~特定秘密保全法は、米国の要請による軍事秘密の保全目的だったはずだが、官僚の思惑で公安警察復権を目指す危険なものになっていることにもっと注目すべきだろう!~
今回の特定秘密保護法案は、もともと米国からの要請で、米軍と共同歩調を取るために共有する軍事秘密を、一定期間クローズにしておくことが、主たる目的であった。(*もちろん、これだけでも対等の同盟関係ではない日米においては、米国を利する取り決めである。たとえば、米国に一方的な有利な日米の密約を永久に主権者である国民の目から隠すことが可能になる。)
ところが、安倍政権の人気が続いているのを見た内閣調査室の官僚を中心に、この法案の軍事秘密の中に、自分達にとって都合のいい目的を紛れ込ませて構わないではないかと言う思惑が生じたことでおそらく、今回の飛んでもない法案ができあがったと思われる。
今回の法案には、秘密の範囲をどこまでも拡張できる、政治家(立法府=国会)から一般国民までを捜査対象にできるような理解不能な、民主主義を否定するものがしっかりと盛り込まれている。その点にもっと、注意を払うべきであろう。
考えてみれば、内閣情報調査室は、東西冷戦の終結により、その存在は、希薄なものになっており、自身の存続の危機感さえ持っている。そこに降って湧いたのが、この“何でも屁理屈をつけて捜査可能にすることのできる秘密保護法である。
内閣情報調査室は東西冷戦時には、日本のCIA等とも言われていたこともあるぐらいの過大評価を受けていたが、昨年末からの日米同盟強化、日本版NSA、軍事秘密保全法、集団的自衛権行使というスケジュールが米国主導で進むなか、日本版CIAの存在が忘れられているのではないかという強引な論理を持ち出し、このような法案がつくらせたのだろう。
米国の要望でつくる法律にもかかわらず、ニューヨークタイムズが社説で批判するような事態を招いていることがそのことを端的に物語っている。
ご存じのように、内閣調査室のほとんどの人材が警察からの出向であり、警察庁、検察庁との繋がりは非常に強いものがある。今回の法案で権益を広く強く拡張できるのが、公安警察、公安検察である。
もちろん、この法律の成立と同時に、特定秘密保護法を盾に、公安警察による逮捕者が続出するわけではないが、彼らは、当然のことだが、官僚の常として、手に入れた権益の拡大を画策し、ことある毎に法案を改正し、その法案の持つ力を強化していくことになる流れになることは必定である。
極端な例を挙げれば、仮に戦争的状況を呈した時には、軍事機密保護法や治安維持法に匹敵する効力を持つ法律にするのが、真の目的になってしまう可能性も否定できない。
そして、この法案を読めば自ずと判ることだが、「その他」と云う文言が36箇所も挿入されている。「その他」とか「等々」「配慮」など、行政の解釈と裁量如何では、如何様にも利用できる文言を排除するのが、法案文の本来の姿である。それを「霞が関文学」という人たちは、文学そのものをバカにしているのだろう。
考えてみれば、「国会議員である自分たちの権能をこのように貶めている法律」を議員たちが、通すようなら、憲法に規定された国権の最高機関である国会や民主主義など、無用の長物ということになってしまう。選良たちは、胸に手をあてて考えてみるべきであろう。
それでは、日本弁護士連合会が、今回の法案の問題点を整理しているので、以下に紹介する。http://www.nichibenren.or.jp/activity/human/secret/problem.html
<秘密保護法の問題点>
~秘密保護法は、具体的に何が問題なのでしょうか。~
<プライバシーの侵害>
秘密保護法には、「特定秘密」を取り扱う人のプライバシーを調査し、管理する「適性評価制度」というものが規定されています。
調査項目は、外国への渡航歴や、ローンなどの返済状況、精神疾患などでの通院歴…等々、多岐に渡ります。
秘密を取り扱う人というのは、国家公務員だけではありません。一部の地方公務員、政府と契約関係にある民間事業者、大学等で働く人も含まれます。
