なかなかいい分析です。

「強まるドル崩壊の懸念」

2007年9月18日  田中 宇



世界中の投資家が、ドル離れの傾向を強めている。金融危機が経済全体の不況につながりそうなアメリカの状況を見て、世界中の投資家が、米金融市場から資金を引き上げる傾向を強めている。

今年7月からひどくなったアメリカの住宅バブルの崩壊(サブプライムローン債券の急落)が、社債市場や株式市場の下落、ヘッジファンドの経営破綻、金融機関の不良債権の増加につながり、金融界以外の実体経済でも、住宅や自動車、耐久消費財の売れ行き不振、ローン破綻者の増加などが起きている。

アメリカの小売業の売上高は、8月から落ち込んでいる。先日開かれた、欧州や日本など先進国の中央銀行総裁によるG10会議では「アメリカの住宅バブルの崩壊は、米経済全体の不況につながりそうだ」との懸念が表明された。失業率が上がっていることも、不況の兆候である。

世界各国の中央銀行は、保有する米国債を中心とするドル建て債権を売る傾向を強めている。8月には、世界の中央銀行や政府機関が保有するドル資産の総額が3・8%減少した。ちょうど8月には、アメリカの社債や株式の市場が下落し、これを嫌気した民間の投資家の多くが、社債や株を売って米国債を買う動きをした。そのため、中央銀行が売った米国債は、民間投資家に買われ、全体としてはバランスを保ち、米国債の下落(長期金利の上昇)は起きなかった。

世界の中央銀行や政府機関の中でも、今回特に米国債を売っているのは中国ではないかと指摘されている。中国が米国債を売って金地金を買ったことが、最近の金相場の急騰の原因だとの見方もある。

8月初め、米議会上院では、中国が人民元の対ドル為替相場を人為的に低めに抑えているとして経済制裁することを目的とした法案が一部議員から提出された。これに対して中国の高官が「人民元問題でアメリカが中国を制裁したら、報復として中国は米国債を一気に売り、米経済を混乱させてやる」という示唆を欧米新聞のインタビューで発した。中国政府はその後、こうした報復措置の可能性を否定した。だが、中国が明示的にではなく隠密に米国債を売ることは、ドルに対する世界的な懸念を考えれば十分あり得る。

中国だけでなく、日本政府も米国債を売っているのではないかとの指摘もあるが、確証はない。私は、その可能性は低いと考える。安倍政権は、何とかアメリカに取り入って対米従属を強化しようと必死だったから、8月に日本政府(日銀)が米国債を大量に売ったとは考えにくい。

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