クールジャパンの裏側にあるもの(3)

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8月 202017

社会学者のエズラ・ヴォーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言う本を書いてから、40年近い歳月が経ちました。そして現在、名門企業東芝が解体の瀬戸際に追い込まれ、シャープが事実上倒産し、外国企業に買収され、民営化した日本郵政は数千億円の巨額損失を計上、中央銀行である日本銀行はGDP80%にあたる400兆円の日本国債を抱える異常事態となっています。1989年には新規国債の発行が必要なくなると言われていたことを考えると、劇的な変化です。また、現在の世界情勢も中国の台頭に象徴されるように、その当時とは全く違ったものになっています。さらに昨秋、登場したトランプ大統領によって世界の体制も新たな段階に入ろうとしています。その象徴的な出来事がイギリスのEU離脱です。

ご存じのように1951年のサンフランシスコ講和条約によって、日本は独立を回復しました。それは冷戦下において、日本国が米軍に占領されているというきわめて特殊な条件下のものでした。このサンフランシスコ体制の意味するところは、米国からの日本の再軍備、日本における米軍基地の存続、講和会議からの中華人民共和国等の排除という要求に日本が同意する見返りに表面的には寛大な講和条約によって独立し、安保条約を結ぶことによって、米軍による保護が確実になるということでした。その結果、講和条約第6条には、「連合国のすべての占領軍は、この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない」と、前文に明記されているにもかかわらず。終戦後も占領期と同様に治外法権的特権を維持したまま、米軍が日本に駐留し続けることになりました。そして民主的な憲法と外国軍駐留の矛盾を露呈させないために1959年、有名な砂川事件において最高裁は、欧米先進国では例のない「統治行為論」を持ち出し、日本国憲法第81条に「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と明記されているにもかかわらず、憲法判断を留保する状況に逃避し、現在に到っております。その結果、日本には<安保法体系>と<憲法法体系>の二つが存在し、日本国憲法98条第二項の「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」という条文によって安保法体系が国の最高法規である憲法法体系の上位に位置するという主権国家とは言い難い状況になっています。

安保法体系と憲法

ところで、本年53日、安倍首相が自民党の憲法草案の内容を無視する「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」というビデオメッセージを発表し、自民党内外に大きな波紋を拡げています。30年前、平和国家を標榜する国の首相である中曽根康弘氏が「日本をアメリカの不沈空母にする」と発言、物議を醸しましたが、事態はそのように進み、2004年、後藤田正晴元副総理が「日本は米国の属国である」という考えを大手メディアのインタビューで明言するに到りました。その意味で、憲法が最高法規として機能していない日本という国の不都合な真実を直視する勇気が今ほど、求められている時はありません。

*東愛知新聞に投稿したものです。

戦後はいつ終わるのか

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8月 152017

本日、815日は終戦記念日です。日本の長い戦後は、「敗戦を終戦と言い換える」ことによって始まりました。8月によく放映されるアニメーション「火垂(ほたる)の墓」の原作を書いた作家の野坂昭如氏は、「敗けるということが、どういうことなのか判らぬまま70年、敗戦後、立ち止まって考えることをしなかった。そのツケがボディブローのように効いてくる」と書いています。

考えてみれば、戦後の復興も奇跡とも言われた高度経済成長も冷戦下において、それしか選択の余地がなかったとは言え、戦争に負けた国に抱きつくこと(対米従属を通じて国土を回復し、国家主権を回復する戦略)によってもたらされたものです。その結果、冷戦という僥倖に恵まれていたこともあり、日本は世界に冠たる経済大国になることができました。しかしながら、この経済的成功によって、「対米従属を通じて独立を回復する」という戦後の国家戦略が現状維持の空気のなかで風化していくことになります。

その結果、日本には占領期と同様に米軍が、駐留し続けることになりました。昭和44年時点では、「わが国の外交政策大綱」に「在日米軍基地は逐次(ちくじ)縮小・整理するが、原則として自衛隊がこれを引き継ぐ」と明記されていたことも忘れてはならないところです。ちなみに現在、千人以上の米軍兵士が駐留している国は、世界で9カ国しかなく、米国国防総省の発表によると日本は、世界最大の米軍駐留国で、その基地面積は世界第3位、その駐留経費負担は世界第1位となっています。また、最近のウィーキーリークスの暴露によって世界に展開する米軍の情報管理システムが青森県の三沢基地、東京都の横田基地、沖縄のキャンプ・ハンセンに集中していることも明らかになっています。

