世界で規制が広がるトランス脂肪酸
バターとマーガリン、どちらを選びますか?
この問いに「マーガリンの方が体に良いからマーガリン」と答える人が意外に多い。これは「バターはコレステロールを上げる飽和脂肪酸が多いので、植物油からできているマーガリンを食べましょう。」という誤った栄養指導とマーガリンのメーカーのイメージ戦略の勝利と言って良いだろう。(実はこの数年来、小生はマーガリンを食べていない。)
マーガリンにはリノール酸が豊富に含まれている。たしかにこのリノール酸はヒトが生命を維持するために必要な栄養素なのだが、最近の研究によると、摂り過ぎると炎症が起きやすくなったり、血液が固まりやすくなることがわかっている。そのため、平均的な食生活をしている日本人はリノール酸の摂取を控えるべきなのだ。
さらに、マーガリンにはトランス脂肪酸と呼ばれる「やっかいもの」が含まれている。そもそも、マーガリンの原料である植物油は常温で液体だが、なぜマーガリンが半固形状かというと、植物油に強制的に水素を添加して固まらせているためで、この際にトランス脂肪酸が生じる。
このトランス脂肪酸は自然界では存在しない物質であり、摂取量が増えると血液中の悪玉コレステロールが増え、動脈硬化症や心疾患などのリスクが増大するのだ。そのため、WHO(世界保健機関)ではトランス脂肪酸について、1日に摂取する総カロリーの1%未満にすることを勧めている。
ここで、再び質問。水に溶ける物質(食品類に含まれるもの)と油に溶ける物質はどちらが危険か?
正解は油に溶ける物質。水に溶ける物質は摂り過ぎても尿中に排泄されるが、油に溶ける物質は体内の脂肪組織などに紛れ込んで蓄積してしまうのだ。したがって、トランス脂肪酸は要注意。
実際、デンマークでは全ての食品について油脂中のトランス脂肪酸の含有量を2%以下に制限しているし、米国とカナダでも加工食品中の含有量の表示を義務づけている。
マリナーズの本拠地のセーフコ・フィールドスタジアム内の売店では、トランス脂肪酸を含む調理用の油やフライオイルを「トランス脂肪酸フリー」の油に切り替えると宣言した。売店で販売するドーナツやクッキー、フライドポテトなどからトランス脂肪酸を追放する目的だ。
ニューヨーク市では全ての飲食店を対象に、調理油中のトランス脂肪酸の含有量を「1食で0.5グラム未満」にするように義務化した。カリフォルニア州のある町では、全米で初めての「トランス脂肪酸のない町」(First Trance Fat-Free City)を目指し、キャンペーンを行い、トランス脂肪酸を完全に追放しているレストランには緑のハートマークが掲示されている。
こうした動きに対してわが国はと言うと「トランス脂肪酸だけを問題視するのではなく、脂肪全体の摂り過ぎをやめる方が大切だ。」(内閣府食品安全委員会)と言った見解で、規制は当面必要ないという立場をとっている。
メーカー側も、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸の含有量をホームページで公表しているメーカーもあれば、全く公表しないというメーカーもあり、対応はまちまちだ。
しかし、ここにきて大手コンビニエンスストアや大手ファーストフードチェーンでは、自主的にトランス脂肪酸の低減に取り組む動きが活発化している。消費者の意識や購買行動が変われば、メーカーや販売業者もその姿勢を改めるだろう。男性に比べて脂肪が多く、ホルモン系への影響が出やすい女性は特に注意すべきである。
マーガリンの他に要注意の食材がもうひとつある。加工食品に使われるショートニングだ。ちなみに、食品100グラム中のトランス脂肪酸の含有量ではマーガリンが平均7グラムなのに対し、ショートニングは平均13.6グラム。(食品安全委員会調べ)あなたもスーパーやコンビニでお菓子やパンを買うときに、商品に記載されている表示をよく見て欲しい。慣れてくると表示を見なくても、マーガリンやショートニングが使われている食品を見分けることができるようになる。
<各国の規制>
米国では、加工食品に総脂肪量、飽和脂肪酸量、コレステロール量、トランス脂肪酸含有を表示しなければならない。さらにニューヨーク市は2006年12月、外食産業における原則使用禁止を決めた。そして2007年7月ついに同条例を施行。これによってフライ、マーガリン、ショートニング、食用油が使用制限を受けている。さらに1年後にはパン生地にも適用される。
デンマークではトランス脂肪酸の含有を2%以下と規制している。
ドイツでは腸の慢性炎症疾患でクローン病という難病があり、マーガリンの摂取との因果関係が証明された。そのためにマーガリンの使用が制限されている。
<外食産業の対応例>
米マクドナルドのトランス脂肪酸の使用を停止
アメリカのマクドナルドは2007年1月、公式サイト上で心臓病や肥満との関連を指摘されているトランス脂肪酸の使用を、アメリカ内における一部店舗で中止したことを明らかにしました。
そして、いよいよニューヨーク市のトランス脂肪酸規制施行2007年6月を迎えましたが、有力消費者団体の公益科学センター(CSPI)が独自調査を行い、いまだ多くのファーストフード店舗が基準を大幅に上回るフライドポテトを販売している中、マクドナルドのポテトは 0.2gで合格だった、と公表しました。
米マクドナルド、過去の訴訟で9億円で和解
米マクドナルド社は2002年9月、心臓病疾患の原因になると指摘されたトランス脂肪酸を減らすため、揚げ物に使う油を2003年2月までに新しいタイプに替えると発表しました。ところが、新タイプの油への切り替えが遅れ、この事実を2003年2月に公表しましたが、、健康問題活動家らが消費者への告知が不十分だったとして損害賠償などを求め、カリフォルニア州の地裁に提訴したのです。この訴訟に対して、米マクドナルド社は約850万ドル(約9億円)を支払って和解しました。
このような訴訟を背景に、マクドナルドのトランス脂肪酸フリー調理油への切り替え検討は急ピッチで進められたと考えられる。
米マクドナルド、過去の訴訟で9億円で和解
マクドナルドはすでに過去7年間に50もの混合比率で18種類もの油をテストし、トランス脂肪酸フリー油についてリサーチしていると報じられました。
こんな中でニューヨーク市のトランス脂肪酸禁止条例が制定されたわけです。マクドナルドはこの規制をクリアしましたが、全米の1万3700店舗すべてにおいて代替油を使用するに至っていないようです。
日本マクドナルドのトランス脂肪酸への対応
このような状況で、新しい調理油への切り替えはアメリカ国内だけにとどまり、日本での調理油切り替えは予定すらされていません。日本政府がトランス脂肪酸に対して表示義務も削減方向も打ち出していないので、マクドナルドの対応はルール違反ではありませんが、不誠実。