2033年に人口の3人に1人が高齢者(65歳以上)になると言われる日本では、若者世代が高齢者を扶養する現行の賦課方式(世代間扶養)の年金制度は、このままでは立ち行かなくなると考えられています。現在、さかんに言われ始めた働く意欲や体力のある高齢者には短時間労働などでも働いてもらうという「世代間の所得と労働の再分配」という点からもベーシックインカムの導入を真剣に検討する価値が出てきたと考えるべきでしょう。それでは、現在の日本でBI(ベーシックインカム)導入の可能性はどの程度、あるのか具体的に考えてみることにしましょう。
そのためには、これまで日本政府がどのような政策により仕事をつくってきたか、守ってきたかを振りかえってみる必要があります。それには公共事業、農業保護、中小企業保護、直接、生存権を守るための生活保護に現在、どれだけ予算を費やしているかを考えてみればいいということになります。簡単に言えば、これらの予算を直接給付し、BIに代替したら、どれだけのことができるか考えればいいということになります。ということは、基礎年金のために使っている予算、失業保険のために使っている予算もベーシックインカムに代替すると考えることになります。例えば、20歳以上(1億492万人)の人に月7万円(年84万円)、20歳未満(2260万人)の人に月3万円(年36万円)のベーシックインカムを給付するには、96.3兆円の予算が必要になります。日本の一般会計予算は約100兆円ですから、そんな予算はどこにあるのかという誤解で現在、議論が止まっているわけですが、元々、BIは所得控除の代わりになるもので、同時に所得税に課税するものであることを頭に入れておく必要があります。現在、雇用者報酬と自営業者の混合所得は257.5兆円ほどありますので、これに30%の税率で課税すれば、77.3兆円の税収を得ることができます。これを財政的に考えると、96.3兆円から77.3兆円を引いた19兆円に現行の所得税13.9兆円を足した32.9兆円をどこから捻出するかがBI支給のポイントになります。現在、日本政府は老齢年金に16.6兆円、子ども手当てに1.8兆円、雇用保険に1.5兆円あわせて19.9兆円支出しています。これらはBI導入で廃止できますので、あと13兆円をどのように捻出するかということになります。ご存じのように政府の一般関係予算の中には、生活保護負担金以外にも公共事業関係費、中小企業対策費、農林水産省予算、地方交付税交付金等、所得を維持するための予算と考えられるものが多く存在します。詳細は省きますが、おそらく、公共事業予算5兆円、中小企業対策費1兆円、農林水産業費1兆円、民生費のうち福祉費6兆円、生活保護費1.9兆円、地方交付税交付金1兆円、計15.9兆円ぐらいは削減することは可能でしょう。もっとも給付額を月7万円と低く見積もっているので、このような試算が可能になるのですが、ここで忘れてはならないことは、日本国憲法第25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と高々と謳っていることです。その意味で、非正規雇用が増え、終身雇用制度が崩壊しつつある今、19世紀に始まった会社・企業を安心の起点とする考えを改め、国が社会の安心を直接保障するべき時代に入ったことを多くの人が理解すべき時代に入ったと言えるのではないでしょうか。*東愛知新聞に投稿したものです。