米国の恐るべき情報活動の一端

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7月 032013

ところで、だいぶ前になるが、米国が日本という国で行っている諜報戦の一端を知ることのできる一文をお送りしたレポートで紹介したことがある。元外交官原田武夫氏のものである。



(引用開始)



日本のメディアは米国によって徹底して監視されているのである。かつて、作家・江藤淳は第2次世界大戦における敗戦後、占領統治を行ったGHQの下で、約8000人近くもの英語の話せる日本人が雇用され、彼らを使った日本のメディアに対する徹底した「検閲」が行われていた歴史的事実を検証した。しかし、その成果を示した著作「閉ざされた言語空間」(文春文庫)においては、この8000人近くの行方はもはや知れないという形で閉じられている。あたかも、米国による日本メディアに対する監視とコントロールが1952(昭和27)年のGHQによる占領統治の「終焉」とともに終わったかのような印象すら受ける。

しかし、現実は全く違う。「彼ら」は引き続き、日本メディアを監視し続けているのである。しかも、その主たる部隊の一つは神奈川県・座間市にあり、そこで現実に77名もの「日本人」が米国のインテリジェンス・コミュニティーのために働き続けているのである。そして驚くべきことに、彼らの給料を「在日米軍に対する思いやり予算」という形で支払っているのは、私たち日本人なのだ。

「監視」しているということは、同時にインテリジェンス・サイクルの出口、すなわち「非公然活動」も展開されていることを意味する。」



(引用終わり)



そして、今回のスノーデン暴露事件で、米国がとんでもない規模で情報収集活動をしていることが世界的に明らかになった。いろいろな情報を総合して考えると、日本という国でも、徹底した諜報・情報活動が行われていることは、間違いない。

おそらく、米国の利害関係に関わる政治家、官僚、言論人、大企業経営者、独自技術を持ちベンチャー企業経営者、団体の要職に就いている人間、そう言った人たちすべてが情報収集活動の対象であると推測できる。もしかすると、あなたのやっている仕事によっては、あなたもその対象になっている可能性がある。軍事評論家の田岡氏が差し支えない最小限の事を教えてくれているので、是非、ご一読いただきたい。



*ダイヤモンドオンラインより



(2013年6月27日)



スノーデン暴露で欧米に大波乱


日本も狙う米情報機関NSAの正体


田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]



~米国の通信情報機関NSAと契約しているセキュリティ会社の社員エドワード・スノーデン氏(30)が、NSAの世界的な電話盗聴、Eメール監視などを暴露した事件は欧米で大波乱を巻き起こした。だが日本メディアの関心は比較的低い。巨大な闇の権力NSAに対する予備知識が欠けているためだろう。



存在自体が極秘だった



National Security Agency(NSA)は「国家安全保障局」と訳すのが日本の慣行だが、これは誤訳だ。この場合「セキュリティ」は「機密保全」の意味だから、「国家保全庁」が適訳だろう。米国には第2次大戦前から陸・海軍に通信情報組織があり、1921年のワシントン海軍軍縮会議で、日本側が「主力艦の5・5・3」の比率を呑む腹積もりであることも予知していた。

日本の外務省の電報は日本大使館より早く解読していたし、海軍、陸軍の暗号の解読にも成功した。戦後も米陸・海・空軍にそれぞれ通信傍受・解読部隊があり、これらは自軍の暗号の作成や秘話電話網の開発などもするため表向きには「セキュリティ(保全)部隊」と称した。19521024日のトルーマン大統領命令でこれらを統括する国家レベルの保全庁が設立されたが、その存在自体が極秘とされ、日本の省庁の設置法に当たる政令はいまも秘密だ。法案を議会にかければ存在が露見するから、秘密政令にしたのだろう。



設立当初でも人員は推定約1万人もいたのだが、国防総省の外局だから経費は国防予算にまぎれ込ませていると考えられる。NSAは米政府の組織表にも載せず、職員はNSAという語を使うことが厳禁され「連邦政府職員」と称した。歯科医院で麻酔中に口が滑るのを警戒し、指定医院以外に行くことも禁止だった。