まさにかつて中曽根康弘元首相が「日本列島を米国の不沈空母にする」と語った通りの日本が現実化しているわけです。ところで、1951126日に安保条約生みの親とされるジョン・フォスター・ダレスが日本との交渉に先立ち、スタッフ会議で「われわれが望む数の兵力を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保することがわれわれの目標である」と語っていました。そして、その目標が実現し、現在でもその状況が続いています。

この日本の現況を米国の映画監督であるオリバー・ストーン氏は「日本はアメリカの衛星国(Satellite state)であり、従属国(Client state)である」と断言し、日本の政治家は戦後の国際社会において、いかなる大義名分も代表したこともなく、日本は、米国の政策に追随する以外に国際社会に向けて発信する構想を持っていない国だと、2013年の広島における講演で発言しました。その発言に対して日本の大手メディアは、記事にして反論することすらありませんでした。

日本の戦後史の分岐点は、冷戦の目処がつき始めた1985年のプラザ合意で、ここから日本経済の転落が米国によって仕掛けられてきます。このことを経済通の宮沢喜一氏は「日本の不良債権の問題をたぐっていくと、どうしてもきっと、プラザ合意の処へいくのだろうと思います。これに対して日本経済が対応をしたり、しそこなったりして、結局今の姿は、どうもその結果ではないかということを、いろいろな機会に思います」と語っています。(「聞き書 宮沢喜一回顧録」)そして現在、英国のEU離脱、反グローバリストであるトランプ米国大統領の誕生など、国際情勢が大きく動き出しています。その意味で今ほど、立ち止まって戦後の現実を直視し、未来を構想する勇気が求められている時はありません。

*東愛知新聞に投稿したものです。

クールジャパンの裏側にあるもの(2)

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8月 102017

「私日本人でよかった。」というポスターがBBCニュースでも取り上げられる騒ぎになっています。「そわそわする」「なんか落ち着かない」など、違和感を覚えるという声が上がり、発行主体が明示されていなかったこともあり、誰がなんの目的で作ったのかという憶測をよび、ネット上で拡散したものです。さらにポスターのモデルの女性が日本人でなく、中国人であることもわかる驚きの展開になっています。

元々このポスターは、神社本庁が6年前に祝日に国旗を掲げることを啓発しようと作ったものでした。この「日本人でよかった」という言葉は、東日本大震災で苦難に立ち向かう人たちの間で自分たちを励ます言葉として頻繁に使われてようになり、広まっていたものでした。注目すべきは、失われた20年と言われる閉塞状況が続く日本社会であのような大震災が起き、絶対安全だとされていた原発がメルトダウンするという未曾有の大事故が起きたことです。大きな自然災害とともに多くの日本人が信じていた「原発は絶対安全だ」という共同幻想が崩れたわけですから、その時、関係者が味わったその屈辱感と不能感の大きさは想像するに余ります。それでも日本、被災地域で生きていかなければならない人たちが選んだ言葉が、合理的に考えれば、矛盾する「日本人でよかった」という言葉でした。

この言葉は、「官も民も、皆で助けようとしている。トラックの運転手も有志で物資を運んでいるらしい。最近、日本に対して誇りを持てないことが続いていたけれど、そんなことない。日本人でよかった。」という文脈で使われました。これと同じような倒錯の構図が戦後保守政治のなかでも起きています。戦争に負け、米国の占領下にあった日本には、「対米従属を通じて段階的に国土を回復し、国家主権を回復していく」という戦略しか選択の余地はありませんでした。たしかにこの戦略は、1972年の沖縄返還までは、戦争を良く知る戦前生まれの政治家によって実行され、一定の成果を上げていきましたが、冷戦下における経済成長によって経済大国になると、いつのまにか「対米自立=主権国家」という国家目標を忘却の彼方に置き忘れてしまう事態になりました。

その結果、「対米従属を通じてさらに対米従属を深める」という不条理な状況に現在、日本は陥っています。ところで、鳩山由起夫元総理がマスコミのインタビューで総理在任中は、その存在を知らなかったと明言している「日米合同委員会」なるものをご存じでしょうか。日米合同委員会とは、日米地位協定第25条に基づいて日本における米軍の基地使用・軍事活動の特権などの具体的な運用について協議するための機関です。この組織が1952年以降、1600回以上も日米地位協定の解釈や運用について協議を重ね、米軍の特権を維持するために数々の密約を国権の最高機関である国会の審議を経ることなく生み出してきました。しかもそれらの密約は、日本国憲法に基づく日本の国内法の体系を無視して米軍に治外法権に等しい特権を与えています。その典型が首都圏を中心に一都九県の上空に広がる米軍が独占的に使用できる「横田空域」です。驚くべきことにこの米軍の特権には国内法上の法的根拠が全く存在せず、日米地位協定にも法的根拠は明記されていません。

