日本の自動車部品メーカー39社の関係者64人が2011年から2015年の間に米国政府から「反トラスト法」違反で起訴され、その多くが米国各地の刑務所に収監されているのをご存じでしょうか。これらの関係者は、米国内で談合などの自由競争の違反にする行為をしたわけでなく、日本国内で行った行為が米国の法律違反に当たるとして「域外適用」されたものです。しかも罪状理由の事実は日本にあり、わが国の公正取引委員会が問題性はないと判断している案件であるにもかかわらず、米国司法省に域外適用で次々に摘発されています。また、現在、日本を代表する名門企業、東芝が米国の原子力企業WH(ウェスティングハウス)を買収したために解体の瀬戸際に追い込まれています。日本では、地球温暖化ブームに乗った<クリーンエネルギーキャンペーン>が展開され、再び原子力発電にスポットライトを当てていた時期がありましたが、世界ではその少し前から原子力産業のババ抜きゲームが実際には始まっていました。そうは言っても原子力産業は米国防衛に関係する戦略分野ですので、売り先はどこでもいいというわけにはいきません。そこで、米国エネルギー庁から経済産業省にWHの売却が持ち込まれ、日本の東芝が、英国核燃料会社(BNFL)が持て余したWHをライバルの三菱重工が「相場の2倍」と驚くような値段、6600億円で買い取ることになったわけです。考えてみれば、1945~1951年の間、GHQ(連合国最高司令官総司令部)の支配を受け、日本は「主権国家」ではありませんでした。そのため、今、流行の言葉でいうと「アメリカファースト」の政策をとるしか、日本には、独立を回復する道はありませんでした。当時、始まっていた東西冷戦がアメリカファーストの政策をとる日本に幸いし、経済の高度成長がもたらされることになります。「失敗の本質~日本軍の組織論的研究~」(中公文庫)という名著には、「なぜ日本軍は、組織としての環境適応に失敗したのか。逆説的ではあるが、その原因の一つは、過去の成功への<過剰適応>があげられる。過剰適応は、適応能力を締め出すのである。」と分析しています。
その意味で、原発関連企業など420団体が集う日本原子力産業協会の新年会が本年、1月12日に東京国際フォーラムで開かれ、天皇陛下の退位問題で有識者会議の座長も務めている今井敬(たかし)会長が、「今年は原発再稼動を本格的に進める年」、「原子力発電所インフラ輸出分野は日本の強みである」と語っているのは、大変興味深いところです。
ところで、日本のマスメディアは、ほとんど報道しませんでしたが、メイ英国首相が1月26日、フィラデルフィアで開催された共和党集会で「英米が、世界の主権国家に対して自らのイメージ、価値観を押し付けるために介入した時代は、終わった」と、明言する歴史的な演説をしています。考えてみれば、近代150年間の歴史は、英米が世界の主権国家に価値観、ルールを押し付ける歴史でありました。日本の近代史は、英米の価値観、ルールを国内に摩擦を引き起こしながら受け入れていく歴史でもあります。特に戦後はアメリカファーストの政策を貫くことが国是でありました。現在、日本という国では、上記のようにアメリカファーストの矛盾が様々な処で表に出てきています。そろそろマクロな視点で「ジャパンファースト」を考える時代が来ているのではないでしょうか。
*東芝の原子力事業での損失の規模は公表されている7125億円にとどまらず、事実上の隠れ損失である米原発事業関連の簿外債務保証7935億円を合わせた1兆5000億円レベルに膨らんでいるとの指摘もある。
*原発受注分をすべて完工すれば損失は10兆円以上になるという試算もある。
*東愛知新聞に投稿したものです。