1月にトランプ氏が第45代大統領に就任し、約16分間の就任演説を行いましたが、こんな空虚な就任演説は今までなかったというような批判の集中砲火を多くのマスコミから受けています。たとえば、中学校の生徒会長に選ばれた生徒の挨拶と同じレベルの英語だとか、手厳しい批判ばかりです。しかし、トランプ氏は間違いなく、今までとは違う何かをしようとしています。エキセントリックに感じる言葉に惑わされているとその本質を見失うことになります。
彼の言葉を理解するためには、第二次世界大戦以降の世界経済の変遷を振り返る必要があります。大戦後、すべての技術、お金、金(ゴールド)、インフラがアメリカ合衆国に集中していました。そのため、西側諸国の経済は、米国が共産圏であるソ連に対抗するために豊富な資金、技術を、提供をすることによって離陸し、成長してきました。そして1965年以降、西ドイツ、日本が経済的に頭角をあらわすとともに、米国はベトナム戦争等の巨額の出費もあり、いわゆるドルの垂れ流し状態に陥ります。その結果、起きたのが、1971年のニクソンショックで、彼は金とドルの交換の停止、10%の輸入課徴金の導入等の政策を発表し、第二次世界大戦後の通貨枠組み:ブレトン・ウッズ体制を解体、世界の通貨体制を変動相場制に移行させました。しかし、その後も米国の赤字基調は変わらず、1985年にはプラザ合意による大幅なドルの切り下げという事態に陥りました。貿易黒字を貯めこむ日本は、内需拡大を迫られ、その後、バブル経済が発生しました。65年以降、日米貿易摩擦が発生し、製造業間の調整交渉が日米両政府によって重ねられてきましたが、80年代後半以降、米国はトヨタの負け(製造業)をソロモン(金融業)で取り返す戦略に転換していきます。日本が貯めこんだドルを米国債、株式に投資させることで儲けることにしたわけです。この方式を新興国に当てはめ、始まったのが、現在のグローバル金融です。そして、グローバル金融を支えたのが、IT革命です。つまり、賃金の安い新興国に米国企業が工場を作る投資をし、その製品を米国に輸出させた儲けは、米国の金融機関が吸い上げるという仕組みです。この仕組みを円滑に機能させるためには、米国のルール:新自由主義と新保守主義の思潮から作り出された価値観(ワシントンコンセンサス)をすべての国に受け入れさせる必要があります。これが現在のグローバリズムです。ここで、軍需産業維持のための戦争と価値観の押し付け外交が密接に結びついていくことになります。ルールを押し付けるためには、米軍が世界展開している必要があるということです。しかしながら、2008年のリーマンショックでグローバル金融がうまく、機能しないことが露呈し、異常な中央銀行の金融緩和が始まりましたが、現在、それもすでに限界に達しています。一番のポイントは、湾岸戦争以降、多くのプアホワイトという白人を含むアメリカの若者が戦死しているという事実です。トランプ氏は米国の設立メンバーの子孫でありながら、貧しい生活に甘んじている、星条旗を愛している、息子たちが戦死した人たちに向けて語っていることを私たち日本人は理解する必要があります。彼は、自分を支持する人々に仕事を取り戻すためにもう、海外からモノを買わないと宣言しているのです。考えてみれば戦後、世界経済は、米国がモノを海外から買うことを前提に回ってきました。モノづくり愛知、その基盤を支えてきた東三河もその大きな仕組みのなかで、動いてきました。その意味で、この地方のモノづくりのあり方を真剣に考える時が来ているのは、間違いありません。
*東愛知新聞に投稿したものです。