長い戦後を終わらせ、真の主権回復と主権在民を実現するためにも国会のチェック機能が期待されるところです。「他国の軍隊を国内に駐屯せしめて其の力に依って独立を維持するという如きは、真の独立国ではない」と安倍首相の祖父である岸信介氏も明言しています。

ヒロシマとフクシマ」浮かび上がる無責任の体系

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8月 062017

8月6日、9日は広島、長崎に原爆が投下された、人類にとって、特に日本人にとって忘れてはならない日である。

ところで、日本の中枢は事前に「広島、小倉もしくは長崎に原爆が投下される」ことを知っていたという驚くべき史実が近年、明らかになってきたことをご存じだろうか。201186日には、NHKスペシャルで「原発投下~活かされなかった極秘情報~」という番組が放送されたので、この番組を見た方もいるのではないだろうか。この番組は、「黙殺された極秘情報 原爆投下」松木秀文、夜久泰裕(NHK出版)という本にもなっている。私たちは広島と長崎の原爆について、これまで突然米軍の奇襲攻撃を受けたのだと言う定説を信じてきたが、テニアン島を拠点に作戦展開する米軍特殊航空部隊の原爆投下の動きを、大本営情報部が事前に察知していたという事実を、NHK広島が1年間がかりの取材で明らかにした。86日の広島、8月9日の長崎の爆撃のいずれも日本の大本営は米軍のコールサインを傍受していたにもかかわらず、空襲警報すら出さず、おそらく、終戦工作のために傍観していたと可能性が高いと考えられるのである。また、日本政府が「原子爆弾災害調査特別委員会」を原爆投下直後に組織し、米国が欲しがるだろう原発投下直後の人体、環境への影響調査を人命救助より優先し、731部隊免責の取引材料にしようとしたことまで、この本は明らかにしている。原爆投下については、第五航空情報連隊情報室に所属していた黒木雄司氏も自著「原発投下は予告されていた!」(光人社)中で下記のようにはっきり書いている。


毎年八月六日、広島原爆忌の来るたびに、午前八時に下番してすぐ寝ついた私を、午前八時三十二分に田中候補生が起こしに来て、「班長殿、いま広島に原子爆弾が投下されたとニューディリー放送が放送しました。八時十五分に投下されたそうです」と言ったのを、いつも思い出す。(253)このニューディリー放送では原爆に関連して、まず昭和二十年六月一日、スチムソン委員会が全会一致で日本に原子爆弾投下を米国大統領に勧告したこと(158)。次に七月十五日、世界で初めての原子爆弾核爆発の実験成功のこと(214)さらに八月三日、原子爆弾第一号として八月六日広島に投下することが決定し、投下後どうなるか詳しい予告を三日はもちろん、四日も五日も毎日つづけて朝と昼と晩の三回延べ九回の予告放送をし、長崎原爆投下も二日前から同様に毎日三回ずつ原爆投下とその影響などを予告してきた。

 

そして、2011年の東日本大震災でも、日本政府は放射線予測システムSPEEDI(スピーディ)の情報を福島原事故直後から、把握していて米軍には提供していたにも関わらず、一番必要な時に公開しなかった。震災翌日、福島原発に向かう際に管直人首相は、自分自身の生命や健康に影響が出ないことをSPEEDIにより確認したうえで現地に赴いたとも言われている。つまり、政府・高官はSPEEDIのデータを自らのために使いはするが、国民に対しては隠蔽し続けたということである。その結果、本来は被曝する必要がなかった多くの人が放射能を浴びてしまったのである。また、フクシマ原発事故以来、継続する放射能汚染について、本当に正確な情報を東電、政府は国民に提供してきたかも甚だ疑問なところである。このように「フクシマとヒロシマ」には、国民の命よりも自分たちの立場を守るために政府は、本当のことを知らせないという奇妙な符合が見えてくる。あまりに残念なことだが、底なしの無責任の体系が70年近い年月を経ても浮かび上がってくることを忘れてはならない。

*東愛知新聞に投稿したものです。

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