「私日本人でよかった。」というポスターがBBCニュースでも取り上げられる騒ぎになっています。「そわそわする」「なんか落ち着かない」など、違和感を覚えるという声が上がり、発行主体が明示されていなかったこともあり、誰がなんの目的で作ったのかという憶測をよび、ネット上で拡散したものです。さらにポスターのモデルの女性が日本人でなく、中国人であることもわかる驚きの展開になっています。
元々このポスターは、神社本庁が6年前に祝日に国旗を掲げることを啓発しようと作ったものでした。この「日本人でよかった」という言葉は、東日本大震災で苦難に立ち向かう人たちの間で自分たちを励ます言葉として頻繁に使われてようになり、広まっていたものでした。注目すべきは、失われた20年と言われる閉塞状況が続く日本社会であのような大震災が起き、絶対安全だとされていた原発がメルトダウンするという未曾有の大事故が起きたことです。大きな自然災害とともに多くの日本人が信じていた「原発は絶対安全だ」という共同幻想が崩れたわけですから、その時、関係者が味わったその屈辱感と不能感の大きさは想像するに余ります。それでも日本、被災地域で生きていかなければならない人たちが選んだ言葉が、合理的に考えれば、矛盾する「日本人でよかった」という言葉でした。
この言葉は、「官も民も、皆で助けようとしている。トラックの運転手も有志で物資を運んでいるらしい。最近、日本に対して誇りを持てないことが続いていたけれど、そんなことない。日本人でよかった。」という文脈で使われました。これと同じような倒錯の構図が戦後保守政治のなかでも起きています。戦争に負け、米国の占領下にあった日本には、「対米従属を通じて段階的に国土を回復し、国家主権を回復していく」という戦略しか選択の余地はありませんでした。たしかにこの戦略は、1972年の沖縄返還までは、戦争を良く知る戦前生まれの政治家によって実行され、一定の成果を上げていきましたが、冷戦下における経済成長によって経済大国になると、いつのまにか「対米自立=主権国家」という国家目標を忘却の彼方に置き忘れてしまう事態になりました。
その結果、「対米従属を通じてさらに対米従属を深める」という不条理な状況に現在、日本は陥っています。ところで、鳩山由起夫元総理がマスコミのインタビューで総理在任中は、その存在を知らなかったと明言している「日米合同委員会」なるものをご存じでしょうか。日米合同委員会とは、日米地位協定第25条に基づいて日本における米軍の基地使用・軍事活動の特権などの具体的な運用について協議するための機関です。この組織が1952年以降、1600回以上も日米地位協定の解釈や運用について協議を重ね、米軍の特権を維持するために数々の密約を国権の最高機関である国会の審議を経ることなく生み出してきました。しかもそれらの密約は、日本国憲法に基づく日本の国内法の体系を無視して米軍に治外法権に等しい特権を与えています。その典型が首都圏を中心に一都九県の上空に広がる米軍が独占的に使用できる「横田空域」です。驚くべきことにこの米軍の特権には国内法上の法的根拠が全く存在せず、日米地位協定にも法的根拠は明記されていません。
長い戦後を終わらせ、真の主権回復と主権在民を実現するためにも国会のチェック機能が期待されるところです。「他国の軍隊を国内に駐屯せしめて其の力に依って独立を維持するという如きは、真の独立国ではない」と安倍首相の祖父である岸信介氏も明言しています。