1960年9月、2人のNSA暗号職員がソ連に亡命し、米国の同盟国を含む40ヵ国以上の通信を傍受していることをモスクワでの記者会見で述べたため、NSAの名が世界に知れ渡ったが、米政府は否定したためNSAは“No Such Agency”(そんな庁はない)の略称との冗談が広まった。この当時、日本の記者もはじめてNational Security Agencyの名を知り、何をする役所か分らず、National Securityは「国家安全保障」だから、それを扱うのかと思って「国家安全保障局」と誤訳したのが定着したようだ。



世界最大の諜報機関



米政府はいまではNSAの存在を認め、長官、次長等の名は公表されているが、人員、予算などの基本的事実までがなお秘密だ。本部はワシントンの北東約30キロメートルの陸軍駐屯地メリーランド州フォート・ミードにあり、約2.6平方キロメートルの敷地に約20棟のビルが並ぶ。東京の霞が関の官庁街をはるかに上回る規模で、金網のフェンスに「写真撮影、スケッチは処罰される」と米国では例外的な表示がある。一応広報室もあるので、私も一度連絡して訪れたが、丁重に金網の外の「暗号博物館」に案内されただけだった。

地元紙「ボルチモア・サン」はNSA特集をしたことがあり、その記者によれば、本部だけで推定2万人が勤務、米国最高の数学者、語学者、電子技術者の集団で、半導体工場まであるという。海外に無人局も含め約3000の受信所を設け、総人員は約3万人とされている。冷戦期には中国の協力で新疆にも受信所を設けてソ連の通信を傍受していた。NSA傘下には陸、海、空軍、海兵隊、沿岸警備隊などの「保全」(実は傍受)部隊計約10万人がいるとされる。CIA(中央情報局)は1万数千人と推定され、NSAは世界最大の情報機関だ。



NSAは、組織上は国防総省に属する外局で、長官はキース・B・アレクサンダー陸軍大将だが、情報活動はCIAを通じて伝えられるホワイトハウスのNSC(国家安全保障会議)の指示によって行っている。海外の重要拠点としては日本の三沢、英国のメンウィズ・ヒル、オーストラリアのパイン・ギャップなどがある。

米英は第2次大戦中、日独の暗号解読で密接に協力したが、戦後もそれを発展させ、NSAは英国の「政府通信本部」(GCHQ)、カナダの「通信保全機構」(CSE)、オーストラリアの「国防通信総監部」(DSD)、ニュージーランドの「政府通信保全局」(GCSB)と秘密の協力協定を結び、アングロサクソン5ヵ国の通信情報部隊はほぼ一体となって活動している。自国民の電話、Eメールなどを国内で許可なく傍受することが違法となる場には、他の国に頼んでやらせる“相互乗り入れ”も可能で、サッチャー英首相は閣僚の一部がサッチャー降ろしを図っていると疑い、カナダに頼んで閣僚の電話を盗聴させていたことを、カナダCSEの職員が内部告発したことがあった。



日本、欧州の経済情報狙う



冷戦中のNSAはもっぱらソ連とその同盟諸国の情報収集を行ったが、冷戦終了で情報機関は人員、予算削減を迫られた。このため1990年4月にはW・ウェブスターCIA長官が「日本や欧州などの米国の経済上の競争相手に対する情報戦略を扱う企画調整局を設けた」と講演で述べ、92年4月にはR・ゲーツCIA長官(2006年に国防長官)が「業務の約4割は経済分野とし、予算の3分の2を回す」と述べた。



95年6月、ジュネーブでの日米自動車交渉では日本側代表の橋本龍太郎通産相と東京との電話をNSAが傍受、CIAがその要約を毎朝M・カンター米通商代表に届けていたことがN.Y.タイムズで報じられ、日本政府は米国に真偽を問い合わせたが、米国は回答を拒否した。インドネシアでの電話網の建設やサウジアラビアへの旅客機輸出などで、米情報機関が他国企業の贈賄や不正を探知して地元政府に伝え、米企業の成約に貢献した、とか日本で開発中の次世代電池の情報を米自動車産業に伝えた、など存在価値を示す「手柄話」がリークされ報道された。贈賄はする方に非があるが、米企業がやっても米情報機関は関知せず、他国の企業を監視するのだから、米国に有利となるわけだ。



日本でのNSAの拠点、米空軍三沢基地の「セキュリティ・ヒル」と呼ばれる一角では、冷戦終了後にかえって衛星からの通信を受けるためなどのアンテナが増え、同盟国の経済情報を狙う「エシュロン」活動が活発化していることを示していた。英国以外の欧州ではエシュロンに対する警戒が高まり、欧州議会(EU諸国から人口比で議員が選出される)は1998年にこの問題を取り上げ、2000年に特別委員会を設置して調査、019月に「エシュロンの存在は疑えない」との報告書を採択した。

