸裸にされている」状況を望んでいるとはとても思えません。現在、自動車や家電などすべてのモノがインターネットにつながる「IoT」の時代が喧伝されていますが、ネットに接続する機器が増えれば、サイバー攻撃の標的も増えることになります。

強い光の反対側には強い影ができるのは自然の摂理ですが、私たちは便利さを得る代わりに知らないうちに個人情報を提供し、あまりに便利な生活が突然遮断されるリスクの上で、仕事をし、暮らしています。IT時代の光と影をしっかり、認識することが求められています。

*東愛知新聞に投稿したものです。

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