「シェールガス革命」の裏を読む

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7月 162013

一部日本のマスコミが囃し立てている「シェルガス革命」について、大変、興味深い指摘があるので、紹介する。以前、高貴なる嘘という概念を紹介したが、(「高貴な嘘」(ノーブル・ライ)という概念はプラトンの「法律」という本に書かれていたものだ。悪意で解釈すれば、「嘘も100回言えば真実だ」(ゲッペルス)ということだ。善意で解釈すれば「子供には神話を最初に教える必要がある。ある程度物が分かるようになってから科学を教えても遅くはない。それが教育的な配慮だ。」と言うものである。大衆を騙すのは権力者にとって必要悪?であるという考え方である。)現在、米国勢が囃し立ているシェルガス革命についても、過去の原子力平和地用や、二酸化炭素による地球温暖化のように、いろいろ思惑があるようである。

今回は、ル・モンド記事と元外交官原田武夫氏の興味深い指摘をご紹介する。(以下)



~エネルギー事情の大転換となるか、景気の一時的活性化に終わるか?~


「大いなるペテン、シェールガス」


ナフィーズ・モサデク・アーメド


(政治学者)ブライトン開発政策研究所(イギリス)所長


(訳:鈴木久美子)



安価なエネルギーと引き換えに長期にわたる汚染を引き受けねばならないのだろうか。シェールガス・シェールオイルの採掘に関わるジレンマにアメリカの企業も政府も悩んでいない。10年もたたないうちにこの新しい資源はアメリカの経済成長を軌道に乗せ、雇用を活性化し、国際競争力を復活させるだろうというのだ。しかしこの《エネルギー革命》がすぐつぶれるバブルに過ぎないとしたらどうか? [フランス語版編集部]



« 原文 »



アメリカメディアによるとシェールガス・シェールオイル「革命」による経済の飛躍的発展が予測され、アメリカは間もなく「黒い金(きん)」の恩恵に浸ることになるという。国際エネルギー機関(IEA)の『世界エネルギー展望2012年版』によれば、2017年度にはアメリカはサウジアラビアから世界第1位の産油国の座を奪って、エネルギーに関して「ほぼ自給自足」となる。IEAによると炭化水素の計画的な生産上昇は、2011年の一日当たりの8400万バレル[原油1バレルは約159リットル――訳注]から2035年には9700万バレルになるだろうとされ、それは「すべて液化天然ガスと非在来型エネルギー資源(主にシェールガスとシェールオイル)から」生じるとされている。一方で在来型エネルギー資源の生産量は2013年から下降するであろう。



シェールガスは水圧破砕(水と砂と洗剤の混合物に圧力をかけ注入して頁岩にひび割れを作り、そこからガスを取り出す)と、水平掘り(これにより必要な地層をより長時間にわたって叩くことが可能になる)によって採掘されるが、広範にわたる環境汚染を代償にして得られるものである。しかしアメリカでの採掘は数十万人の雇用創出へとつながり、豊富で安価なエネルギーという利点を与えてくれる。2013年の『エネルギー予想――2040年に向けて』(エクソンモービル・グループ)のレポートによれば、世界のガス需要の急速な伸びという状況にあっても、アメリカはシェールガスのおかげで、2025年から明らかに炭化水素の輸出国となるという。



そして「シェールガス革命」が回復期にある世界経済を強くするばかりでなく、投資バブルをはじけんばかりにふくらませるとしたらどうだろう? 経済は病み上がり状態だし、近年の経験から言っても、このような浮かれ騒ぎに対して慎重な態度を促さなくてはならないはずなのだが。スペイン経済を例にとると、かつては隆盛を誇っていたのが(2008年にはEU圏で第4位の勢力)、盲目的にしがみついていた不動産バブルが突然崩壊して以来、ひどい状態になっている。政治家たちはこの2008年の危機からほとんど教訓を引き出してはいない。彼らは同じ過ちを化石燃料で繰り返す危険があるのだ。

ニューヨーク・タイムズの2011年6月の調査報告はシェールガス「ブーム」のなかでメディアと石油・ガス業界の間に早くも生じた亀裂を暴露している。その号では専門家たち(地質学者、弁護士、市場アナリスト)が抱いた疑惑を公にしているのである。

石油会社の発表は、「故意に、不法なまでに採掘生産量と埋蔵量を多く見積もっている(注1)」という疑惑が表明されている。同紙の説明によれば、「地下の頁岩からのガスの抽出は石油会社がそうみせかけているよりももっと難しく、もっとコストがかかるはずで、その証拠として、この問題について業者間で交わされた数百の電子メール、資料ばかりでなく、数千の採掘抗について集められたデータの分析報告がある」。



2012年の初頭に、アメリカの2人のコンサルタントがイギリスの石油業界の主要誌『Petroleum Review』で警鐘を鳴らしている。二人は「アメリカのシェールガスの鉱床の信頼性と持続性」について検討を加え、業者たちの予測がアメリカ証券取引委員会(SEC)の新しい規則に沿って行われたものであることを強調している。SECは投資市場の監視をする連邦委員会である。この規則は2009年に採択されたもので、石油会社に備蓄量を好きなように計上することを許可しており、独立機関による調査は行われないのである(注2)。



業者たちは頁岩のガス鉱床を過大に見積もることによって、採掘に伴うリスクを二義的な問題にしてしまうことができる。ところが水圧破砕は環境に有害な影響を及ぼすだけではない。まさに経済的な問題をも引き起こす。水圧粉砕は非常に寿命の短い生産しかおこなわないからだ。雑誌『ネイチャー』で、英国政府の元科学問題顧問のデヴィッド・キング氏はシェールガス井の生産性は最初の1年の採掘で60~90%低下すると力説する(注3)。



これほど急激な生産性低下では明らかにわずかな収益しかもたらされないことになる。ガス井が涸れてしまうと作業員たちは大急ぎで他のところへ採掘に行って生産量のレベルを維持し、資金返済に充当しなくてはならない。条件が整えば、このような自転車操業で数年間は人の目を欺くことができる。このようにして、シェールガス井採掘は脆い経済活動と結びつき(持続力はないが、短期間には瞬発力を発揮して)、アメリカで急激な天然ガスの価格低下を引き起こした。2008年には100万BTU(イギリス熱量単位)7、8ドルだったものが2012年には3ドルを割った。



投資の専門家たちは騙されない。「水圧粉砕は景気を粉砕する」とジャーナリストのウルフ・リヒターは『ビジネス・インサイダー』で警告している(注4)。「採掘は猛スピードで資本を食いつくし、生産が行き詰ると業者に借金の山の上を残してきた。この生産量の低下で経営者たちの懐を痛めないようにするために、企業は次から次へと汲み上げなくてはならなくなり、涸れた油井の分を他の油井で補うのである。他の油井も明日には涸れるだろう。悲しいかな、遅かれ早かれこういう図式は壁に突き当たる。現実という壁である」。



ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)との合併前の石油会社アモコ(Amoco)で働いていた地質学者のアーサー・バーマンは「信じられない速さ」で鉱床が涸れていくことに驚きを示している。バーマン氏はテキサスのイーグル・フォード鉱区(最初のシェール油田)を例に挙げて、そこでは「年間採掘量が42%以上低下した」と言う。安定した生産量を保つためには業者は「毎年追加で約1000の油井を同じ鉱区で掘らなくてはならない。それは、1年に100億から120億ドルの支出となる。全部合計すると2008年の金融業界への資金投入額の合計に達する。企業はどこでこの資金を調達できるというのだろう?(注5)」。



ガスバブルの最初の影響はすでに世界大手石油企業に及んでいる。2012年の6月にエクソンモービルの代表取締役のレックス・ティラーソン氏が窮状を訴えた。アメリカの在来型天然ガス価格の下落は消費者にとっては確かに幸運だったが、売り上げの激減の痛手を受けたエクソンモービルには致命傷となったと述べた。そして株主を前にエクソンモービルはガスによる損失はないと偽ったものの、ティラーソン氏はアメリカでもっとも影響力のあるシンクタンクの一つである外交問題評議会(CFR)でお涙頂戴型の演説をして「わが社は資産が尽きようとしている。もう収入は得られない。経営は赤字だ(注6)」と述べている。