三沢にはNSAと米軍の「保全」部隊計約1600人がいると見られる。日本が自国も狙われている「エシュロン」のために用地を無償で提供し、「思いやり予算」で電気、水道、ガス代や、周辺で働く基地従業員の給与を負担し、宿舎の建設もするのは滑稽の限りだ。



大量傍受で選別が大変



NSAは1時間に数百万件の通信を傍受している、と言われる。宇宙には直径150メートルものアンテナを拡げる傍受衛星「トランペット」や「メンター」が周回し、地球上の弱い電波も捉える。米大使館や米軍施設などに配置された有人、無人の受信局でも携帯電話などを傍受する。

有線の固定電話でも途中がマイクロ回線になっていて簡単に傍受されることが多い。海底電線は光ケーブルに代わって安心か、と思えば、近年ではそれも傍受可能と言われる。携帯電話はデジタル化し、チャンネルを変えつつ交信するのでアマチュアの盗聴は難しくなったが、情報機関の手に掛かると「少し面倒なだけ」とも言う。インターネットは隣国との交信でも米国を経由することが多いし、NSAは主要IT企業9社の協力を得ていたことが今回スノーデン氏の暴露で分かった。



だが、あまりに大量の傍受をしても、それを翻訳し、情報価値のある通信だけを抽出するのは大変だ。NSAは記憶装置に取り込んだ通信を巨大なコンピューターを使って自動翻訳し、「ディクショナリー」というシステムで、キーワード検索して抽出するようだ。当初は「私、爆発寸前よ」と電話で友人にボヤいた主婦をマークし、その通信を追い続けたような失敗もあったが、今日では単語だけではなく前後の文脈などもコンピューターが勘案し、怪しいものだけを抜き出す技術がある、とも言われる。自動翻訳は不完全としても第1段階の選別程度には有効だろう。



これは一般の監視であり、政治家や、官僚、経済人、軍人、メディア、技術者あるいはテロや密輸に関係する疑いのある人物などは、自宅や事務所の携帯電話の番号、Eメールアドレスなどのほか、声紋登録によってどこから電話しても傍受可能らしい。要人の素行も筒抜けだから、失脚させたり、脅迫することで、他国を支配する道具にもなりうる。

NSAは多数の優秀なハッカーを抱え、コンピューターに侵入して、必要があるときに信号を送れば作動する「トロイの木馬」を仕掛けることもできる。暗号化や秘話装置でそれを防ごうとしても、米国製の暗号システムはNSA傘下の機関が許認可権を持ち、解読が不可能なものは海外に出さない、とか、OS(基本ソフト)に「バック・ドア」(裏口)を設け、情報を取り出せるようにしている、などの疑惑も出ている。日本のコンピューターセキュリティは米国に留学するなど、アメリカから学ぶことが多いから、孫悟空がお釈迦様の手の上ではね回るような感がある。



他国人の人権はほぼ無視



スノーデン氏はテロ対策のための「プリズム」作戦では監視の規制が緩められたとし、「米政府が極秘で世界の人々のプライバシーを調べ、基本的自由を侵していることは看過できない」と内部告発の動機を語ったが、オバマ大統領はこれに対し「テロ防止に必要で、外国人が対象だ」と釈明した。



だが、通信の片側が外国、あるいは米国内の外国人だと、相手側の米国人も傍受される。1978年10月以降は米国内の傍受には「外国情報監視裁判所」の令状が必要となったが、もちろん非公開で反対側の弁論もなく、傍受対象が外国か外国人であることを証明さえすれば自動的に許可されることになっている。1979年から2012年まで3万3900件の令状請求に対し却下は11件という。外国と米国の通信や、外国での通信の傍受はやりたい放題だ。

そもそも通信の秘密は基本的人権の1つで(「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第17条)、自国民に対してやってはならないことを、外国人にはやってよい、という米政府の主張は変だ。それならば外国での人権侵害に口を出すのは矛盾した行動だ。諜報の世界では、外国の官吏を買収したり、脅迫して情報を取ることは日常的にあり、ときには拉致して拷問することまである。キューバの米軍基地グァンタナモでは、いまなおテロ関係者と疑われて他国から連行された約160人が裁判もなしに檻に拘束されている。



