<業務上過失致死>の罪に問われた東電旧経営陣に無罪判決が言い渡された。海外メディアでも大きく取り上げられている。
以下、BBCより。
東電の旧経営陣に3人無罪判決 福島原発事故で東京地裁
<東京電力の勝俣恒久元会長(79)と武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)の3人は、業務上過失致死傷罪に問われていた>
東京地方裁判所は19日、福島第一原子力発電所の事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で起訴されていた東京電力の旧経営陣3人に無罪判決を言い渡した。
この裁判は、1986年のチェルノブイリ原発事故以来、最悪とされる福島第一原発事故をめぐって開かれていた唯一の刑事裁判。
福島第一原発は東日本大震災による巨大津波に見舞われ、原子炉3基がメルトダウン。これを受け、47万人以上が避難した。
勝俣恒久元会長(79)と武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)の3人は、巨大津波への対策を怠り、44人を死亡させたとして業務上過失致死傷罪に問われていた。
メルトダウンそのものによる死者は出なかったものの、入院していた施設から避難を余儀なくされた入院患者40人以上が亡くなった。また、原発の水素爆発によって13人が負傷している。
検察はこれまでに2度、有罪に持ち込める可能性が低いとして3人を不起訴としていたが、2015年に検察審査会が起訴すべきと議決。それを受け、指定弁護士が強制起訴した。
裁判は2017年6月に始まり、検察側は5年の禁錮刑を求刑していた。
検察側は、3人の被告は2002年の時点で15メートル級の巨大津波が原発をおそう危険性があると警告されていたが、この情報を無視し、対策を講じなかったと主張した。
しかし、東京地裁は今回、3人が津波を予見できたとしても十分な対策を行えたかは明らかではないとして、無罪を言い渡した。
「誰も責任を取らない」
判決前には、東京地裁の外に数十人の抗議者が集まった。
福島から判決を聞きに来たという女性はAFP通信に対し、「有罪判決が聞けなかったら、私たちが何年もかかってこの裁判にこぎつけた努力が報われない」と話した。
「誰も責任を取らない日本社会の文化が続いてしまう」
福島第一原発の事故を受け、日本では一時、全ての原発が閉鎖した。反原発の感情が広がる中、いくつかの原子炉は安全検査を受けた後に運転を再開している。
また、福島の原発の除染作業に当たった作業員が体調不良の損害賠償を求めるなど、東京電力はこの事故をめぐってさまざまな訴訟に直面している。
(英語記事 Nuclear bosses cleared over Fukushima disaster)
(引用終わり)
また、ここにきて韓国からフクシマ第一の汚染水問題が大きく取り上げられている。以下。
(TBS ニュース 9月17日)
韓国フクシマ原発「汚染水」に懸念
韓国政府は、IAEA=国際原子力機関の総会で演説し、福島第一原発で保管されている放射性物質を含む水を海に流すことに対し、深刻な懸念を訴えました。
「韓国の政府代表が入ってきました。これから国際社会に『汚染水』問題を訴えます」(記者)
16日から始まったIAEAの総会で、韓国政府は、福島第一原発に貯まり続けているおよそ115万トンのトリチウムなど放射性物質を含む水を海洋放出することは、環境に深刻な影響を及ぼすおそれがあると指摘しました。
「『汚染水』問題は依然残っていて解決していません。世界に恐怖と不安が拡大しています」(韓国・科学技術情報通信省 文美玉次官)
その上で、海に放出されれば、もはや日本だけの問題では無いとして、IAEAにタンク内の水などの現地調査を行うよう要請しました。
「日本は国際社会と協力する方法を見つけなければなりません」(韓国・科学技術情報通信省 文美玉次官)
一方、日本側は、事実や科学的根拠に基づかず、風評被害を広げていると韓国の姿勢を批判しました。
「我々は汚染水を出していると認識していないですから、出していると仮に言われれば、やはりどういう事実か確認する必要がある」(竹本直一IT・科学技術相)
「汚染水」の問題が国際社会の場に持ち込まれたことで、今後、日本は科学的な安全とともに、世界からの安心を得る必要に迫られそうです。(終わり)