その上、本人の家族や同居人にも調査が及ぶこととなり、広い範囲の人の個人情報が収集・管理されることになります。
<「特定秘密」の範囲>
「特定秘密」の対象になる情報は、「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」に関する情報です。
これはとても範囲が広く、曖昧で、どんな情報でもどれかに該当してしまうおそれがあります。「特定秘密」を指定するのは、その情報を管理している行政機関ですから、何でも「特定秘密」になってしまうということは、決して大袈裟ではありません。行政機関が国民に知られたくない情報を「特定秘密」に指定して、国民の目から隠してしまえるということです。
例えば、国民の関心が高い、普天間基地に関する情報や、自衛隊の海外派遣などの軍事・防衛問題は、「防衛」に含まれます。また、今私たちが最も不安に思っている、原子力発電所の安全性や、放射線被ばくの実態・健康への影響などの情報は、「テロリズムの防止」に含まれてしまう可能性があります。これらが、行政機関の都合で「特定秘密」に指定され、主権者である私たち国民の目から隠されてしまうかもしれません。
その上、刑罰の適用範囲も曖昧で広範です。どのような行為について犯罪者として扱われ、処罰されるのか、全く分かりません。
<マスコミの取材・報道の自由への阻害>
「特定秘密」を漏えいする行為だけでなく、それを知ろうとする行為も、「特定秘密の取得行為」として、処罰の対象になります。
マスコミの記者、フリーライター及び研究者等の自由な取材を著しく阻害するおそれがあります。正当な内部告発も著しく萎縮させることになるでしょう。
<国会・国会議員との関係>
秘密保護法の中では、国会・国会議員への特定秘密の提供についても規定されています。
詳細はこちらをご覧ください。
特定秘密保護法案と国会・国会議員に関するQ&A(2013年10月9日)(PDFファイル;474KB) http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/activity/data/secret/qa_secret-MP.pdf
*<参考資料>元外務省国際情報局長 孫崎 亨氏 寄稿文(北国新聞)
10月21日、安倍首相は衆議院予算委員会で「秘密保護法はどうしても必要」と強調した。22日各紙は「安倍内閣は25日に同法案を閣議決定し、国会に提出する予定。今国会で成立する公算が大」と報じた。
急に秘密保護法が動き出した・何故なのだろう。
近年外交や防衛問題で、深刻な情報漏洩があっただろうか。ない。私は外務省時代国際情報局長の職にあったが、「日本は機密漏えいするから情報をあげられない」と言われたことはない。ではなぜか。
10月3日、ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が来日し、岸田外務大臣と小野寺防衛大臣との間で日米安全保障協議委員会(通称「2プラス2」)が開催された。ここで、「より力強い同盟とより大きな責任の共有に向けて」と題する日米安全保障協議委員会
共同発表が行われた。ここで重要な決定がなされている。先ず、集団的自衛権に関し「集団的自衛権の行使に関する事項を含む自国の安全保障の法的基盤の再検討する」とし、日米両軍の「相互運用性を向上させる」と決めた。
そして秘密保護法についても決定した。外務省発表の日本語訳はわかりにくい。とりあえず私が訳すると、「(両国)閣僚は、情報の保護を確実なものにする目的で、日本側が法的枠組みを作るために真剣な努力をすることを歓迎する」となる。
日本は「法的枠組みを作る、秘密保護法を制定する」ことを外相、防衛相レベルで米国に約束している。安倍首相が「秘密保護法はどうしても必要」と言ったのは、日本自体から出る必要ではなくて、米国の要請である。
何故か。
それは集団的自衛権との関係である。集団的自衛権に関し、「法的基盤の再検討する」と決めた。日本は集団的自衛権によって、米軍の軍事戦略のために行動する。