ほぼ同時期に、イギリスのガス会社であるBGグループが「アメリカの天然ガス事業部門で資産が13億ドルに低下したこと」すなわち「中間決算で明らかな減益」の窮地に立たされていることを認めた(注7)。2012年11月1日、ロイヤル・ダッチ・シェルの四半期の決算報告が3期連続で不振で年間累積24%の低下となったのを受け、ダウ・ジョーンズの広報担当はこの悪いニュースを伝えるに当たって、証券業界全体におけるシェールガスブームによって引き起こされるであろう「損害」について警告した。



万能薬からパニックへ



シェールガス競争の中のパイオニアであるチェサピーク・エナジー社もバブルは免れなかった。負債の重みに押しつぶされたチェサピーク・エナジーは債権者の手形決済のために資産の一部売却(ガス田とパイプラインの合計69億ドル)を余儀なくされた。「チェサピーク・エナジーは社長のおかげでシェールガス革命のリーダーになったのに、活動領域を少々減らすようになった」とワシントン・ポストは遺憾の意を表した(注8)。



どうしてこの「革命」のヒーローたちはこれほどまでに落ちたのだろうか? 経済評論家ジョン・ディザードは2012年5月6日付『フィナンシャル・タイムズ』でシェールガス企業が「自己資本を2倍、3倍、4倍さらに5倍も上回る額を使い果たして土地を購入し、井戸を掘り自分たちの計画を実現しようとした」と指摘している。ゴールドラッシュの資金繰りのためには、膨大な金額を「複雑で面倒な条件で」借りなければならない。しかし、ウォール街は通常の行動規則を曲げてくれるようなことはしない、ディザードによればガスバブルはそれでもふくらみ続けているという。その理由は経済的な危険性をはらんだこの資源にアメリカが依存しているからである。「シェールガス井の生産性の持続しない一時的性格を考慮して、掘削は続けられなければならない。シェールガス価格は高くなり、高騰すらして落ち着くだろう。過去の負債だけでなく現在の生産にかかる費用に充当するためである」。



それでもなおいくつもの大手石油会社が同時に経営崩壊に直面するということはありうる。もしこの仮説が立証されるなら「2、3社の倒産か大掛かりな債務処理にまきこまれてしまい、債務処理の名目で各企業はシェールガス事業を撤退し資本が消えてしまうだろう。これは最悪のシナリオだ」とバーマン氏は語る。



言い換えれば、シェールガスはアメリカ、あるいは全人類を「ピークオイル」(「ピークオイル」とは、地理的制約と経済的制約から原油の採掘が困難で巨額を要するとされるレベル)から守るという議論はおとぎ話にすぎないことになる。最近公表された独立性の高い科学レポートによれば、シェールガス「革命」はピークオイルに猶予を与えてくれないと確証している。



雑誌『Energy Policy』に発表された研究によると、キング氏のグループは、石油産業は化石燃料の世界埋蔵量を3分の1多く見積もったという結論に達した。まだ採掘可能な石油鉱床は8500億バレルに満たないのに、公式な見積もりではおよそ1兆3000億バレルと言われている。『Enegy Polocy』の寄稿者たちによると、「化石燃料資源が地球の深いところに確かに大量に存在しているが、世界経済が通常持ちこたえられるコストで採掘できる石油の量は限られており、短期間のうちに衰退の一途を辿るはずだ(注9)」という。



水圧破砕によって得られた宝、シェールガス・シェールオイルがあるにもかかわらず、現実の埋蔵量は年間推定で4.5ないし6.7%のペースで減少している。そのためキング氏らの研究チームはシェールガスの採掘がエネルギー危機を救うという見解を断固として拒否している。キング氏と同じ立場で、経済評論家のゲイル・トヴェルバーグ氏は在来型化石燃料の世界生産量が2005年をピークに伸び悩んでいることをあげている。彼は2008年と2009年のリーマンショックの主な原因のひとつはこの停滞にあると見て、これが現在の景気後退をさらに深刻化させる可能性を予告しているという(シェールガスがあろうが、あるまいがこれは起こるという)(注10)。それだけではない、新経済基金(NEW)はIEAの報告書に続いて出した新しい研究で、オイルピークの出現を2014年ないし2015年と予測しており、そのとき採掘と供給にかかる費用が「世界経済がその活動に致命的なダメージを受けることなく引き受けることのできる費用を追い越すだろう」(注11)とみている。



この研究はメディアの関心を引かなかったし、エネルギー業界のロビイストの宣伝文句に浸りきっている政治家たちの関心も引かなかった。遺憾なことである。この研究の結論はわかりやすいからだ。景気を修復するどころか、シェールガスは作り物のバブルをふくらませ、根本的に不安定な構造を一時的にカムフラージュしているのである。バブルがはじけると供給の危機と価格高騰をおこし、世界経済に甚大な悪影響を及ぼす危険性があるのだ。

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<注>

(1)«Insiders sound an alarm amid a natural gas rush», The New York Times, 25 juin 2011.

(2)Ruud Weijermars et Crispian McCredie, «Inflating US shale gas reserves», Petroleum Review, Londres, janvier 2012.

(3)James Murray et David King, «Climate policy : Oil’s tipping point has passed», Nature, no 481, Londres, 26 janvier 2012.

(4)Wolf Richter, «Dirt cheap natural gas is tearing up the very industry that’s producing it», Business Insider, Portland, 5 juin 2012.

(5)«Shale gas will be the next bubble to pop. An interview with Arthur Berman», Oilprice, 12 novembre 2012, http://oilprice.com

(6)«Exxon : “Losing our shirts” on natural gas», The Wall Street Journal, New York, 27 juin 2012.

(7) «US shale gas glut cuts BG Group profits », Financial Times, Londres, 26 juillet 2012.

(8)«Debt-plagued chesapeake energy to sell $6,9 billion worth of its holdings», The Washington Post, 13 septembre 2012.

(9)Nick A. Owen, Oliver R. Inderwildi et David A. King, «The status of conventional world oil reserves – Hype or cause for concern ?», Energy Policy, vol. 38, no 8, Guildford, août 2010.

(10)Gail E. Tverberg, «Oil supply limits and the continuing financial crisis», Energy, vol. 37, no 1, Stamford, janvier 2012.

(11)«The economics of oil dependence : A glass ceiling to recovery», New Economics Foundation, Londres, 2012.



(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年3月号)

 

201344


「シェール革命という高貴なウソを信じる日本」


~インテリジェンスのプロ、原田武夫氏が大胆分析~

先日、杜の都・仙台に出張したときの話だ。繁華街・国分町の片隅で設けた会食に出席された地元財界幹部の一人の方が、上気した面持ちで私に向かってこう語りかけてきた。

「原田さん、『シェール革命』ってやつはすごいね。何せこれからアメリカでは無尽蔵に採掘できて、しかも温暖化効果ガスの排出量が圧倒的に少ないっていうのだから、エネルギーの未来は、もうこれで決まりなのではないですか」



シェール革命に納得できず



同席していたわが国アカデミズムの重鎮の一人も、続いて口を開いた。「確かにそうですね。仮にアメリカがシェール革命を推し進めるとなると、今、東北大学を中心に取り組んでいる地域経済活性化のための次世代移動体研究プロジェクトがこのままでは失速してしまう危険性があるのです。なぜならばその柱のひとつである電気自動車(EV)は、現状では原子力発電が安定的に継続することを前提としていますから」

私からすれば、いずれも人生の大先輩である。普段ならば黙ってうなずくだけで、特に何も申し上げなかったはずだ。しかしこのときだけは違った。どうにもこうにも納得するわけにはいかなかったからである。「申し訳ありませんが、『シェール革命』は本当に起きるのでしょうか。私は正直言ってかなり懐疑的です」。居住まいを正して私はそう切り返した。



私の著書最新刊『「日本バブル」の正体~なぜ世界のマネーは日本に向かうのか』(4月4日刊行)でも詳しく書き、かつその新刊記念講演会(リンクはこちら)でもじっくりお話しすることなのであるが、「シェール革命」と聞くとどうしても納得がいかないことがいくつかあるのだ。思いつくままに書くならば次のとおりとなる。



◎鳴り物入りで始まった「シェール革命」だが、特にシェールガスはパイプラインがなければアメリカは輸出することができない。その肝心のパイプラインがまったく整っていないのが現状である以上、シェールガスがアメリカから世界、とりわけわが国に向かって噴き出してくるのは“今”ではなく、“将来”である。今から大騒ぎすべき話ではない。



