脱原発は可能か(1)

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11月 032017

2013年8月、小泉純一郎元総理は、原発の使用済み核燃料を10万年、地中深く保管して毒性を抜くという施設であるフィンランドの核廃棄物最終処分場「オンカロ」を視察した。人類史上、それほどの歳月に耐えた構造物は存在しない。10万年どころか、100年後の地球と人類のありようさえ、想像を超えているのに、現在の知識と技術で超危険物を埋めることが許されるのか。その思いから小泉元総理は、脱原発の決意を固めたとも言われている。小泉氏も指摘しているが、原発は「トイレなきマンション」である。どの国も核廃棄物最終処分場(=トイレ)を造りたいが、危険施設だから引き受け手がない。「オンカロ」は世界で唯一、着工された最終処分場で、2020年から一部で利用が始まる。その特殊なトイレを小泉氏は見学してきたわけだ。

 今回は、原子力爆弾、核兵器の開発から始まる20世紀の原子力産業の歴史を簡単に振り返り、小泉氏が唱える脱原発について考えてみたい。 

すべてはマンハッタン計画から始まった 

英国の哲学者バートランド・ラッセルは、人類の歴史を近代へと進化させるのに貢献した偉業として、ダーウィンによる進化論、アインシュタインによる相対性理論と並んで、フロイトによる潜在意識の証明を挙げている。このアインシュタインの相対性理論が人類に原子力という魔法の力をもたらした。193812月、ドイツの小さな実験室で化学者オットー ハーンは、ウランの原子核に中性子を衝突させ、割れるはずのない原子核を分裂させることに成功した。これが「核分裂」だと最初に気づいたのは女流物理学者リーゼ・マイトナーだった。著名な物理学者フェルミはこの核分裂を連続的におこせば、莫大なエネルギーが取り出せるかもしれないと考えた。核分裂のさいに、23個の中性子が放出され、それが隣のウラン原子核に衝突し、次々と核分裂を起こす。核分裂の回数が多いほど放出するエネルギーも大きいので、「核分裂の連鎖莫大なエネルギーが放出」と考えたのである。1942122日、フェルミらは、シカゴ大学の粗末な原子炉で、核分裂を連鎖的におこすことに成功。歴史上初めて、人間の手によって原子の灯がともったのである。このささやかな実験が、広島と長崎に投下された原子爆弾の起源となった。一方、ハンガリー人の学者レオ シラードも、オットー ハーンの実験から、核分裂が原子爆弾につながることを予見。もし、ドイツが原子爆弾の製造に成功すれば、世界は破滅するかもしれない。そこで、有名なアインシュタイン博士の名を借りて、米国大統領ルーズベルトに、原子爆弾の開発を進言。ここから現在の貨幣価値で2兆円、当時の日本の一般会計の約35倍の約20億ドルを費やしたマンハッタン計画が19426月に始まり、この計画で製造された原子爆弾が広島と長崎に投下された。なんと1発1兆円の爆弾だったのである。さらに広島と長崎が受けた損害、失われた35万名の人命を考えれば、人類が被った被害は計り知れない。実際、このプロジェクトを統括したオッペンハイマーは「われは死神なり、世界の破壊者なり」というバガヴァッド・ギーターの言葉を残している。ここから、第二次世界大戦後の原子力の平和利用キャンペーンとともに原子力発電所の歴史が始まっていくことになる。

*東愛知新聞に投稿したものです。

政党政治の終焉

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10月 262017

日本国憲法下で行われた25回目の衆議院議員選挙である今回の総選挙ほど不思議な選挙は今まで、なかったのではないだろうか。

 