ところで、福島第一原発事故の対策費として、東電に貸しつける公的資金が13.5兆円になり、回収までに最長34年もかかるとの試算を、2019年3月に会計検査院が公表している。
この資金は国が国債を交付し、それを現金化して調達されている。
実質的な国民負担となる利息分は最大2182億円に膨らむ。今後、事故の対策費用がさらに増えるのは確実で、完済までに50年以上かかるという説もある。そうなれば、国民負担はさらに巨額になる。
事故の賠償資金を国からの資金投入なしには調達できず、さらには、その返済に何十年かかるかわからないなんて企業は、普通ならとうに倒産しているものである。
ところで今後、海外から遠慮なく、東電が損害賠償を突きつけられたら、どうなるのだろうか。
もしそうなれば、国民負担がとんでもなく巨額なものになって行くはずだ。
原子力村の住人は自分たちの利権のために東電を破綻処理してこなかったが、国民全体の利益をそろそろ考えるべきではないか。
そして、このことは、事故後から指摘されていたことである。
岸 博幸氏は8年前にはっきり、東電を破綻処理すべきだと主張していた。以下。
野田政権は東電破綻処理を急げ――このままでは日本は中国やロシアからの巨額賠償請求の餌食になる
2011年9月2日
岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
<岸 博幸プロフィール>1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。
岸 博幸氏
今日にも組閣が行われ、野田政権が発足します。迷走を続けた菅政権の後だけに、被災地の復旧・復興の加速、エネルギー政策の抜本的転換、デフレと円高の克服に向けた経済財政運営など、取り組むべき政策課題が山積であり、世の関心も増税など目立つ問題に行きがちですが、日本全体のリスクを低減する観点から早急に取り組むべき課題があることにも留意すべきです。それは東電の破綻処理です。外国からの損害賠償という巨大リスク
これから長期にわたり原発事故の損害賠償など巨額の債務を抱える東電をどうするかについては、菅政権で既に決着しています。原子力損害賠償支援機構法が成立したことにより、
・原発事故の責任のある東電が損害賠償を行なう
・機構が東電に対して、賠償のための資金支援を行なう
・国にも原発事故の責任があるので、必要があれば機構に対していくらでも予算を投入する(=東電に対して予算支援を行う)
というスキームとなりました。東電に責任を持って被災者への損害賠償を行わせるという名目の下で、東電を債務超過にしない(=破綻処理しない)という政官の強い意思により、事実上政府が東電を救済することになったのです。
多くの識者の方が指摘しているように、このスキームには、東電のリストラが不十分、ステークホルダーである株主や債権者が責任を負っていないなど、市場のルールの観点から問題が多いのですが、それに加え、別の観点からも大きな問題を生じさせかねません。
それは、外国からの損害賠償請求への対応です。
原発事故以降、汚染水の放出などを通じて大量の放射能が海に流出していると考えられます。放射能が付着したがれきが他国に流れ着く可能性もあります。それらを通じて、他国の領海に放射能汚染が拡散したり、他国の漁業に被害を与えるなど、放射能汚染の被害は日本国内にとどまらず、外国にも及んでいるのです。
そうした事実を考えると、原発事故の被害について、今後外国からも損害賠償請求を起こされる可能性が大きいと言わざるを得ません。
特に日本の近隣には中国やロシアなど色々な意味で難しい国があることを考えると、東電が8月30日に発表した「原発事故に伴う損害賠償の算定基準」を遥かに超える規模の損害賠償が外国から請求される可能性があるのです。
一部には、海洋汚染への損害賠償の請求が数百兆円にも上る可能性がある、という声もあります。
そして、残念ながらそうした外国からの損害賠償請求の可能性を裏付ける情報が入ってきてしまいました。ある国は、もう損害賠償の請求のための情報収集と準備を始めているのです。
いかに日本の国益を守るか