◎つまり「シェール革命」が最盛期を迎えるまでにはまだ時間があるのだが、その間、ほかの国々が指をくわえて待っているとは考えづらい。ナイジェリアなどほかの産出国は温暖化効果ガスこそ大量に出るものの、従来型の天然ガスや原油のダンピング(廉売)を一斉に始めるはずだ。そうなった場合、採掘に費用がかかるため高めの価格設定しかできないシェールガス/シェールオイルにまで触手が伸ばされるのかは甚だ疑問である。



さらには「シェール革命」と言いつつ、アメリカ自身が次世代移動体として電気自動車や水素燃料電池車の開発を加速させているのが大いに気になる。実際、オバマ政権はこの方向に具体的な形で歩み出しており、3月15日にイリノイ州で行った演説で同大統領はこれら「ガソリンを使わない自動車」の実用化のため、今後10年間で20億ドルほどを拠出すると表明したばかりなのである。「シェール革命一本であくまでも行く」という気合いは微塵も感じられないのだ。



「高貴な嘘(noble lie)」という言葉がある。「リーダーたるもの、全体利益の実現のためには時にウソをつかなくてはならないこともある」といった意味合いだ。アメリカはこれまで何度となく「高貴な嘘」でわが国、そして国際社会を翻弄してきた。2003年に行われたイラクに対する武力行使の際、「イラクで大量破壊兵器を見つけた」と国連安保理の場で生真面目な軍人・パウエル国務長官(当時)を使って一大プレゼンテーションを行わせたのがその典型例だろう(その内容はその後、同国務長官自身が吐露したように「真っ赤なウソ」であったことが明らかとなる)。

よもや「あのアメリカがここまで正々堂々とウソをつくとは」と思うかもしれないが、それが国際場裏における現実なのだ。そして現状を見るかぎり、誰でも気づくことのできる上記のような「疑問」を踏まえれば、私には「シェール革命」が手の込んだ「高貴な嘘」に思えて仕方がないのである。



アメリカの深謀遠慮とは?



「なぜそこまで手の込んだことをアメリカはするのか。シェール革命でいちばん儲けられるのは自分なのであるから、ウソなどつく必要ないのではないか」。読者からそんな反論が聞こえてきそうだ。しかし大変失礼ながら、そう思われた読者の方は人気漫画「北斗の拳」ではないが、“お前はもう死んでいる”のである。なぜならばまさにここにこそ、アメリカの深謀遠慮が潜んでいるからである。考えられるシナリオはいくつかある。



まずいちばん単純に「シェール革命」が本当に推し進められる場合を想定しよう。実のところシェールガス/シェールオイルの鉱床は確認されているだけでもアメリカ以外の世界各地に存在している。中国や中南米などであるが、問題は現状の天然ガスや原油の価格では採算がとれない点にある。したがってこのシナリオにおいて関係各国はいずれも、石油・天然ガスが最も産出されている中東地域が「有事」となり、そこでの生産が不可能となることを強く期待することになる。イスラエルによる対シリア攻撃をきっかけとしたイランとの本格的な戦闘開始、そして「中東大戦争」への発展がその先には見えてくる。

現状では今年秋にもありうる展開であるが、そうなった場合、世界中の株式マーケットは全面安だ。マネーは逃げ場所を求めて日本円に殺到、強烈な「円高」となるわけである。オイルショックに見舞われた世界は、アメリカに「シェール革命」の推進を要請するはずだ。一方、サウジアラビアやイスラエルは戦乱で勝ち残るため、アメリカ製兵器を続々と購入し続けるに違いない。アメリカにとっては一挙両得というわけなのである。

だがここで困るのが中東地域以外の産油国、特にロシアである。通常の天然ガスや石油をめぐる最大のプレーヤーであるロシアは「シェール革命」に反対すべく、中東開戦を阻止し続けようとする可能性が高い。その結果、このシナリオは頓挫してしまう危険性をはらむ。



問題はアメリカにとっても、「そんなことは先刻お見通し」であるはずだという点なのだ。つまりこのとき、アメリカの真意は「シェール」にはない。そしてそうであるとき、アメリカは実のところ周囲をアッと驚かせる次世代エネルギー技術をすでに開発しているはずでもあるのだ。しかしそれをあえて出さずに「シェール革命」なる用語を“捏造”し、しかも天然ガスを今や世界中で買い漁っているわが国にこうささやきかけているのである。



「パイプライン設置のために投資をしてくれたらば、最優先でシェールガス/シェールオイルを特別に分けてあげてもいい。福島第一原発事故の余波で貴国は大変でしょう」



これに“日米同盟”という美辞麗句がつけられれば、わが国要人たちがこれに抗することはまずない。進んで資金提供し、巨大プロジェクトの完成を今や遅しと待つことになるはずだ。むろん、アメリカも日本側協力者に鼻薬をかがせることを忘れないはずだ。たとえば時代はさかのぼって第2次世界大戦後の1950年代、アメリカ国防総省の支援により設立された「日本開発会社」は、いくつかの復興のための巨大インフラプロジェクトに関与していたことが史料から明らかになっている。

しかしそのための資金としてアメリカ国防総省から捻出された資金は、戦後最大の政治プロデューサー「児玉誉士夫」を経由して、わが国政財界の闇へと消えて行ったのである(有馬哲夫『児玉誉士夫 巨魁の昭和史』(文春新書)参照)。「インフラ開発に日本を絡ませたときには駄賃がいる」。そうアメリカ側は伝統的に認識しているはずなのであって、わが国からパイプライン建設にマネーが流れれば流れるほど、その一部がわが国へと還流され、再びわが国政財界の闇に消えることは大いにありうる、と歴史家ならば断言するはずだ。むろん、私や読者の皆さんのような庶民の知らないところで。



それでは私たち日本人は、ただひたすら手をこまぬいて見ていなければならないのか。またそもそもアメリカはこの場合、いわば「捨て駒」となるシェール革命ではなく、実際のところ何を追求しているというのであろうか。



次世代の「本命」はシェールではなく、水素



簡単に書くならば、まず前者についてひとつの「光」を先日、わが国の神奈川県・寒川にあるとあるヴェンチャー企業Q社で私は目の当たりにした。シェールガスといっても炭酸ガスは出てくる。ところがこの企業が開発した技術ではこれを「炭酸化ナトリウム」と「水素ガス」へと分離できるのである。つまり「排ガスから燃料ができる」わけで、驚愕の技術なのだ。アメリカがシェール革命を推し進めれば進めるほど、その後ろについてこれを売ることで、わが国は巨利を得ることができる代物なのである。こうした革新的な技術を私たちは大切に育て、全面開花させなければならない。



一方、後者について言うならば、アメリカにとっては実のところ宿敵であるイギリスの態度を見れば答えはすぐ出てくる。上記の拙著でも書いたことだが、イギリスは2015年までに水素エネルギーによる燃料電池車の完全商用化を公的に宣言している。そう、時代は「水素」なのであって、シェールであろうが何であろうが、化石燃料ではもはやないのである。



しかしそれを真正面から追求すると、アメリカはイギリスから何をされるかわからない。それをアメリカが最も恐れているであろうことは、中東の石油利権を争ってきたのが、ほかならぬ米英両大国であったことを思い起こせばすぐわかるのである。だからこそ「シェール革命だ」とアメリカは騒ぎ、「高貴な嘘」をついていると考えると合点が行く。



わが国にとって今、必要なのはバカの壁に入ることなく、老練な米欧各国が国際場裏で公然とつく「高貴な嘘」をあらかじめ見破り、私利私欲を捨てて人知れず備えるべく全国民を指導するリーダーなのである。今夏行われる参議院選挙の本当の争点は、実のところ「この一点」なのである。そのことを私たち有権者は忘れてはならない。

放射線を浴びたX年後

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7月 102013

このドキュメンタリーを見ると、フクシマの原発事故は、このような歴史の流れで起きたことが、本当によくわかります。たしかに人類の歴史は、試行錯誤の連続ですが、20世紀に人間が手にした核兵器は、決して「宇宙船地球号」のなかで、使用の許されるものではないでしょう。宇宙船地球号そのものが、壊れてしまいますから。

現在、国際政治の舞台で、覇権国を維持するためなら、超大国である米国のエゴが何処までも罷り通るという「現実的と称する考え方」は、あまりにも傲慢だと言わなければなりません。