そもそも今回の選挙の争点とされた「北朝鮮対応」と「消費税の使途見直し」は本来、超党派の政策領域で与野党全員が問題を共有すべきテーマであり、今、為政者が緊急に有権者に問うべき争点ではないはずである。もし、本当に北朝鮮情勢が危機だと認識していたら、解散・選挙で政治空白をつくることはできないから、実際にはそのような情勢把握をしていないことも明らかであろう。また、選挙結果を見ても公示前に与党(自公)で318議席あった議席を313議席にしたことに何の意味があったのだろうか。憲法改正の発議をするためだったら、解散する必要は毛頭なかったはずである。大手メディアも指摘していたが、野党の臨時国会召集要求にも3ヶ月応じず、質疑なしで臨時国会を解散する大義が今回の解散・総選挙にあったとはとても思えない。また、「森友・加計問題隠し」という指摘も一部にはあるが、これも、新しくできた立憲民主党から今後、国会で追及されることは必至だから本質的な意味があるとは言えない。強いて言えば、消費税をアップする承認を有権者から得たと言えるぐらいである。通常、衆議院議員選挙には600億円以上、かかることを考えると、とても今回の選挙にその価値があったとは、考えられない。さらに今回の解散総選挙では、信じられないことが起きている。数年前まで政権政党だった野党第一党が、小池百合子東京都知事という稀代の劇場型政治家の手によって一日で崩壊するというおよそ、政党政治が健全に機能している民主主義国家では考えられないことが起きたことである。小池氏は、花粉症をゼロにするとか、原発ゼロなのに、再稼動はO.Kとかいう意味不明な公約を掲げ、挙句の果てに選挙前に自民党との連立を言及、名目は政権選択選挙である衆議院議員選挙を大混乱させた。  

 本来、政党政治は政策に応じて政党党派がつくられてこそ、意味がある。だが日本の政党は政策によって分かれていない。中選挙区時代は、自民党一党支配が続いたが、自民党は幅の広い政策を持った派閥の連合体であったので、それぞれの派閥が交互に総裁を出すことによって擬似政権交代のような役割を果たすことができていた。その派閥の弊害が言われ、推進された政治制度改革の末、行き着いた小選挙区比例代表制だが、現在、起きているのは野党の分裂であり、与党である自民党の政策の幅の硬直化である。目指した政権交代ができる政治基盤の確立には、ほど遠いことは間違いない。たしかにこの制度下で一度、20097月民主党政権による政権交代が起きたが、対等な日米関係を標榜し、日米関係の見直しを目指した鳩山政権は戦後、確立された戦後レジームに踏み込むことは許されなかった。その結果、政権与党であった自民党と同様な政策を民主党が採用したことは、周知の通りである。要するに日本では、与党がどの政党であっても同じ政策を求め、野党がどの政党であってもそれに反対するということである。例を上げれば、民主党は消費税増税に反対して選挙に勝ち、政権をとったら増税。自民党はTPPに反対して政権をとったらTPPに積極参加。このように現在、戦後民主主義をまがりなりにも支えてきた政党政治は機能不全の危機的状況に陥っている。

*東愛知新聞に投稿したものです。

情報が世界を変える

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10月 102017

少し、歴史を振り返ってみましょう。1987年ソビエト連邦最高指導者ゴルバチョフによって行われたグラスノスチ(情報公開)は、<ノーメンクラトゥーラ>と呼ばれる共産貴族の豪華絢爛な暮らしや汚職なども暴くことにつながっていき、国民の反共産党感情を一気に高め、ソビエト連邦解体への道を推し進めていく大きな原動力となりました。驚くべきことにグラスノスチ(情報公開)からソ連崩壊まで、たった4年の歳月しか要しませんでした。このように情報というものは、大きく社会を動かす力を持っています。