今回の問題でも、米国メディアや議会の関心はもっぱら米国民の人権が侵されたか否かであり、他国人の人権はほぼ無視されている。テロ防止や安全保障のためには、若干違法性のある諜報活動も慣行として認めざるをえないとしても、あまりに野放図な外国人の人権侵害は米国の信用を傷つけ、大害をもたらすだろう。



サイバー戦争を準備



米国では1980年代からコンピューターへの侵入で軍の指揮システムや電力、交通、金融、工場の制御などに混乱が起きる危険が指摘された一方、それを攻撃に使うことが論じられ、1993年に「空軍情報戦センター」がテキサス州ケリー空軍基地に作られ、約1000人がサイバー戦争の防御と攻撃の研究に当っていた。

1997年6月には35人のハッカーが市販の機材を使って米軍を攻撃する演習「エリジブル・レシーバー(受信資格者)」を行ったが、ハワイの太平洋軍司令部を始め36ヵ所の枢要なコンピューターが侵入され、指揮系統は麻痺し動員や補給も大混乱に陥った。指揮・情報系統のコンピューターは専用回線を使い、外部と絶縁したLAN(Local Area Network)のはずだったが、補給系統のネットは発注や輸送の都合上民間企業とつながざるを得ず、それを伝って指揮系統に入り込んだらしい。この後、米軍のサイバー戦部隊は急速に拡大され、20105月に「サイバー軍」が誕生した。陸、海軍に続いて空軍が生れたような形だ。その司令部はNSA本部と同じフォート・ミードに置かれ、初代司令官はNSA長官アレクサンダー大将が兼務だ。

コンピューターもインターネットも米国で軍用に発明されたものだし、第2次大戦前から暗号解読にたけ、戦後も巨大な組織を有して最先端の技術を磨いてきたNSAの情報能力がサイバー軍と合体し、サイバー戦争の戦力となるのだから、「もう1つの水爆を持った」との評価が米国で出るのも自然だ。2010年9月イランのナタンズにあるウラン濃縮施設のコンピューターが侵入を受け、遠心分離機8400本が稼働不能となったが、これは米国とイスラエルの共同作戦だったことが判明した。サイバー軍の初仕事だ。



6月7、8日のオバマ大統領と習近平国家主席の会談では「サイバー・セキュリティにおける共通のルール作りの重要性で一致。7月の米中戦略・経済対話でこの問題の作業部会を設置する」との合意に達したが、この分野で世界のどの国に対しても絶大な優位に立つ米国が、駆け出しの中国と「共通のルール」を決めて、最大の得意技を「禁じ手」にするとは考え難く、作業部会で骨抜きのルールになる可能性が高そうだ。

サイバー攻撃の真の発信源の特定は困難で、例えば日本のコンピューターへの侵入で直近の発信地が中国と分かっても、素人の落書きならともかく、情報機関のプロによる侵入は、コンピューターの遠隔操作などにより世界各地を経由して行うのが普通で、直近の発信地は真の発信源ではない可能性が高いだろう。これを「中国がやった」と言うのは日本警察が昨年6月から9月の脅迫メール「なりすまし」事件で4人を誤認逮捕したのと同様だ。中国の簡略化した字体があったといっても、通信情報機関は翻訳のために練達の語学者を揃えているから、それも根拠にならない



本当の発信源が不明では、国家間で規制のルールを作っても実効はないし、仮にそれが分かっても国家の行為か個人か企業かは突きとめにくい。各国で軍や警察がサイバー攻撃に対する防衛に努めても、多分軍自身や官庁の防衛がせいぜいで、企業の防衛にまで十分手が回るとは考えにくい。また大企業はますますグローバル化するから、本社だけでなく海外の子会社、工場なども守る必要があろうが、軍や警察は外国にある現地法人を守る権限も責任もない。



企業はセキュリティ会社と契約し世界で企業グループ全体を守ってもらい、またその能力を悪用してライバル企業の情報を得ようとすれば、そもそも国境のないサイバー空間で、無国籍化したグローバル企業が雇った傭兵ハッカー達が戦うバーチャル戦争になり、それが近未来のボーダレス時代の戦争様相となるのかもしれない。

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