原爆の唯一の被爆国である日本が、「原子力の平和利用」という美名の下、地震列島に54基もの原子力発電所を覇権国アメリカに抱えさせられている現状は、あまりにも皮肉だと言えましょう。

もしかすると、現在の日本の状況は、これからの世界がどうなっていくのか、私たち、日本人自身が試されているリトマス紙なのかもしれません。世界のパワーポリティックスのなかで、何が起きているのか、また、大きな力の中で、弱者がどのような扱いを受けてきたのか、を知るためにも是非、見ていただきたい映画です。

(*マグロの刺身が好きな人も是非、見て下さい。)



ところで、今回、このよくできたドキュメンタリー映画が豊橋市でも自主上映されます。是非、多くの方に見ていただきたいと思いましたので、ご紹介します。



日    時  平成25728日(日)

(1)10:30~ (2)14:00~ (3)18:00

3回上映



場    所  豊橋市民文化会館 リハーサル室



主    催 「放射線を浴びた「X年後」」上映委員会



問い合わせ先  090-8556-8301 (担当:林 美春)



*劇場映画「X年後」公式サイトよりhttp://x311.info/





プロデューサー 大西 康司



はじめに、何故「もうひとつの第五福龍丸事件」を愛媛の放送局が?という疑問を持つ方が多いと思います。今から8年前、私にとっても1954年に起きたいわゆる’第五福龍丸事件’は遠く、歴史上の、そして教科書上の出来事に過ぎませんでした。しかし伊東英朗ディレクター(監督)が掴んできた「ビキニで被災した元マグロ漁船乗組員が、愛媛にもいるらしい」という思わぬ情報は「不思議な感覚」を私に呼び起こしました。それは歴史がに生きている「不思議さ」であり、広島・長崎・第五福龍丸だけと思っていたこの国の被ばく者が、自分の近くに共存している「驚き」でした。



2004年から始めた取材。伊東ディレクター(監督)との約束事は一つ。それは、被取材者と近い位置にいるローカル局制作者として「一人の人間の痛みを忠実に丁寧に描くこと」によって、「個人と国家」の関係が問われるこの事件の実態・本質に迫っていこう、ということでした。そう、「一人の人間に寄り添うことから本質へと迫る」…これはローカル局の限界ではなくローカル局だからできる可能性なのです。手探りの中、ひたすら、ひたすら現地を訪ね、一人一人の証言を積み重ねていく取材…「小さな井戸を掘り続け、それを’普遍’につなげていく」…8年の取材を重ねる中、社の理解を得てローカルで粘り強く放送を続けることができたこと、そして何より日本テレビ系「NNNドキュメント」で2回に渡り全国放送できたことが、この’小さな井戸’を掘り進んでいく大きな勇気となりました。



そんな取材の集大成として突き進んだ映画化。

この映画が発掘した事実を’一人’でも多くの方に知って欲しい。この映画を見て頂いた’一人’が、その立場や考え方を超えて噛みしめて欲しい。この映画を’一人”一人’にしっかりと届けたい。

…’一人’の人間にこだわる私達の願いです。



最後に、南海放送というローカル局が’テレビ’というメディアを超え’映画’に挑戦する試みが可能になった背景には、日頃「メディアとメディアの新しい組み合わせ」を積極的に推進してきた南海放送トップの後押し、様々な現場の仲間による社を挙げての協力・応援がありました。そして勿論、’映画’という未知の航海への’灯台’となって頂いた 日本テレビ系「NNNドキュメント」関係者の皆様のご指導、御協力があったればこそです。改めて深く感謝致します。



大西 康司【プロフィール】

昭和57年南海放送入社。以来、様々な番組を制作、プロデュースを行う。報道情報本部制作部長などを経て、現在 執行役員テレビ局長。



監督 伊東 英朗



『高校生で訪れた広島』



原爆で焼かれた一人ひとりの壮絶な死を知り、その苦しみに自らを重ね合わせた時、深い絶望と強い怒りを覚えた。10代だった僕はその思いを「忘れること」は、加害と同じだと考えた。以来、折にふれ広島を訪れるようになった。そしていつからか「忘れない」ではなく「何かできることをしたい」と思うようになった。



『8年前』



インターネットで番組リサーチをしていた時。元高校教師 山下さんの活動を伝える記事が目に飛び込んできた。『…第五福竜丸以外の多くの被ばく船を調査…』「第五福竜丸以外の船?そんな話聞いたこともない。僕だけが知らないことなのか。」まるで狐につままれたような感覚だった。



『確かめたい』



番組制作を共にやってきたプロデューサーの大西と、4時間をかけ高知県の山下さんを訪ねた。山下さんは静かに語り始めた。「多くのマグロ漁船、貨物船が被ばくし、汚染された魚が水揚げされ食卓に運ばれた。いつしか事件は第五福竜丸事件として記憶された」と言う。それまで当たり前のように使ってきた「広島、長崎、唯一の被ばく国」というフレーズは正確ではなかった。「なぜ事件が記憶から消え去ったのか」僕は、その理由をこの手で解き明かしたいと思った。

その日からこの事件の取材が始まった。抱えている番組制作の隙間を見つけては現場に通った。費用を節約するため山下さんの自宅を宿舎兼取材拠点とさせてもらった。カメラマンと2人、愛媛西部から高知東部まで300キロを何十回となく往復。被ばく者を訪ね歩く日々。時に怒鳴られ凄まれ、飯が喉を通らないこともあれば「よう来てくれたなあ、ありがとう。お父さんが生きとったらあんたら大歓迎するに。腹減っちゅうがやろ」とカレーをおご馳走になることも。取材で疲れた体で車を運転し会社まで4時間をかけ戻る。その繰り返し。その年2004年には、日本テレビ系列(NNNドキュメント)で全国の人にその事実を伝えることができた。以降、新事実が見つかるたびにローカルでの放送を繰り返した。しかし、番組が事件解明へつながることはなかった。



『乗組員の証言も積み重ねた』



日米両政府の公的文書、調査記録も検証した。しかし乗組員が被ばくしたことを裏付けることができないままだった。ところが2009年、米エネルギー省の機密文書を発見。放射性降下物が漁場を中心に拡大、日本全土までもが放射性降下物で覆われていたことが分かった。



『2011年3月11日』



その日を境に人々の関心は放射能に集まった。「直ちに健康に影響はない」という言葉に疑心し、目に見えない放射線に怯え、風評被害が起こった。

「ついにあの時がやってきた」

テレビの前で呆然と立ち尽くす自分の姿があった。

『人々に向けられる線量計』



風で舞い上がり、雨で落下する放射性物質。セシウム、ストロンチウム、ホットスポット、シーベルト…専門用語が飛び交い、新聞紙上に、牛乳やお茶、魚、水などから放射線が検出されたと記事が踊る。風評被害が起こり、わずかの期間で政府は、終息宣言をした。

僕が、港を歩き老人や未亡人から聞いた半世紀前の話が、目の前で起こっていることと重なる。心の中で叫んでいた。

「半世紀前に身の回りで同じことが起こっていたんだ。皆知らないのか。同じ轍を踏んではいけない。」

過去の被ばく事件を未清算のまま放置してはいけない。この事件を解明しなければ、今後起こりうる被害を防ぐことができない。

2012年1月、日本テレビ系列(NNNドキュメント)で1時間番組として8年ぶり2回目となる放送を行った。全国から大きな反響を得、多くの若い世代が見てくれたことが分かった。



『今度は映画化』



映画館での上映はもちろん、その後の小さな自主上映が調査などにつながって欲しい。それが僕の強くささやかな願いだ。事件はほぼ未解明なままだ。全国津々浦々にかつてマグロ船に乗った人がいる。生存していれば70歳台から80歳台。核実験は、太平洋だけとっても1954年から1962年まで続けられた。被害者の数は計り知れない。解明の第一歩となる被害の実態を調査し、救済の道筋をつけなければならない。小さな行動が積み重なれば光が見えてくると信じている。

日本テレビ日笠プロデューサーには番組製作から映画化まで親身になってアドバイス頂いた。また、当時のマグロ漁をとらえた「荒海に生きる」、そして高校生たちの取り組みを記録した「ビキニの海は忘れない」などの映像によって、よりリアリティをもってビキニ事件の実相に迫ることができた。