 ところで、昨年のアメリカの大統領選挙では、日本のマスコミのほとんどは、ヒラリー・クリントン候補の当選を予想していましたが、なぜでしょうか。

それは日本のマスコミの情報源であるアメリカ三大ネットワーク(ABCCBSNBC)をはじめ、グーグル、フェイスブック等のIT産業のCEOがクリントン女史を支持していたために米国内の状況を正確に把握できないことによって、起こった<ねじれ現象>とも言うべきものでした。例えば、日本では、ほとんど報道されませんでしたが、クリントン女史は、225000ドル(約2400万円)の講演料で20132月にサウスカロライナ州でゴールドマン・サックス社員向けの秘密講演会を行っています。そして、その内容がウィキーリークスによって暴露され、大きな波紋をアメリカ社会に投げかけました。その講演の中でゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファイン会長の質問に答え、クリントン女史はすでに、2013年の時点で、「米国として可能な限り隠密に、シリアに介入するべきだと考えていた」と明言。さらに、「こういうこと(秘密工作)に関して、この国は昔の方がずっと上手だった。今では、ご承知の通り、みんな我慢できない。みんなして仲良しの記者とかに言わずにはいられないのです。『見て、見てこんなことしているの、自分の手柄だよ』って」と述べ、秘密裏に外交戦略を進められない米国の現状を嘆いています。つまり、米国はシリアという独立した主権国家に介入しようとしている意図をはっきり持っていたことが暴露されたわけです。また、国務長官時代のクリントンメール漏洩事件のFBIによる捜査再開というものもありました。これらの漏洩されたメールによって何が見えてきたのでしょうか。現在、ロシアによってテロ組織ISISの終焉が見えてきましたが、2014年当初のクリントン女史から選対本部長ジョン・ポデスタ宛のメールでは、ISISはサウジアラビアとカタールが設立したと書かれ、クリントン財団には、女史が国務長官時代にサウジアラビアとカタールが資金提供していること、この時に国務省がサウジアラビアの膨大な兵器輸出を承認していることまで明らかになりました。また、クリントン女史からシドニー・ブルーメンソール宛のメールでは、リビアのカダフィー排除は、クリントン女史主導で進められたことも見えてきました。つまり、このような不都合な真実を多くの米国人がネットを通して知ることにより、トランプ氏が大統領選挙に勝利することにつながっていったわけです。

現在、日本では衆議院の選挙が行われていますが、これも5月に加計学園の獣医学部新設を巡り、内閣府から圧力をかけられた文書の存在を「あるものをないとは言えない」と明言し、官邸の意向によって「行政はゆがめられた」と告発した前川喜平前文部科学省事務次官の情報公開によって引き起こされたと考えることもできます。このように情報には世界を動かしていく力があります。

 

*東愛知新聞に投稿したものです。

伝統文化保護と観光立国のあり方を考える

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9月 222017

現在、後世に残すべき日本の伝統文化とそれに付随する人間文化が消滅の危機にあります。このままでは「国宝ですら、消滅の危機にある」と元ゴールドマンサックス金融調査室長で、日本の伝統文化財補修の老舗である小西美術工藝社社長でもあるデービッド・アトキンソン氏が日本文化を愛する外国人の立場から警鐘を鳴らしています。彼は自著「国宝消滅」(東洋経済新報社)という本のなかで<日本の文化と経済の危機>というフレームワークを使って冷徹なアナリストらしく、明解にこの構造を解き明かしています。考えてみれば、少し前までは、日本人は、朝食は味噌汁とご飯が基本でしたし、畳の部屋で布団を引いて睡眠をとっていました。現在は、朝食はパンで、ベッドで就寝する人が圧倒的に増えています。このように私たちの生活の中からも少しずつ、日本の生活文化が消えていこうとしています。デービッド・アトキンソン氏は、人口減少によってこれから経済成長が難しくなる日本で一番、伸び代のある分野は観光であり、これを産業化する必要があり、そのためには今までの最低限の保護だけを考えた文化財行政を大幅に見直す以外に日本の文化財を継承、保護していく道はないと分析しています。人口減少を外国人による観光=短期移民で乗り切れと提言しているわけです。実際、日本の国宝や重要文化建造物の修理・保存予算は約80億円しかなく、一方、英国では約500億円。その結果、英国では文化財を中心とした観光収入が28000億円もあり、そのうちの4割が外国人観光客によるものであるとも指摘しています。

ところで、日本政府は観光立国の実現に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、平成29年度からの新たな「観光立国推進基本計画」を本年3月に閣議決定しています。これは2011年から15年にかけて、日本を訪れた外国人(訪日外客)の数が年間33%も成長し、16年には2400万人を突破したことを受けて目標を大きく引き上げたものです。具体的には「インバウンド観光は、日本経済を成長させる強力な原動力になり得る、そこで年間の訪日外客を2015年の1,970万人から20年には4,000万人にまで倍増させ、訪日外客が日本国内で消費する額を35,000億円から8兆円に急増させる」という目標です。たしかに現在、訪日外客の数が急増しているため、観光産業の収益は拡大基調にありますが、その規模は2014年時点で国内総生産(GDP)全体のわずか0.5%にとどまり、旅行者に人気のアジアや欧米の国々と比較するとはるかに低いのが現実です。例えば、タイは10.4%、フランスは2.4%、米国は1.3%です。この基本計画のなかで注目すべき施策としては、「文化財を中核とした観光拠点の整備」、「古民家等の歴史的資源を活用した観光まちづくり」、「滞在型農山魚村の確立・形成」、「離島地域等における観光振興」が挙げられます。これらはこの地域でも活用できるものばかりです。また、タイのような観光大国では、医療ツーリズムの比率も年々大きなものになっています。

