伝統文化と観光立国のあり方

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5月 102017

現在、後世に残すべき日本の伝統文化とそれに付随する人間文化が消滅の危機にあります。このままでは「国宝ですら、消滅の危機にある」と元ゴールドマンサックス金融調査室長で、日本の伝統文化財補修の老舗である小西美術工藝社社長でもあるデービッド・アトキンソン氏が日本文化を愛する外国人の立場から警鐘を鳴らしています。彼は自著「国宝消滅」(東洋経済新報社)という本のなかで<日本の文化と経済の危機>というフレームワークを使って冷徹なアナリストらしく、明解にこの構造を解き明かしています。考えてみれば、少し前までは、日本人は、朝食は味噌汁とご飯が基本でしたし、畳の部屋で布団を引いて睡眠をとっていました。現在は、朝食はパンで、ベッドで就寝する人が圧倒的に増えています。このように私たちの生活の中からも少しずつ、日本の生活文化が消えていこうとしています。デービッド・アトキンソン氏は、人口減少によってこれから経済成長が難しくなる日本で一番、伸び代のある分野は観光であり、これを産業化する必要があり、そのためには今までの最低限の保護だけを考えた文化財行政を大幅に見直す以外に日本の文化財を継承、保護していく道はないと分析しています。人口減少を外国人による観光=短期移民で乗り切れと提言しているわけです。実際、日本の国宝や重要文化建造物の修理・保存予算は約80億円しかなく、一方、英国では約500億円。その結果、英国では文化財を中心とした観光収入が28000億円もあり、そのうちの4割が外国人観光客によるものであるとも指摘しています。

ところで、日本政府は観光立国の実現に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、平成29年度からの新たな「観光立国推進基本計画」を本年3月に閣議決定しています。これは2011年から15年にかけて、日本を訪れた外国人(訪日外客)の数が年間33%も成長し、16年には2400万人を突破したことを受けて目標を大きく引き上げたものです。具体的には「インバウンド観光は、日本経済を成長させる強力な原動力になり得る、そこで年間の訪日外客を2015年の1,970万人から20年には4,000万人にまで倍増させ、訪日外客が日本国内で消費する額を35,000億円から8兆円に急増させる」という目標です。たしかに現在、訪日外客の数が急増しているため、観光産業の収益は拡大基調にありますが、その規模は2014年時点で国内総生産(GDP)全体のわずか0.5%にとどまり、旅行者に人気のアジアや欧米の国々と比較するとはるかに低いのが現実です。例えば、タイは10.4%、フランスは2.4%、米国は1.3%です。この基本計画のなかで注目すべき施策としては、「文化財を中核とした観光拠点の整備」、「古民家等の歴史的資源を活用した観光まちづくり」、「滞在型農山魚村の確立・形成」、「離島地域等における観光振興」が挙げられます。これらはこの地域でも活用できるものばかりです。また、タイのような観光大国では、医療ツーリズムの比率も年々大きなものになっています。

これから、地方には食、農、医療、祭り等の伝統文化、地域特性に根ざしたスポーツなどの地域資源等を利用した複合型の産業育成が求められてきます。この地域には、白山修験の聖たちが伝えたとされる奥三河の「花祭り」、豊橋市には安久美神戸神明社の祭礼、「鬼祭」があります。その意味で縄文時代から続く山と日本人のつながりを考える「全国鬼サミット」のようなものをこの地で開催するのも一考かもしれません。

外国人訪問者数

 

また、地方にはヘルスケア分野のエコシステム作り、食、農、観光、地域特性に根ざしたスポーツなどの地域資源等を利用した複合型の産業育成が求められてきます。医療ツーリズム、ホスピス活動等はこの地域でも数年前から関心が持たれてきました。その意味でドイツの統合型リゾート構想であるバーデン・バーデンを越えるものが東三河から生まれても不思議ではありません。

*東愛知新聞に投稿したものです。

健康寿命を考えるべき時代

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5月 042017

人口の高齢化と減少に直面する日本は、諸外国に先駆けて歴史上、未曾有の状況に入ろうとしています。問題は認知症をはじめ、数々の慢性疾患を抱えて長生きしても健康でない人の数が増え続けていることにあります。少しでも健康でありたいという人々の願望が、健康食品・サプリメントの売り上げにも端的に表れています。年々増加するこれらの商品の売り上げは現在、約1兆5千億円に達し、将来的には3兆5千億円の市場規模になると予想されています。ところで、<健康上の問題で日常生活が制限されずに過ごせる期間である「健康寿命」が現在、大きな注目を集めていますが、現状はどうでしょうか。

10年前後もある日本国民の「不健康な期間」(=平均寿命-健康寿命)

データ出所:厚生労働省(2010年)

グラフを見ていただければ、一目瞭然ですが、日本人の人生最後の約十年は不健康=病気だということがすぐにわかります。考えるまでもなく、一年間に約1兆円ずつ増加している医療費の財源問題を解決するには、これから、どれだけ、健康の人を増やせるかにかかっていることは言うまでもありません。にもかかわらず、日本人の健康に対する意識は、まだまだ低いのが現実です。すでに世界保健機構(WHO)は、1998年に健康を「健康とは、身体的・精神的・霊的・社会的に完全な良好な動的状態であり、単に病気あるいは虚弱でないことではない」と明確に定義しています。ここで言う霊的な健康とは、人生の意味感、希望、充実感、安らぎなどがもたらしてくれる健康を、社会的な健康とは、家族、友人、配偶者、子供たち、あるいは職場や地域の様々な人々の絆が十全に機能していることがもたらしてくれる健康を意味しています。如何でしょうか。この定義に基づいて、あなたは自分自身を健康だと言い切ることができるでしょうか。ところで、お隣の浜松市が20大都市(19政令指定都市+東京都区部)のなかで健康寿命が一位だということで話題になったことがありましたが、それでも男性:72.98歳、女性:75.94歳に過ぎません。今、問われているのは罹病してからの治療やケアではなく、罹病しないための事前の予防や健康増進だということです。その意味で私たち一人一人の「ヘルスリテラシー」=健康増進、予防・保健・医療・福祉に関する知識、情報を理解、評価し、活用する力が試されています。もちろん、企

業おいてもできうる限り、健康な職場を目指すべきですし、地域コミュニティにおいては、住民の健康はその地域のかけがえのない資産だという発想が強く求められています。たとえば、栃木県の大田原市では、<1日に8000歩を歩くことによって1人当たり、年間4200円の医療費削減になる>という厚生労働省の試算に基づいて「めざせ300万歩」というウオーキング推進事業を健康政策課が2013年から手がけています。また、上田清司埼玉県知事は、日本の生産年齢人口を2074歳で考えれば、2040年前には日本が世界のトップになるという興味深い指摘をしています。そして、月から金曜日は65歳未満の方が、土、日曜日、休日は65歳以上の人が働くシステムを構築すべきだという大胆な提言をしています。

何れにしろ、将来のあるべき姿を発想の出発点として「今」を大胆に変えることが健康寿命を延ばすことについても求められています。

生産年齢人口の推移

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