今、被ばく者たちは自らの死をもって被ばく事件のX年後を伝えている。僕らはそれを重く受け止め、事件を伝え続けなければならない。

人々が事件を知ることが、被ばく事件解明の一歩につながると信じている。



伊東 英朗【プロフィール】

1960年愛媛県生まれ。16年間公立幼稚園で先生を経験後、テレビの世界に入る。東京で番組制作を経験した後、2002年から地元ローカル放送局 南海放送で情報番組などの制作の傍ら、地域に根ざしたテーマでドキュメント制作を始める。2004年ビキニ事件に出会い、以来、8年に渡り取材を続ける。





*キーワード解説



<ビキニ水爆実験>

米国が1954年3月1日から5月まで、中部太平洋のマーシャル諸島ビキニ環礁で行った実験。キャッスル作戦と名付けられた実験は6回(うち1 回はエニウェトク環礁)。3月1日に爆発させた「ブラボー」は広島に落とされた原爆の1千倍以上の破壊力があるとされ、近海で操業中の第五福龍丸(乗組員23人)が被ばく。同年9月、無線長の久保山愛吉さんが死亡した。





<ビキニ被災事件の補償問題に関する日本側書簡返信>

日本政府は、1954年12月、被ばくした魚は、人体に影響を及ぼすものではないとして、放射線の検査をすべて打ち切った。そして翌日からは、すべての魚が水揚げされた。 その直後、日本政府とアメリカ政府は、公文書を取り交わしている。アメリカ政府が「完全な解決」を条件に、慰謝料として200万ドル(当時、日本円にして7億2千万円)を支払うという文書。日本政府は、その条件を受け入れ、事件は完全な解決とされた。 慰謝料は、4分の3が、魚の廃棄や魚価が下がったことによる損害に、残りは、第五福龍丸乗組員の治療費などにあてることが閣議決定されている。





<アメリカ原子力委員会の機密文書>

南海放送は2009年、アメリカエネルギー省から、水爆実験を所管した米原子力委員会の機密文書を入手。これは、米国気象局のロバート・J・リストが、1955年5月(実験のおよそ1年後)にまとめたNYO-4645と呼ばれるもので、非公開資料として長年機密扱いされてきた、しかし、1984年8月に一部の数値や文章を削除した状態で公開したものである。「キャッスル作戦からの世界的規模の放射性降下物」と題された機密文書には、世界規模の放射性降下物の広がりが記録されている。各水爆実験の広がりの他、1日毎の広がりが記録されている。この機密文書から、多くのマグロ漁船が放射性降下物に覆われた場所で操業していたこと、日本全土が放射性降下物で覆われていたことが裏付けられることになった。 また、この文書から、実験の1年前に、すでに122ヶ所のモニタリングポストが設けられていることが分かった。日本では、三沢や東京など5ヶ所。さらに広島や長崎ではABCCが利用され測定が行われていた。





山下正寿(やましたまさとし)と幡多ゼミ(はたぜみ)

元高校教師の山下正寿氏らが顧問を務める高校生ゼミナール(1983年設立)。高知県幡多地区の高校生が主体となり「足もとから平和と青春を見つめよう」をモットーに、地域の現代史調査活動をしている。1985年から地域のビキニ事件を調査。その姿は「ビキニの海は忘れない」(1990年)で描かれた。
教師になって高知に帰ってきた山下さんは、仲間の教師や教え子たちと共に、被災者の聞き取り調査を始め、高知県の沿岸部を3年に渡り調査した結果、消息が分かった乗組員は241人。生存していれば50代から60代のこの時期に、既に3分の1が死亡していた。被ばくした魚を水揚げした船は、東北から九州まで全国に渡っていた。その内、3分の1が山下さんの地元、高知船籍の船だった。山下先生は現在も、被災した乗組員たちに、被爆者健康手帳が交付されるように働きかけている。



<推 薦 コ メ ン ト>



「知らず学ばず、 忘れたふりして、燥ぎ過ぎた平和と繁栄の中を生きてきた日本は、3.11と共に壊滅した。今こそ僕らは正しい日本の未来を手繰り寄せるためにも、例えばこの「X年後」を見なければ、体験しなくてはならない。積年のテレビ番組を

注目してきた僕としては、今、その映画化の成果を、諸手を挙げて応援します。これは貴重な日本と日本人の記憶です……」

~大林 宣彦(映画作家)~



「放射能汚染の歴史は深くて広い。

その途方もない裾野を分け入って、曖昧な被ばくの実態を丁寧にあぶり出していく、、、そのプロセスがドキュメンタリーの神髄だ。

本作には東京電力福島原発事故以後を生きる私たちにとって非常に重要なメッセージが含まれている。 体制や権力の側がやろうとしてきたことの本質がここにも現れているからだ。 被ばくについてだまされないために踏みにじられないために、 何ができるか、この作品は問いかけてくる。」

~鎌仲 ひとみ(映画監督)~



「私がこれまで観たドキュメンタリー映画の中でも1、2を争う作品です。

自分はこれほど何も知らなかったのかと思いました。できるだけ多くの人に観てもらいたいと思います。ぜひ!!」

~斎藤 貴男(ジャーナリスト)~



「久々にドキュメンタリー映画の真実を手繰る力の確かさに衝撃を受けた。

第五福竜丸も、チェルノブイリも、フクシマも見えない負の絆でつながっている。それは生命の尊厳を冒涜する絆にほかならない。

人類はその絆を消滅させるために英知を結集しなければならない、と考えさせられた。」

~志茂田 景樹(作家)~



「衝撃を受けました。よくぞ撮ってくれたと思いました。大変なご苦労だったと思います。

ついこの前のことなのに、我々はすっかり忘れていた。又、忘れさせられていた。

同じことを何度も何度も繰り返すのか。アメリカに、こんなにひどい目にあわされて、それでも、アメリカにすがりつこうとするのか。我々は目をさます必要がある。

全国民に見てほしい。そして明日の日本を考えてほしい。とても勉強になりました。」

~鈴木 邦男~



「おらんちの池”を返せ!

土佐のよさこい節じゃないけれど、南洋はおらんちの池だ。その南洋の海をヒロシマの原爆の千倍の核実験で大破壊した奴がいる。

何百人の遠洋漁民が被爆して死んだ。日本は海で生きてきた国じゃないか。日本国は海を棄てるつもりか。

現代のジョン万次郎たちの命を、海の底で死んだ数えきれない生き物たちの命を返せ!

おらんちの海を返してくれ!」

~早坂 暁(作家・脚本家)~



「過去の不当な暗黒に学んで、その暗黒を切断することによって、まともに明るい将来を望める。

国際連合の五つの常任理事国は、すでに万を単位とする核爆弾を所有している。

人類のみじめな自滅を防ぐには、人類みんなで、何をしなければならないか、 何をしてはならないか、映画「X年後」はそのための切実な歴史の証言だ」

~むの たけじ(ジャーナリスト)~



「放射能は見えない。

匂いもないし音もない。もしも被曝しても痛みはない。症状もすぐには現れない。

だから怖い。気づけない。そして馴れてしまう。 今からおよそ60年前、第五福竜丸の乗組員たちが被曝した。それは史実。でも史実はひとつではない。

見えなくてすぐには症状が現れないからこそ、長い観察が必要になる。この映画はとても重要な視点を僕たちに提供する。まずは観てほしい。そして考えよう。

3・11を経過した今だからこそ、僕たちは何を為すべきなのかを。」

~森 達也(映画監督・作家)~



「ひとりの誠実な高校教師が不誠実な日本とアメリカの政府に対して抗議行動をしている。

その映像は、かのビキニの水爆実験は一回ではなくて105回、 被害は第五福竜丸だけではなく同時に出漁していた何百人の船員たち、さらには日本全土が放射能の被害を受けていたという恐ろしい事実を観客に伝え、この誠実な高校教師を絶望させてはならない、と静かに訴える。」

~山田 洋次(映画監督)~

村田光平元スイス大使の手紙

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7月 062013

参議院選挙が始まり、フクシマ原発が、今も大変な状況にあり、収束など全くしていないことも完全に忘れられているようである。日経CNBCでは、株価の上昇のために原発再稼働を早くすべきだ、地元住民の賛否の投票をすれば、賛成の方が多いのでは、というコメントをアナリストが、明言するほど危機感がない状況に現在の日本はなっているようだ。