これから、地方には食、農、医療、祭り等の伝統文化、地域特性に根ざしたスポーツなどの地域資源等を利用した複合型の観光産業育成が求められてきます。この地域には、白山修験の聖たちが伝えたとされる奥三河の「花祭り」、豊橋市には安久美神戸神明社の祭礼、「鬼祭」があります。その意味で縄文時代から続く山と日本人のつながりを考える「全国鬼サミット」のようなものをこの地で開催するのも一考かもしれません。

*東愛知新聞に投稿したものです。

ベーシックインカムは可能か(3)

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9月 202017

内閣府の有識者検討会が、公的年金を受け取り始める年齢を70歳より後にもできる仕組み作りを「高齢社会対策大綱」に盛り込む検討に入ったこと、また、日本の年金制度の実態は「10割負担」であることをご存じでしょうか。

そもそも日本の公的年金は世代間扶養とされ、現役世代が支払った国民年金保険料、あるいは厚生年金保険料、共済年金保険料が、政府からの同額補助(これも税金ですから当然、国民負担)を受けて基礎年金勘定としてプールされ、60歳~70歳以上の年金受給者に給付されています。この時、国民年金加入者は基礎年金だけを受け取りますが、厚生年金や共済年金の加入者には、サラリーマンや公務員の方が、拠出段階でより多くの保険料を支払っているので、基礎年金に上乗せ分が給付されます。厚生年金保険料や共済年金保険料は給与から天引きされ、会社や役所からの補助を加えて支払われています。保険料の拠出額は、平成16年(2004年)の年金制度改正までは、少なくとも5年に一度の財政再計算を行い、給付と負担を見直して年金財政が均衡するよう、将来の保険料を引き上げ、計画を策定していましたが、少子高齢化の急速な進展に伴い、当時の方法のまま給付を行う場合、将来的に保険料水準が際限なく上昇していくことが懸念されたことから、将来の保険料負担を固定し、その範囲で給付を行うという、新たな年金財政の運営方法がとられるようになりました。このことは同時に、将来の保険料負担を固定したままで、少子高齢化の進展が進むと、将来的に給付水準が際限なく減少していくことを意味しています。つまり、平成16年(2004年)の年金制度改正で、形としての年金制度は維持できるようにしましたが、今まで言われていた平均的なモデルの「65歳のサラリーマン夫と、専業主婦の組み合わせで、夫婦で月額133,972円」は、半ば破綻しているということを意味しています。このように年金制度の基盤を崩し始めた大きな原因の一つが、深刻化する日本の少子高齢化進展にあります。そして少子高齢化の大きな要因が、終身雇用制度が崩壊し、非正規雇用が増加したことによってもたらされた<結婚できない経済:稼ぎが少ない>の問題にあることも各種調査によって明らかになっております。つまり、日本のセーフティーネットが平成バブル後の失われた20年を経て今、大きな曲がり角に来ていることを国民一人一人が真剣に考えるべき時を迎えているということです。現在のセーフティーネットは、経済成長、人口増加、完全雇用を前提にして設計されたものです。それらすべての前提が崩れ、AI(人工知能)によって人の仕事が大きく減少することが予想されるなかで21世紀型の新たな社会の仕組みの構築が求められています。例えば、インターネットによる技術革新によって数百万の小売業者が消え現在、私たちの家の片隅にはアマゾンの宅配の段ボール箱が溢れかえっています。グローバル化が進み、世界が小さくなるほどビジネスの勝者は少なくなります。その結果、米国では貧富の差は、奴隷労働で支えられていた古代ローマの時代より大きくなっています。このことは大きなパラダイムシフトしなければ、社会の安定を脅かす臨界点に近づいていることも意味しています。近代社会を維持、発展させてきた所得の再分配機能をどのように考えるかが今、問われているわけです。今まで述べてきたベーシックインカムによって、個々人は自分の人生設計に応じて就労による金稼ぎや社会貢献、生活の質の向上といった多様な道を選択できるようになる未来が築けるはずです。

*東愛知新聞に投稿したものです。

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