そして、留意すべきは、損害賠償請求をしようと考えている外国にとって、機構法による東電救済スキームは“非常に美味しい”ということです。今のスキームの下では、損害賠償を請求する相手である東電は潰れないし、国も責任を認めている、かつ国が東電に無制限に予算を投入する仕組みになっているのですから、いくらでも損害賠償を請求できます。
しかし、それで巷で言われるように数百兆もの損害賠償が外国から本当に請求されたら、東電は当然払い切れないので、ツケはすべて国に回ってきます。1000兆円近い日本政府の債務に数百兆円が上乗せされたらどうなるか。大変なことになるはずです。東電より先に国が破産してしまうのではないでしょうか。戦後賠償よりも重い負担を日本全体として背負わされかねないのです。
それでは、外国からの損害賠償請求にはどのように対応すべきでしょうか。
この点について、メディアでは、海外からの巨額の損害賠償に対応するため、これまで未加盟だった原発賠償条約への加盟を政府が検討していると報道されています。
この条約は、原発事故の損害賠償訴訟を事故発生国で行うことを定めています。つまり、もしこの条約に加盟していれば、例えば中国人が損害賠償を請求する場合でも、日本の裁判所で訴訟を起こさなければなりません。
その場合、外国で訴訟を起こすこと自体大変だし、裁判所も外国人より自国企業を守る方に重きを置くはずですので、損害賠償を起こされても、それがあまりに巨額になることは防げるはずです。
しかし、仮にこれからこの条約に加盟したとしても、過去の事故にまで条約の効力が遡及するとは考えられません。従って、中国人が中国の裁判所に損害賠償の訴訟を起こすことができるのです。そうなったら、当然ながら、日本の企業である東電よりも自国民の利益が優先されるでしょう。
従って、条約に加盟していない中で、海外からの巨額の損害賠償に国としてどう対処するかを真剣に考えなくてはなりません。その手は二つしかないように思えます。
一つは、東電にも国にも原発事故の責任はないとすることです。そうすれば、外国が損害賠償を請求できる相手がなくなるからです。そのためには、今回の原発事故が原子力賠償法上の“天災地変”に該当するとしなければなりません。事故の責任は東電にあるので東電は賠償責任を負うという、事故が起きて以来の政府の見解を変えなければならないのです。かつ、東電の責任が前提の機構法も廃止しなければなりません。
しかし、特に原発事故で深刻な被害を受けている福島県民の心情を慮れば、いくら国を守るためとは言え、東電に事故の責任なしと政府が判断を翻すのは現実には困難です。
そう考えると、もう一つの方法が現実的です。それは、東電を無理に延命させず、事実上債務超過なのだから淡々と破綻処理を進めることです。賠償責任を負う東電がなくなり、機構法から国の責任を謳った部分を削除すれば、テクニカルには外国が損害賠償を請求する相手がいなくなります。
この場合、東電を潰すと福島の被災者の賠償債権もカットされてしまうという反論が出ると思いますが、“事故の損害賠償”ではなく“被災者への支援”として政府が肩代わりして十分な金額を支払うことで対応できるはずです。国内の被災者相手に“損害賠償”という言葉を使い続けると、外国からの損害賠償にも応じざるを得なくなるので、被災者への給付の性質を変えるのです。
東電より国を守るべき
私自身、東電と国の双方に原発事故の責任があるという考えにはいささかも変化はありません。それにも拘らず、上述のように自らの考えを曲げた主張をしているのは、日本を海外からの損害賠償請求から守るためです。
現在の東電救済スキームの下で本当に外国が数百兆円もの損害賠償を請求してきたら、日本はおしまいです。戦後賠償以上に後世に負担を残すことになります。また、もし私が中国やロシアの政府の当事者なら、領土交渉や漁業権の交渉などにこの損害賠償を絡めます。損害賠償は勘弁してやるから、代償として尖閣諸島や北方領土への領有権の主張は放棄しろと言うでしょう。
このように、外国からの損害賠償問題は、東電という一企業を超えて日本の国益に大きく関わるのです。野田政権は、菅政権が国内のことだけを考えて作った東電救済スキームを早急に修正し、日本の国益が確実に守られるようにすべきです。そうしないと、本当に“東電栄えて国滅びる”となりかねません。(引用終わり)
現在においても東京オリンピック返上、巨額な賠償金の請求という事態が起きても少しも不思議ではないのである。こういったカードが海外勢にあることを頭に入れておくべきだろう。