少々古くなったが、以前、ご紹介した信念をもって脱原発を言い続けている元スイス大使村田光平氏の手紙を紹介させていただく。

(以下)

発信を続けております。

一つの大きな山場が来たような感じがします。現状では破局の接近を感じざるを得ません。

あらゆる立場の相違を乗り越えてその到来を未然に防ぐことが求められております。

全方位に発信を続ける所以です。



大島原子力規制委員宛メッセージ及び池田原子力規制庁長官(前警視総監)宛メッセージをお届けいたします。

別添の9年前の私の警鐘「日本の命運を左右する電力会社」を是非ご一読願います。



福島第一第1号機に関する地震事故原因説の取り扱いに同委員会の信頼がかかっております。 世界は安全保障問題として日本の原発の耐震基準の見直しを求め出しております。

事故処理国策化の第一歩となり得ます。



大飯原発再稼働は日本の恥です。

15日報じられた現地調査担当の原子力規制委員による「決定的欠陥はない」との発言が嘆かれます。田中俊一委員長の「灰色は黒とみなす」との初志は今いずこの感があります。内外でもはや疑われていない第1号機に関する地震事故原因説の取り扱いに同委員会の信頼がかかっております。世界は安全保障問題として日本の原発の耐震基準の見直しを求め出しております。

ご参考になればと存じます。




原子力規制庁



池田克彦長官殿

平成256月13日


村田光平

拝啓

初めてメッセージをお送りする失礼をお許し願います。

1999年に駐スイス大使になられた国松孝次元警察庁長官の前任者の村田です。



引退後、原子力政策の危険性を確信し、その転換を訴えて参りました。

別添の「日本の命運を左右する電力会社」と題する警告は現実となりました。

現在は、福島事故処理は世界の安全保障問題であり、国策化を急ぐよう訴えております。





安倍総理、菅官房長官宛メッセージをお届けいたします。

読めば誰もが恐ろしさを感じる別添の小沢・小出対談もお送りしてあります。

画期的会談です。



このたび日仏首脳は「原子力独裁」が国際的なものであることを改めて立証しました。

反省もなく巻き返すところは同じ父性文化の軍国主義を想起させます。騎士道精神、武士道精神の喪失が嘆かれます。



9年前の上述の警告は「世界の命運を左右する電力会社」として発信して行く必要があります。使命感を覚えております。





天地の摂理による民事、軍事を問わない核廃絶の実現が「原子力独裁」の終焉をもたらすと信じております。倫理の逆襲は始まっております。

ユネスコクラブ世界連盟が311日を地球倫理国際日と決めたことはその一例です。





福島事故は原発の存在そのものが安全保障問題であることを立証いたしました。

原子力規制庁はこの上ない重責を担うことになりました。



ご指導、ご支援をお願い申し上げます。

貴長官のご活躍、ご健闘をお祈り申し上げます。

敬具

2004年9月9日付
小論「日本の命運を左右する電力会社」を各党党首宛発出

日本の命運を左右する電力会社


現在、誰もが大きな時代の変化の到来を予感し、不安を強めております。経済至上主義は、リストラに見られる通り「人間排除」を生んでいます。今こそ人間復興を目指す文化の逆襲が必要とされます。この文化とは、揺らぎつつある戦後の政・官・財文化に取って代わる「地球市民文化」です。
市民社会が支えることとなるこの新しい文化は、脱原発を含む地球の非核化を追求し、環境破壊に脅かされた地球を救うものとなりましょう。

核関連事業につきまとう「タブー」

国民がこの目標に向かって歩み始めるには、大きな障害があります。それは、日本社会全体を覆う原子力のタブーです。これを破るものは不利益を被ることになる仕組みが存在するのです。このため国民は、原発の危険性について十分知らされないでおります。
このタブーには、電力会社が深くかかわっていると指摘されています。
今年の8月9日に発生した関西電力・美浜原発の死傷者を出した大事故は、「原発は絶対安全」としてきた原子力関係者に反省を迫るものです。これから国民は、例えば次のような原子力をめぐる異常性に目が覚めるものと思われます。このように明確な異常性に対し、見て見ぬふりをしている関係者の責任は重大です。


1 マグニチュード8を超える未曾有の巨大地震が予測されている東海地域のど真ん中に、中部電力の原発(浜岡原発)が存在すること。
2 中央防災会議(会長・内閣総理大臣)は、東海巨大地震による被害予測の中で、最も懸念される浜岡原発の事故(原発震災)の可能性を全く無視していること。
3 原発の建設や中間貯蔵施設の誘致を、隣接県・近隣県の参画のないまま一町長の実質的権限に委ねていること。
4 青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場(最悪の場合、原発一千基分の被害をもたらしうるとされている)で300余りの不正溶接が見つかったが、このズサン工事は単に監督強化で済ませることのできない体質の問題であるのに、結果的には不問に付されていること。
5 40年として設計・建設されてきた原発の寿命を、限られた関係者のみの判断で60年に延長していること。

電力会社の無責任な体質

このたびの美浜原発事故は、関電の管理体制が恐ろしい程ズサンであることを示しました。私は今年6月下旬に、関電が3600を上回る不正報告を行ったことを新聞報道で知り、衝撃を受けました。早速、政府関係者を始め、日本経団連、電気事業連合会等に対し、関電には原子力を扱う資格はなく、まして危険性の高いプルサーマル計画を実施することは論外である旨、訴えておりました。美浜原発事故は、その直後発生したのです。
国民の安全を守るためには一切の妥協を排し、最も厳しい対応が求められることを改めて思い知らされました。


このような立場からすれば、今年8月25日付の共同通信ニュース及び8月26日付の福島民報が報じた、東京電力のズサン極まりない管理体制には深刻な危機感を覚えます。
東電は、8月18日に国と県に報告した配管点検状況の調査結果において1500を上回るミスを犯し、なおかつ、「点検漏れはないという結論に変わりはない」としていることが判明したのです。同社は、一昨年には「トラブル隠し」の不祥事を起こしており、また昨秋には圧力抑制室に1023個もの異物を放置していたことが報じられました。許されざる過ちを繰り返しているのに、自らの非を認めようとしないのです。


このような事実は、東電の体質が関電と全く同じであることを示しています。しかし残念ながら、全国紙を始めマスコミは、このような重大な事実を、タブーの存在により大きく取り上げようとはしないのです。
私は関電の場合同様、関係方面に東電に対し監察を行う必要性を訴えるとともに、東電のトップに対し記者会見で釈明するよう申し入れております。この際、徹底した対策を講じなければ、東電が管轄する17基の原発の安全は、到底確保しがたいと思われます。独占的公益企業である電力会社のあり方の見直しは急務の課題です。このような監察は全ての電力会社に対して実施する必要があります。
原発推進をうたうエネルギー国策の中心的存在である電力会社の影響力は絶大です。国民の安全を脅かすものとなった原子力のタブーも、電力会社の協力なしには打破できません。日本の命運は、電力会社の手中にあると言っても過言ではありません。

世論は脱原発に動いている

最も大切なことは、原発大事故がもたらす想像を絶する破局を未然に防ぐことです。


現在、浜岡原発の運転停止を求める全国署名が進められております。この活動は、哲学者の梅原猛氏、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏、田中康夫長野県知事などの賛同者(呼びかけ人)を得て、幅広い基盤の上に立った国民運動として盛り上がりつつあります。すでに25万人余りの署名を集め、来年3月には100万人を目指しています。
世論がこうして脱原発への「雪崩現象」に向かうならば、マスコミも目覚めるはずです。原子力のタブーが打破されれば、国民は原発立地に関する財政的な「特典」などの罪深さを悟るでしょう。そして必ずや、原子力を推進するエネルギー国策の転換を求め、これを実現するものと信じて疑いません。


問題の重要性に鑑み、超党派的立場より万全の対応をとられますよう、心よりお願い申し上げます。

米国の恐るべき情報活動の一端

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7月 032013

ところで、だいぶ前になるが、米国が日本という国で行っている諜報戦の一端を知ることのできる一文をお送りしたレポートで紹介したことがある。元外交官原田武夫氏のものである。



(引用開始)