そうすると、秘密保護法の是非を判断するには集団的自衛権の是非を検討する必要がある。今日の米国の戦略は「国際的安全保障環境を改善する」ために軍事力を使うことにある。
安倍首相が、「積極的平和主義」と言っているが、その意味する所は同じである軍事力を行使し平和をもたらすというものである。
ではこの戦略が成功したか。
イラク戦争でイラクに平和と安定をもたらしたか。
アフガニスタン戦争でアフガニスタンに平和と安定をもたらしたか。
リビアへの軍事介入で平和と安定をもたらしたか。
もたらしてはいない。
「国際的安全保障環境を改善する」という当初の目的は逆に対象国に不安と混乱をもたらしている。 集団的自衛権を認めた際には日本はイラク戦争のような事態に参画することが予想される。その時日本の安全は高まるのか。
イラク戦争時、戦争に参加したロンドンやパリはテロによる爆弾攻撃に晒された。我々は「東京などが爆弾攻撃されてもいい、それを織り込んでも集団的自衛権を進めるべきだ」と言う覚悟があるのか。
*終わりに地元の「東愛知新聞」が素晴らしい社説(平成25年12月8日)を掲げているので、紹介させていただく。
「知る権利の旗は守る」
特定秘密保護法案が6日成立しました。いや、成立してしまいました。広範な国民の間にあふれかえった反対の声は無視されてしまったのです。「成立」の2文字を前に暗澹(あんたん)とします。とりあえず2つの理由からです。
第1は虚しさです。
数の力を頼む与党は反対の声を無視し、強権を振るいました。かつて野田佳彦前首相は、「原発反対、再稼働反対」の声を「大きな音」としか聞きませんでした。そして、今回、石破茂・自民党幹事長は「反対デモをテロ」と上から目線で非難し、平然と居直りました。
あらゆる法の制定以前に本来的に認められている基本権を踏みにじるような社会、日本になってしまうのでしょうか。
2つ目の暗澹は、理不尽な監視社会がやってくる予感からです。
どんな職業の人であれ、疑問を持てば調べ、人の意見を聞き、そして態度を表明し、行動するのはごく当たり前のことです。国民共有の情報を「知る権利」、そしてそれを「伝える権利」は大切な基本権です。それが民主社会を維持するのです。しかし、それが強権によって否定されるようになってしまいます。
「彼は何を調べているのか」と調査され、監視される恐れがあります。対象は国民の代表である国会議員にまで広げられます。「何を調べ、どんな発言をしたのか」と監視され、国政調査権も奪われてしまいます。
秘密情報に関わる人は適正評価が行われ、家庭状況や薬物の使用、飲酒癖まで調べられ、丸裸にされて、監視されるのです。人権は監視の前で消滅します。
元々、秘密保護法の制定は日米軍事情報の保護がきっかけでした。しかし、法の成立を機に官僚が自分たちの権益のために法を運用する可能性があります。
「秩序維持のため」と、環境保全や生態系保護でさえ秘密に「発展」することも否定できません。特定秘密の範囲が広く、指定は恣意的にできる法だからです。
ナチスはその純血主義によってユダヤ人から公民権を奪い、ドイツ人との結婚を禁じ、まず追放・移住を進めました。次いで強制収容に転じ、ついには虐殺のアウシュビッツにまで行き着いてしまいました。
秘密保護法は今後、そんな理不尽な道をたどる危険性があります。権利や自由が遠退き、暗い網が私たちをおおいます。鍛え続けるべき民主主義が遠景に退いていくようで暗澹とします。
数を頼んだ強行採決で政治への不信が広がる懸念の点でも、また暗澹とします。
しかし、「危険な法」の成立を前に暗澹としつつも、私たちは言論の自由を守るための「知る権利」「伝える権利」の旗を守り続けようと改めて決意しています。
*参考資料
「研究ノート、軍機保護法等の制定過程と問題点」という防衛省の研究レポートを読むと、軍事機密の法整備が常に<国際関係の緊張による戦争準備>と結びついてきたことが本当によくわかる。是非、読んでいただきたい。
http://www.nids.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j14-1_6.pdf