日本のメディアは米国によって徹底して監視されているのである。かつて、作家・江藤淳は第2次世界大戦における敗戦後、占領統治を行ったGHQの下で、約8000人近くもの英語の話せる日本人が雇用され、彼らを使った日本のメディアに対する徹底した「検閲」が行われていた歴史的事実を検証した。しかし、その成果を示した著作「閉ざされた言語空間」(文春文庫)においては、この8000人近くの行方はもはや知れないという形で閉じられている。あたかも、米国による日本メディアに対する監視とコントロールが1952(昭和27)年のGHQによる占領統治の「終焉」とともに終わったかのような印象すら受ける。

しかし、現実は全く違う。「彼ら」は引き続き、日本メディアを監視し続けているのである。しかも、その主たる部隊の一つは神奈川県・座間市にあり、そこで現実に77名もの「日本人」が米国のインテリジェンス・コミュニティーのために働き続けているのである。そして驚くべきことに、彼らの給料を「在日米軍に対する思いやり予算」という形で支払っているのは、私たち日本人なのだ。

「監視」しているということは、同時にインテリジェンス・サイクルの出口、すなわち「非公然活動」も展開されていることを意味する。」



(引用終わり)



そして、今回のスノーデン暴露事件で、米国がとんでもない規模で情報収集活動をしていることが世界的に明らかになった。いろいろな情報を総合して考えると、日本という国でも、徹底した諜報・情報活動が行われていることは、間違いない。

おそらく、米国の利害関係に関わる政治家、官僚、言論人、大企業経営者、独自技術を持ちベンチャー企業経営者、団体の要職に就いている人間、そう言った人たちすべてが情報収集活動の対象であると推測できる。もしかすると、あなたのやっている仕事によっては、あなたもその対象になっている可能性がある。軍事評論家の田岡氏が差し支えない最小限の事を教えてくれているので、是非、ご一読いただきたい。



*ダイヤモンドオンラインより



(2013年6月27日)



スノーデン暴露で欧米に大波乱


日本も狙う米情報機関NSAの正体


田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]



~米国の通信情報機関NSAと契約しているセキュリティ会社の社員エドワード・スノーデン氏(30)が、NSAの世界的な電話盗聴、Eメール監視などを暴露した事件は欧米で大波乱を巻き起こした。だが日本メディアの関心は比較的低い。巨大な闇の権力NSAに対する予備知識が欠けているためだろう。



存在自体が極秘だった



National Security Agency(NSA)は「国家安全保障局」と訳すのが日本の慣行だが、これは誤訳だ。この場合「セキュリティ」は「機密保全」の意味だから、「国家保全庁」が適訳だろう。米国には第2次大戦前から陸・海軍に通信情報組織があり、1921年のワシントン海軍軍縮会議で、日本側が「主力艦の5・5・3」の比率を呑む腹積もりであることも予知していた。

日本の外務省の電報は日本大使館より早く解読していたし、海軍、陸軍の暗号の解読にも成功した。戦後も米陸・海・空軍にそれぞれ通信傍受・解読部隊があり、これらは自軍の暗号の作成や秘話電話網の開発などもするため表向きには「セキュリティ(保全)部隊」と称した。19521024日のトルーマン大統領命令でこれらを統括する国家レベルの保全庁が設立されたが、その存在自体が極秘とされ、日本の省庁の設置法に当たる政令はいまも秘密だ。法案を議会にかければ存在が露見するから、秘密政令にしたのだろう。



設立当初でも人員は推定約1万人もいたのだが、国防総省の外局だから経費は国防予算にまぎれ込ませていると考えられる。NSAは米政府の組織表にも載せず、職員はNSAという語を使うことが厳禁され「連邦政府職員」と称した。歯科医院で麻酔中に口が滑るのを警戒し、指定医院以外に行くことも禁止だった。

1960年9月、2人のNSA暗号職員がソ連に亡命し、米国の同盟国を含む40ヵ国以上の通信を傍受していることをモスクワでの記者会見で述べたため、NSAの名が世界に知れ渡ったが、米政府は否定したためNSAは“No Such Agency”(そんな庁はない)の略称との冗談が広まった。この当時、日本の記者もはじめてNational Security Agencyの名を知り、何をする役所か分らず、National Securityは「国家安全保障」だから、それを扱うのかと思って「国家安全保障局」と誤訳したのが定着したようだ。



世界最大の諜報機関



米政府はいまではNSAの存在を認め、長官、次長等の名は公表されているが、人員、予算などの基本的事実までがなお秘密だ。本部はワシントンの北東約30キロメートルの陸軍駐屯地メリーランド州フォート・ミードにあり、約2.6平方キロメートルの敷地に約20棟のビルが並ぶ。東京の霞が関の官庁街をはるかに上回る規模で、金網のフェンスに「写真撮影、スケッチは処罰される」と米国では例外的な表示がある。一応広報室もあるので、私も一度連絡して訪れたが、丁重に金網の外の「暗号博物館」に案内されただけだった。

地元紙「ボルチモア・サン」はNSA特集をしたことがあり、その記者によれば、本部だけで推定2万人が勤務、米国最高の数学者、語学者、電子技術者の集団で、半導体工場まであるという。海外に無人局も含め約3000の受信所を設け、総人員は約3万人とされている。冷戦期には中国の協力で新疆にも受信所を設けてソ連の通信を傍受していた。NSA傘下には陸、海、空軍、海兵隊、沿岸警備隊などの「保全」(実は傍受)部隊計約10万人がいるとされる。CIA(中央情報局)は1万数千人と推定され、NSAは世界最大の情報機関だ。



NSAは、組織上は国防総省に属する外局で、長官はキース・B・アレクサンダー陸軍大将だが、情報活動はCIAを通じて伝えられるホワイトハウスのNSC(国家安全保障会議)の指示によって行っている。海外の重要拠点としては日本の三沢、英国のメンウィズ・ヒル、オーストラリアのパイン・ギャップなどがある。

米英は第2次大戦中、日独の暗号解読で密接に協力したが、戦後もそれを発展させ、NSAは英国の「政府通信本部」(GCHQ)、カナダの「通信保全機構」(CSE)、オーストラリアの「国防通信総監部」(DSD)、ニュージーランドの「政府通信保全局」(GCSB)と秘密の協力協定を結び、アングロサクソン5ヵ国の通信情報部隊はほぼ一体となって活動している。自国民の電話、Eメールなどを国内で許可なく傍受することが違法となる場には、他の国に頼んでやらせる“相互乗り入れ”も可能で、サッチャー英首相は閣僚の一部がサッチャー降ろしを図っていると疑い、カナダに頼んで閣僚の電話を盗聴させていたことを、カナダCSEの職員が内部告発したことがあった。



日本、欧州の経済情報狙う



冷戦中のNSAはもっぱらソ連とその同盟諸国の情報収集を行ったが、冷戦終了で情報機関は人員、予算削減を迫られた。このため1990年4月にはW・ウェブスターCIA長官が「日本や欧州などの米国の経済上の競争相手に対する情報戦略を扱う企画調整局を設けた」と講演で述べ、92年4月にはR・ゲーツCIA長官(2006年に国防長官)が「業務の約4割は経済分野とし、予算の3分の2を回す」と述べた。



95年6月、ジュネーブでの日米自動車交渉では日本側代表の橋本龍太郎通産相と東京との電話をNSAが傍受、CIAがその要約を毎朝M・カンター米通商代表に届けていたことがN.Y.タイムズで報じられ、日本政府は米国に真偽を問い合わせたが、米国は回答を拒否した。インドネシアでの電話網の建設やサウジアラビアへの旅客機輸出などで、米情報機関が他国企業の贈賄や不正を探知して地元政府に伝え、米企業の成約に貢献した、とか日本で開発中の次世代電池の情報を米自動車産業に伝えた、など存在価値を示す「手柄話」がリークされ報道された。贈賄はする方に非があるが、米企業がやっても米情報機関は関知せず、他国の企業を監視するのだから、米国に有利となるわけだ。



日本でのNSAの拠点、米空軍三沢基地の「セキュリティ・ヒル」と呼ばれる一角では、冷戦終了後にかえって衛星からの通信を受けるためなどのアンテナが増え、同盟国の経済情報を狙う「エシュロン」活動が活発化していることを示していた。英国以外の欧州ではエシュロンに対する警戒が高まり、欧州議会(EU諸国から人口比で議員が選出される)は1998年にこの問題を取り上げ、2000年に特別委員会を設置して調査、019月に「エシュロンの存在は疑えない」との報告書を採択した。

三沢にはNSAと米軍の「保全」部隊計約1600人がいると見られる。日本が自国も狙われている「エシュロン」のために用地を無償で提供し、「思いやり予算」で電気、水道、ガス代や、周辺で働く基地従業員の給与を負担し、宿舎の建設もするのは滑稽の限りだ。



大量傍受で選別が大変



NSAは1時間に数百万件の通信を傍受している、と言われる。宇宙には直径150メートルものアンテナを拡げる傍受衛星「トランペット」や「メンター」が周回し、地球上の弱い電波も捉える。米大使館や米軍施設などに配置された有人、無人の受信局でも携帯電話などを傍受する。

有線の固定電話でも途中がマイクロ回線になっていて簡単に傍受されることが多い。海底電線は光ケーブルに代わって安心か、と思えば、近年ではそれも傍受可能と言われる。携帯電話はデジタル化し、チャンネルを変えつつ交信するのでアマチュアの盗聴は難しくなったが、情報機関の手に掛かると「少し面倒なだけ」とも言う。インターネットは隣国との交信でも米国を経由することが多いし、NSAは主要IT企業9社の協力を得ていたことが今回スノーデン氏の暴露で分かった。



だが、あまりに大量の傍受をしても、それを翻訳し、情報価値のある通信だけを抽出するのは大変だ。NSAは記憶装置に取り込んだ通信を巨大なコンピューターを使って自動翻訳し、「ディクショナリー」というシステムで、キーワード検索して抽出するようだ。当初は「私、爆発寸前よ」と電話で友人にボヤいた主婦をマークし、その通信を追い続けたような失敗もあったが、今日では単語だけではなく前後の文脈などもコンピューターが勘案し、怪しいものだけを抜き出す技術がある、とも言われる。自動翻訳は不完全としても第1段階の選別程度には有効だろう。



これは一般の監視であり、政治家や、官僚、経済人、軍人、メディア、技術者あるいはテロや密輸に関係する疑いのある人物などは、自宅や事務所の携帯電話の番号、Eメールアドレスなどのほか、声紋登録によってどこから電話しても傍受可能らしい。要人の素行も筒抜けだから、失脚させたり、脅迫することで、他国を支配する道具にもなりうる。

NSAは多数の優秀なハッカーを抱え、コンピューターに侵入して、必要があるときに信号を送れば作動する「トロイの木馬」を仕掛けることもできる。暗号化や秘話装置でそれを防ごうとしても、米国製の暗号システムはNSA傘下の機関が許認可権を持ち、解読が不可能なものは海外に出さない、とか、OS(基本ソフト)に「バック・ドア」(裏口)を設け、情報を取り出せるようにしている、などの疑惑も出ている。日本のコンピューターセキュリティは米国に留学するなど、アメリカから学ぶことが多いから、孫悟空がお釈迦様の手の上ではね回るような感がある。



他国人の人権はほぼ無視



スノーデン氏はテロ対策のための「プリズム」作戦では監視の規制が緩められたとし、「米政府が極秘で世界の人々のプライバシーを調べ、基本的自由を侵していることは看過できない」と内部告発の動機を語ったが、オバマ大統領はこれに対し「テロ防止に必要で、外国人が対象だ」と釈明した。



だが、通信の片側が外国、あるいは米国内の外国人だと、相手側の米国人も傍受される。1978年10月以降は米国内の傍受には「外国情報監視裁判所」の令状が必要となったが、もちろん非公開で反対側の弁論もなく、傍受対象が外国か外国人であることを証明さえすれば自動的に許可されることになっている。1979年から2012年まで3万3900件の令状請求に対し却下は11件という。外国と米国の通信や、外国での通信の傍受はやりたい放題だ。

そもそも通信の秘密は基本的人権の1つで(「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第17条)、自国民に対してやってはならないことを、外国人にはやってよい、という米政府の主張は変だ。それならば外国での人権侵害に口を出すのは矛盾した行動だ。諜報の世界では、外国の官吏を買収したり、脅迫して情報を取ることは日常的にあり、ときには拉致して拷問することまである。キューバの米軍基地グァンタナモでは、いまなおテロ関係者と疑われて他国から連行された約160人が裁判もなしに檻に拘束されている。



今回の問題でも、米国メディアや議会の関心はもっぱら米国民の人権が侵されたか否かであり、他国人の人権はほぼ無視されている。テロ防止や安全保障のためには、若干違法性のある諜報活動も慣行として認めざるをえないとしても、あまりに野放図な外国人の人権侵害は米国の信用を傷つけ、大害をもたらすだろう。



サイバー戦争を準備



米国では1980年代からコンピューターへの侵入で軍の指揮システムや電力、交通、金融、工場の制御などに混乱が起きる危険が指摘された一方、それを攻撃に使うことが論じられ、1993年に「空軍情報戦センター」がテキサス州ケリー空軍基地に作られ、約1000人がサイバー戦争の防御と攻撃の研究に当っていた。

1997年6月には35人のハッカーが市販の機材を使って米軍を攻撃する演習「エリジブル・レシーバー(受信資格者)」を行ったが、ハワイの太平洋軍司令部を始め36ヵ所の枢要なコンピューターが侵入され、指揮系統は麻痺し動員や補給も大混乱に陥った。指揮・情報系統のコンピューターは専用回線を使い、外部と絶縁したLAN(Local Area Network)のはずだったが、補給系統のネットは発注や輸送の都合上民間企業とつながざるを得ず、それを伝って指揮系統に入り込んだらしい。この後、米軍のサイバー戦部隊は急速に拡大され、20105月に「サイバー軍」が誕生した。陸、海軍に続いて空軍が生れたような形だ。その司令部はNSA本部と同じフォート・ミードに置かれ、初代司令官はNSA長官アレクサンダー大将が兼務だ。

コンピューターもインターネットも米国で軍用に発明されたものだし、第2次大戦前から暗号解読にたけ、戦後も巨大な組織を有して最先端の技術を磨いてきたNSAの情報能力がサイバー軍と合体し、サイバー戦争の戦力となるのだから、「もう1つの水爆を持った」との評価が米国で出るのも自然だ。2010年9月イランのナタンズにあるウラン濃縮施設のコンピューターが侵入を受け、遠心分離機8400本が稼働不能となったが、これは米国とイスラエルの共同作戦だったことが判明した。サイバー軍の初仕事だ。



6月7、8日のオバマ大統領と習近平国家主席の会談では「サイバー・セキュリティにおける共通のルール作りの重要性で一致。7月の米中戦略・経済対話でこの問題の作業部会を設置する」との合意に達したが、この分野で世界のどの国に対しても絶大な優位に立つ米国が、駆け出しの中国と「共通のルール」を決めて、最大の得意技を「禁じ手」にするとは考え難く、作業部会で骨抜きのルールになる可能性が高そうだ。

サイバー攻撃の真の発信源の特定は困難で、例えば日本のコンピューターへの侵入で直近の発信地が中国と分かっても、素人の落書きならともかく、情報機関のプロによる侵入は、コンピューターの遠隔操作などにより世界各地を経由して行うのが普通で、直近の発信地は真の発信源ではない可能性が高いだろう。これを「中国がやった」と言うのは日本警察が昨年6月から9月の脅迫メール「なりすまし」事件で4人を誤認逮捕したのと同様だ。中国の簡略化した字体があったといっても、通信情報機関は翻訳のために練達の語学者を揃えているから、それも根拠にならない



本当の発信源が不明では、国家間で規制のルールを作っても実効はないし、仮にそれが分かっても国家の行為か個人か企業かは突きとめにくい。各国で軍や警察がサイバー攻撃に対する防衛に努めても、多分軍自身や官庁の防衛がせいぜいで、企業の防衛にまで十分手が回るとは考えにくい。また大企業はますますグローバル化するから、本社だけでなく海外の子会社、工場なども守る必要があろうが、軍や警察は外国にある現地法人を守る権限も責任もない。



企業はセキュリティ会社と契約し世界で企業グループ全体を守ってもらい、またその能力を悪用してライバル企業の情報を得ようとすれば、そもそも国境のないサイバー空間で、無国籍化したグローバル企業が雇った傭兵ハッカー達が戦うバーチャル戦争になり、それが近未来のボーダレス時代の戦争様相となるのかもしれない。

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